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第6話

2・神森、再び(その2)

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神森の指摘に、俺は戸惑いを覚えた。
だって、以前神森と会ったのって、大賀と同居してほしいって頼まれたときだよな? つまり2ヶ月ほど前ってことだ。

(あの頃の俺、そんなに痩せていたか?)

それに目の下のクマって……ぜんぜん覚えがないんだけど。

「まあ、そういうのって案外自分では気づかないものだしね。良かったよ、今は元気そうで」
「……そうか」

いちおう頷いてはみたものの、どうも釈然としない。
だって、この間会ったとき、お前はそんな指摘しなかったよな?
他愛のない雑談と大賀のことを話しただけで、俺の体調のことなんかまったく話題にしなかったじゃん。

(なんだ、この違和感)

なんとなく引っかかりを覚えたものの、神森が「ところでさー」と話題を変えてしまったので、そのままうやむやになってしまう。
結局、1時間ほどダラダラと温い会話をした。それこそ、元チームメイトの噂話とか、うちの母校が春の選抜大会に出られるかもしれないこととか。
で、俺がポテトを半分ほど減らしたあたりから、話題は大賀のことに変わった。
「尊くん、どんな感じ?」と訊かれたので、あいつが同居中にやらかしたことを面白おかしく暴露した。電子レンジでミルクセーキを爆発させたこととか、はじめて米とぎをさせようとしたとき、マジで洗剤を使おうとしたこととか。

「えっ、ほんとに? ほんとに洗剤で!?」
「ああ」
「うわぁ……実在するんだねぇ、そんな人」
「な? 俺も、そんなヤツ、都市伝説だと思ってたっての」

そこから、さらに大賀が俺のバイト先に来た話になった。

「温めたホットサンドを持っていったらさぁ、アイツがいるんだよ。シレッとした顔つきで。あのとき、マジで悲鳴をあげそうになってさぁ」
「アハハッ、叶斗くん、ひどすぎ! 幽霊じゃないんだから」
「けどビビるだろ、店にいきなり知り合いがいたら。しかもあいつ、閉店後の店にまで乗り込んできてさ」
「……ん? どういうこと?」
「ああ、ええと……俺、そのころ本社から来てる社員とちょっと揉めててさ」

かなりボカしながら、俺はあの日の話をした。
帰り際に、社員におかしな言いがかりをつけられたこと。
否定しても、認めてもらえなかったこと。
そこに大賀が現れて「業務時間外だから」と連れ帰ってくれたこと。

「なんかその状況がさぁ、モブを助けるヒーローみたいでさぁ」

もっとも、あのあとあいつはエネルギー切れを起こして、電車のなかで尻尾を出すわ、家に帰るなり倒れ込むわで、いろいろ大変だったんだけど。
なんてオマケのエピソードを付け加えようとしたところで、神森が「ああ」としみじみ呟いた。

「尊くん、ついに突撃しちゃったんだねぇ」

──うん? なんだ今の。

(「突撃」? それに「ついに」?)
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