45 / 86
第5話
2・神様からのおねがい
しおりを挟む
ホットサンド以外のメニューは、リンゴとバナナと安売りしていたヨーグルト。
それと、昨日食ったミネストローネの味変バージョン。「大賀は気づかないかもなぁ」と思いながら調味料をひとつ追加したんだけど、意外にもヤツは一口すすっただけで、何か言いたげに顔をあげた。
「なんだよ」
「……昨日と味が違う」
おお、気づいたか。
「実は、味噌を入れてんの」
「味噌……」
「トマトと味噌、意外と合うんだよ。トマトソースのパスタに味噌いれると、けっこううまいし」
大賀はしばらく黙り込んだあと、微妙な顔つきで首を傾げた。
「想像できない」
「じゃあ、今度作ってやるよ」
「本当にうまいんだな?」
「まずいもんは他人様に出さねーよ」
サンドイッチを半分ほど食ったところで、再び大賀は首を傾げた。
ただ、さっきとは少し様子が違う。なにやら考え込むように、食いかけのサンドイッチを見つめている。
「どうした?」
「作れるだろうか」
「うん?」
「俺も、教われば作れるようになるだろうか」
ああ、このサンドイッチを?
「そりゃ、まあ……そんな難しいもんでもないし」
ああ、でもこいつ、壊滅的に家事がダメだったっけ
うちでも、電子レンジで牛乳を爆発させたくらいだし。
(いや、でもサンドイッチくらいならいけるか?)
千切りキャベツは、カット野菜を買ってくれば問題なし。照り焼きチキンも、出来合いの惣菜にすればそれでクリア。そもそもこのサンドイッチのチキンも、お総菜コーナーの値下げ品だったわけだし。
けれども、神様が望んでいたのは、そんなレベルの話ではなかったらしい。
「サンドイッチ以外もか?」
「ん?」
「サンドイッチ以外の、スープやごはんも作れるようになるだろうか」
あ──待て待て。
ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。
「もしかして、料理全般を学びたいってことか?」
「ああ」
「それは……さすがにハードルが高いんじゃねーの?」
ていうか、そこまで必要か?
うちにいる限りは俺が朝食を作るし、元の環境に戻ってもそんな感じだろ? 神森あたりが、あれやこれややってくれるんじゃねーのかよ。
俺の指摘に、大賀は「だが」と口ごもった。
どうやら、当たらずとも遠からず。
ただ、反論したいことはあるらしい。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「……」
「言わねーとわかんねーよ。俺、神様じゃねーし」
「いや、俺も言ってもらわなければわからない」
ああ、そうかよ。
だったら言え。ちゃんと言え。
敢えて無言を貫いていると、大賀は重たげに口を開いた。
「時間を、持てあましている」
「……は?」
「修行をひととおり終えると、お前が帰宅するまで退屈だ」
「だから料理を習いたいってか」
なるほど、要は暇つぶしな。
いいご身分だこと。
嫌味のひとつやふたつも言ってやりたくなる一方で、これはこれで気の毒な気もした。
先日の一件からもわかるように、大賀は長時間外出できない。ケツのモフモフを隠すのに、霊力とやらを消費するからだ。
となると、日がな一日自宅に籠もるしかなくなるわけで──
「まあ……頑張れば何とかなるんじゃねーの?」
根気強く教えてくれるヤツがいるなら、だけど。
胸の内でこっそり付け加えると、大賀の尻尾がバサッと揺れた。
「では教えてくれ」
「……は?」
「俺に、料理を教えてくれ」
いやいや──なんでそうなった?
俺は、料理のプロじゃねぇし!
人に教えられるほど、料理がうまいわけでもねぇし!
「そんなことはない。お前の作るものはどれもうまい」
いや、けど──
「それにお前は教えるのもうまい。先日教わったミルクセーキの手順も、とてもわかりやすかった」
あれを「料理」にカウントするのもどうかと思うけどな!
牛乳と砂糖とたまごを混ぜただけの、誰にでも作れる飲み物じゃん。
(ああ、けど……)
このレベルのヤツに付き合えるのは、そうそういないかもな。
それに、ケツのモフモフのこともあるから「初心者向けの料理教室に行ってこい」とも言いにくいし。
しょうががねぇ。
同居している間だけだ。
「1時間」
「……1時間?」
「おう。明日から1時間早く起きろ。そうすれば一緒に朝メシ作れるだろ」
「では……」
「あれこれ教えられるのは、俺に余裕があるときだけな。それ以外は見て覚えてくれ」
「わかった」
あいかわらずの無表情。
でも、尻尾がパタパタと左右に揺れている。
(ほんと、わかりやすいヤツ)
──なんて。
こんなこと、高校時代はまったく思わなかったんだけどなぁ。
それと、昨日食ったミネストローネの味変バージョン。「大賀は気づかないかもなぁ」と思いながら調味料をひとつ追加したんだけど、意外にもヤツは一口すすっただけで、何か言いたげに顔をあげた。
「なんだよ」
「……昨日と味が違う」
おお、気づいたか。
「実は、味噌を入れてんの」
「味噌……」
「トマトと味噌、意外と合うんだよ。トマトソースのパスタに味噌いれると、けっこううまいし」
大賀はしばらく黙り込んだあと、微妙な顔つきで首を傾げた。
「想像できない」
「じゃあ、今度作ってやるよ」
「本当にうまいんだな?」
「まずいもんは他人様に出さねーよ」
サンドイッチを半分ほど食ったところで、再び大賀は首を傾げた。
ただ、さっきとは少し様子が違う。なにやら考え込むように、食いかけのサンドイッチを見つめている。
「どうした?」
「作れるだろうか」
「うん?」
「俺も、教われば作れるようになるだろうか」
ああ、このサンドイッチを?
「そりゃ、まあ……そんな難しいもんでもないし」
ああ、でもこいつ、壊滅的に家事がダメだったっけ
うちでも、電子レンジで牛乳を爆発させたくらいだし。
(いや、でもサンドイッチくらいならいけるか?)
千切りキャベツは、カット野菜を買ってくれば問題なし。照り焼きチキンも、出来合いの惣菜にすればそれでクリア。そもそもこのサンドイッチのチキンも、お総菜コーナーの値下げ品だったわけだし。
けれども、神様が望んでいたのは、そんなレベルの話ではなかったらしい。
「サンドイッチ以外もか?」
「ん?」
「サンドイッチ以外の、スープやごはんも作れるようになるだろうか」
あ──待て待て。
ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。
「もしかして、料理全般を学びたいってことか?」
「ああ」
「それは……さすがにハードルが高いんじゃねーの?」
ていうか、そこまで必要か?
うちにいる限りは俺が朝食を作るし、元の環境に戻ってもそんな感じだろ? 神森あたりが、あれやこれややってくれるんじゃねーのかよ。
俺の指摘に、大賀は「だが」と口ごもった。
どうやら、当たらずとも遠からず。
ただ、反論したいことはあるらしい。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「……」
「言わねーとわかんねーよ。俺、神様じゃねーし」
「いや、俺も言ってもらわなければわからない」
ああ、そうかよ。
だったら言え。ちゃんと言え。
敢えて無言を貫いていると、大賀は重たげに口を開いた。
「時間を、持てあましている」
「……は?」
「修行をひととおり終えると、お前が帰宅するまで退屈だ」
「だから料理を習いたいってか」
なるほど、要は暇つぶしな。
いいご身分だこと。
嫌味のひとつやふたつも言ってやりたくなる一方で、これはこれで気の毒な気もした。
先日の一件からもわかるように、大賀は長時間外出できない。ケツのモフモフを隠すのに、霊力とやらを消費するからだ。
となると、日がな一日自宅に籠もるしかなくなるわけで──
「まあ……頑張れば何とかなるんじゃねーの?」
根気強く教えてくれるヤツがいるなら、だけど。
胸の内でこっそり付け加えると、大賀の尻尾がバサッと揺れた。
「では教えてくれ」
「……は?」
「俺に、料理を教えてくれ」
いやいや──なんでそうなった?
俺は、料理のプロじゃねぇし!
人に教えられるほど、料理がうまいわけでもねぇし!
「そんなことはない。お前の作るものはどれもうまい」
いや、けど──
「それにお前は教えるのもうまい。先日教わったミルクセーキの手順も、とてもわかりやすかった」
あれを「料理」にカウントするのもどうかと思うけどな!
牛乳と砂糖とたまごを混ぜただけの、誰にでも作れる飲み物じゃん。
(ああ、けど……)
このレベルのヤツに付き合えるのは、そうそういないかもな。
それに、ケツのモフモフのこともあるから「初心者向けの料理教室に行ってこい」とも言いにくいし。
しょうががねぇ。
同居している間だけだ。
「1時間」
「……1時間?」
「おう。明日から1時間早く起きろ。そうすれば一緒に朝メシ作れるだろ」
「では……」
「あれこれ教えられるのは、俺に余裕があるときだけな。それ以外は見て覚えてくれ」
「わかった」
あいかわらずの無表情。
でも、尻尾がパタパタと左右に揺れている。
(ほんと、わかりやすいヤツ)
──なんて。
こんなこと、高校時代はまったく思わなかったんだけどなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる