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第8話
9・モフモフ野郎のご乱心(その2)
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『叶斗くん、今どこ!?』
「バイト先! けど、大賀はたぶんここじゃねぇ!」
『じゃあ、どこ!?』
「本社かもって」
川野ちゃんたちから聞いた話を、そのまま早口で神森に伝える。
神森は、またもや「ああっ」と悲鳴のような声をあげた。
『急ごう、止めよう! 俺もそっちに向かうから、叶斗くんも本社に向かって!』
「わかってる、そのつもりだっての!」
それにしても、理解できねぇ。
どうして、大賀はこんな暴風雨を起こしちまったんだ?
いくら義憤にかられたからって、これはさすがにヤバすぎるだろ。そのあたりのこと、ちゃんと判断できるようなヤツだったじゃねぇか。
そんな俺の疑問を、神森は「バカ!」とばっさり切って捨てた。
『意識してやってんじゃないの! 無意識なの!』
「……は?」
『尊くん、怒りが爆発して感情を抑えられなくなってんの! それでこんなゲリラ豪雨になってんの!』
──マジか。
『じゃないと、こんなことになるわけないでしょ! 尊くん、自分の影響力を嫌ってくらいよくわかっている人なんだから!』
それは、たしかにそのとおりだ。
俺の知っている大賀尊は、どんなに感情をあふれさせたとしても、大勢を巻き込むようなことはやらかさねぇ。
(だって、あいつは「神童」で……自分がどれだけ注目されているのか、よく知っていて……)
高校時代もそうだ。
何かと注目を集めがちだった大賀は、意地の悪い先輩や、下世話な大人たちからたびたびクソみたいな言葉をぶつけられていた。連中は、たぶんそうすることで「神童」としてのあいつの仮面を引っぺがしたかったんだろうけれど、それでもあいつは淡々と優等生らしい発言を繰り返していた。さっき神森が言ったみたいに、自分の発言の影響力をすごくよくわかっていたからだ。
(なのに今、こんなことになっている)
普段のあいつなら、絶対にやらかさないような事態。
それを今、あいつは起こしてしまったのだ。
『もうさ、これだから新米の神様はやっかいなんだよ! 修行中だから未熟なところが多いし、能力の制御も下手くそすぎるし』
神森の言葉に、俺は「えっ」と声をあげた。
「あいつが修行中だっての、マジだったのか?」
『当たり前じゃん! 俺、ちゃんと叶斗くんに話したよね?』
「そうだけど……てっきり修行云々も、うちに入り浸るための言い訳なのかと……」
『違うから! こういう事態を起こさないために、本当に修行してたから!』
だって考えてもみなよ、と神森は吐き捨てた。
『尊くん、つい数ヶ月前まで俺たちと同じ人間だったんだよ? いくら心の準備ができていたからって、そんな急に神様として振る舞えるわけがないじゃない。叶斗くんだって、野球部時代「2年生になったら後輩たちが入部します」ってわかっていても、すぐには先輩らしく振る舞えなかったでしょ』
再び駅に戻ってきたところで、いったん神森との通話を切った。
運行状況は「遅れ20分」と表示されていたものの、運良くその遅れた電車が到着したので、それほど待たずに乗車することができた。
本社の最寄り駅に向かっている間、俺はずっと神森に言われたことを考えていた。
──「尊くん、つい数ヶ月前まで俺たちと同じ人間だったんだよ?」
わかってる、そんなの重々承知している──つもりだった。
でも、たぶん俺は何もわかっていなかったんだろう。
人間じゃなくなるってどういうことなのか。
そもそも「神様」ってなんなのか。
大賀に起きたわかりやすい変化といえば「尻尾が生えたこと」、それと「朝ごはん以外の食事は必要ない」ってことくらい。
でも、そんなのは表向きの些細なことで、本当はこういう──「自分の感情をコントロールしなければいけない」ことが、それを怠れば「大惨事を起こしてしまう」ということが、あいつにとっては大きな変化だったはずなのだ。
なのに、あいつは俺に関わろうとしてくれた。「今は修行中だから」と見て見ぬふりをしてもよかったのに、わざわざ俺に近づいてきて、俺の負の感情に触れようとしてくれた。
元チームメイトだから。友達だから。
そんなシンプルな理由で手を差し伸べてきたあいつは、高校時代と同じ「優等生」で「神童」で──どうしようもないただの「バカ」だ。
のろのろ運転の末、ようやく電車は本社の最寄り駅に到着した。
ドアが開き、ホームに降り立った瞬間、ものすごい音が俺の耳をつんざいた。
なんだこれ──雷、強風、滝のような雨、雨、雨。
時折ごうっと聞こえてくる咆哮は、風のせいなのか、それとも?
電車が走り出すと同時に、俺も改札に向かって走り出した。
とにかく止めなくちゃ──止めなければ。
大賀のもとに行かなければ。
「バイト先! けど、大賀はたぶんここじゃねぇ!」
『じゃあ、どこ!?』
「本社かもって」
川野ちゃんたちから聞いた話を、そのまま早口で神森に伝える。
神森は、またもや「ああっ」と悲鳴のような声をあげた。
『急ごう、止めよう! 俺もそっちに向かうから、叶斗くんも本社に向かって!』
「わかってる、そのつもりだっての!」
それにしても、理解できねぇ。
どうして、大賀はこんな暴風雨を起こしちまったんだ?
いくら義憤にかられたからって、これはさすがにヤバすぎるだろ。そのあたりのこと、ちゃんと判断できるようなヤツだったじゃねぇか。
そんな俺の疑問を、神森は「バカ!」とばっさり切って捨てた。
『意識してやってんじゃないの! 無意識なの!』
「……は?」
『尊くん、怒りが爆発して感情を抑えられなくなってんの! それでこんなゲリラ豪雨になってんの!』
──マジか。
『じゃないと、こんなことになるわけないでしょ! 尊くん、自分の影響力を嫌ってくらいよくわかっている人なんだから!』
それは、たしかにそのとおりだ。
俺の知っている大賀尊は、どんなに感情をあふれさせたとしても、大勢を巻き込むようなことはやらかさねぇ。
(だって、あいつは「神童」で……自分がどれだけ注目されているのか、よく知っていて……)
高校時代もそうだ。
何かと注目を集めがちだった大賀は、意地の悪い先輩や、下世話な大人たちからたびたびクソみたいな言葉をぶつけられていた。連中は、たぶんそうすることで「神童」としてのあいつの仮面を引っぺがしたかったんだろうけれど、それでもあいつは淡々と優等生らしい発言を繰り返していた。さっき神森が言ったみたいに、自分の発言の影響力をすごくよくわかっていたからだ。
(なのに今、こんなことになっている)
普段のあいつなら、絶対にやらかさないような事態。
それを今、あいつは起こしてしまったのだ。
『もうさ、これだから新米の神様はやっかいなんだよ! 修行中だから未熟なところが多いし、能力の制御も下手くそすぎるし』
神森の言葉に、俺は「えっ」と声をあげた。
「あいつが修行中だっての、マジだったのか?」
『当たり前じゃん! 俺、ちゃんと叶斗くんに話したよね?』
「そうだけど……てっきり修行云々も、うちに入り浸るための言い訳なのかと……」
『違うから! こういう事態を起こさないために、本当に修行してたから!』
だって考えてもみなよ、と神森は吐き捨てた。
『尊くん、つい数ヶ月前まで俺たちと同じ人間だったんだよ? いくら心の準備ができていたからって、そんな急に神様として振る舞えるわけがないじゃない。叶斗くんだって、野球部時代「2年生になったら後輩たちが入部します」ってわかっていても、すぐには先輩らしく振る舞えなかったでしょ』
再び駅に戻ってきたところで、いったん神森との通話を切った。
運行状況は「遅れ20分」と表示されていたものの、運良くその遅れた電車が到着したので、それほど待たずに乗車することができた。
本社の最寄り駅に向かっている間、俺はずっと神森に言われたことを考えていた。
──「尊くん、つい数ヶ月前まで俺たちと同じ人間だったんだよ?」
わかってる、そんなの重々承知している──つもりだった。
でも、たぶん俺は何もわかっていなかったんだろう。
人間じゃなくなるってどういうことなのか。
そもそも「神様」ってなんなのか。
大賀に起きたわかりやすい変化といえば「尻尾が生えたこと」、それと「朝ごはん以外の食事は必要ない」ってことくらい。
でも、そんなのは表向きの些細なことで、本当はこういう──「自分の感情をコントロールしなければいけない」ことが、それを怠れば「大惨事を起こしてしまう」ということが、あいつにとっては大きな変化だったはずなのだ。
なのに、あいつは俺に関わろうとしてくれた。「今は修行中だから」と見て見ぬふりをしてもよかったのに、わざわざ俺に近づいてきて、俺の負の感情に触れようとしてくれた。
元チームメイトだから。友達だから。
そんなシンプルな理由で手を差し伸べてきたあいつは、高校時代と同じ「優等生」で「神童」で──どうしようもないただの「バカ」だ。
のろのろ運転の末、ようやく電車は本社の最寄り駅に到着した。
ドアが開き、ホームに降り立った瞬間、ものすごい音が俺の耳をつんざいた。
なんだこれ──雷、強風、滝のような雨、雨、雨。
時折ごうっと聞こえてくる咆哮は、風のせいなのか、それとも?
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とにかく止めなくちゃ──止めなければ。
大賀のもとに行かなければ。
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