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第6話

3・神森、再び(その3)

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違和感、再び。
だっておかしいだろ、「大賀がついに突撃した」って。
それじゃ、まるで前々からそうしようとしていたみたいじゃないか。

「どういうことだ?」
「うん?」
「あのとき大賀が現れたのは、たまたまじゃなかったのか?」

もちろん、営業時間中にうちのカフェに来たのは、俺がバイトしていることを知っていたからだろう。
けど、閉店後に現れたのは「たまたま」じゃないのか?
俺がいつまで経っても店から出てこないから、「たまたま」様子をうかがいにきたわけじゃなかったのか?

「えっ……ええと」

神森の声が、あからさまなほど裏返った。

「もちろん、そのとおりだと思うよ! ほら、尊くん、案外せっかちなところがあるから!」
「じゃあ、なんだよ。『ついに突撃』って」
「いや、それはそういう意味じゃないっていうか……ええと……ほら、前々から叶斗くんのバイト先に興味をもっていて、一度覗きたがっていたっていうか!」

いや、それはおかしいだろ。
お前が「突撃」って言葉を使ったのは、閉店後の話をしたときじゃん。営業中に出くわした話をしたときは、ただ笑っていただけじゃねーか。

「ところで、尊くんの料理の腕前ってどうなの?」

またもや強引に、神森は話題を変えようとした。

「やっぱりポンコツ? それとも案外うまかったりする?」
「……」
「よかったら俺も食べてみたいなぁ」
「……」
「え、ええと……それから……」
「うるせぇ、誤魔化すな」

神森が座っている椅子を、ガッと蹴飛ばした。

「答えろ。なにが『ついに突撃』だ?」
「え、ええと……」
「……」
「ええと……」
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