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第4話
11・帰り道
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駅まで急いだおかげで、終電より一本早い電車に乗ることができた。
正直、有り難かった。この時間帯の電車はめちゃくちゃ混むわけではないけれど、終電だけは別だ。下手すれば、つり革にすら捕まれない。
しかも、終電はこの電車の20分後だ。ただでさえ疲れているのに、寒いホームで20分間も電車を待つのはかなりキツいものがある。
ひとまず車両の隅に陣取った俺は、ふっと小さく息をついた。
いつもなら適当なところに寄りかかって、下車駅までスマホを見ながら時間をつぶすところ。
でも、今日は大賀がいる。十数分前、俺を店から連れ出した同居人。その事実を改めて認識したとたん、どうしようもない恥ずかしさが胸の奥からこみあげてきた。
(大賀に見られた)
あんな情けないところを見られた。
不当な扱いに、反論ひとつできなかった自分を見られてしまった。
(なんでだよ)
なんで迎えに来たんだよ。
俺、「一緒に帰ろう」なんて約束していなかったよな?
助けてくれ、とも言わなかったよな?
なのに、なんだよ。なんであんなよけいなことをしたんだよ。
「あのさ、大賀」
苛立ちを抱いたまま顔をあげると、大賀は「なんだ」と首を傾げた。ずいぶん眠たそうな顔つきだ。フサフサの尻尾も、今はだらりと垂れ下がって──
(って待て待て!)
大賀の下半身を隠せる位置に移動すると、俺は力いっぱいヤツの耳を引っ張った。
「しまえ!」
「何をだ?」
「後ろ! 出てる!」
「……ああ」
ケツから垂れていた尻尾が、魔法のように消えた。
ホッと胸を撫で下ろした俺と同じように、大賀も小さく息をついた。
「大丈夫か、お前」
「ああ……問題ない」
嘘つけ。こんなにぐったりしているお前、初めて見たぞ。
そういえば、尻尾を隠すには霊力とやらを消費すると聞いた覚えがある。
ということは、まさかのエネルギー切れか? そりゃ、こんな時間まで外出しているのは、大賀としては珍しいだろうけれど。
(もしくは──さっきのアレか?)
坂沼さんと話しているときの大賀は、明らかにいつもと雰囲気が違っていた。
他人を圧倒するような、あの空気。高校時代からカリスマ性のあるヤツだったけど、あんなふうに誰かに圧を掛けているところはこれまで一度も見たことがない。
(あれも、神様の力か?)
そのせいで、エネルギー切れを起こしたのだとしたら──
(バカだ)
大バカだ。
お前が、わざわざあんなことをする必要はないんだよ。
あれは俺の問題だ。
お前には関係のないことなのに。
ため息を飲み込んだところで、電車は少し大きめな駅に停車した。乗客が増えたおかげで、車内は混雑しはじめる。車両の端っこに立っていた俺たちも、場所を空けるように一歩ずつズレた。
「寄りかかるか?」
肩くらい貸してやってもいいぞ。
けど、大賀は「必要ない」と首を振った。
「お前こそ疲れているだろう」
「べつに。こんなのいつものことだよ」
「……『いつも』とは?」
大賀の声が、また少し低くなる。
俺は「いつもはいつもだよ」と呟いて、車内広告に目を向けた。
正直、有り難かった。この時間帯の電車はめちゃくちゃ混むわけではないけれど、終電だけは別だ。下手すれば、つり革にすら捕まれない。
しかも、終電はこの電車の20分後だ。ただでさえ疲れているのに、寒いホームで20分間も電車を待つのはかなりキツいものがある。
ひとまず車両の隅に陣取った俺は、ふっと小さく息をついた。
いつもなら適当なところに寄りかかって、下車駅までスマホを見ながら時間をつぶすところ。
でも、今日は大賀がいる。十数分前、俺を店から連れ出した同居人。その事実を改めて認識したとたん、どうしようもない恥ずかしさが胸の奥からこみあげてきた。
(大賀に見られた)
あんな情けないところを見られた。
不当な扱いに、反論ひとつできなかった自分を見られてしまった。
(なんでだよ)
なんで迎えに来たんだよ。
俺、「一緒に帰ろう」なんて約束していなかったよな?
助けてくれ、とも言わなかったよな?
なのに、なんだよ。なんであんなよけいなことをしたんだよ。
「あのさ、大賀」
苛立ちを抱いたまま顔をあげると、大賀は「なんだ」と首を傾げた。ずいぶん眠たそうな顔つきだ。フサフサの尻尾も、今はだらりと垂れ下がって──
(って待て待て!)
大賀の下半身を隠せる位置に移動すると、俺は力いっぱいヤツの耳を引っ張った。
「しまえ!」
「何をだ?」
「後ろ! 出てる!」
「……ああ」
ケツから垂れていた尻尾が、魔法のように消えた。
ホッと胸を撫で下ろした俺と同じように、大賀も小さく息をついた。
「大丈夫か、お前」
「ああ……問題ない」
嘘つけ。こんなにぐったりしているお前、初めて見たぞ。
そういえば、尻尾を隠すには霊力とやらを消費すると聞いた覚えがある。
ということは、まさかのエネルギー切れか? そりゃ、こんな時間まで外出しているのは、大賀としては珍しいだろうけれど。
(もしくは──さっきのアレか?)
坂沼さんと話しているときの大賀は、明らかにいつもと雰囲気が違っていた。
他人を圧倒するような、あの空気。高校時代からカリスマ性のあるヤツだったけど、あんなふうに誰かに圧を掛けているところはこれまで一度も見たことがない。
(あれも、神様の力か?)
そのせいで、エネルギー切れを起こしたのだとしたら──
(バカだ)
大バカだ。
お前が、わざわざあんなことをする必要はないんだよ。
あれは俺の問題だ。
お前には関係のないことなのに。
ため息を飲み込んだところで、電車は少し大きめな駅に停車した。乗客が増えたおかげで、車内は混雑しはじめる。車両の端っこに立っていた俺たちも、場所を空けるように一歩ずつズレた。
「寄りかかるか?」
肩くらい貸してやってもいいぞ。
けど、大賀は「必要ない」と首を振った。
「お前こそ疲れているだろう」
「べつに。こんなのいつものことだよ」
「……『いつも』とは?」
大賀の声が、また少し低くなる。
俺は「いつもはいつもだよ」と呟いて、車内広告に目を向けた。
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