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第四十一話【緊張】
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「ところで、みなさん早いご帰宅で、お出かけまで時間ありますけどどうするんですか?」
財田さんたちが帰ってきたのは夕方であり、夜9時という時間までにはまだまだ余裕がありすぎる。
三嶋さんが帰ってくるまで待つというのであれば
地味にいったん部屋にもどってこれからの動きを詰めていきたいんだけれど。
「あー、それなァ」
「晩飯は外で取ることにした。深月、食べたいものあるか?」
私の質問に反応した財田さんに続いて上から説明が降ってきた。
「食べたいものですか…せっかく外に行くならお寿司食べたいです。生魚なかなか一人じゃ食べないですし。」
「っし、なら寿司いくかァ」
上に向けて言ったつもりだったのに財田さんが返事した。
決定権は確かに財田さんなのかもしれないけど、もうどっちに答えたらいいのかわかんねぇなぁ…
ん?ていうか三嶋さんほっといていいの?
ソファーに寄りかかり、スーツのポケットに左手を突っ込み、右手でスマホを高速でスタタとタップしている様は本当になんというか、目の保養になる男である。
しゃべらなければカッコいい男なのにな。
と、思っていたら、いきなり目の前が暗くなった。
「あんまり見つめるな。深月が減るぞ。」
「私が減るってなんですかね」
どうやら佐竹さんに手で目隠しされたようだ。
眼鏡の上からだから光りがないとかではなく、視界が手で埋もれただけである。
手の平しか見えないのは事実なんだけど。
「シュウに伝えたから移動すっかぁ。山村、お前も連れてく。佐々木行き先魚政な。30分で出るぞ。」
「あ、じゃぁちょっと化粧直ししてきます」
佐竹さんの肩に手を置いて、ぴょんと床に降り、私は階段へ足を向ける。
「あ、忘れてた。山村さん、ハンカチとティッシュ用意おねがいしますー」
階段をのぼりながら
私の部屋になかったんですよぉー
と付け加える。
「あ、了解っす」
下からちょっと張った山村さんに笑顔を向け、自室に向かう。
部屋のドアをパタンと閉め。
息を吐く。
緊張してきた。
ゆっくりと、奥の机に近づき、机の上に置いてあるメイクポーチに手をかけ、ジッパーを開く。
ミラーを開き、顔を確認する。
(大丈夫。うまくいく。財田さんはちょっと抜けてる。三嶋さんは今はいない。山村さんも多分あの分では気づいていない。佐竹さんと佐々木さんがちょっと怖いっちゃ怖いけど。大丈夫だ。大丈夫。)
ティッシュを口に挟み、ほとんど取れていたグロスと口紅をいったん軽く落とし、口紅を手に持つ。
緊張で口紅を持つ手が震えている。
キャップを外し、口紅を指に着け、色のついた指を唇に当て滑らせる。
ミラーで他に変なところはないか確認し、特段に問題がないなとミラーをたたみ、ポーチにしまう。
汚れた指をメイク落とし用シートで拭いて、息を無理矢理吐く。
緊張で死にそう。
コンコン。
カチャ。
部屋のドアが開き、
「時間です」
そう佐々木さんが告げた。
死刑執行の声に聞こえる。
このチャンスを逃したらいつ外出できるかわからない。
このチャンスを失敗したら二度と生きて帰れるかわからない。
「はーい。あ、佐々木さん。この化粧ポーチとハンカチとかを入れたいので私のカバンだけ、欲しいんですけど。」
財田さんたちが帰ってきたのは夕方であり、夜9時という時間までにはまだまだ余裕がありすぎる。
三嶋さんが帰ってくるまで待つというのであれば
地味にいったん部屋にもどってこれからの動きを詰めていきたいんだけれど。
「あー、それなァ」
「晩飯は外で取ることにした。深月、食べたいものあるか?」
私の質問に反応した財田さんに続いて上から説明が降ってきた。
「食べたいものですか…せっかく外に行くならお寿司食べたいです。生魚なかなか一人じゃ食べないですし。」
「っし、なら寿司いくかァ」
上に向けて言ったつもりだったのに財田さんが返事した。
決定権は確かに財田さんなのかもしれないけど、もうどっちに答えたらいいのかわかんねぇなぁ…
ん?ていうか三嶋さんほっといていいの?
ソファーに寄りかかり、スーツのポケットに左手を突っ込み、右手でスマホを高速でスタタとタップしている様は本当になんというか、目の保養になる男である。
しゃべらなければカッコいい男なのにな。
と、思っていたら、いきなり目の前が暗くなった。
「あんまり見つめるな。深月が減るぞ。」
「私が減るってなんですかね」
どうやら佐竹さんに手で目隠しされたようだ。
眼鏡の上からだから光りがないとかではなく、視界が手で埋もれただけである。
手の平しか見えないのは事実なんだけど。
「シュウに伝えたから移動すっかぁ。山村、お前も連れてく。佐々木行き先魚政な。30分で出るぞ。」
「あ、じゃぁちょっと化粧直ししてきます」
佐竹さんの肩に手を置いて、ぴょんと床に降り、私は階段へ足を向ける。
「あ、忘れてた。山村さん、ハンカチとティッシュ用意おねがいしますー」
階段をのぼりながら
私の部屋になかったんですよぉー
と付け加える。
「あ、了解っす」
下からちょっと張った山村さんに笑顔を向け、自室に向かう。
部屋のドアをパタンと閉め。
息を吐く。
緊張してきた。
ゆっくりと、奥の机に近づき、机の上に置いてあるメイクポーチに手をかけ、ジッパーを開く。
ミラーを開き、顔を確認する。
(大丈夫。うまくいく。財田さんはちょっと抜けてる。三嶋さんは今はいない。山村さんも多分あの分では気づいていない。佐竹さんと佐々木さんがちょっと怖いっちゃ怖いけど。大丈夫だ。大丈夫。)
ティッシュを口に挟み、ほとんど取れていたグロスと口紅をいったん軽く落とし、口紅を手に持つ。
緊張で口紅を持つ手が震えている。
キャップを外し、口紅を指に着け、色のついた指を唇に当て滑らせる。
ミラーで他に変なところはないか確認し、特段に問題がないなとミラーをたたみ、ポーチにしまう。
汚れた指をメイク落とし用シートで拭いて、息を無理矢理吐く。
緊張で死にそう。
コンコン。
カチャ。
部屋のドアが開き、
「時間です」
そう佐々木さんが告げた。
死刑執行の声に聞こえる。
このチャンスを逃したらいつ外出できるかわからない。
このチャンスを失敗したら二度と生きて帰れるかわからない。
「はーい。あ、佐々木さん。この化粧ポーチとハンカチとかを入れたいので私のカバンだけ、欲しいんですけど。」
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