59 / 76
第6話
3・試合当日
しおりを挟む
結論が出ないまま、試合観戦の日が訪れた。
「前、行こう! 前!」
お姉ちゃんは、当たり前のように階段をどんどん下りてゆく。
「いいよ、真ん中あたりで……」
「なに言ってんの。見やすいとこで見ないと意味ないじゃん!」
それもそうか。今日の観戦は、間中くんkなら結麻ちゃんへのアピールの場だ。それなら見やすい席のほうがいいに決まっている。
お姉ちゃんは迷うことなく一番前の席に陣取ったので、私もその隣に座ることにした。なるほど、ここなら間中くんも気づきやすそうだ。周囲も、今のところ人がまばらだし。
「結麻ちゃん、いつ来るんだっけ?」
「試合の途中くらいじゃない? 部活が終わってからって言ってたし」
調べたところによると、試合時間は前半30分・後半30分の合計60分。それとアディショナルタイムっていうのが、オマケであるらしい。
(60分なんてあっという間だ)
どうか、結麻ちゃんにはできるだけ早く来てほしい。じゃないと、今日誘った意味がなくなってしまう。
「あ、来た来た!」
えっ、結麻ちゃんが? と思ったけど、お姉ちゃんの目はフィールドに向けられていた。
なんだ、選手入場か。
間中くんは背番号12番──ああ、いた。11番の選手と何やら話をしている。こっちを見るかなってちょっと期待したけど、そんな素振りはまったくない。きっと試合のことで頭がいっぱいなんだろうな。
「ええっ、なんで遠野くん出ないの!?」
「知らないよ。ていうか遠野って誰?」
「2年1組の子。球技大会のバスケ、めちゃくちゃカッコよかったんだって!」
そうなんだ? でも、バスケがうまいからって、サッカーもうまいとは限らないよね。
(まあ、間中くんはバレーもサッカーも上手だけど)
ホイッスルが鳴り、試合がはじまった。「間中くんがんばれ」の言葉は、当然心のなかにしまっておいた。お姉ちゃんのいる前でそんなことしたら、絶対厄介なことになりそうだし。
もっとも、お姉ちゃんは「遠野くん」のことしか頭にないらしく、持ってきた双眼鏡でずっとベンチを眺めている。
「試合観ないの?」
「観るよ。気が向いたら」
「気が向いたら──って、じゃあ、何しに来たの」
「決まってるじゃん。遠野くんを拝みにだよ」
ダメだ、こりゃ。あまりにも動機が不純すぎる。
呆れ半分でため息をつくと「なによ」と軽く睨まれた。
「そういうあんたこそ、なんでサッカーの試合を観ようと思ったわけ? スポーツ観戦とか、ぜんぜん興味なかったじゃん」
──ハイ、きた。
これ、絶対にきかれると思ってた。
「トレーニングの成果を確認するためだよ」
「トレーニング? なにそれ」
「うちのクラスに間中くんって子がいるんだけど、彼がトレーニングの本を探すのを図書委員として手伝ったんだ」
その成果を確かめたいから──というのがあらかじめ用意しておいた理由。
うん、我ながら完璧。これなら、へんに勘繰られることもないはず──
「なにそれ。そんな理由で来るとか有り得ないでしょ」
「そんなことないよ! ふつうの、真っ当な理由でしょ!」
「とかいって、ほんとはその間中って子が好きだったりして」
ギュンッと心臓が跳ねた。
なんなの、うちのお姉ちゃん。なんで余計なことしか言わないの?
「そんなんじゃない! 間中くんはただのクラスメイトだってば!」
「でも、あんた、今日は髪の毛おろしてるじゃん」
お姉ちゃんは、ニヤニヤ笑いながら私の髪の毛を引っ張った。
「普段はギチギチの三つ編みのくせに。ちょっとおしゃれしたくなったんじゃないの?」
「違うから。出がけに、髪ゴムが切れただけだから」
これは本当。いつも使ってる髪ゴムが切れて、仕方なくおろしてきただけなのだ。
なのに、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いを消そうとしない。これ、絶対に勘違いしているやつだ。
「それで? 間中って子、試合に出てるの?」
「……出てるけど」
「何番?」
「12番」
「ああ、アレか」
ひとめ見ただけで、お姉ちゃんは「ないな」と切り捨てた。
「うるさそう。汗くさそう。ああいうタイプ苦手」
余計なお世話。
ああ見えて間中くんは、他人を気遣えるし案外まじめだし、誠実で一途だし。モテ期真っ只中のときも、告白してきた女子全員にきっちりお断りしてたくらいなんだから。
(そういうの、結麻ちゃんならきっとわかってくれるはず)
そう考えたところで、胸がしくんと疼いた。
ああ、嫌だな──この感じ。自分のダメなところを突き付けられているみたいで。
しっかりしろ。協力するって決めたじゃん。
だから、結麻ちゃん、早く来て。間中くん、がんばってるから観てあげて。
私に、私の務めを果たさせて。
「前、行こう! 前!」
お姉ちゃんは、当たり前のように階段をどんどん下りてゆく。
「いいよ、真ん中あたりで……」
「なに言ってんの。見やすいとこで見ないと意味ないじゃん!」
それもそうか。今日の観戦は、間中くんkなら結麻ちゃんへのアピールの場だ。それなら見やすい席のほうがいいに決まっている。
お姉ちゃんは迷うことなく一番前の席に陣取ったので、私もその隣に座ることにした。なるほど、ここなら間中くんも気づきやすそうだ。周囲も、今のところ人がまばらだし。
「結麻ちゃん、いつ来るんだっけ?」
「試合の途中くらいじゃない? 部活が終わってからって言ってたし」
調べたところによると、試合時間は前半30分・後半30分の合計60分。それとアディショナルタイムっていうのが、オマケであるらしい。
(60分なんてあっという間だ)
どうか、結麻ちゃんにはできるだけ早く来てほしい。じゃないと、今日誘った意味がなくなってしまう。
「あ、来た来た!」
えっ、結麻ちゃんが? と思ったけど、お姉ちゃんの目はフィールドに向けられていた。
なんだ、選手入場か。
間中くんは背番号12番──ああ、いた。11番の選手と何やら話をしている。こっちを見るかなってちょっと期待したけど、そんな素振りはまったくない。きっと試合のことで頭がいっぱいなんだろうな。
「ええっ、なんで遠野くん出ないの!?」
「知らないよ。ていうか遠野って誰?」
「2年1組の子。球技大会のバスケ、めちゃくちゃカッコよかったんだって!」
そうなんだ? でも、バスケがうまいからって、サッカーもうまいとは限らないよね。
(まあ、間中くんはバレーもサッカーも上手だけど)
ホイッスルが鳴り、試合がはじまった。「間中くんがんばれ」の言葉は、当然心のなかにしまっておいた。お姉ちゃんのいる前でそんなことしたら、絶対厄介なことになりそうだし。
もっとも、お姉ちゃんは「遠野くん」のことしか頭にないらしく、持ってきた双眼鏡でずっとベンチを眺めている。
「試合観ないの?」
「観るよ。気が向いたら」
「気が向いたら──って、じゃあ、何しに来たの」
「決まってるじゃん。遠野くんを拝みにだよ」
ダメだ、こりゃ。あまりにも動機が不純すぎる。
呆れ半分でため息をつくと「なによ」と軽く睨まれた。
「そういうあんたこそ、なんでサッカーの試合を観ようと思ったわけ? スポーツ観戦とか、ぜんぜん興味なかったじゃん」
──ハイ、きた。
これ、絶対にきかれると思ってた。
「トレーニングの成果を確認するためだよ」
「トレーニング? なにそれ」
「うちのクラスに間中くんって子がいるんだけど、彼がトレーニングの本を探すのを図書委員として手伝ったんだ」
その成果を確かめたいから──というのがあらかじめ用意しておいた理由。
うん、我ながら完璧。これなら、へんに勘繰られることもないはず──
「なにそれ。そんな理由で来るとか有り得ないでしょ」
「そんなことないよ! ふつうの、真っ当な理由でしょ!」
「とかいって、ほんとはその間中って子が好きだったりして」
ギュンッと心臓が跳ねた。
なんなの、うちのお姉ちゃん。なんで余計なことしか言わないの?
「そんなんじゃない! 間中くんはただのクラスメイトだってば!」
「でも、あんた、今日は髪の毛おろしてるじゃん」
お姉ちゃんは、ニヤニヤ笑いながら私の髪の毛を引っ張った。
「普段はギチギチの三つ編みのくせに。ちょっとおしゃれしたくなったんじゃないの?」
「違うから。出がけに、髪ゴムが切れただけだから」
これは本当。いつも使ってる髪ゴムが切れて、仕方なくおろしてきただけなのだ。
なのに、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いを消そうとしない。これ、絶対に勘違いしているやつだ。
「それで? 間中って子、試合に出てるの?」
「……出てるけど」
「何番?」
「12番」
「ああ、アレか」
ひとめ見ただけで、お姉ちゃんは「ないな」と切り捨てた。
「うるさそう。汗くさそう。ああいうタイプ苦手」
余計なお世話。
ああ見えて間中くんは、他人を気遣えるし案外まじめだし、誠実で一途だし。モテ期真っ只中のときも、告白してきた女子全員にきっちりお断りしてたくらいなんだから。
(そういうの、結麻ちゃんならきっとわかってくれるはず)
そう考えたところで、胸がしくんと疼いた。
ああ、嫌だな──この感じ。自分のダメなところを突き付けられているみたいで。
しっかりしろ。協力するって決めたじゃん。
だから、結麻ちゃん、早く来て。間中くん、がんばってるから観てあげて。
私に、私の務めを果たさせて。
0
あなたにおすすめの小説
君との恋はシークレット
碧月あめり
児童書・童話
山田美音は、マンガとイラストを描くのが好きな中学二年生。学校では黒縁メガネをかけて地味に過ごしているが、その裏で人気ファッションモデル・星崎ミオンとして芸能活動をしている。
母の勧めでモデルをしている美音だが、本当は目立つことが好きではない。プライベートでは平穏に過ごしたい思っている美音は、学校ではモデルであることを隠していた。
ある日の放課後、美音は生徒会長も務めるクラスのクールイケメン・黒沢天馬とぶつかってメガネをはずした顔を見られてしまう。さらには、教室で好きなマンガの推しキャラに仕事の愚痴を言っているところを動画に撮られてしまう。
そのうえ、「星崎ミオンの本性をバラされたくなかったら、オレの雑用係やれ」と黒沢に脅されてしまい…。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
空を泳ぐ金魚
空-kuu-
児童書・童話
その少女は、風のように現れ、僕の世界のすべてを変えてしまった――。
内気で、本の世界だけが自分の居場所だった小学五年生の少年、神谷春樹。彼の退屈な日常は、一人の転校生によって、静かに、しかし決定的に壊されていく。
彼女の名前は、天野七海。
明るく、天真爛漫で、誰もが好きになってしまうような笑顔の裏に、どこか触れてはいけないような儚さを秘めた少女。春樹のクラスにやってきた彼女は、あっという間にその中心になる。そして、教室の隅で本ばかり読んでいた春樹にも、屈託なく声をかけてくるのだった。
「ねえ、あの雲、金魚みたいじゃない?」
彼女の瞳を通せば、見慣れたはずの世界は、魔法のようにきらめき始める。
そんな七海が、ある日一冊のノートを取り出した。
お楽しみノートと名付けられたその手帳には、彼女のささやかな「やりたいことリスト」が、子供らしい文字でたくさん綴られていた。
《潮見ヶ丘の駄菓子屋さんで、100円分お菓子を買う》
《みんなで写真を撮る》
《駅前の観覧車に乗りたい》
《夏祭りで、浴衣を着て花火を見る》
「お願い。私に残された時間で、これを全部叶えたいの。手伝ってくれないかな?」
七海がこの町にやってきた本当の理由。そして、彼女に残された時間が限られているという秘密。
その事実を知った時、最初は戸惑っていた春樹とクラスメイトたちは、彼女の切ない願いを叶えるため、一つになって動き出す。
駄菓子屋への小さな冒険、病室での真夜中のピクニック、ファインダー越しの忘れられない笑顔。
リストの項目が一つひとつ達成されていくたびに、彼らの絆は深まっていく。春樹もまた、彼女の隣で笑ううちに、今まで知らなかった「誰かのために行動する」という喜びと、胸を締め付けるような淡い想いを覚えていく。
だが、楽しい夏の時間が輝きを増すほどに、終わりの予感もまた、すぐそこに影を落としていた。
そして、運命の夏祭りの夜。
夜空に舞う、色とりどりの打ち上げ花火。それを「金魚みたい」だと無邪気に笑う七海。
彼女が本当に伝えたかった想いとは、そして、その小さな手に握りしめていた最後の願いとは――。
これは、限られた時間の中で、誰よりも自由に、強く生きようとした小さな命の輝きと、残された者たちが紡ぐ物語。
あの夏、僕たちが失ったもの。そして、見つけたもの。
切ないほどの感動と、温かい涙が、心の中を満たしていく。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる