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第7話
6・店長からの呼び出し(その2)
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あまりにも予想外のことに、俺は相手が店長だということも忘れて「は?」と聞き返してしまった。
「横領って……なんですか、それ」
「そうよね、どう考えてもおかしいわよね。ただ、その……」
店長はかなり言葉を濁していたけれど、要約するとどうもこういうことらしい。
昨日、俺は川野ちゃんの件で本社にメールを送った。
当然、本社は坂沼さんを呼び出して事の真偽を確かめた。
それに対して、坂沼さんは「身に覚えがない」と否定した上に、とんでもないことを言い添えたらしい。
「『若井叶斗は問題のあるアルバイトで、よく嘘をつく。実は横領疑惑もある』──ですか」
しかも、俺がこのメールを送った理由についても「若井に勤務態度の悪さを注意して以来、反発されている。今回のメールも、おそらく逆恨みをされてのこと」などと答えたらしい。
「すごいっすね」
俺は、怒りを通り越して、半ば感心してしまった。「悪口は自己紹介」とはまさにこのこと、人ってここまで醜悪になれるんだ。
「もちろん私は否定したわよ。それに、本社の人たちも、その……坂沼さんの発言を鵜呑みにしたわけではないみたいだし」
ただ、俺への疑いも完全に晴れたわけではないらしい。
「たしかに、その……若井くんがシフトに入っている日って、何度かレジのお金が足りなくなっているのね」
「いや、待ってください!」
俺がレジに入るのは、1日のうちでせいぜい1時間ほどだ。たいていはドリンクを担当しているので、お金に触る時間はそう長くはない。
「それでも疑うっていうなら、俺、当分レジはやりません。なんならドリンクもやらないで、ずっと洗い場に閉じこもります」
「ううん、そこまでは……」
「じゃあ、ちゃんと否定してくれますよね?」
「もちろんよ! もちろんちゃんと否定したから! ただ、そういうことがあったってことは覚えておいてほしいの!」
店長は、悲しそうに眉を下げた。
「若井くんにとっては理不尽だろうけれど……本社とそういうやりとりがあったこと、いちおう心にとめておこう。ね?」
──なんだ、それ。
なんで俺が、そんな理不尽なことを覚えていないといけないんだ?
納得できずに無言を貫いていると、バックヤードのドアが開いた。夜シフトの専門学校生が「おつかれさまでーす」とタイムカードに手をのばしている。
「もう戻っていいっすか」
「うん。じゃあ、よろしくね」
俺はエプロンの紐を結びなおすと、バックヤードを後にした。
くだらない。
あまりにもくだらない。
腹が立って、でも誰かに当たるわけにもいかなくて──俺は、ただひたすら仕事に集中した。
それでも、苛立ちとかすかな不安は、なかなか消えてはくれなかった。
「横領って……なんですか、それ」
「そうよね、どう考えてもおかしいわよね。ただ、その……」
店長はかなり言葉を濁していたけれど、要約するとどうもこういうことらしい。
昨日、俺は川野ちゃんの件で本社にメールを送った。
当然、本社は坂沼さんを呼び出して事の真偽を確かめた。
それに対して、坂沼さんは「身に覚えがない」と否定した上に、とんでもないことを言い添えたらしい。
「『若井叶斗は問題のあるアルバイトで、よく嘘をつく。実は横領疑惑もある』──ですか」
しかも、俺がこのメールを送った理由についても「若井に勤務態度の悪さを注意して以来、反発されている。今回のメールも、おそらく逆恨みをされてのこと」などと答えたらしい。
「すごいっすね」
俺は、怒りを通り越して、半ば感心してしまった。「悪口は自己紹介」とはまさにこのこと、人ってここまで醜悪になれるんだ。
「もちろん私は否定したわよ。それに、本社の人たちも、その……坂沼さんの発言を鵜呑みにしたわけではないみたいだし」
ただ、俺への疑いも完全に晴れたわけではないらしい。
「たしかに、その……若井くんがシフトに入っている日って、何度かレジのお金が足りなくなっているのね」
「いや、待ってください!」
俺がレジに入るのは、1日のうちでせいぜい1時間ほどだ。たいていはドリンクを担当しているので、お金に触る時間はそう長くはない。
「それでも疑うっていうなら、俺、当分レジはやりません。なんならドリンクもやらないで、ずっと洗い場に閉じこもります」
「ううん、そこまでは……」
「じゃあ、ちゃんと否定してくれますよね?」
「もちろんよ! もちろんちゃんと否定したから! ただ、そういうことがあったってことは覚えておいてほしいの!」
店長は、悲しそうに眉を下げた。
「若井くんにとっては理不尽だろうけれど……本社とそういうやりとりがあったこと、いちおう心にとめておこう。ね?」
──なんだ、それ。
なんで俺が、そんな理不尽なことを覚えていないといけないんだ?
納得できずに無言を貫いていると、バックヤードのドアが開いた。夜シフトの専門学校生が「おつかれさまでーす」とタイムカードに手をのばしている。
「もう戻っていいっすか」
「うん。じゃあ、よろしくね」
俺はエプロンの紐を結びなおすと、バックヤードを後にした。
くだらない。
あまりにもくだらない。
腹が立って、でも誰かに当たるわけにもいかなくて──俺は、ただひたすら仕事に集中した。
それでも、苛立ちとかすかな不安は、なかなか消えてはくれなかった。
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