たかが、恋

水野七緒

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第2話

3・策略

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 間中くんは、何か言いたげに口を開いた。
 でも閉じて、また開いて、またキュッとつぐんで。
 ようやく心を決めたように立ちあがった。

「佐島……あのさ!」

 うわ、なんだか嫌な予感。

「あのさ、あの……今日の、あの……あのさ……」

 ウザいな。
 それに、さっきから「あの」って言い過ぎ。

「あの、つまり……だから、あの……」
「結麻ちゃんのこと?」

 面倒だったので、サクッと訊ねた。
 間中くんは「へっ」と間の抜けたような声をあげた。

「違……ええと、そうじゃなくて……」
「じゃあ、なに」
「それは、その……」
「……」
「その……」

(……ダメだ、面倒くさすぎる)

 盛大なため息をあえて飲み込むと、私は鞄に手をのばした。
 中からとりだしたのは、電源の入っていないスマホ。中学校に入学してすぐに買ってもらったものだけど、ほとんど使っていないから5ヶ月経った今もピカピカだ。

「あ、結麻ちゃん? 私、友香」

 受話口に話しかけると、間中くんの眉がぴくんと跳ねた。

「おすすめの本だけど、実はもう一冊あるんだ。──うん、うん。じゃあ、明日の昼休み、また図書室に来てね。約束ね。バイバーイ」

 さて──と。

「間中くん、用件は?」
「やっぱりいい! じゃあな!」

 弾むような足取りで、間中くんは自分の席に戻っていく。
 バカめ。放課後までスマホの使用は禁止、って生徒手帳にも書いてあるのに。

(ほんと単純すぎでしょ)
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