たかが、恋

水野七緒

文字の大きさ
4 / 76
第1話

4・自慢のいとこ

しおりを挟む
 ドアの向こうから聞こえてきたやわらかな声。
 どうぞ、と返事をすると、見知った顔がそっとあらわれた。

「よかった。おじゃまします」
結麻ゆまぁ……っ」

 結麻ゆまちゃんの姿を見るなり、お姉ちゃんは勢いよく抱きついた。

「聞いてよ、結麻。私、またフラれたんだけど!」
「そうなの? 大変だったね」
「それ! ほんと大変だったの! しかも、ただフラれただけじゃなくてさ、もうほんと超最悪で──」

 一方的すぎるお姉ちゃんのおしゃべりを、結麻ちゃんは「うんうん」とうなずきながら聞いている。
 すごいな、天使か。
 ここに天使がいるよ、神様。
 いとこの結麻ちゃんは、お姉ちゃんと同じ3年生なのに、いつも落ち着いていて、すごく優しい。
 しかも美人だ。「吹奏楽部の池沢いけざわ先輩」といえば、誰もが「ああ、あのきれいな人」っていうくらいの美人。

「それでさ、私がめちゃくちゃ傷ついてるのにさ、友香ってばぜんぜん話を聞いてくれなくて……」

 ──おっと、いつのまにか私が悪者になっている。

「ふつう、こういうときってなぐさめてくれるものじゃん? なのに私のこと『学習能力がない』とかバカにしてさ」
「それは、お姉ちゃんが先にバカにしてきたからだよ」
「そんなことしてない!」
「したよ! 私のこと、初恋もまだで異常だって言ったじゃん!」

 とっさに言い返したあとで、ドキドキした。
 だって、結麻ちゃんにまで「え、まだだったの?」って笑われたらさすがに落ち込んでしまいそうだったから。
 でも、さすがは結麻ちゃん。私の恋愛事情を聞いても、ふわっと微笑んだだけだった。

「トモちゃんの一番は本だもんね」

 そう──そうなの!

「読書が好きなの! 本が一番なの!」

 だって、面白い本って何度読んでも面白いでしょ。
 いつもわくわくどきどきさせてくれるし、読み返すたびに新しい発見があるし。
 でも、恋愛は薄っぺらだ。
 どんなに好き好き大好きっていったところで、そんなのどうせ一時的なこと。
 うちのお姉ちゃんがいい例で、今は「フラれた」って大騒ぎしてるけど、どうせ3日もすれば、また新しい人を好きになっているはず。
 もちろん、私だってぜんぶの恋愛を否定するつもりはないよ?
 「結婚」ってゴールが見えている恋愛なら、ぜんぜん有り。つまり、大人が恋愛するのは否定しない。そういう小説も、読んだことがあるし。
 でもさ、中学生が恋愛する意味ってある?
 どうせすぐに心変わりするのに?
 薄っぺらな恋しかできないのに?
 思うに、中学生の「好き」なんて、しょせん大人のまねごとなんだよ。3年生の目立つ人たちが、ちょっとパーマをかけたり、色つきリップを塗ったりするようなもの。
 かといって、真剣な恋をした場合、それはそれでろくな結果にならないでしょ。
 たとえば、かの有名な「ロミオとジュリエット」。たしか、ロミオは高校生くらい、ジュリエットは中学生くらいの年齢だったはずだけど、あれなんてまさに未成年らしいあさはかな結末だよね? 彼らが大人だったら、きっとあんな勘違いで死んじゃうこともなかったのに。
 そう、子供が恋愛するとろくなことがない。
 やっぱり、恋愛は大人になって「結婚」を考えてからするものなんだ。
 ──なんて私の一人語りも、結麻ちゃんはいつもニコニコしながら聞いてくれる。
 優しい。ほんと天使。
 お姉ちゃんなんて、途中から飽きてタブレット端末で動画をみはじめたのに。
 ていうか、さっきまで「フラれた~」って落ち込んでいたはずなのに、30分もしないでくだらない動画でゲラゲラ笑っているの、ほんと意味がわかんない。

「結麻ちゃんがお姉ちゃんだったらな」
「ん?」
「そしたら、おしゃべりしたいこといっぱいあるのに」
「じゃあ、トモちゃん、うちの子になる?」

 おっとり笑う結麻ちゃんの隣で、「ともウザい」ってお姉ちゃんが吐き捨てた。
 なに言ってんの。お姉ちゃんのタブレット端末から聞こえてくる、わざとらしい笑い声のほうが、よっぽど耳障りでうっとおしいんですけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君との恋はシークレット

碧月あめり
児童書・童話
山田美音は、マンガとイラストを描くのが好きな中学二年生。学校では黒縁メガネをかけて地味に過ごしているが、その裏で人気ファッションモデル・星崎ミオンとして芸能活動をしている。 母の勧めでモデルをしている美音だが、本当は目立つことが好きではない。プライベートでは平穏に過ごしたい思っている美音は、学校ではモデルであることを隠していた。 ある日の放課後、美音は生徒会長も務めるクラスのクールイケメン・黒沢天馬とぶつかってメガネをはずした顔を見られてしまう。さらには、教室で好きなマンガの推しキャラに仕事の愚痴を言っているところを動画に撮られてしまう。 そのうえ、「星崎ミオンの本性をバラされたくなかったら、オレの雑用係やれ」と黒沢に脅されてしまい…。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

宇宙人は恋をする!

山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】 私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。 全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの? 中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉ (表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)

空を泳ぐ金魚

空-kuu-
児童書・童話
 その少女は、風のように現れ、僕の世界のすべてを変えてしまった――。  内気で、本の世界だけが自分の居場所だった小学五年生の少年、神谷春樹。彼の退屈な日常は、一人の転校生によって、静かに、しかし決定的に壊されていく。  彼女の名前は、天野七海。  明るく、天真爛漫で、誰もが好きになってしまうような笑顔の裏に、どこか触れてはいけないような儚さを秘めた少女。春樹のクラスにやってきた彼女は、あっという間にその中心になる。そして、教室の隅で本ばかり読んでいた春樹にも、屈託なく声をかけてくるのだった。 「ねえ、あの雲、金魚みたいじゃない?」  彼女の瞳を通せば、見慣れたはずの世界は、魔法のようにきらめき始める。  そんな七海が、ある日一冊のノートを取り出した。  お楽しみノートと名付けられたその手帳には、彼女のささやかな「やりたいことリスト」が、子供らしい文字でたくさん綴られていた。 《潮見ヶ丘の駄菓子屋さんで、100円分お菓子を買う》 《みんなで写真を撮る》 《駅前の観覧車に乗りたい》 《夏祭りで、浴衣を着て花火を見る》 「お願い。私に残された時間で、これを全部叶えたいの。手伝ってくれないかな?」  七海がこの町にやってきた本当の理由。そして、彼女に残された時間が限られているという秘密。  その事実を知った時、最初は戸惑っていた春樹とクラスメイトたちは、彼女の切ない願いを叶えるため、一つになって動き出す。  駄菓子屋への小さな冒険、病室での真夜中のピクニック、ファインダー越しの忘れられない笑顔。  リストの項目が一つひとつ達成されていくたびに、彼らの絆は深まっていく。春樹もまた、彼女の隣で笑ううちに、今まで知らなかった「誰かのために行動する」という喜びと、胸を締め付けるような淡い想いを覚えていく。  だが、楽しい夏の時間が輝きを増すほどに、終わりの予感もまた、すぐそこに影を落としていた。  そして、運命の夏祭りの夜。  夜空に舞う、色とりどりの打ち上げ花火。それを「金魚みたい」だと無邪気に笑う七海。  彼女が本当に伝えたかった想いとは、そして、その小さな手に握りしめていた最後の願いとは――。  これは、限られた時間の中で、誰よりも自由に、強く生きようとした小さな命の輝きと、残された者たちが紡ぐ物語。  あの夏、僕たちが失ったもの。そして、見つけたもの。  切ないほどの感動と、温かい涙が、心の中を満たしていく。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

処理中です...