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第3話
7・自己嫌悪(その2)
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その日は、いつもより少し早い電車で帰ることができた。
にも関わらず、疲労感がひどい。
どうした、俺。なんでこんなに疲れているんだ?
とりあえず、駅前のスーパーに足を運ぶ。運良くお弁当が残っていた。焼き鮭弁当と、鶏そぼろ弁当。どちらにしようか、と立ち尽くしているうちに、あとから来たサラリーマンが鶏そぼろ弁当を、大学生っぽい女子が焼き鮭弁当を持っていってしまった。
しくじった。ぼんやり迷っている場合じゃなかった。
けど、実のところそれほどお腹が空いているわけでもない。だったらいいか、一食くらい食わなくても。
夜道を歩きながら、明日の朝食をどうするか考える。
最近パンが続いていたから、そろそろごはんがいいかもな。そういえば、さっきの弁当の鶏そぼろ、けっこううまそうだったよな。鶏挽肉、冷凍庫にまだ残っていたかな。肉みそとか、休みの日にまとめて作るつもりでけっこう多めに買っていた気がするんだけど、あれって先週? 先々週だっけ?
あれこれ考えているうちに、家に辿り着く。「ただいま」と声をかけ、玄関の灯りを消した。
家のなかは、今日も驚くほど静かだ。大賀がいるはずなのに生活音らしきものがまるで聞こえてこない。まあ、あいつ、テレビとかあまり観ないもんな。音楽も聴かないし、動画にも興味がないって言ってたっけ。
「ただいま」
居間のドアを開けると、大きな背中が目に入った。あぐらをかき、ビシッと背筋を伸ばしている大賀の後ろ姿。
(なんだ、修行中か)
一日に何度か、大賀はこんなふうに精神統一をはかっている。新米の神様には必要な修行らしく、こうやって感情の揺れを制御しているらしい。
(そんなの必要なさそうだけどな、こいつの場合)
高校時代から、どんなときでも落ちついているようなヤツだった。たとえば「ノーアウト満塁・一打でれば逆転サヨナラ負け」みたいな場面でも決して動じない、まさに「強心臓の持ち主」とでもいうか。
そんなヤツでも毎日修行が必要だなんて、神様も大変だ。とはいえ、こいつは難なくこなしちまいそうだけど。
しばらく戸口で様子を見守っていると、大賀のしっぽがピンッと跳ねた。
「ああ、帰ってきていたのか」
のっそり振り向いた大賀に「おう」と返して、俺は背負っていたリュックを畳の上におろした。
「メシはどうした? 食ってきたのか?」
「いや……けど、いい。腹減ってねぇ」
「食わないと身体がもたないぞ」
「どうってことねぇよ。もう野球やってるわけじゃねーんだし」
受け答えするの怠ぃな、なんて思いながら大賀の向かいに腰を下ろす。
そのまま、ぺたんとこたつテーブルに頭を乗せた。つむじに大賀の視線を感じたものの、俺は頑なに顔をあげようとしなかった。
しばらくすると、大賀はのそのそと居間を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いたとたん、またもや自己嫌悪に陥った。
なんで、あんな言い方しちまったんだろう。大賀は、単に心配してくれただけなのに。
けど、どうしてもひねくれた気持ちが胸にうずまいてしまう。「どうせあいつにはわかんねぇよな」みたいなやつが。
そう、大賀にはわかりっこない。
目を閉じると、懐かしい光景が脳裏に浮かんだ。
にも関わらず、疲労感がひどい。
どうした、俺。なんでこんなに疲れているんだ?
とりあえず、駅前のスーパーに足を運ぶ。運良くお弁当が残っていた。焼き鮭弁当と、鶏そぼろ弁当。どちらにしようか、と立ち尽くしているうちに、あとから来たサラリーマンが鶏そぼろ弁当を、大学生っぽい女子が焼き鮭弁当を持っていってしまった。
しくじった。ぼんやり迷っている場合じゃなかった。
けど、実のところそれほどお腹が空いているわけでもない。だったらいいか、一食くらい食わなくても。
夜道を歩きながら、明日の朝食をどうするか考える。
最近パンが続いていたから、そろそろごはんがいいかもな。そういえば、さっきの弁当の鶏そぼろ、けっこううまそうだったよな。鶏挽肉、冷凍庫にまだ残っていたかな。肉みそとか、休みの日にまとめて作るつもりでけっこう多めに買っていた気がするんだけど、あれって先週? 先々週だっけ?
あれこれ考えているうちに、家に辿り着く。「ただいま」と声をかけ、玄関の灯りを消した。
家のなかは、今日も驚くほど静かだ。大賀がいるはずなのに生活音らしきものがまるで聞こえてこない。まあ、あいつ、テレビとかあまり観ないもんな。音楽も聴かないし、動画にも興味がないって言ってたっけ。
「ただいま」
居間のドアを開けると、大きな背中が目に入った。あぐらをかき、ビシッと背筋を伸ばしている大賀の後ろ姿。
(なんだ、修行中か)
一日に何度か、大賀はこんなふうに精神統一をはかっている。新米の神様には必要な修行らしく、こうやって感情の揺れを制御しているらしい。
(そんなの必要なさそうだけどな、こいつの場合)
高校時代から、どんなときでも落ちついているようなヤツだった。たとえば「ノーアウト満塁・一打でれば逆転サヨナラ負け」みたいな場面でも決して動じない、まさに「強心臓の持ち主」とでもいうか。
そんなヤツでも毎日修行が必要だなんて、神様も大変だ。とはいえ、こいつは難なくこなしちまいそうだけど。
しばらく戸口で様子を見守っていると、大賀のしっぽがピンッと跳ねた。
「ああ、帰ってきていたのか」
のっそり振り向いた大賀に「おう」と返して、俺は背負っていたリュックを畳の上におろした。
「メシはどうした? 食ってきたのか?」
「いや……けど、いい。腹減ってねぇ」
「食わないと身体がもたないぞ」
「どうってことねぇよ。もう野球やってるわけじゃねーんだし」
受け答えするの怠ぃな、なんて思いながら大賀の向かいに腰を下ろす。
そのまま、ぺたんとこたつテーブルに頭を乗せた。つむじに大賀の視線を感じたものの、俺は頑なに顔をあげようとしなかった。
しばらくすると、大賀はのそのそと居間を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いたとたん、またもや自己嫌悪に陥った。
なんで、あんな言い方しちまったんだろう。大賀は、単に心配してくれただけなのに。
けど、どうしてもひねくれた気持ちが胸にうずまいてしまう。「どうせあいつにはわかんねぇよな」みたいなやつが。
そう、大賀にはわかりっこない。
目を閉じると、懐かしい光景が脳裏に浮かんだ。
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