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第8話
8・モフモフ野郎のご乱心(その1)
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駅員さんにお礼を伝えた俺は、すぐさま救護室をあとにした。
行き先は、バイト先のカフェ──だけど、ゲリラ豪雨で電車は徐行運転中。電光掲示板には「遅れ10分」の文字が表示されている。
待っている間、雨雲レーダーを確認した。豪雨に見舞われているのは、どうやらごく一部の限られた地域だけらしい。
そのことが、神森の言い分が間違っていないことを示しているようで、俺は頭を抱えたくなった。
そう、神森いわく──
──『尊くん、いろいろバレたあともずっと叶斗くんのことを気にかけていてさ、ときどきバイト先を覗いたりしていたんだよ。だから、君が辛そうに働いていたことも、どんどん痩せていったのも実はちゃんと知っていてさ。そんな矢先に、君が目の前で倒れたから、たぶんぶち切れちゃって……俺に電話をよこしたときも「ひとまずバイト先に話を聞いてくる」とは言ってたけど、明らかに怒っていたからさ』
局地的なゲリラ豪雨が起きたのは、その電話を終えてからまもなくのこと。そのため、神森は「天候が崩れたのは大賀尊のせい」と考えているらしい。
いやいや、ないだろ!
豪雨はあくまで偶然だって!
ただ、さっき救護室にいた駅員さんたちの会話によると、一番雨がひどいのは俺のバイト先周辺らしい。
(いや、けど、まさか……)
神森の主張を必死に否定しているうちに、ようやく電車が到着した。結局15分遅れ。ゲリラ豪雨の影響は思っていた以上に大きかったらしい。
さらに、電車に乗ってすぐに、夜空の一部が派手に光った。
「やべ、雷じゃん」
「傘ねーんだけど」
同感だ。俺も傘を持ってきていない。
(だって、今日の降水確率0%だったし)
なのに、この局地的豪雨。
いや、でもこれはきっと地球温暖化のせいだ。あるいは何かこう──環境問題的な何かのせいだ。
(断じて大賀のせいなんかじゃない)
だっておかしいだろ、俺のために大賀がここまで怒るなんて。
そりゃ、あいつは俺が思っていた以上に友達思いの義理堅いヤツだったけど。ついでに、以前坂沼にからまれていたところを助けてもらったりもしたけれど。
だからって大雨を降らせるか?
そんな大勢の人間の迷惑になるようなことを、あの大賀尊が?
(ありえない)
あいつは、そんな自分本位なやつじゃない。
たしかに昔から空気を読めないところはあったけど、だからって他人に迷惑をかけるようなことはしなかった。むしろ「神童」ってあだ名がしっくりくるくらいには常識的なやつだったはずだ。
(なのに、なんで神森はあいつのせいだなんて……)
ようやく電車が下車駅に着いた。
今日本社であった「いろいろなこと」などすっかり忘れて、俺はただまっすぐバイト先へと向かった。
「えっ、若井さん?」
すっとんきょうな声をあげたのは、ドリンクカウンターにいた川野ちゃんだ。
そういえば彼女は今日のクローズメンバーだったっけ。ごめんな、俺、急きょ休むことになっちまって。
──なんて感傷的になっている場合じゃない。
「あのさ、少し前に、デカい男がここに来なかった?」
「はぁ……デカい人……」
「ええと……身長は川野ちゃんの彼くらい、髪の毛は短髪で『いかにも体育会系』って雰囲気で……」
「それ、1時間くらい前に来た人じゃない?」
横から口を出してきたのは、レジを担当していた社会人のバイトさんだ。
「ああ、あの人ですか? なんかすごい怖い感じの……」
「そうそう! いかついオーラを発しているみたいな」
「そいつ、どこに行きました!?」
「どこって……そこまではちょっと……」
首を傾げるレジ担当の隣で、川野ちゃんが「あっ」と声をあげた。
「もしかしたら本社かも」
「本社!?」
「その怖い人、店に来るなり『ここのスタッフで会いたい人がいる』って言ってきたんです。で、いろいろ話を聞いてみたところ、その『会いたいスタッフ』ってどうも坂沼さんっぽいなあって」
「それで本社のことを?」
「はい、今日はたぶんそっちにいるんじゃないかって」
「わかった、ありがと!」
店を出るなり、再び雨雲レーダーにアクセスする。
案の定、局地的豪雨は本社周辺に移動しているようだった。
「……マジか」
呟いたところで、スマホがブルブルと震えた。
着信通知──電話をかけてきたのは神森だ。
行き先は、バイト先のカフェ──だけど、ゲリラ豪雨で電車は徐行運転中。電光掲示板には「遅れ10分」の文字が表示されている。
待っている間、雨雲レーダーを確認した。豪雨に見舞われているのは、どうやらごく一部の限られた地域だけらしい。
そのことが、神森の言い分が間違っていないことを示しているようで、俺は頭を抱えたくなった。
そう、神森いわく──
──『尊くん、いろいろバレたあともずっと叶斗くんのことを気にかけていてさ、ときどきバイト先を覗いたりしていたんだよ。だから、君が辛そうに働いていたことも、どんどん痩せていったのも実はちゃんと知っていてさ。そんな矢先に、君が目の前で倒れたから、たぶんぶち切れちゃって……俺に電話をよこしたときも「ひとまずバイト先に話を聞いてくる」とは言ってたけど、明らかに怒っていたからさ』
局地的なゲリラ豪雨が起きたのは、その電話を終えてからまもなくのこと。そのため、神森は「天候が崩れたのは大賀尊のせい」と考えているらしい。
いやいや、ないだろ!
豪雨はあくまで偶然だって!
ただ、さっき救護室にいた駅員さんたちの会話によると、一番雨がひどいのは俺のバイト先周辺らしい。
(いや、けど、まさか……)
神森の主張を必死に否定しているうちに、ようやく電車が到着した。結局15分遅れ。ゲリラ豪雨の影響は思っていた以上に大きかったらしい。
さらに、電車に乗ってすぐに、夜空の一部が派手に光った。
「やべ、雷じゃん」
「傘ねーんだけど」
同感だ。俺も傘を持ってきていない。
(だって、今日の降水確率0%だったし)
なのに、この局地的豪雨。
いや、でもこれはきっと地球温暖化のせいだ。あるいは何かこう──環境問題的な何かのせいだ。
(断じて大賀のせいなんかじゃない)
だっておかしいだろ、俺のために大賀がここまで怒るなんて。
そりゃ、あいつは俺が思っていた以上に友達思いの義理堅いヤツだったけど。ついでに、以前坂沼にからまれていたところを助けてもらったりもしたけれど。
だからって大雨を降らせるか?
そんな大勢の人間の迷惑になるようなことを、あの大賀尊が?
(ありえない)
あいつは、そんな自分本位なやつじゃない。
たしかに昔から空気を読めないところはあったけど、だからって他人に迷惑をかけるようなことはしなかった。むしろ「神童」ってあだ名がしっくりくるくらいには常識的なやつだったはずだ。
(なのに、なんで神森はあいつのせいだなんて……)
ようやく電車が下車駅に着いた。
今日本社であった「いろいろなこと」などすっかり忘れて、俺はただまっすぐバイト先へと向かった。
「えっ、若井さん?」
すっとんきょうな声をあげたのは、ドリンクカウンターにいた川野ちゃんだ。
そういえば彼女は今日のクローズメンバーだったっけ。ごめんな、俺、急きょ休むことになっちまって。
──なんて感傷的になっている場合じゃない。
「あのさ、少し前に、デカい男がここに来なかった?」
「はぁ……デカい人……」
「ええと……身長は川野ちゃんの彼くらい、髪の毛は短髪で『いかにも体育会系』って雰囲気で……」
「それ、1時間くらい前に来た人じゃない?」
横から口を出してきたのは、レジを担当していた社会人のバイトさんだ。
「ああ、あの人ですか? なんかすごい怖い感じの……」
「そうそう! いかついオーラを発しているみたいな」
「そいつ、どこに行きました!?」
「どこって……そこまではちょっと……」
首を傾げるレジ担当の隣で、川野ちゃんが「あっ」と声をあげた。
「もしかしたら本社かも」
「本社!?」
「その怖い人、店に来るなり『ここのスタッフで会いたい人がいる』って言ってきたんです。で、いろいろ話を聞いてみたところ、その『会いたいスタッフ』ってどうも坂沼さんっぽいなあって」
「それで本社のことを?」
「はい、今日はたぶんそっちにいるんじゃないかって」
「わかった、ありがと!」
店を出るなり、再び雨雲レーダーにアクセスする。
案の定、局地的豪雨は本社周辺に移動しているようだった。
「……マジか」
呟いたところで、スマホがブルブルと震えた。
着信通知──電話をかけてきたのは神森だ。
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