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第5話
2・報告
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「ええと……池沢先輩に挨拶したらイイカンジだった、ってことは話したよな?」
「うん、聞いた」
「けどさ、嫌な顔もされたっていうか……」
「え、結麻ちゃんに?」
「違う! 池沢先輩と一緒にいた人!」
間中くんいわく、結麻ちゃんと一緒にいた女子生徒が「うるさい」って露骨に嫌な顔をしたらしい。
誰だろう。結麻ちゃんのクラスメイトかな。それか同じ吹奏楽部の人か……案外うちのお姉ちゃんだったりして。
まあ、誰だったとしても、そこは早めに手を打ったほうが良さそうだ。その人が「なにあの1年、ウザい」って言うことで、間中くんの印象が悪くなるかもしれないし。
「じゃあ、『大きな声で挨拶』は最初だけにしよっか」
「最初? どういうこと?」
「間中くんさ、たぶん『おはようございます!』のあとも大声で話しかけたんでしょ」
「……そうかも」
「それをやめる。大声は最初の『おはようございます』とか『こんにちは』だけにする」
そのあと、ふつうのボリュームで話していたらそんなに嫌な顔はされないんじゃないかな。普段の間中くんの声は、そこまで大きいわけじゃないし。
「わかった。……けど、できっかな」
「どういうこと?」
「俺、池沢先輩の前だと頭がフワァァッとかパァァァッてなるっていうか……」
「『舞いあがる』ってこと?」
「そう、それ! だからあまり自信ない……」
たしかにね。初めて結麻ちゃんに話しかけられたときも、まったくもってダメダメだったし。
でもさ。
「大丈夫だよ。間中くんは、一度『やる』って決めたらできる人だもん」
クール系男子作戦のときもそうだった。最初はめちゃくちゃ渋っていたのに、一度「やる」と決めてからは彼なりに頑張ってくれた。
(だからこそ、無理をさせるのはダメだ)
自分で決めたことは、無理な内容でも続けてしまうから。アドバイスするのは、彼にできそうなことだけにしないと。
「じゃあ、こういうのはどう? 結麻ちゃんを見かけたら、いったん立ち止まって深呼吸をするの」
そうすれば、ちょっとは心構えができるはず。サッカーでも「パスがくるぞ」ってわかっているときと、「いきなりパスがきた」っていうのは違うでしょ。
「結麻ちゃんを見かけてすぐに声をかけるのは『いきなりパス』に似ていると思うんだ。でも、いったん深呼吸すると『パスがくるぞ』の状態になれるから、声をかけても焦ったり舞いあがったりしないんじゃないかな」
私の説明に、間中くんは「んー」と首を傾げている。たぶん「わかるような、わかんないような」といったところ?
まあ、頭であれこれ考えるより、実際体験してみたほうが早いんだろうけどね。
というわけで、こういうときは、さっさと背中を押すに限る。
「とりあえずやってみて。それでダメならまた考えよう」
「……そうだな!」
間中くんは、ようやく晴れやかな顔つきになった。
「わかった。俺がんばる!」
うん、頑張れ。
間中くんなら、きっとうまくいくから。
「で、次の作戦だけど……」
いつものように作戦ノートを開こうとすると、「佐島」とノートの端を引っ張られた。
なんだろう、と顔をあげると、まぶしいほどの笑顔が私を待ち受けていた。
「いつもありがとな! ほんと頼りにしてる!」
──ズルい。不意打ちで、その笑顔はズルい。
まるで魂を奪われたみたいに、私は瞬きひとつできなくなる。
ファンタジー小説とかでたまに石化する人が出てくるけど、それってこういう感じなのかな。一瞬ですべてがフリーズして、時間も何もかも止まってしまって──
「俺、がんばる! がんばって、絶対池沢先輩と両思いになってみせっから!」
呪縛は、呆気なくとけた。
いや、知ってるよ。そんなの、ちゃんとわかってた。
なのに、胸のあたりがスースーしている。さっき奪われた魂の、一部がそのまま消えてしまったみたい。
「それでそれで? 次の作戦って?」
「あ、うん……ええと……」
私は、唇の内側を噛みしめた。
そうでもしないと、よけいなことを口走ってしまいそうだった。
「うん、聞いた」
「けどさ、嫌な顔もされたっていうか……」
「え、結麻ちゃんに?」
「違う! 池沢先輩と一緒にいた人!」
間中くんいわく、結麻ちゃんと一緒にいた女子生徒が「うるさい」って露骨に嫌な顔をしたらしい。
誰だろう。結麻ちゃんのクラスメイトかな。それか同じ吹奏楽部の人か……案外うちのお姉ちゃんだったりして。
まあ、誰だったとしても、そこは早めに手を打ったほうが良さそうだ。その人が「なにあの1年、ウザい」って言うことで、間中くんの印象が悪くなるかもしれないし。
「じゃあ、『大きな声で挨拶』は最初だけにしよっか」
「最初? どういうこと?」
「間中くんさ、たぶん『おはようございます!』のあとも大声で話しかけたんでしょ」
「……そうかも」
「それをやめる。大声は最初の『おはようございます』とか『こんにちは』だけにする」
そのあと、ふつうのボリュームで話していたらそんなに嫌な顔はされないんじゃないかな。普段の間中くんの声は、そこまで大きいわけじゃないし。
「わかった。……けど、できっかな」
「どういうこと?」
「俺、池沢先輩の前だと頭がフワァァッとかパァァァッてなるっていうか……」
「『舞いあがる』ってこと?」
「そう、それ! だからあまり自信ない……」
たしかにね。初めて結麻ちゃんに話しかけられたときも、まったくもってダメダメだったし。
でもさ。
「大丈夫だよ。間中くんは、一度『やる』って決めたらできる人だもん」
クール系男子作戦のときもそうだった。最初はめちゃくちゃ渋っていたのに、一度「やる」と決めてからは彼なりに頑張ってくれた。
(だからこそ、無理をさせるのはダメだ)
自分で決めたことは、無理な内容でも続けてしまうから。アドバイスするのは、彼にできそうなことだけにしないと。
「じゃあ、こういうのはどう? 結麻ちゃんを見かけたら、いったん立ち止まって深呼吸をするの」
そうすれば、ちょっとは心構えができるはず。サッカーでも「パスがくるぞ」ってわかっているときと、「いきなりパスがきた」っていうのは違うでしょ。
「結麻ちゃんを見かけてすぐに声をかけるのは『いきなりパス』に似ていると思うんだ。でも、いったん深呼吸すると『パスがくるぞ』の状態になれるから、声をかけても焦ったり舞いあがったりしないんじゃないかな」
私の説明に、間中くんは「んー」と首を傾げている。たぶん「わかるような、わかんないような」といったところ?
まあ、頭であれこれ考えるより、実際体験してみたほうが早いんだろうけどね。
というわけで、こういうときは、さっさと背中を押すに限る。
「とりあえずやってみて。それでダメならまた考えよう」
「……そうだな!」
間中くんは、ようやく晴れやかな顔つきになった。
「わかった。俺がんばる!」
うん、頑張れ。
間中くんなら、きっとうまくいくから。
「で、次の作戦だけど……」
いつものように作戦ノートを開こうとすると、「佐島」とノートの端を引っ張られた。
なんだろう、と顔をあげると、まぶしいほどの笑顔が私を待ち受けていた。
「いつもありがとな! ほんと頼りにしてる!」
──ズルい。不意打ちで、その笑顔はズルい。
まるで魂を奪われたみたいに、私は瞬きひとつできなくなる。
ファンタジー小説とかでたまに石化する人が出てくるけど、それってこういう感じなのかな。一瞬ですべてがフリーズして、時間も何もかも止まってしまって──
「俺、がんばる! がんばって、絶対池沢先輩と両思いになってみせっから!」
呪縛は、呆気なくとけた。
いや、知ってるよ。そんなの、ちゃんとわかってた。
なのに、胸のあたりがスースーしている。さっき奪われた魂の、一部がそのまま消えてしまったみたい。
「それでそれで? 次の作戦って?」
「あ、うん……ええと……」
私は、唇の内側を噛みしめた。
そうでもしないと、よけいなことを口走ってしまいそうだった。
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