モフモフ野郎と俺の朝ごはん

水野七緒

文字の大きさ
80 / 86
第8話

8・モフモフ野郎のご乱心(その1)

しおりを挟む
駅員さんにお礼を伝えた俺は、すぐさま救護室をあとにした。
行き先は、バイト先のカフェ──だけど、ゲリラ豪雨で電車は徐行運転中。電光掲示板には「遅れ10分」の文字が表示されている。
待っている間、雨雲レーダーを確認した。豪雨に見舞われているのは、どうやらごく一部の限られた地域だけらしい。
そのことが、神森の言い分が間違っていないことを示しているようで、俺は頭を抱えたくなった。
そう、神森いわく──

──『尊くん、いろいろバレたあともずっと叶斗くんのことを気にかけていてさ、ときどきバイト先を覗いたりしていたんだよ。だから、君が辛そうに働いていたことも、どんどん痩せていったのも実はちゃんと知っていてさ。そんな矢先に、君が目の前で倒れたから、たぶんぶち切れちゃって……俺に電話をよこしたときも「ひとまずバイト先に話を聞いてくる」とは言ってたけど、明らかに怒っていたからさ』

局地的なゲリラ豪雨が起きたのは、その電話を終えてからまもなくのこと。そのため、神森は「天候が崩れたのは大賀尊のせい」と考えているらしい。
いやいや、ないだろ!
豪雨はあくまで偶然だって!
ただ、さっき救護室にいた駅員さんたちの会話によると、一番雨がひどいのは俺のバイト先周辺らしい。

(いや、けど、まさか……)

神森の主張を必死に否定しているうちに、ようやく電車が到着した。結局15分遅れ。ゲリラ豪雨の影響は思っていた以上に大きかったらしい。
さらに、電車に乗ってすぐに、夜空の一部が派手に光った。

「やべ、雷じゃん」
「傘ねーんだけど」

同感だ。俺も傘を持ってきていない。

(だって、今日の降水確率0%だったし)

なのに、この局地的豪雨。
いや、でもこれはきっと地球温暖化のせいだ。あるいは何かこう──環境問題的な何かのせいだ。

(断じて大賀のせいなんかじゃない)

だっておかしいだろ、俺のために大賀がここまで怒るなんて。
そりゃ、あいつは俺が思っていた以上に友達思いの義理堅いヤツだったけど。ついでに、以前坂沼にからまれていたところを助けてもらったりもしたけれど。
だからって大雨を降らせるか?
そんな大勢の人間の迷惑になるようなことを、あの大賀尊が?

(ありえない)

あいつは、そんな自分本位なやつじゃない。
たしかに昔から空気を読めないところはあったけど、だからって他人に迷惑をかけるようなことはしなかった。むしろ「神童」ってあだ名がしっくりくるくらいには常識的なやつだったはずだ。

(なのに、なんで神森はあいつのせいだなんて……)

ようやく電車が下車駅に着いた。
今日本社であった「いろいろなこと」などすっかり忘れて、俺はただまっすぐバイト先へと向かった。

「えっ、若井さん?」

すっとんきょうな声をあげたのは、ドリンクカウンターにいた川野ちゃんだ。
そういえば彼女は今日のクローズメンバーだったっけ。ごめんな、俺、急きょ休むことになっちまって。
──なんて感傷的になっている場合じゃない。

「あのさ、少し前に、デカい男がここに来なかった?」
「はぁ……デカい人……」
「ええと……身長は川野ちゃんの彼くらい、髪の毛は短髪で『いかにも体育会系』って雰囲気で……」
「それ、1時間くらい前に来た人じゃない?」

横から口を出してきたのは、レジを担当していた社会人のバイトさんだ。

「ああ、あの人ですか? なんかすごい怖い感じの……」
「そうそう! いかついオーラを発しているみたいな」
「そいつ、どこに行きました!?」
「どこって……そこまではちょっと……」

首を傾げるレジ担当の隣で、川野ちゃんが「あっ」と声をあげた。

「もしかしたら本社かも」
「本社!?」
「その怖い人、店に来るなり『ここのスタッフで会いたい人がいる』って言ってきたんです。で、いろいろ話を聞いてみたところ、その『会いたいスタッフ』ってどうも坂沼さんっぽいなあって」
「それで本社のことを?」
「はい、今日はたぶんそっちにいるんじゃないかって」
「わかった、ありがと!」

店を出るなり、再び雨雲レーダーにアクセスする。
案の定、局地的豪雨は本社周辺に移動しているようだった。

「……マジか」

呟いたところで、スマホがブルブルと震えた。
着信通知──電話をかけてきたのは神森だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

処理中です...