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第5話
3・混乱中(その1)
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ああ、イヤだ。なんで、こうなっちゃったんだろう。
間中くんに協力すると決めたのは、私だ。結麻ちゃんとうまくいくように、いろいろ作戦を授けたのも私。
なのに、なんで今更モヤモヤしているのか。
部屋のベッドに突っ伏したまま、私はただただ頭をめぐらせる。
けれども、真っ先に浮かんでくる「答え」は、私が決して認めたくないものばかり。
だって、そんなの有り得ない。これまで、さんざん否定してきたはずなのに。
ぐだぐだ考えていると、小さなノック音が響いた。
「トモちゃん、いる?」
ばくん、と心臓が大きく跳ねた。
大好きな、でも今はあまり会いたくなかった人。
どうしよう。私、結麻ちゃんの前で普段どおりにふるまえるかな。
そんなことをモダモダ考えていると、再び控えめなノックが2回響いた。
「トモちゃん、入ってもいい?」
やわらかな、あたたかい声。
私はようやく身体を起こすと、ドアの向こうに「いいよ」と声をかけた。
「ごめんね、もしかして眠ってた?」
「ううん、ちょっと考え事をしてただけ」
「そうなの? 出なおそうか?」
「いいよ、もう終わったから。それよりどうしたの?」
いちおう訊ねてみたけど、理由はなんとなくわかっていた。だって、結麻ちゃんの手にあったのは、私が好きな作家さんの最新作だったから。
「これ、どうぞ」
「いいの? 借りても」
「もちろん。私はもう読み終わったから、ゆっくり読むといいよ」
「ありがとう。……でも、たぶんすぐに読み終わっちゃうと思う」
「そうだね。トモちゃん、夢中になると徹夜して読んじゃうもんね」
ふふ、と笑われてちょっと恥ずかしくなる。
結麻ちゃんは、そんなことないんだろうな。ちゃんと時間を守って、計画的に読みすすめるんだろうな。
「面白かった?」
「すごく。本当は今すぐネタバレしたいくらい」
「やめて! それだけは禁止!」
「わかってるよ。ちゃんとトモちゃんが読み終わるまで待ってます」
ああ、やっぱり結麻ちゃんと一緒にいるのは楽しい。思っていることを好きなように話せるし、お姉ちゃんみたいに腹がたつようなことを言わないし。
「そうだ、トモちゃんがこの間買った本、借りてもいい?」
「えっ」
「学園ミステリーの。たしか最新作を買ったって言ってたよね?」
「う、うん、買ってはいるけど、その……実はまだ読んでいる途中で……」
「そうなの? めずらしいね、トモちゃんが一気に読まないなんて」
結麻ちゃんの指摘に、頬が熱くなる。
本当にそのとおりだ。こんなの、どう考えたって私らしくない。
「ごめん! ほんとごめん! たぶん来週には貸せるから」
「いいよ、無理しなくても。楽しい本はじっくり時間をかけて読みたいもんね」
違う、そうじゃない。
本当の理由なんて、恥ずかしすぎて言えない。
「とにかく大丈夫! 来週には絶対貸せるから!」
「わかった。楽しみにしているね」
「うん!」
へんに力をこめすぎたせいか、やけに声が大きくなる。そんな私を見て、なぜか結麻ちゃんは「ふふ」と目を細めた。
「今のトモちゃん、なんだかあの子みたいだった」
「あの子?」
「サッカー部の間中くん」
さらりと告げられた名前に、今度はぎゅんって心臓が跳ねあがる。
「彼、最近よく挨拶してくれるんだよ。いつも元気いっぱいで面白い子だよね」
思い出したようにクスクス笑っている結麻ちゃん。この様子からわかるのは、私たちの作戦がうまくいっているってこと。
なのに、なぜか嬉しい気持ちがあまり沸いてこない。それどころか、私の心はじっとりとした靄に包まれているかのよう。
「そ……そんな面白い子じゃないよ」
気がついたら、勝手に口が動いていた。
「間中くんって、声が大きくて目立つけどただそれだけだし、元気いっぱいっていうよりうるさいだけだし、ただのサッカーバカだし、授業中はしょっちゅう寝てるし、それに……それに……」
ここで言葉が途切れたのは、結麻ちゃんが目を丸くしていることに気づいたからだ。
どうしよう。私、今、間中くんの印象を悪くするようなことばかり言ってしまった!
間中くんに協力すると決めたのは、私だ。結麻ちゃんとうまくいくように、いろいろ作戦を授けたのも私。
なのに、なんで今更モヤモヤしているのか。
部屋のベッドに突っ伏したまま、私はただただ頭をめぐらせる。
けれども、真っ先に浮かんでくる「答え」は、私が決して認めたくないものばかり。
だって、そんなの有り得ない。これまで、さんざん否定してきたはずなのに。
ぐだぐだ考えていると、小さなノック音が響いた。
「トモちゃん、いる?」
ばくん、と心臓が大きく跳ねた。
大好きな、でも今はあまり会いたくなかった人。
どうしよう。私、結麻ちゃんの前で普段どおりにふるまえるかな。
そんなことをモダモダ考えていると、再び控えめなノックが2回響いた。
「トモちゃん、入ってもいい?」
やわらかな、あたたかい声。
私はようやく身体を起こすと、ドアの向こうに「いいよ」と声をかけた。
「ごめんね、もしかして眠ってた?」
「ううん、ちょっと考え事をしてただけ」
「そうなの? 出なおそうか?」
「いいよ、もう終わったから。それよりどうしたの?」
いちおう訊ねてみたけど、理由はなんとなくわかっていた。だって、結麻ちゃんの手にあったのは、私が好きな作家さんの最新作だったから。
「これ、どうぞ」
「いいの? 借りても」
「もちろん。私はもう読み終わったから、ゆっくり読むといいよ」
「ありがとう。……でも、たぶんすぐに読み終わっちゃうと思う」
「そうだね。トモちゃん、夢中になると徹夜して読んじゃうもんね」
ふふ、と笑われてちょっと恥ずかしくなる。
結麻ちゃんは、そんなことないんだろうな。ちゃんと時間を守って、計画的に読みすすめるんだろうな。
「面白かった?」
「すごく。本当は今すぐネタバレしたいくらい」
「やめて! それだけは禁止!」
「わかってるよ。ちゃんとトモちゃんが読み終わるまで待ってます」
ああ、やっぱり結麻ちゃんと一緒にいるのは楽しい。思っていることを好きなように話せるし、お姉ちゃんみたいに腹がたつようなことを言わないし。
「そうだ、トモちゃんがこの間買った本、借りてもいい?」
「えっ」
「学園ミステリーの。たしか最新作を買ったって言ってたよね?」
「う、うん、買ってはいるけど、その……実はまだ読んでいる途中で……」
「そうなの? めずらしいね、トモちゃんが一気に読まないなんて」
結麻ちゃんの指摘に、頬が熱くなる。
本当にそのとおりだ。こんなの、どう考えたって私らしくない。
「ごめん! ほんとごめん! たぶん来週には貸せるから」
「いいよ、無理しなくても。楽しい本はじっくり時間をかけて読みたいもんね」
違う、そうじゃない。
本当の理由なんて、恥ずかしすぎて言えない。
「とにかく大丈夫! 来週には絶対貸せるから!」
「わかった。楽しみにしているね」
「うん!」
へんに力をこめすぎたせいか、やけに声が大きくなる。そんな私を見て、なぜか結麻ちゃんは「ふふ」と目を細めた。
「今のトモちゃん、なんだかあの子みたいだった」
「あの子?」
「サッカー部の間中くん」
さらりと告げられた名前に、今度はぎゅんって心臓が跳ねあがる。
「彼、最近よく挨拶してくれるんだよ。いつも元気いっぱいで面白い子だよね」
思い出したようにクスクス笑っている結麻ちゃん。この様子からわかるのは、私たちの作戦がうまくいっているってこと。
なのに、なぜか嬉しい気持ちがあまり沸いてこない。それどころか、私の心はじっとりとした靄に包まれているかのよう。
「そ……そんな面白い子じゃないよ」
気がついたら、勝手に口が動いていた。
「間中くんって、声が大きくて目立つけどただそれだけだし、元気いっぱいっていうよりうるさいだけだし、ただのサッカーバカだし、授業中はしょっちゅう寝てるし、それに……それに……」
ここで言葉が途切れたのは、結麻ちゃんが目を丸くしていることに気づいたからだ。
どうしよう。私、今、間中くんの印象を悪くするようなことばかり言ってしまった!
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