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第6話
5・モフモフ野郎の嘘
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──「尊くんの面倒をみてやってよ。尊くん、神様になったばかりだから、メンタルが超不安定でさぁ」
──「俺からも頼む。できるだけ面倒をかけないようにする。どうかお前の家に住まわせてほしい」
こいつらに頭を下げられて、俺は大賀との同居を決めた。
「神様になってまだ3ヶ月目の新米」「そのせいでメンタルが不安定」──そうした言い訳をひとまず信じたからだ。
でも、真相は違った。
人間だったころから「人生何度目ですか?」ってくらいの強メンタルのこいつに、やっぱりサポートなんて必要なかったんだ。
「お前、以前からうちの店によく来ていたんだってな」
「『よく』というほどではない。1ヶ月に2~3度ほどだ」
「けど、来るには来ていた。俺が知らなかっただけで」
そう、俺はまったく気づいていなかった。この間、店内でばったり出くわしたのが初来店だと思っていた。
「お前がレジやドリンクカウンターに入るのは、いつも俺が注文し終えてからだった。ずっと気づかなかったのも当然だろう」
「で、お前は客席から見ていた──と。俺の仕事っぷりを」
大賀は答えない。
ヤツの尻尾も、特に動きはない。
「そんなに大変そうだったか? お前が何度も様子をうかがいに来るほど」
時期的には、おそらく坂沼さんから嫌がらせを受けはじめたころだ。
たしかに、あの頃の俺はいろいろ参っていたかもしれない。
「で、同居を申し出たってか。可哀想な俺を放っておけなくて」
「いや、『可哀想』とは……」
「でも、心のどこかでそう思っていたよな!?」
昔と様子が違う、元チームメイト。
どうやら何か問題を抱えているらしい。
可哀想だ。気の毒だ。
誰かが支えてやったほうがいいのでは?
そう考えたから、お前は俺と同居しようなんて考えたんだろう?
「なあ、俺……そんなこと頼んだか?」
そりゃ、たしかに、坂沼さんにはかなり参っていたよ。
神森いわく「2ヶ月前はずいぶん痩せていたし、目の下のクマもひどかった」らしいから、きっと身体にも影響が出ていたんだろう。
でも、俺はお前に助けを求めた覚えはない。
辛いと愚痴をこぼしたことすらない。
だって、お前にだけは知られたくなかった。
高校時代、ピッチャーとして一度もお前に勝てなかった俺が、野球を辞めてもなお、クソみたいなみじめな思いをしているなんて。
悔しさと憤りと、恥ずかしさ。
さらに、それを上回るほどの「みじめさ」。
そんなマイナスの感情ばかりが、ごちゃごちゃに混ざって俺の心をかき乱す。
目の前の大賀は、あいかわらず無言を貫いている。
なのに、こんなときでも背筋だけはスッと伸びていた。
ああ、嫌だ。
これだ。
大賀のこういうところが、俺は嫌いだったんだ。
だって、こんなやつを前にしたら、誰だって自分のちっぽけさを突きつけられるじゃないか。
「気分よかったか」
ああ、ほら。
またみじめな言葉が転がり落ちる。
「可哀想な元チームメイトを見て……同情して、こっそり支えて……気分よかったか? 楽しかったか?」
「楽しくはないし、気分もよくない」
ようやく、大賀は口を開いた。
「そもそも同情した覚えもない」
「じゃあ、なんだよ!」
「心配した。気にかけた。友人として当然のことをしたまでだ」
大賀の目は、ひどく澄んでいた。
「友人が大変そうなら心配する。困っているようなら手を差し伸べる。お前が俺の立場でも、同じことをするのではないのか?」
まっすぐで真摯なこいつの言葉は、清廉な人間には正しく届くのだろう。
でも、俺はそうじゃない。
みじめでコンプレックスまみれの、ショボい人間だ。
「出ていけ」
うつむいたまま、俺は立ちあがった。
「明日の朝までに出ていけ。ここから出ていけ」
お前に心配されたくない。
お前の支援なんて必要ない。
「もう二度と、俺の前に顔を出すな!」
言い捨てて、居間を後にする。
力がこもりすぎていたせいか、引き戸はひどい音をたてて閉まった。
──「俺からも頼む。できるだけ面倒をかけないようにする。どうかお前の家に住まわせてほしい」
こいつらに頭を下げられて、俺は大賀との同居を決めた。
「神様になってまだ3ヶ月目の新米」「そのせいでメンタルが不安定」──そうした言い訳をひとまず信じたからだ。
でも、真相は違った。
人間だったころから「人生何度目ですか?」ってくらいの強メンタルのこいつに、やっぱりサポートなんて必要なかったんだ。
「お前、以前からうちの店によく来ていたんだってな」
「『よく』というほどではない。1ヶ月に2~3度ほどだ」
「けど、来るには来ていた。俺が知らなかっただけで」
そう、俺はまったく気づいていなかった。この間、店内でばったり出くわしたのが初来店だと思っていた。
「お前がレジやドリンクカウンターに入るのは、いつも俺が注文し終えてからだった。ずっと気づかなかったのも当然だろう」
「で、お前は客席から見ていた──と。俺の仕事っぷりを」
大賀は答えない。
ヤツの尻尾も、特に動きはない。
「そんなに大変そうだったか? お前が何度も様子をうかがいに来るほど」
時期的には、おそらく坂沼さんから嫌がらせを受けはじめたころだ。
たしかに、あの頃の俺はいろいろ参っていたかもしれない。
「で、同居を申し出たってか。可哀想な俺を放っておけなくて」
「いや、『可哀想』とは……」
「でも、心のどこかでそう思っていたよな!?」
昔と様子が違う、元チームメイト。
どうやら何か問題を抱えているらしい。
可哀想だ。気の毒だ。
誰かが支えてやったほうがいいのでは?
そう考えたから、お前は俺と同居しようなんて考えたんだろう?
「なあ、俺……そんなこと頼んだか?」
そりゃ、たしかに、坂沼さんにはかなり参っていたよ。
神森いわく「2ヶ月前はずいぶん痩せていたし、目の下のクマもひどかった」らしいから、きっと身体にも影響が出ていたんだろう。
でも、俺はお前に助けを求めた覚えはない。
辛いと愚痴をこぼしたことすらない。
だって、お前にだけは知られたくなかった。
高校時代、ピッチャーとして一度もお前に勝てなかった俺が、野球を辞めてもなお、クソみたいなみじめな思いをしているなんて。
悔しさと憤りと、恥ずかしさ。
さらに、それを上回るほどの「みじめさ」。
そんなマイナスの感情ばかりが、ごちゃごちゃに混ざって俺の心をかき乱す。
目の前の大賀は、あいかわらず無言を貫いている。
なのに、こんなときでも背筋だけはスッと伸びていた。
ああ、嫌だ。
これだ。
大賀のこういうところが、俺は嫌いだったんだ。
だって、こんなやつを前にしたら、誰だって自分のちっぽけさを突きつけられるじゃないか。
「気分よかったか」
ああ、ほら。
またみじめな言葉が転がり落ちる。
「可哀想な元チームメイトを見て……同情して、こっそり支えて……気分よかったか? 楽しかったか?」
「楽しくはないし、気分もよくない」
ようやく、大賀は口を開いた。
「そもそも同情した覚えもない」
「じゃあ、なんだよ!」
「心配した。気にかけた。友人として当然のことをしたまでだ」
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「友人が大変そうなら心配する。困っているようなら手を差し伸べる。お前が俺の立場でも、同じことをするのではないのか?」
まっすぐで真摯なこいつの言葉は、清廉な人間には正しく届くのだろう。
でも、俺はそうじゃない。
みじめでコンプレックスまみれの、ショボい人間だ。
「出ていけ」
うつむいたまま、俺は立ちあがった。
「明日の朝までに出ていけ。ここから出ていけ」
お前に心配されたくない。
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力がこもりすぎていたせいか、引き戸はひどい音をたてて閉まった。
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