たかが、恋

水野七緒

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第8話

1・結麻ちゃんからの報告

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 結麻ちゃんからの着信を確認するなり、私はベッドの上で正座してしまった。
 後夜祭が終わって3時間、このタイミングで「この間借りた本、面白かったよ」なんて話題になるわけがない。

『間中くんと、話をしたよ』

 やわらかな声に、緊張しながらも「うん」って小さくあいづちを返す。

『どんな話だったのか、トモちゃんはわかっているんだよね?』

 うん、わかってる。
 だって、そのためにずっとアドバイスをしてきたんだから。

「ごめんね、嘘ついて」
『嘘?』
「その……私の用事がある、みたいな理由で結麻ちゃんを呼び出したから」

 気まずさのあまり謝ると、結麻ちゃんは「ああ」って少し笑った。

『嘘はついていないんじゃないかな。間中くんに会ってもらうことが、トモちゃんの用事だったんでしょう?』
「それは、まあ……そうだけど……」
『じゃあ、トモちゃんは嘘をついていないよ。ただ……』

 ただ──?
 気になって、結麻ちゃんの言葉の続きを待つ。
 けれど、沈黙のあと結麻ちゃんが口にしたのは「なんでもない」のひとことだった。

「え、なんで? ちゃんと言ってよ」
『ごめん。本当になんでもないの』

 嘘だ。きっと何か言いたいことがあったはずだ。
 けれど今は強く出られない。結麻ちゃんよりも間中くんを優先してしまったことへの負い目が、私のなかでくすぶっている。
 それに、もうひとつ──大事な「訊くべきこと」があった。

「あのさ……」
『うん?』
「その……結果は……?」

 あいまいな訊き方だったけど、結麻ちゃんにはちゃんと伝わったらしい。
 返ってきたのは、二度目の「ごめん」だった。

『それ、私からは言えないかな』
「え……」
『詳しいことは間中くんに聞いてね。彼が「話していい」って思えたら、きっと話してくれるはずだから』
「……わかった」

 なるほど、そんな感じか。
 なんとなく結果がわかってしまって、胸の奥がぐうってなった。

『以上、報告おしまい。もう遅いし、また今度ゆっくり話そうね』
「うん……おやすみなさい」
『おやすみ』

 通話が終わるなり、私は枕につっぷした。

「そっか……」

 やっぱり、結麻ちゃん断ったんだ。
 じゃなかったら「本人に聞いて」なんて言うはずないもん。

(どうしよう)

 どんな顔をして、間中くんと会えばいいんだろう。
 どんな言葉を、かければいいんだろう。
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