学科魔法士の迷宮冒険記(最終版)

九語 夢彦

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4章 魔法士小隊

4章ー17:魔法具の異相空間処理と、〈魔甲拳〉

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 ドワーフ翁が、机の上に魔法具を並べて言う。
「よし、点検終了じゃぞい」
「所要時間10分ですか。私達の魔法具はいつも見てもらってるからともかく、舞子の魔法具の点検、意外に早かったですね?」
 メイアが少し不思議そうに問うと、ドワーフ翁が苦笑して口を開いた。
「そりゃそうじゃ。そこのマイコ嬢の防具型魔法具、〈旋風の外套ローブ〉は、3日前に〈地礫の迷宮衣〉や〈余次元の鞄〉と一緒に売れた、ウチの商品じゃからのう? 制作段階から見ておるから、点検も容易じゃわい。対応した店の者にチラッと聞いた話じゃと、購入したお客は娘さんの魔法士資格取得祝いとかどうとか言っとったらしいが……」
「あ、はい。それ多分私の両親です。……そうですか、その魔法具も〈余次元の鞄〉も、この〈地礫の迷宮衣〉も、命彦さんの店で作られてたんですね? 知らず知らずに助けられてたわけだ、私。ふふふ」
 嬉しそうに笑う舞子。その舞子を、ドワーフ翁が思案顔を浮かべて首を傾げつつ見ていた。
 命彦が不思議に思い、問いかける。
「ドム爺、引っかかることでもあるのか? 魔法具に異常でもあったとか」
「いやいや若様、とりあえずメイア嬢達の魔法具で、すぐに整備が必要と思えるもんはありませんのう。ただ……マイコ嬢の武器が見当たらんのじゃが?」
 そのドワーフ翁の言葉に舞子がきょとんとして、ドワーフ翁から受け取った〈余次元の鞄〉から短剣を取り出した。
「あ、私の武器、魔法具じゃありませんから、出さずにいたんですけど、普通の道具も点検していただけるんですか?」
 舞子が取り出した、の短剣を見て、命彦が目を点にする。
「え……魔法具じゃねえの?」
 命彦の言葉に、舞子が笑顔で応える。
「あはは。私の両親は私が〔魔法楽士〕として活躍することには賛成してるんですが、迷宮に入ることには反対してまして。防具型魔法具は、まあ日常でも事故や事件に巻き込まれた時に役立つからと、理由を付けてお祝いに買ってもらったんですが、武具型魔法具は買ってもらえず……お小遣いを貯めて、自分で買おうと思ってたんです。これはそれまでの代用品、探検用具店で買った市販のモノですよ」
 笑って言う舞子に、命彦の視線が突き刺さる。すると、舞子が慌てて断言した。
「あ、で、でも平気です、戦えますよ! 私は〔魔法楽士〕です、精霊付与魔法が使えます。それに戦闘型前衛系の学科魔法士の方は、普通の武器でも精霊付与魔法を込めることで、魔獣と戦えますよね? 私にも同じことが多分できます、問題ありません」
 その言葉を聞き、個室にいる全員が、憐れみを込めた視線で舞子を見ていた。
 火の精霊魔法で全身を乾かしていた空太までもが、話を聞いてやれやれと肩を竦めている。
 命彦の肩に乗っていたミサヤが、冷たい《思念の声》を舞子に飛ばした。
『……論外ですね』
 ミサヤに賛同するように、メイア達も言う。
「限定型の魔法学科でも、最低限の戦闘に関する付与魔法の知識くらいは教えてると思っていたけど、まさかここまで無知だったとは」
「勇子よりパーの学科魔法士、僕初めて見たかも……」
「やかましわ、蓮根れんこん野郎!」
「へぶらっ!」
 お約束のように一言多い空太が、勇子に殴打されている横で、ドワーフ翁が顎髭をまた手で梳きつつ、ため息混じりに問うた。
「マイコ嬢……本当に学科魔法士かの? 普通の道具じゃ、幾ら付与魔法を纏わせても魔獣の皮膚に傷は付けられんぞい? 練達れんだつの戦闘型前衛系魔法士じゃったら、魔法力場の集束でどうにかできるが、それとて非常に高い付与魔法の練度があってこそじゃ。簡単においそれとはできんぞ?」
「え……魔法力場の集束技術がいるんですか?」
「当然でしょうが。実際に目にした方がいいわね? 確かこの前、命彦達と討伐した[猫又ネコマタの爪]がまだあった筈。えーと、あった! 舞子、これを良く見て? 妖魔種魔獣【猫又】から採れる、武具型魔法具の素材の1つ、[猫又の爪]よ。ネコマタは魔獣としての危険度は下位で、平均的戦闘力を持つ学科魔法士からすれば1対1で勝てる、いわゆる雑魚魔獣よ」
 メイアが呆れ、自分の〈余次元の鞄〉に手を突っ込み、長く尖った白い棒を取り出した。
「は、はあ」
「その短剣で、まずは普通にこれを斬りつけてみてくれる?」
 メイアが魔獣の爪を、机に置いて言う。
「え、でも」
「いいからはやく!」
「は、はい! えいっ!」
 舞子に片手で押さえつけられ、短剣で斬り付けられた爪には、薄らと傷が付いた。
 それを見て、メイアが再度指示する。
「じゃあ次は、《火炎の纏い》を使ってさっきと同じことをしてみて」
「あ、はい! 包め《火炎の纏い》。……えいっ! あ、あれっ!」
 《火炎の纏い》の魔法力場で覆われた舞子が、左手に[猫又の爪]を持って、右手の短剣を振り下ろすと、ガキンと恐ろしい抵抗感が発生し、短剣の刃がボロリと欠けた。
 魔法力場で包まれているのに刃が潰れ、折れる寸前という有様である短剣と、舞子の魔法力場を吸うように纏い、薄らと色彩を増した魔獣の爪を見て、困惑する舞子。
 その舞子に、メイアが語りかけた。
「付与魔法は魔法力場で包んだ対象に、一時的に魔法の効力を与える魔法。この付与魔法を、魔法使用者が自分を対象にして使ってる時に、使用者が道具を持つと、その道具も付与魔法の魔法力場に包まれ、魔法的効力の影響を受ける。普通の道具も幾らかは魔法の恩恵を得れるわ。でもね、普通の道具が得られる魔法の効力は、基本的に限定されてるのよ」
「限定されてる?」
「魔法のみ具合と言えばわかるかの? 普通の道具が魔法力場に包まれても、道具の表面に魔法の効力がされとるだけで、効力は道具の内側まで浸透しとらんのじゃ。魔法を表面にただ塗装された道具と、内側まで魔法が浸透し、魔法と一体化した道具。はてさてどちらがより魔法の効力を発揮するかの?」
 魔法力場を纏う、欠けた普通の短剣と、魔獣の爪を見て、ドワーフ翁が舞子に問う。
「それは、当然浸透している方が……」
「そうじゃ。全く同じ材質で作られた武器でも、魔法の効力を受ければ、当然魔法の力をより発揮できる武器の方が攻撃力がある。その魔獣の爪のように、短剣と比べてたとえ材質的に劣っていたとしても、魔法の効力がより発揮できるのであれば、短剣の刃をつぶしたように、材質の弱さや脆さを容易に覆すことができるわけじゃ」
「訓練場で異相空間処理について私が少し話したの、憶えてる? ただの道具を魔法具化する異相空間処理は、本来魔法を道具に封入する処理だけど、実は魔法と道具とを一体化させる処理とも言えるのよ」
「その通りじゃ。魔法具には予め何がしかの魔法が封入されとるが、そのおかげで魔法と材質が同化し、材質が魔法に親和しやすい特性を得ておる。付与魔法のように、一時的に効力を宿す魔法を魔法具に使えば、先に封入されとる魔法の効力に、付与魔法の効力が上乗せされて発揮される。当然その攻撃力は、普通の道具に付与魔法を使った時の攻撃力と、天と地ほどの差があるわけじゃ」
 ドワーフ翁の言葉を引き継ぐように、舞子が手に持っていた[猫又の爪]を見て、空太と勇子が口を開いた。
「実は魔獣から採れる素材は、そのほとんどがメイアや親方の言う異相空間処理を行われた状態のモノと言えるんだ。魔獣の爪も牙も皮膚も、脱皮した抜け殻さえも、僕達人間から見れば全て魔法具と言っていいんだよ。戦う時の魔獣って、ほとんどが付与魔法を使ってるしね?」
「つまり舞子は、魔法具を全身に装備した状態の魔獣相手に、魔法的効力を十分に発揮でけへん、その短剣1本で、魔法戦闘を挑もうとしとるわけやね? 自殺願望でもあるんかって話やわ。付与魔法を得意にしとる魔法士は、確かに普通の武器、普通の道具でも、魔獣と戦えるけど、それは無理して戦えばってだけの話やで? 魔法力場の集束で、そういうこともできるってだけの話や」
「普通の武器で魔獣と戦う際は、魔法の効力を十二分に発揮するため、使い手に相当の力が求められる。特に接近戦の場合は魔法力場の集束が必須だ。付与魔法の塗装を分厚くすれば、普通の道具でも、一応ある程度は付与魔法を纏う魔法具と戦える。勿論魔獣とも戦えるわけだが、舞子の場合」
『肝心の付与魔法による魔法力場の集束ができません。つまり、その短剣は装備するだけ無駄ということです』
「舞子が魔獣相手の短剣の扱い方知ってて、付与魔法の力場集束もできるんやったら、普通の短剣を装備するのも、多少戦闘力の底上げに使えるから意味あるけど、舞子は付与魔法の力場集束が使えんし、そもそも短剣の扱い方知ってんのんか?」
 勇子の言葉に、舞子が俯いて答える。
「……いいえ、知りません。お祖母様から教わったのは、徒手空拳の技だけです。身体の動きとかで、使える技術が多いと思って、短剣を選んだのですが」
「せやったら、いっそのこと素手で戦う方がまだええと思うで? 人間相手の短剣術やったら、徒手格闘術の動きや技術も活かせるやろうけど、魔獣相手に付け焼き刃のモンはあんまり通用せん。普通の短剣持った舞子と無手の舞子が、魔法戦闘で魔獣と戦ったら、うちは無手の舞子の方が、心理的に武器に依存して失敗せん分、勝つ気がする」
「確かにのう。力場集束が使えん場合は、普通の道具よりも自分の肉体の方が、余程付与魔法の効力を十全に発揮できる。普通の武器を持って魔獣と対峙し、付与魔法を使った上で、ろくに手傷を与えられんようでは、マイコ嬢も動揺するじゃろう? その動揺を魔獣に突かれて死ぬ、というのはあり得る話じゃ」
 ドワーフ翁が、顎髭を揺らしてコクリと首を振り、舞子を見る。
「ワシも話を聞く限りでは、今のマイコ嬢に普通の武器は、ある方が邪魔だと思うがの?」
「あうう」
 命彦達の視線を集めた舞子が、耐え切れずに頭を抱えた。

 頭を抱える舞子を見て、空太が命彦に問う。
「どうする、命彦? このまま無手で行かせるかい?」
「それもいい経験だとは思うが、そうは言っても格闘術の方も、対人はともかく対魔獣は未知数だ。素手で突っ込ませるのは危険だと思う。せめて最低限の力を持つ、武具型魔法具は装備させたいところだが」
「では、若様。これらを貸してやってはどうかの?」
 ドワーフ翁が部屋の木箱をがさごそと探して、3つの魔法具を作業机に置いた。
 作業机に置かれた魔法具は、短剣と槍、そして左右で意匠が違う手甲だった。
 手甲の方は、勇子が両腕に付けているモノとよく似ており、拳まで覆う装甲と、肘の突起が独特である。
 3つの魔法具を見て、命彦が問うた。 
「ドム爺、これは?」
「他の職人らが魔法具開発で使用した素材の余りを集めて、ワシが作ったモノじゃ。他の作業の合間に作ったモノじゃから少々不格好じゃが、性能は保証するぞい?」
 手甲をじっと見ていた勇子が、ドワーフ翁に問う。
「親方、この手甲の方って、もしかして?」
「うむ。ユウコ嬢に譲った〈双炎そうえん魔甲拳まこうけん:フレイムフィスト〉と同じ、武防具ぶぼうぐ型魔法具〈魔甲拳〉の1種じゃよ。材質は数段落ちるがの? さて、マイコ嬢。どれか選ぶがいい」
「え、でもこれって相当高いんじゃあ?」
「買えとは言っとらんよ、これらは店頭に商品として出すには少々不格好じゃからのう。貸し出し用にするつもりじゃった。ここ【精霊本舗】は、新人の魔法士も顧客として獲得するべく、安価で良質の魔法具を貸し出しとる。使ってて気に入ったら購入も可能じゃ。こいつらは点検や整備も込みで、月額6万といったところかの?」
「月額6万か……確かこの店の貸し出し価格は定価の3%だから、本体価格は約200万円。魔法具の6等級では、希少品の価格帯だね? 初心者用にしては結構良い値段だけど、親方が作ったことを考えれば破格の安さだよ」
 空太が舞子に語る横で、勇子が手甲を指差し、手を上げた。
「親方、この手甲、ウチが買う!」
「駄目じゃよ、ユウコ嬢。これは初心者用じゃからのう? 上級者は店の商品を買っとくれ」
「くううーっ! 残念無念……」 
 がっくしと肩を落とす勇子の傍で、舞子は手甲にずっと目を吸い寄せられていた。
「短剣や槍と一緒に出したということは、この手甲も一応武器の魔法具ってことですよね、親方?」
「うむ。武防具型魔法具という種類での。文字通り、武具でもあり防具でもある魔法具じゃ。使い方は、ユウコ嬢や若様がよう知っとるぞ。迷宮で試すがええわ」
「はい。じゃあ、これにします!」
 舞子が手甲を手に取り、ドワーフに宣言した。破顔してドワーフ翁が嬉しそうに言う。
「毎度ありじゃ。そいつは〈地炎ちえんの魔甲拳:マグマフィスト〉。右の手甲に《火炎の纏い》が、左の手甲に《地礫の纏い》が、それぞれ封入されとる。ユウコ嬢の持つフレイムフィストほどの、魔法力場による筋力上昇は見込めんが、筋力上昇の他に自己治癒力の上昇が付いとる。怪我しやすい新人には持って来いじゃろ? ほれ、これがじゃ」
「タマ、ですか? 魔法結晶ですよね?」
 不思議そうに言う舞子の手に手甲をはめて、手首にある回転する箇所を外すと、弾倉のように魔法結晶が5つ格納されていた。
 それを見て、命彦が目を剥く。
「まさか弾込みで月額6万か、ドム爺?」
「いやいや、それは初回限定じゃて。両手甲5発、計10発を使い切ってしまえば、魔法結晶を買ってもらう必要がある。まあ、弾の価格は多少融通するがの?」
 ドワーフが楽しそうに笑って言った。
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