50 / 137
5章 迷宮
5章ー8:マヒコとミサヤ、対【ヴァルキリー】小隊
しおりを挟む
気絶した粘液まみれの少女達を、触手を使って廃墟の屋上、白い床へと一列に寝かせる命彦へ、舞子が問う。
「じゅ、呪詛って、精霊攻撃魔法による一時的状態異常を、長期的状態異常に引き延ばしたものですよね? 状態異常の精霊攻撃魔法を、効力継続時間を延長する精霊儀式魔法に組み込んで使うものと聞いていますが。それを使うんですか、命彦さん?」
「ああ。呪詛ってのは文字通り呪いだ。要は舞子へ手出しできねえようにすればいいんだよ。こいつらの考える報復を全て防ぐのは恐らく無理だろうが、使える報復手段を限定させて、報復の回数や機会を減らすことは、呪詛でできる」
『マイコへの接近や接触を封じる呪詛を仕込み、近距離でのマイコへの手出しを制限すると同時に、マイコへ近付くことをも妨害する。これだけでも相当の報復予防効果が見込めるでしょう』
「た、確かにそういう呪詛がホントにあれば、事故を装って、足を引っかけられて転ばされたり、廊下の曲がり角で待ち伏せされ、出会い頭に体当たりを受けて吹っ飛ばされることもありませんが。ホントにあるんですか、そういう呪詛が?」
過去、実際に経験したであろう嫌がらせを言う舞子を、気の毒そうに見つつ勇子が語る。
「……ホンマにあるで。呪詛を仕込まれた当人は日常生活を普通に送れるけど、舞子への接触、接近だけは、どうあってもでけへんようにするっちゅう、打って付けの呪詛がね?」
「に、にわかには信じられません。知人に〔呪術士〕学科の友人がいるので、呪詛については私も多少知っています。普通、特定の人との接触や接近を封じる呪詛って、呪詛の対象者を寝込ませることで、その人との接触・接近を抑止するんでしょう? 呪詛の対象者が日常生活を送れるのに、都合よく特定の人との接近や接触だけを封じる呪詛とか、これまで1度も聞いたことがありませんよ?」
「当然さ。その呪詛、実は命彦が作った呪詛だからね?」
「命彦が作ったいうか、命彦と命彦のお姉さん、そしてミサヤが作った、合作の呪詛よね、実際は?」
「ああ。姉さんとミサヤがいたからこそ作れた呪詛だよ」
空太とメイアの視線に、命彦が苦笑いを返して言葉を続ける。
「空太も言ってたが、魔法未修者と魔法予修者の諍いは、どこの魔法士育成学校でも多少はある。俺達の学校でも勿論あった。そして、今の舞子と同じようにメイアが標的にされてたんだ」
『メイアもマイコと同じく、魔法未習者であるのに自分の所属する魔法学科、〔魔工士〕学科で、入学1年目から主席を務めるほどの成績優秀者でした。〔魔工士〕学科は魔法予修者が多く、学科内には特にメイアを敵視する女子達がいたので、メイアへの嫌がらせもマイコに負けず劣らず酷いモノでしたよ』
「当時のメイアは、同じ〔魔工士〕学科の生徒でも段違いの実力を持ってた。特に魔法機械の開発力って点で、他の生徒より頭1つ分上だったんだ。それで、交友を続けるうちにメイアを雇おうと考えた俺は、メイアを精神的に苦しめて、その能力に枷をはめたり、魔法士としての道をつぶそうとしたりするバカどもが、極めて邪魔だった」
『去年の春先のことです。メイアを自社へと、【精霊本舗】の開発部へと引き込もうと決めたマヒコは、メイアがその力を安心して十全に発揮できるよう、周囲の環境を整えようと思い、いい加減に嫌がらせが目に余る愚か者どもを、まとめて駆除しようと考えました。ユウコやソラタの手も借りてね?』
「ウチらも気に入らんかったから、進んで命彦の提案に乗ったんよ。魔法未修者へ嫌がらせする一部の魔法予修者らは、同じ魔法予修者らの眼から見ても、結構はずかしいて目障りやったんや。実力で追い抜かれた間抜けや、追い抜かれることを恐れる小心者が、癇癪起こして、魔法未修者へ当たり散らしとるように見えるから」
「そうだね。そりゃあ僕らも追い抜かれるのは嫌だし、才能ある魔法未修者には時に嫉妬もして焦るけど、努力してる者に当たり散らすのは人としてダメでしょ? 当たり散らす暇があるんだったら、一秒一刻を惜しんで必死に修練に励み、自分が努力しろよって、いつも思ってた。まあ僕は努力が嫌いだから修練もほどほどだけどね?」
空太の言葉に勇子も自覚があるのか、少し苦笑して言葉を続ける。
「ウチらも魔法予修者って括りで、魔法未修者らからそういうアホ共と同類って思われるんが、ホンマに嫌やった。人間としての器が小さいと、そう思われんのが嫌やったんや。せやからウチも空太も、メイアを気持ち良う雇うために、メイアへ嫌がらせするアホ共をつぶすっちゅう命彦の提案には、乗り気やってん。メイアへ嫌がらせしてた奴らは、男子も女子も等しくボコって、裸にひん剥いて罪状書いた紙を貼り付けた上で、校庭の木に吊るしたった」
勇子がカカカと笑うと、当時のことを思い出したのか、今度は空太も面白そうに笑って言う。
「あいつら、魔法機械同士を戦わせる戦わせる実習試験の前日にね、人を雇ってメイアを襲撃して怪我をさせ、メイアが必死で作った魔法機械をも壊そうとしたんだ。当然の報いだよ。ただまあ、そうやってメイアへの害意を持ってた一部の魔法予修者達を、一時的に駆除しても、その後この魔法予修者達がはたして改心するのかどうかは、僕らも判断が難しかった。だから、命彦はこの魔法予修者達がメイアへの報復を行うことを想定して、予防策を必要としたんだ」
「姉さんとミサヤにこの予防策を相談した結果、アホ共の報復を封じる呪詛を作ろうって結論にいたり、ウチの倉庫にある魔法書をひっくり返して、新しい呪詛を3人で一から作り上げたんだよ」
命彦が自分の〈余次元の鞄〉へ手を突っ込んで、舞子へ言う。
「魂斬家は意志魔法系統を専門的に研究していた魔法使いの一族だが、こと呪詛に関しては、他所の魔法使いの一族に使われて、自分達にも降りかかる危険性があったから、魔法系統を問わず相当深く研究していた。そのおかげで、報復防止に使える呪詛が生まれたんだ」
〈余次元の鞄〉を探っていた命彦の手が、鞄から引き抜かれ、4つ小瓶を取り出した。
「その小瓶に入ってるモノが……命彦さんの言う、呪詛ですか?」
「ああ。本来呪詛は儀式魔法の領域で、俺はどっちかっていうと苦手だったんだが、幸い俺の愛する姉さんとミサヤは、この手の魔法が異様に上手い。俺でも使えるようにって、呪詛の代替に使える魔法具、いや、呪詛そのものとして機能する魔法生物を、一緒に考えて作ってくれたのさ」
そう言って命彦が小瓶の1つの蓋を開け、自分の掌で小瓶を傾けた。
プルプルした薄紅色の寒天状のモノが、命彦の手の上にまろびでる。
「それがこいつら、特殊型魔法具〈悦従の呪い蟲〉だ。蟲とか言いつつも、見た目はつるんつるんでプルンプルンの粘菌だったりする。群体種魔獣【魔動粘菌】を討伐した際に採集できる、[魔動粘菌の核]って素材に、俺と姉さん、ミサヤの魔血を加えて作ったものだ」
『魔血というのは魔力を宿した血液のことです。それを核に吸わせて培養し、幾つか呪詛の効力を持つ儀式魔法を核へと封入して、生物のようにある程度自分で動く、疑似生物を作り出したのですよ』
「こいつは魔力を餌に身体を維持するが、特に魔血を吸った者の魔力には激しく反応して、歓喜する性質を持つ。見てみろ」
命彦が〈悦従の呪い蟲〉に魔力を送ると、〈悦従の呪い蟲〉がプルルンっと小刻みに震えた。
見ようによっては、確かに喜んでいるようにも見える。
「〈悦従の呪い蟲〉は他の生物の体内へ侵入すると、その生物に同化する性質もある。そんでこいつと同化した生物は、こいつの持つ性質をそのまま受け継いでまうわけや」
「つまりね、魔血を飲ませた者の魔力を感じると、蟲と同化した者も歓喜するんだよ。もっと具体的に言おうか? 魔血を飲ませた者の魔力に反応して、蟲と同化した者の全身に、腰が砕けるほどの快感が走るんだ。魔法生物は、魔法機械と同じく魔法具に分類される。早い話が、呪われた魔法具を体内に入れると思えばいい。効力は折り紙付きだよ?」
舞子がぎょっとして、〈悦従の呪い蟲〉を見る。
「魔法を使うとか、戦おうとか、そういうことを考えられへんほどの快感が一気に来るんや。魔力を送るだけで、蟲が同化した者を戦闘不能へ一気に追い込めるっちゅう、空恐ろしい魔法具やで、これ」
メイアを守るために作られた魔法生物だが、その効力には思うところがあるのか、はずかしそうにメイアが頬を染めて言う。
「効力は頼もしいんだけどねぇ? ……とんだ性的魔法生物だわ」
「せ、性的魔法生物ですか、確かに」
「言葉に気を付けろメイア、そういう目的で作ったわけじゃねえよ。まあとにかく、こいつに舞子の魔血を飲ませて、そこのアホ共の体内に仕込めば、舞子へアホ共自身が近寄って来て、手を出す可能性は格段に減るってこった」
「舞子の魔力を察知した時点で蟲は喜ぶ。魔法士は無意識に微量の魔力を周囲に放出しとるから、普通にしとっても蟲に同化された者は、舞子の半径3m以内には近付かれへん。それ以上近付くと快感で身悶えして、立つこともでけんわけやね?」
「アホ共が舞子をどうこうしようと思っても近付けねえし、舞子の見える範囲にいれば、遠くにいても魔力を意識的に送ることはできるだろ? 見える位置にさえいれば、相手の居場所さえ分かれば、距離を問わずに蟲と同化した者を快感で腰砕けにさせることが可能だ」
「これが機能すれば、彼女達の舞子への報復手段は、舞子から身を隠した状態で、遠距離からの攻撃魔法による狙撃を行うか、儀式魔法を併用した魔法攻撃を使うかに、ほぼ限定されるわけだ」
「事故を装うのが難しいから、多分攻撃魔法による遠距離狙撃の報復はされんやろ? つまり、警戒すべきは舞子の髪を燃やした、儀式魔法による条件付きの魔法攻撃だけや。この手の魔法攻撃は、いつ踏むか分からん地雷みたいやけど、でも探査魔法を修得したら、実は見つけ出して事前に回避することができる。他にも、質の良い防具型魔法具を着てたり、付与魔法を使って魔法力場を身に纏ってれば、受ける損傷も相当減らせるやろ」
「こと、このアホ共に関する限り、報復の可能性は相当減らせる筈だぞ?」
「……」
命彦達の提示した解決策にやや迷ってる様子の舞子。
自分の身の安全が保障されるのは嬉しいが、生来の気性の優しさが、そこまで徹底した対策を取ることに、軽い抵抗感を抱かせているらしい。
迷っている舞子へ勇子が言う。
「物は試しやし、迷ってるくらいやったら蟲を使うべきやで? とりあえずは、今後こいつらに報復されることを考えて、対策を取ったほうがええしね?」
「俺もそう思う。ということで、舞子の魔血を俺の蟲達に飲ませて、そこのアホ共に俺達の子を仕込むとしようか、ミサヤ?」
『はい』
「言い方に気を付けてよ命彦、ひどく卑猥に聞こえるわ」
「メイアのために作ったモンを、性的魔法生物とか言うからだ。さっきの仕返しだよ、仕返し」
顔を薄ら染めて言うメイアへフフンと勝ち誇り、命彦が〈余次元の鞄〉から未使用の採集用短刀を取り出した。
勇子が舞子の手を取って、命彦に合図する。
「舞子、ちょっと指先チクッとすんで」
「はい。……つっ! こ、これで、私の血をあげるんですよね?」
命彦が短刀を抜いて、刃に舞子の指を押し付けると、紅く小さい線が走った。指先に移動する血を見て、舞子が口を開くと、命彦が応じる。
「ああ。但し、血に魔力を込めた上で〈悦従の呪い蟲〉に与える必要がある。魔力を指先に集めろ」
「はい……どうでしょう?」
「いいぞ。指先の魔力を血に注ぐつもりで、脳裏で想像したら……よし、今だ」
舞子が手を揺らし、指先に一滴浮き上がった血を、命彦の手の上にいる〈悦従の呪い蟲〉に垂らした。
じんわりと舞子の魔血が浸み込んだ〈悦従の呪い蟲〉が、僅かに震える姿を見て、命彦が笑う。
「成功したぞ。これで悦ちゃん6号は、舞子の魔力の気配を憶えた」
「あの、悦ちゃん6号って?」
「この〈悦従の呪い蟲〉のことだ。1号から5号まではすでに使ってて、6号から9号を今回は使う。それより、魔力を悦ちゃん6号に送ってみろ」
「あ、はい! ……震えてますね、悦ちゃん6号」
「ああ。よしこれで呪詛が機能する。その血を他の蟲達にも飲ませるぞ」
舞子以外の全員が、ぬふふふっと黒い笑顔を浮かべた。
「じゅ、呪詛って、精霊攻撃魔法による一時的状態異常を、長期的状態異常に引き延ばしたものですよね? 状態異常の精霊攻撃魔法を、効力継続時間を延長する精霊儀式魔法に組み込んで使うものと聞いていますが。それを使うんですか、命彦さん?」
「ああ。呪詛ってのは文字通り呪いだ。要は舞子へ手出しできねえようにすればいいんだよ。こいつらの考える報復を全て防ぐのは恐らく無理だろうが、使える報復手段を限定させて、報復の回数や機会を減らすことは、呪詛でできる」
『マイコへの接近や接触を封じる呪詛を仕込み、近距離でのマイコへの手出しを制限すると同時に、マイコへ近付くことをも妨害する。これだけでも相当の報復予防効果が見込めるでしょう』
「た、確かにそういう呪詛がホントにあれば、事故を装って、足を引っかけられて転ばされたり、廊下の曲がり角で待ち伏せされ、出会い頭に体当たりを受けて吹っ飛ばされることもありませんが。ホントにあるんですか、そういう呪詛が?」
過去、実際に経験したであろう嫌がらせを言う舞子を、気の毒そうに見つつ勇子が語る。
「……ホンマにあるで。呪詛を仕込まれた当人は日常生活を普通に送れるけど、舞子への接触、接近だけは、どうあってもでけへんようにするっちゅう、打って付けの呪詛がね?」
「に、にわかには信じられません。知人に〔呪術士〕学科の友人がいるので、呪詛については私も多少知っています。普通、特定の人との接触や接近を封じる呪詛って、呪詛の対象者を寝込ませることで、その人との接触・接近を抑止するんでしょう? 呪詛の対象者が日常生活を送れるのに、都合よく特定の人との接近や接触だけを封じる呪詛とか、これまで1度も聞いたことがありませんよ?」
「当然さ。その呪詛、実は命彦が作った呪詛だからね?」
「命彦が作ったいうか、命彦と命彦のお姉さん、そしてミサヤが作った、合作の呪詛よね、実際は?」
「ああ。姉さんとミサヤがいたからこそ作れた呪詛だよ」
空太とメイアの視線に、命彦が苦笑いを返して言葉を続ける。
「空太も言ってたが、魔法未修者と魔法予修者の諍いは、どこの魔法士育成学校でも多少はある。俺達の学校でも勿論あった。そして、今の舞子と同じようにメイアが標的にされてたんだ」
『メイアもマイコと同じく、魔法未習者であるのに自分の所属する魔法学科、〔魔工士〕学科で、入学1年目から主席を務めるほどの成績優秀者でした。〔魔工士〕学科は魔法予修者が多く、学科内には特にメイアを敵視する女子達がいたので、メイアへの嫌がらせもマイコに負けず劣らず酷いモノでしたよ』
「当時のメイアは、同じ〔魔工士〕学科の生徒でも段違いの実力を持ってた。特に魔法機械の開発力って点で、他の生徒より頭1つ分上だったんだ。それで、交友を続けるうちにメイアを雇おうと考えた俺は、メイアを精神的に苦しめて、その能力に枷をはめたり、魔法士としての道をつぶそうとしたりするバカどもが、極めて邪魔だった」
『去年の春先のことです。メイアを自社へと、【精霊本舗】の開発部へと引き込もうと決めたマヒコは、メイアがその力を安心して十全に発揮できるよう、周囲の環境を整えようと思い、いい加減に嫌がらせが目に余る愚か者どもを、まとめて駆除しようと考えました。ユウコやソラタの手も借りてね?』
「ウチらも気に入らんかったから、進んで命彦の提案に乗ったんよ。魔法未修者へ嫌がらせする一部の魔法予修者らは、同じ魔法予修者らの眼から見ても、結構はずかしいて目障りやったんや。実力で追い抜かれた間抜けや、追い抜かれることを恐れる小心者が、癇癪起こして、魔法未修者へ当たり散らしとるように見えるから」
「そうだね。そりゃあ僕らも追い抜かれるのは嫌だし、才能ある魔法未修者には時に嫉妬もして焦るけど、努力してる者に当たり散らすのは人としてダメでしょ? 当たり散らす暇があるんだったら、一秒一刻を惜しんで必死に修練に励み、自分が努力しろよって、いつも思ってた。まあ僕は努力が嫌いだから修練もほどほどだけどね?」
空太の言葉に勇子も自覚があるのか、少し苦笑して言葉を続ける。
「ウチらも魔法予修者って括りで、魔法未修者らからそういうアホ共と同類って思われるんが、ホンマに嫌やった。人間としての器が小さいと、そう思われんのが嫌やったんや。せやからウチも空太も、メイアを気持ち良う雇うために、メイアへ嫌がらせするアホ共をつぶすっちゅう命彦の提案には、乗り気やってん。メイアへ嫌がらせしてた奴らは、男子も女子も等しくボコって、裸にひん剥いて罪状書いた紙を貼り付けた上で、校庭の木に吊るしたった」
勇子がカカカと笑うと、当時のことを思い出したのか、今度は空太も面白そうに笑って言う。
「あいつら、魔法機械同士を戦わせる戦わせる実習試験の前日にね、人を雇ってメイアを襲撃して怪我をさせ、メイアが必死で作った魔法機械をも壊そうとしたんだ。当然の報いだよ。ただまあ、そうやってメイアへの害意を持ってた一部の魔法予修者達を、一時的に駆除しても、その後この魔法予修者達がはたして改心するのかどうかは、僕らも判断が難しかった。だから、命彦はこの魔法予修者達がメイアへの報復を行うことを想定して、予防策を必要としたんだ」
「姉さんとミサヤにこの予防策を相談した結果、アホ共の報復を封じる呪詛を作ろうって結論にいたり、ウチの倉庫にある魔法書をひっくり返して、新しい呪詛を3人で一から作り上げたんだよ」
命彦が自分の〈余次元の鞄〉へ手を突っ込んで、舞子へ言う。
「魂斬家は意志魔法系統を専門的に研究していた魔法使いの一族だが、こと呪詛に関しては、他所の魔法使いの一族に使われて、自分達にも降りかかる危険性があったから、魔法系統を問わず相当深く研究していた。そのおかげで、報復防止に使える呪詛が生まれたんだ」
〈余次元の鞄〉を探っていた命彦の手が、鞄から引き抜かれ、4つ小瓶を取り出した。
「その小瓶に入ってるモノが……命彦さんの言う、呪詛ですか?」
「ああ。本来呪詛は儀式魔法の領域で、俺はどっちかっていうと苦手だったんだが、幸い俺の愛する姉さんとミサヤは、この手の魔法が異様に上手い。俺でも使えるようにって、呪詛の代替に使える魔法具、いや、呪詛そのものとして機能する魔法生物を、一緒に考えて作ってくれたのさ」
そう言って命彦が小瓶の1つの蓋を開け、自分の掌で小瓶を傾けた。
プルプルした薄紅色の寒天状のモノが、命彦の手の上にまろびでる。
「それがこいつら、特殊型魔法具〈悦従の呪い蟲〉だ。蟲とか言いつつも、見た目はつるんつるんでプルンプルンの粘菌だったりする。群体種魔獣【魔動粘菌】を討伐した際に採集できる、[魔動粘菌の核]って素材に、俺と姉さん、ミサヤの魔血を加えて作ったものだ」
『魔血というのは魔力を宿した血液のことです。それを核に吸わせて培養し、幾つか呪詛の効力を持つ儀式魔法を核へと封入して、生物のようにある程度自分で動く、疑似生物を作り出したのですよ』
「こいつは魔力を餌に身体を維持するが、特に魔血を吸った者の魔力には激しく反応して、歓喜する性質を持つ。見てみろ」
命彦が〈悦従の呪い蟲〉に魔力を送ると、〈悦従の呪い蟲〉がプルルンっと小刻みに震えた。
見ようによっては、確かに喜んでいるようにも見える。
「〈悦従の呪い蟲〉は他の生物の体内へ侵入すると、その生物に同化する性質もある。そんでこいつと同化した生物は、こいつの持つ性質をそのまま受け継いでまうわけや」
「つまりね、魔血を飲ませた者の魔力を感じると、蟲と同化した者も歓喜するんだよ。もっと具体的に言おうか? 魔血を飲ませた者の魔力に反応して、蟲と同化した者の全身に、腰が砕けるほどの快感が走るんだ。魔法生物は、魔法機械と同じく魔法具に分類される。早い話が、呪われた魔法具を体内に入れると思えばいい。効力は折り紙付きだよ?」
舞子がぎょっとして、〈悦従の呪い蟲〉を見る。
「魔法を使うとか、戦おうとか、そういうことを考えられへんほどの快感が一気に来るんや。魔力を送るだけで、蟲が同化した者を戦闘不能へ一気に追い込めるっちゅう、空恐ろしい魔法具やで、これ」
メイアを守るために作られた魔法生物だが、その効力には思うところがあるのか、はずかしそうにメイアが頬を染めて言う。
「効力は頼もしいんだけどねぇ? ……とんだ性的魔法生物だわ」
「せ、性的魔法生物ですか、確かに」
「言葉に気を付けろメイア、そういう目的で作ったわけじゃねえよ。まあとにかく、こいつに舞子の魔血を飲ませて、そこのアホ共の体内に仕込めば、舞子へアホ共自身が近寄って来て、手を出す可能性は格段に減るってこった」
「舞子の魔力を察知した時点で蟲は喜ぶ。魔法士は無意識に微量の魔力を周囲に放出しとるから、普通にしとっても蟲に同化された者は、舞子の半径3m以内には近付かれへん。それ以上近付くと快感で身悶えして、立つこともでけんわけやね?」
「アホ共が舞子をどうこうしようと思っても近付けねえし、舞子の見える範囲にいれば、遠くにいても魔力を意識的に送ることはできるだろ? 見える位置にさえいれば、相手の居場所さえ分かれば、距離を問わずに蟲と同化した者を快感で腰砕けにさせることが可能だ」
「これが機能すれば、彼女達の舞子への報復手段は、舞子から身を隠した状態で、遠距離からの攻撃魔法による狙撃を行うか、儀式魔法を併用した魔法攻撃を使うかに、ほぼ限定されるわけだ」
「事故を装うのが難しいから、多分攻撃魔法による遠距離狙撃の報復はされんやろ? つまり、警戒すべきは舞子の髪を燃やした、儀式魔法による条件付きの魔法攻撃だけや。この手の魔法攻撃は、いつ踏むか分からん地雷みたいやけど、でも探査魔法を修得したら、実は見つけ出して事前に回避することができる。他にも、質の良い防具型魔法具を着てたり、付与魔法を使って魔法力場を身に纏ってれば、受ける損傷も相当減らせるやろ」
「こと、このアホ共に関する限り、報復の可能性は相当減らせる筈だぞ?」
「……」
命彦達の提示した解決策にやや迷ってる様子の舞子。
自分の身の安全が保障されるのは嬉しいが、生来の気性の優しさが、そこまで徹底した対策を取ることに、軽い抵抗感を抱かせているらしい。
迷っている舞子へ勇子が言う。
「物は試しやし、迷ってるくらいやったら蟲を使うべきやで? とりあえずは、今後こいつらに報復されることを考えて、対策を取ったほうがええしね?」
「俺もそう思う。ということで、舞子の魔血を俺の蟲達に飲ませて、そこのアホ共に俺達の子を仕込むとしようか、ミサヤ?」
『はい』
「言い方に気を付けてよ命彦、ひどく卑猥に聞こえるわ」
「メイアのために作ったモンを、性的魔法生物とか言うからだ。さっきの仕返しだよ、仕返し」
顔を薄ら染めて言うメイアへフフンと勝ち誇り、命彦が〈余次元の鞄〉から未使用の採集用短刀を取り出した。
勇子が舞子の手を取って、命彦に合図する。
「舞子、ちょっと指先チクッとすんで」
「はい。……つっ! こ、これで、私の血をあげるんですよね?」
命彦が短刀を抜いて、刃に舞子の指を押し付けると、紅く小さい線が走った。指先に移動する血を見て、舞子が口を開くと、命彦が応じる。
「ああ。但し、血に魔力を込めた上で〈悦従の呪い蟲〉に与える必要がある。魔力を指先に集めろ」
「はい……どうでしょう?」
「いいぞ。指先の魔力を血に注ぐつもりで、脳裏で想像したら……よし、今だ」
舞子が手を揺らし、指先に一滴浮き上がった血を、命彦の手の上にいる〈悦従の呪い蟲〉に垂らした。
じんわりと舞子の魔血が浸み込んだ〈悦従の呪い蟲〉が、僅かに震える姿を見て、命彦が笑う。
「成功したぞ。これで悦ちゃん6号は、舞子の魔力の気配を憶えた」
「あの、悦ちゃん6号って?」
「この〈悦従の呪い蟲〉のことだ。1号から5号まではすでに使ってて、6号から9号を今回は使う。それより、魔力を悦ちゃん6号に送ってみろ」
「あ、はい! ……震えてますね、悦ちゃん6号」
「ああ。よしこれで呪詛が機能する。その血を他の蟲達にも飲ませるぞ」
舞子以外の全員が、ぬふふふっと黒い笑顔を浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる