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第4話
1・ある朝の夢
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夢ってやつは厄介だ。
いろんな映像が脈絡もなく登場して、おかしなつながり方をしながら展開していく。
たとえば、大学で講義を受けていたと思ったら、隣の席に小学校時代の友達が座っていたり、かと思うといきなりマウンドに立っていて、キャッチャーに渾身のストレートを投げていたり。
「夢は、脳が記憶を整理するために必要なもの」──そんな話を聞いたことがある。どこまで本当なのかは知らないけど、たしかにそういう側面はあるのかもしれない。
で、今朝の夢だ。
高校時代だった。
野球部のユニフォーム姿で、なぜか皆でおしゃれなカフェに来ていた。
うっすらと記憶にある、女子に人気のパンケーキが評判の店。
高校時代、俺たちの代の正捕手だった新島が、ある日「生クリームたっぷりのパンケーキを食いたい、腹一杯食いたい」とわめくので、野球部員数名でこの店を訪れたことがあったのだ。
あの日は休日だったので、もちろん全員私服姿だったはず。
なのに夢のなかの俺たちは、なぜか場違いな試合用のユニフォームを着ていてどのパンケーキを頼もうかと大盛りあがりしていた。
『尊くん、どれにする?』
そう声をかけたのは神森だ。
大賀は、すっかり前のめり状態の俺たちとは違い、ひとり背筋を伸ばして椅子に座っていた。どんなに図体がでかくても、そこからだとメニュー表は見えないだろうに。
お前も選べよ、と大賀の前にメニュー表を押しやった。
『どれがうまいんだ?』
『知らねぇ。俺も来たの初めてだし』
『ホイップクリームは外せないらしいぞ。それとメイプルシロップ』
そう答えたのは、この店に行きたいとわめいた新島だ。
相棒からのアドバイスに、大賀はあっさり「それでいい」と頷いた。無表情だったから、実のところはなんでもよかったんだろう。まあ、お前は、こういうの興味なさそうだもんな。
しばらくして、それぞれの目の前にパンケーキが運ばれてきた。
ああ、なるほど──生地はめちゃくちゃやわらかめ。これなら飲み物を飲むような勢いでペロッと2枚いけちまう。けど、メイプルシロップは余計だな。生クリームも多すぎるし、シュガーバターのほうが俺好みだったかも。
そんなことを考えていると、何かがチラリと視界を横切った。
尻尾だ。
大賀のケツから、フサフサの尻尾が生えていた。
『尊くん、気に入ったんだ?』
神森が笑顔を見せ、他のやつらも「尻尾揺れてるもんな」「大賀はわかりやすいよな」とうんうん頷いている。
俺も「素直な尻尾だな」と感心していた。
もちろん、当時の大賀にはまだ尻尾は生えていなかったし、こいつが神様だってことを知っているのは今でも神森と俺くらいだ。
けれど、ここは夢のなかなので、誰もつっこむことなく話が進んでいく。
『そういえば若井、今日調子よかったよな』
新島が、唇にメイプルシロップをつけたまま話しかけてきた。
『ああ、いきなり三者連続三振とったやつ?』
『そう! 厳しいコースもきっちりいけてたし』
『マジか。じゃあ、そろそろエース交代だな』
俺は、おどけてそう返す。
本物のエースは、尻尾を揺らしながらパンケーキに夢中なようだ。
すると、通路を挟んで隣の席にいたヤツが、急に「惜しいよなぁ」と言い出した。
顔を向けると、なぜか中学校時代のチームメイトがそこにいた。
『若井はさぁ、惜しいんだよ』
そいつは、またしみじみと呟いた。
『あと3日遅く生まれていたら、絶対エースになれたのに』
『そうそう、それな』
高校時代の仲間たちが、次々と同調するように口を開く。
『大賀と同い年じゃなかったらなぁ』
『俺らの1コ下だったらなぁ』
『叶斗くん、絶対エースとして活躍できたのにねぇ』
いろんな映像が脈絡もなく登場して、おかしなつながり方をしながら展開していく。
たとえば、大学で講義を受けていたと思ったら、隣の席に小学校時代の友達が座っていたり、かと思うといきなりマウンドに立っていて、キャッチャーに渾身のストレートを投げていたり。
「夢は、脳が記憶を整理するために必要なもの」──そんな話を聞いたことがある。どこまで本当なのかは知らないけど、たしかにそういう側面はあるのかもしれない。
で、今朝の夢だ。
高校時代だった。
野球部のユニフォーム姿で、なぜか皆でおしゃれなカフェに来ていた。
うっすらと記憶にある、女子に人気のパンケーキが評判の店。
高校時代、俺たちの代の正捕手だった新島が、ある日「生クリームたっぷりのパンケーキを食いたい、腹一杯食いたい」とわめくので、野球部員数名でこの店を訪れたことがあったのだ。
あの日は休日だったので、もちろん全員私服姿だったはず。
なのに夢のなかの俺たちは、なぜか場違いな試合用のユニフォームを着ていてどのパンケーキを頼もうかと大盛りあがりしていた。
『尊くん、どれにする?』
そう声をかけたのは神森だ。
大賀は、すっかり前のめり状態の俺たちとは違い、ひとり背筋を伸ばして椅子に座っていた。どんなに図体がでかくても、そこからだとメニュー表は見えないだろうに。
お前も選べよ、と大賀の前にメニュー表を押しやった。
『どれがうまいんだ?』
『知らねぇ。俺も来たの初めてだし』
『ホイップクリームは外せないらしいぞ。それとメイプルシロップ』
そう答えたのは、この店に行きたいとわめいた新島だ。
相棒からのアドバイスに、大賀はあっさり「それでいい」と頷いた。無表情だったから、実のところはなんでもよかったんだろう。まあ、お前は、こういうの興味なさそうだもんな。
しばらくして、それぞれの目の前にパンケーキが運ばれてきた。
ああ、なるほど──生地はめちゃくちゃやわらかめ。これなら飲み物を飲むような勢いでペロッと2枚いけちまう。けど、メイプルシロップは余計だな。生クリームも多すぎるし、シュガーバターのほうが俺好みだったかも。
そんなことを考えていると、何かがチラリと視界を横切った。
尻尾だ。
大賀のケツから、フサフサの尻尾が生えていた。
『尊くん、気に入ったんだ?』
神森が笑顔を見せ、他のやつらも「尻尾揺れてるもんな」「大賀はわかりやすいよな」とうんうん頷いている。
俺も「素直な尻尾だな」と感心していた。
もちろん、当時の大賀にはまだ尻尾は生えていなかったし、こいつが神様だってことを知っているのは今でも神森と俺くらいだ。
けれど、ここは夢のなかなので、誰もつっこむことなく話が進んでいく。
『そういえば若井、今日調子よかったよな』
新島が、唇にメイプルシロップをつけたまま話しかけてきた。
『ああ、いきなり三者連続三振とったやつ?』
『そう! 厳しいコースもきっちりいけてたし』
『マジか。じゃあ、そろそろエース交代だな』
俺は、おどけてそう返す。
本物のエースは、尻尾を揺らしながらパンケーキに夢中なようだ。
すると、通路を挟んで隣の席にいたヤツが、急に「惜しいよなぁ」と言い出した。
顔を向けると、なぜか中学校時代のチームメイトがそこにいた。
『若井はさぁ、惜しいんだよ』
そいつは、またしみじみと呟いた。
『あと3日遅く生まれていたら、絶対エースになれたのに』
『そうそう、それな』
高校時代の仲間たちが、次々と同調するように口を開く。
『大賀と同い年じゃなかったらなぁ』
『俺らの1コ下だったらなぁ』
『叶斗くん、絶対エースとして活躍できたのにねぇ』
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