たかが、恋

水野七緒

文字の大きさ
47 / 76
第5話

1・認めたくない

しおりを挟む
 「クール系男子」作戦終了から1週間。間中くんのモテ期は、あっけなく終わりを迎えた。
 教室でゲラゲラ笑っている間中くんを見て、同じクラスの女子は「うるさい」「やっぱりウザい」って顔をしかめているし、他のクラスの女子は「思ってたのと違う」ってがっかりしたみたい。
 まさに魔法がとけた状態。でも、本人はいたって楽しそうだ。

(やっぱり無理していたんだな)

 そりゃ、高熱を出して倒れたくらいだもん。間中くん自身は「考えすぎたせい」って言ってたけど、私は無理してクール系男子っぽくふるまい続けたのも原因かなって思ってる。ほら、ストレスってたまりにたまると身体がおかしくなるっていうし。
 ちなみに、新しい作戦はすでに間中くんに授けている。今日の昼休み、その成果を報告してもらう予定だ。
 そう、間中くんはいたって順調。
 なのに、私の気分はちっとも晴れない。

(あれからだ)

 間中くんに「笑ってる顔が好き」って言われたときから、私の心臓はちょっとおかしなことになっている。
 まず、間中くんを見ていると胸の奥がザワザワする。
 笑顔を目にすると、心拍数が上昇する。
 話をしているときも似たような感じ。
 ひどいときは、手にへんな汗をかいている。
 これが誰に対してもそうなら「何かの病気なのかな」ってなるだろう。
 でも、違う。あくまで間中くん限定なんだ。

(となると、これってつまり……)

 頭に浮かんだひとつの可能性を、私はすぐさま否定した。
 だって、私が、まさか、そんな──

「うーっす」

 書庫のドアが開いて、間中くんが顔を出した。
 気さくな笑顔なのはいつものこと。なのに、私の心臓はばくんって大きな音をたてる。

「お、遅かったね」
「そっか? いつもどおりだろ」

 ──そのとおりだ。私だって、本気で「来るのが遅い!」って思ったわけじゃない。ただ、間中くんの顔を見た瞬間、頭がパンってなっておかしなことを口走っただけで。

(ダメだ、落ちつけ)

 いつもどおり、いつもどおり──
 なのに、間中くんはいきなり私の両手を掴んでくる。

「あのさ! 新しい作戦、すっげーいい感じ!」

 ままま、待って!
 その前に手を離して!

「昨日さ、正面玄関で池沢先輩を見かけたからさ、佐島の作戦どおり……」

──『おはようございます!』
──『ああ、トモちゃんの……』
──『佐島の友達の間中です! サッカー部です!』
──「ふふ、知ってるよ。今日も元気いっぱいだね」
──『うっす!』

「ってさ、池沢先輩とちょっと喋ることもできた! すげーな、この『挨拶でアピール』作戦!」
「そ、そうだね」

 そんなことより手! そろそろ離してよ! じゃないと、心臓がバクバクしすぎておかしなことになりそう。
 なのに、間中くんはちっとも気づいてくれない。
 ああ、もう!
 耐えきれなくなった私は、自分から彼の手を振り払った。

「えっ、なに?」
「なにじゃない! なんで手つかんでるの!?」
「えっ……ああ、ええと……なんか──勢いで?」

「ダメだった?」みたいな悲しそうな顔をされたけど。

(ダメに決まってるじゃん!)

 意味わかんない。
 手なんか掴まなくても、報告くらいできるよね?

(私の心臓、壊す気か!)

 そんな憤りが、ようやく伝わったのだろう。
 間中くんは、気まずそうに両手を背中に引っ込めた。

「なんか、ごめん」
「それは何に対して?」
「……急に手を掴んだことに対して?」

 でも俺、ちゃんと手洗ってんのに──とかなんとか言ってるけど。
 そうじゃない。そういうことじゃないんだってば。
 けど、じゃあ「どういうこと?」って訊かれたら、私だってうまく説明できない。
 ああ、イヤだ。このスッキリしない気持ち、どう処理すればいいんだろう。
 ぐるぐる頭を悩ませていると、間中くんが「あのさ」と顔を覗き込んできた。

「さっきの報告の続き、してもいい?」

 そうだ、まだ間中くんの話の途中だった。

「いいよ。どうぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君との恋はシークレット

碧月あめり
児童書・童話
山田美音は、マンガとイラストを描くのが好きな中学二年生。学校では黒縁メガネをかけて地味に過ごしているが、その裏で人気ファッションモデル・星崎ミオンとして芸能活動をしている。 母の勧めでモデルをしている美音だが、本当は目立つことが好きではない。プライベートでは平穏に過ごしたい思っている美音は、学校ではモデルであることを隠していた。 ある日の放課後、美音は生徒会長も務めるクラスのクールイケメン・黒沢天馬とぶつかってメガネをはずした顔を見られてしまう。さらには、教室で好きなマンガの推しキャラに仕事の愚痴を言っているところを動画に撮られてしまう。 そのうえ、「星崎ミオンの本性をバラされたくなかったら、オレの雑用係やれ」と黒沢に脅されてしまい…。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

空を泳ぐ金魚

空-kuu-
児童書・童話
 その少女は、風のように現れ、僕の世界のすべてを変えてしまった――。  内気で、本の世界だけが自分の居場所だった小学五年生の少年、神谷春樹。彼の退屈な日常は、一人の転校生によって、静かに、しかし決定的に壊されていく。  彼女の名前は、天野七海。  明るく、天真爛漫で、誰もが好きになってしまうような笑顔の裏に、どこか触れてはいけないような儚さを秘めた少女。春樹のクラスにやってきた彼女は、あっという間にその中心になる。そして、教室の隅で本ばかり読んでいた春樹にも、屈託なく声をかけてくるのだった。 「ねえ、あの雲、金魚みたいじゃない?」  彼女の瞳を通せば、見慣れたはずの世界は、魔法のようにきらめき始める。  そんな七海が、ある日一冊のノートを取り出した。  お楽しみノートと名付けられたその手帳には、彼女のささやかな「やりたいことリスト」が、子供らしい文字でたくさん綴られていた。 《潮見ヶ丘の駄菓子屋さんで、100円分お菓子を買う》 《みんなで写真を撮る》 《駅前の観覧車に乗りたい》 《夏祭りで、浴衣を着て花火を見る》 「お願い。私に残された時間で、これを全部叶えたいの。手伝ってくれないかな?」  七海がこの町にやってきた本当の理由。そして、彼女に残された時間が限られているという秘密。  その事実を知った時、最初は戸惑っていた春樹とクラスメイトたちは、彼女の切ない願いを叶えるため、一つになって動き出す。  駄菓子屋への小さな冒険、病室での真夜中のピクニック、ファインダー越しの忘れられない笑顔。  リストの項目が一つひとつ達成されていくたびに、彼らの絆は深まっていく。春樹もまた、彼女の隣で笑ううちに、今まで知らなかった「誰かのために行動する」という喜びと、胸を締め付けるような淡い想いを覚えていく。  だが、楽しい夏の時間が輝きを増すほどに、終わりの予感もまた、すぐそこに影を落としていた。  そして、運命の夏祭りの夜。  夜空に舞う、色とりどりの打ち上げ花火。それを「金魚みたい」だと無邪気に笑う七海。  彼女が本当に伝えたかった想いとは、そして、その小さな手に握りしめていた最後の願いとは――。  これは、限られた時間の中で、誰よりも自由に、強く生きようとした小さな命の輝きと、残された者たちが紡ぐ物語。  あの夏、僕たちが失ったもの。そして、見つけたもの。  切ないほどの感動と、温かい涙が、心の中を満たしていく。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...