たかが、恋

水野七緒

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第6話

8・なんで?

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 そんなこんなで話し込んでいるうちに、昼休みは残り10分となった。

「佐島、そろそろヤバくね?」
「え? でも、まだ10分……」
「次! 体育!」

 そうだ、すっかり忘れていた。
 体育だと移動するだけじゃなく着替えもあるから、今から戻ってもけっこうギリギリだ。
 書庫を出ると、めちゃくちゃ早足で渡り廊下を通りぬける。
 運動が苦手な私はこれだけですでに息があがっているのに、間中くんはぜんぜん堪えていないみたいだ。

「なあなあ、そういえばさぁ」

 えっ、なに!?
 こっちは、会話する余裕なんてぜんぜんないんですけど!

「昨日の髪型! あれ、なんで?」

 ──すごい質問がきた。
 驚きのあまり、急いでいるのも忘れて私は立ち止まってしまった。

「へっ……あれ? 佐島、どうしたの?」

 当然、間中くんもつられたように立ち止まる。
 大きな目が不思議そうにパチパチと数回またたいた。

「……だって……」

 気づいてたんだ、私がいつもと違う髪型していたの。
 てっきり結麻ちゃんのことしか目に入ってないと思ってたのに。
 そう伝えると、間中くんは「はぁっ」と憤慨したように顔をしかめた。

「だって、佐島が言ったんだろ! 『まず私に手を振れ』って」
「……え」
「だから、昨日ゴールを決めたとき、真っ先に佐島のことを探したのに。髪型違ってたからぜんぜんわかんなくて、先に池沢先輩に手振っちまったじゃん」

 ──そうなの? そういう理由だったの?

「手振ったあとで、隣にいるのが佐島だって気づいたけどさ。なあ、なんで? なんで昨日髪型違ってたの?」
「あれは……髪ゴムが切れて三つ編みできなくて……そしたら、結麻ちゃんがヘアクリップで止めてくれて……」
「えっ、じゃあ、あれ池沢先輩がやったってこと?」
「うん、まあ……」

 ふーん、と間中くんは頭を傾けた。
 もしかして惜しんでいるのかな。結麻ちゃんが手がけたなら、もっとちゃんと見ておけばよかった──とか?

「俺は、いつものが好き」
「……えっ」
「いつもの、こっちの佐島のほうが好き!」

 あまりにもきっぱりとした口調に面食らう。
 ええと──本当に?
 あの髪型、やってくれたの結麻ちゃんなんだけど。

「池沢先輩がどうとか関係ない。俺はこっちが好き」
「どうして?」
「こっちのが『佐島』って感じだから!」

 なに、それ。
 意味わからなさすぎるよ。
 けど、なんだか口元がニマニマした。気をつけないと、そのまま頬まで緩んでしまいそうだった。
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