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第4話

14・お礼の朝ごはん(その2)

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「迷惑って……何がだよ」
「昨日、お前のバイト先に行ったことだ」

 ……え、今その話?

「迷惑っつーか、びっくりしたよ。いきなりだったから」
「いきなりじゃなければいいのか?」
「まあ──あらかじめ連絡をくれれば」

 本音は、あまり来てほしくない。
 けど、さすがにそこまでは言えない。

「つーかお前『場が悪い』とか言ってなかったか? 『テイクアウトして、家で食ったほうがうまい』って」
「ああ。次からはそうするつもりだ」
「だったら、連絡をくれれば俺が買って帰るけど」
「いや、お前の店に行きたい」

 ──うん?

「だから、テイクアウトをするにしても自分で足を運ぶ」
「……そうか」

 よくわかんねぇ理屈だな、という思いはフライパンからの香ばしいにおいにかき消された。どうやらいい具合に焼き上がったようだ。

「よし、皿に移せ」
「もういいのか?」
「いい。で、フライパンを濡れ布巾の上にのせてくれ」

 あと一回焼けば終わりだな。他のよりもさらにミニサイズになりそうだけど。

(トッピングは……どうするかな)

 ひとまず2種類作ってみるか。ひとつは、無難にヨーグルトと冷凍していたみかん。もうひとつはツナマヨのディップ。
 ツナにはマヨネーズとタマネギのみじん切り──あ、ゆで卵ときゅうりのピクルスを刻んでタルタル風にするのも有りかも。

(なにせ「お礼の朝ごはん」だからな)

 いつもよりも贅沢に。スープも、粉末じゃなくて冷凍していた専門店のやつにしたりして。それくらいやらないと、昨日の借りは返せないよな。
 ──と、まあ、こんなことで頭がいっぱいだったから、このときの俺はスルーしてしまったんだ。
 なぜ、大賀がわざわざ俺のバイト先に来たのか。
 なぜ、今後も「自分で行きたい」と言ったのか。
 その理由に少しでも思いを馳せていれば、後々あんなことにならなかったかもしれないのに。
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