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第5話
2・神様からのおねがい
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ホットサンド以外のメニューは、リンゴとバナナと安売りしていたヨーグルト。
それと、昨日食ったミネストローネの味変バージョン。「大賀は気づかないかもなぁ」と思いながら調味料をひとつ追加したんだけど、意外にもヤツは一口すすっただけで、何か言いたげに顔をあげた。
「なんだよ」
「……昨日と味が違う」
おお、気づいたか。
「実は、味噌を入れてんの」
「味噌……」
「トマトと味噌、意外と合うんだよ。トマトソースのパスタに味噌いれると、けっこううまいし」
大賀はしばらく黙り込んだあと、微妙な顔つきで首を傾げた。
「想像できない」
「じゃあ、今度作ってやるよ」
「本当にうまいんだな?」
「まずいもんは他人様に出さねーよ」
サンドイッチを半分ほど食ったところで、再び大賀は首を傾げた。
ただ、さっきとは少し様子が違う。なにやら考え込むように、食いかけのサンドイッチを見つめている。
「どうした?」
「作れるだろうか」
「うん?」
「俺も、教われば作れるようになるだろうか」
ああ、このサンドイッチを?
「そりゃ、まあ……そんな難しいもんでもないし」
ああ、でもこいつ、壊滅的に家事がダメだったっけ
うちでも、電子レンジで牛乳を爆発させたくらいだし。
(いや、でもサンドイッチくらいならいけるか?)
千切りキャベツは、カット野菜を買ってくれば問題なし。照り焼きチキンも、出来合いの惣菜にすればそれでクリア。そもそもこのサンドイッチのチキンも、お総菜コーナーの値下げ品だったわけだし。
けれども、神様が望んでいたのは、そんなレベルの話ではなかったらしい。
「サンドイッチ以外もか?」
「ん?」
「サンドイッチ以外の、スープやごはんも作れるようになるだろうか」
あ──待て待て。
ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。
「もしかして、料理全般を学びたいってことか?」
「ああ」
「それは……さすがにハードルが高いんじゃねーの?」
ていうか、そこまで必要か?
うちにいる限りは俺が朝食を作るし、元の環境に戻ってもそんな感じだろ? 神森あたりが、あれやこれややってくれるんじゃねーのかよ。
俺の指摘に、大賀は「だが」と口ごもった。
どうやら、当たらずとも遠からず。
ただ、反論したいことはあるらしい。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「……」
「言わねーとわかんねーよ。俺、神様じゃねーし」
「いや、俺も言ってもらわなければわからない」
ああ、そうかよ。
だったら言え。ちゃんと言え。
敢えて無言を貫いていると、大賀は重たげに口を開いた。
「時間を、持てあましている」
「……は?」
「修行をひととおり終えると、お前が帰宅するまで退屈だ」
「だから料理を習いたいってか」
なるほど、要は暇つぶしな。
いいご身分だこと。
嫌味のひとつやふたつも言ってやりたくなる一方で、これはこれで気の毒な気もした。
先日の一件からもわかるように、大賀は長時間外出できない。ケツのモフモフを隠すのに、霊力とやらを消費するからだ。
となると、日がな一日自宅に籠もるしかなくなるわけで──
「まあ……頑張れば何とかなるんじゃねーの?」
根気強く教えてくれるヤツがいるなら、だけど。
胸の内でこっそり付け加えると、大賀の尻尾がバサッと揺れた。
「では教えてくれ」
「……は?」
「俺に、料理を教えてくれ」
いやいや──なんでそうなった?
俺は、料理のプロじゃねぇし!
人に教えられるほど、料理がうまいわけでもねぇし!
「そんなことはない。お前の作るものはどれもうまい」
いや、けど──
「それにお前は教えるのもうまい。先日教わったミルクセーキの手順も、とてもわかりやすかった」
あれを「料理」にカウントするのもどうかと思うけどな!
牛乳と砂糖とたまごを混ぜただけの、誰にでも作れる飲み物じゃん。
(ああ、けど……)
このレベルのヤツに付き合えるのは、そうそういないかもな。
それに、ケツのモフモフのこともあるから「初心者向けの料理教室に行ってこい」とも言いにくいし。
しょうががねぇ。
同居している間だけだ。
「1時間」
「……1時間?」
「おう。明日から1時間早く起きろ。そうすれば一緒に朝メシ作れるだろ」
「では……」
「あれこれ教えられるのは、俺に余裕があるときだけな。それ以外は見て覚えてくれ」
「わかった」
あいかわらずの無表情。
でも、尻尾がパタパタと左右に揺れている。
(ほんと、わかりやすいヤツ)
──なんて。
こんなこと、高校時代はまったく思わなかったんだけどなぁ。
それと、昨日食ったミネストローネの味変バージョン。「大賀は気づかないかもなぁ」と思いながら調味料をひとつ追加したんだけど、意外にもヤツは一口すすっただけで、何か言いたげに顔をあげた。
「なんだよ」
「……昨日と味が違う」
おお、気づいたか。
「実は、味噌を入れてんの」
「味噌……」
「トマトと味噌、意外と合うんだよ。トマトソースのパスタに味噌いれると、けっこううまいし」
大賀はしばらく黙り込んだあと、微妙な顔つきで首を傾げた。
「想像できない」
「じゃあ、今度作ってやるよ」
「本当にうまいんだな?」
「まずいもんは他人様に出さねーよ」
サンドイッチを半分ほど食ったところで、再び大賀は首を傾げた。
ただ、さっきとは少し様子が違う。なにやら考え込むように、食いかけのサンドイッチを見つめている。
「どうした?」
「作れるだろうか」
「うん?」
「俺も、教われば作れるようになるだろうか」
ああ、このサンドイッチを?
「そりゃ、まあ……そんな難しいもんでもないし」
ああ、でもこいつ、壊滅的に家事がダメだったっけ
うちでも、電子レンジで牛乳を爆発させたくらいだし。
(いや、でもサンドイッチくらいならいけるか?)
千切りキャベツは、カット野菜を買ってくれば問題なし。照り焼きチキンも、出来合いの惣菜にすればそれでクリア。そもそもこのサンドイッチのチキンも、お総菜コーナーの値下げ品だったわけだし。
けれども、神様が望んでいたのは、そんなレベルの話ではなかったらしい。
「サンドイッチ以外もか?」
「ん?」
「サンドイッチ以外の、スープやごはんも作れるようになるだろうか」
あ──待て待て。
ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。
「もしかして、料理全般を学びたいってことか?」
「ああ」
「それは……さすがにハードルが高いんじゃねーの?」
ていうか、そこまで必要か?
うちにいる限りは俺が朝食を作るし、元の環境に戻ってもそんな感じだろ? 神森あたりが、あれやこれややってくれるんじゃねーのかよ。
俺の指摘に、大賀は「だが」と口ごもった。
どうやら、当たらずとも遠からず。
ただ、反論したいことはあるらしい。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「……」
「言わねーとわかんねーよ。俺、神様じゃねーし」
「いや、俺も言ってもらわなければわからない」
ああ、そうかよ。
だったら言え。ちゃんと言え。
敢えて無言を貫いていると、大賀は重たげに口を開いた。
「時間を、持てあましている」
「……は?」
「修行をひととおり終えると、お前が帰宅するまで退屈だ」
「だから料理を習いたいってか」
なるほど、要は暇つぶしな。
いいご身分だこと。
嫌味のひとつやふたつも言ってやりたくなる一方で、これはこれで気の毒な気もした。
先日の一件からもわかるように、大賀は長時間外出できない。ケツのモフモフを隠すのに、霊力とやらを消費するからだ。
となると、日がな一日自宅に籠もるしかなくなるわけで──
「まあ……頑張れば何とかなるんじゃねーの?」
根気強く教えてくれるヤツがいるなら、だけど。
胸の内でこっそり付け加えると、大賀の尻尾がバサッと揺れた。
「では教えてくれ」
「……は?」
「俺に、料理を教えてくれ」
いやいや──なんでそうなった?
俺は、料理のプロじゃねぇし!
人に教えられるほど、料理がうまいわけでもねぇし!
「そんなことはない。お前の作るものはどれもうまい」
いや、けど──
「それにお前は教えるのもうまい。先日教わったミルクセーキの手順も、とてもわかりやすかった」
あれを「料理」にカウントするのもどうかと思うけどな!
牛乳と砂糖とたまごを混ぜただけの、誰にでも作れる飲み物じゃん。
(ああ、けど……)
このレベルのヤツに付き合えるのは、そうそういないかもな。
それに、ケツのモフモフのこともあるから「初心者向けの料理教室に行ってこい」とも言いにくいし。
しょうががねぇ。
同居している間だけだ。
「1時間」
「……1時間?」
「おう。明日から1時間早く起きろ。そうすれば一緒に朝メシ作れるだろ」
「では……」
「あれこれ教えられるのは、俺に余裕があるときだけな。それ以外は見て覚えてくれ」
「わかった」
あいかわらずの無表情。
でも、尻尾がパタパタと左右に揺れている。
(ほんと、わかりやすいヤツ)
──なんて。
こんなこと、高校時代はまったく思わなかったんだけどなぁ。
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