モフモフ野郎と俺の朝ごはん

水野七緒

文字の大きさ
68 / 86
第7話

7・ひとりのバターロール

しおりを挟む
俺に横領疑惑があるという噂は、ほんの数日でバイト仲間たちの間にも広がったらしい。
ほとんどのヤツらは「あり得ない」「大丈夫か?」と気を遣ってくれた。けれど、一部の連中からは下世話な目を向けられるようになった。
川野ちゃんからはめちゃくちゃ頭を下げられた。

「すみません、私のせいですよね」
「違うって。川野ちゃんは関係ないから」

そう答えたものの、聡い彼女が鵜呑みにするはずがない。
なので、なおさら俺は「気にしていません」という態度を取らざるを得なかった。そうしなければ、川野ちゃんのほうがぽっきり折れてしまいそうだった。

(大丈夫。こんな噂、どうせすぐに消える)

なにより、くだらない嫌がらせに屈したくない。俺がここで負けたら、坂沼は味を占めて、他のヤツらにも同じことをしはじめるだろう。

(そんなの、冗談じゃねぇ)

なのに、おかしなことが起こりはじめた。
店長に呼びだされた翌週くらいから、閉店時の釣り銭が合わなくなりはじめたのだ。それも、俺がバイトリーダーを任された日限定で。

「若井っち、ごめん。ちょっと一緒に確認して」

今日もレジ担当に呼ばれて、俺は釣り銭を確認する。

「いくら合わないんっすか」
「120円。今日現金払いだった人、そんなに多くなかったんだけどなぁ」

実は、電子マネー普及のおかげで、釣り銭が合わないなんてことはそうそう多くはない。
なのに、俺がバイトリーダーのときだけいつも不足金が発生する。
金額そのものは100円前後だが、1杯250円でブレンドコーヒーを提供している店としてはなかなか厳しい金額だ。なによりこうしたことが繰り返し続くと精神的にキツくなる。
せめてもの救いは、俺がレジ担当をしていないことだ。

(俺がレジだったら、絶対「横領だ」って言われていたな)

特に、坂沼はここぞとばかりに大騒ぎしただろう。容易にできてしまう想像にうんざりしながら、俺はこの日も違算報告を済ませて店を閉めた。
最終電車にはなんとか乗ることができた。
駅前のスーパーは閉店15分前で、残っていた惣菜や弁当には「半額」のシールがベタベタと貼られていた。
なのに、そのどれにも手がのびない。すごく疲れていて、めちゃくちゃ腹も減っているはずなのに。
結局5個入りのバターロールを買って、帰宅後ひとつだけ口にした。
──あれ、こんな味だったっけ。
バターがやけに油っぽくて、パンも妙にパサパサだ。

(ああ……あたためていないからか)

けど、足が重い。
わざわざ台所に行こうという気になれない。
口のなかのものを咀嚼しながら、俺はテーブルに頭を寄せた。
ふと、どこぞのモフモフ野郎の尻尾を思いだした。レンジであたためたバターロールを分けてやったとき、パタパタ揺らしていたあの尻尾。

(あいつ、何やってんのかな)

料理、続けてんのかな。
ああ、でもエプロンもキッチンばさみもうちに置いていったんだっけ。
じゃあ、何をやってんだろう。
神様としての修行か?
それだけで毎日楽しいのか?

(料理は……けっこう楽しそうにやってたんだけどな)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

処理中です...