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5章 迷宮
5章ー22:激戦の時、【魔狼】小隊 対 【女霊樹】と【蔓女】の混成群
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ミサヤを警戒するドリアードによって、数分の膠着状態が続く。
ただこの膠着状態の終わりが近いことを命彦は察知していた。
(左右の廃墟の上にいた18体のツルメのうち、こっちの死角にいた3体ずつ、計6体が廃墟内をゆっくり移動してる。上から多勢で襲撃して、こっちの注意が上に行ったところで横合いから奇襲する魂胆か。探査魔法抜きだったら確実に引っかかってたぜ。ただのツルメにしては、人工物である地形の使い方がいやに上手い。ドリアードの指示か……鬱陶しい真似をする)
命彦が顔をしかめると、肩に乗るミサヤが思念で語った。
『伏兵が配置についたらすぐに仕かけて来ますね。あのドリアード、手負いの分だけ非常に慎重ですが、退く様子はありません。私達に確実に勝てると思っているのでしょう。敵の算段が整う前にこちらが打って出るべきです。後手に回ればメイア達に被害が出ますよ?』
「ああ、分かってる」
ミサヤも膠着状態の終わりが近いと気付いていたのだろう。命彦に行動を急ぐよう助言した。
膠着状態に焦れていた勇子が、命彦の言葉を聞いて不敵に笑う。
「仕かけるんか? ええやん、乗ったるで? このまま見合っとっても埒があかんし」
「どうやって仕かけるのよ、無策で突っ込んだらそれこそ終わりでしょ?」
「もうちょい睨み合ってたら、相手がミサヤにビビって逃げてくれたりするかもよ?」
メイアが慎重に答え、空太が希望的観測を述べる。
空太の言葉に苛立ったのか、勇子が噛みついた。
「逃げるかアホ! 仮にも天魔種魔獣やぞ? それに戦力的にはあいつらの方が上や。そもそもあいつらからしたら、ウチらは巣の傍におる完全包囲した餌やで? 巣を襲撃して入口をつぶした件もあるし、逃がす気は絶対あらへん。ヤッコさん見てみ? 完全にトサカに来てるやん」
「確かにね? 目が血走ってるモノ……私達が少しでも多くの魔力を現出させた時点で、戦闘が再開すると見た方がいいわ」
口々に言うメイア達を見て、顔色を失っている舞子が問う。
「み、皆さん、随分落ち着いているんですね? 私とか心臓がバクバクして、今にも破裂しそうですよ?」
「そら年季が違うし、落ち着かんと無駄に死んでまうからねぇ?」
「ええ。私も悔いを残して死ぬのは嫌だから、必死に怖さを飲み込んで心を安定させてるのよ。冷静さを保てるようにね?」
「無駄死にだけは僕もごめんだ。それに、生き残る希望も少しはあると思ってるからね」
「……で、命彦、どうするんや?」
小隊員全員が希望を込めて命彦を見た。命彦が厳かに口を開く。
「この膠着状態を利用して作戦を考える、というか、今までずっと考えてた」
「それで、その結果は?」
「現状のまま普通に戦った場合、どうやっても俺とミサヤ以外は、全員死ぬと結論が出た」
「駄目じゃん! 僕ら死ぬの確定だよ!」
「落ち着け、現状のまま普通に戦ったらって言ったろ?」
「つまり、どういうこと?」
『全員が敵の裏をかき、無茶をすればいいということですよ』
ミサヤが感知しにくいほど微弱の魔力を放出し、《思念の声》で言う。
ミサヤの思念に続き、命彦がドリアードを見据えつつ口を開いた。
「俺とミサヤで前方のドリアードとその他を3分間は押さえるから、その間に周りのツルメをお前らで全部片付けろ。左右の廃墟を倒壊させれば、最低6体は一先ず戦闘不能に追い込める筈だ」
驚いた勇子が左右の廃墟をチラリと見て、面白そうに笑う。
「はあ? ……ぷくくく、無茶苦茶やんけ! それ作戦とちゃうし。そんで周りを片付けた後はよ?」
「俺の援護に来い。勝てそうだったらここでドリアードを討伐するし、負けそうだったらさっさと逃げる。相手の数を減らせれば逃げる隙も作れるだろ? 囲みも突破しやすい。皮算用だが、全員が生き残る方法はこれ以外にあり得ねえ。全員で無茶をするんだ」
「……3分、ホントに押さえられるの? ドリアードに加えてツルメが20体もいるのよ?」
「知るか。やってみんと分からん。でも押さえんとお前らが死ぬ。だったらできる限り押さえるさ。そもそもお前らだって、3分以内に30体ものツルメを倒す必要があるんだぞ? できるのかよ?」
「勿論……できると思いたいわね?」
「思いたいって、それって願望でしょ? やれやれ、ホント無茶苦茶だ。ほとんど出たとこ勝負の運任せだよ? これが作戦とは……ある意味、僕ららしいけどさ」
肩を落とす空太の横で、勇子が舞子を気にしつつ、命彦にこっそり耳打ちする。
「命彦、あんたやメイアの切り札を使えんのか? それを使えば天魔種魔獣かてイチコロやろ?」
『マヒコの持つ2つの切り札は、確かに使えれば天魔を討つことも簡単でしょうが、一方の切り札の使用には条件があり、他方の切り札も使用後のマヒコへの負担が酷過ぎます。今使うべきはメイアの切り札でしょう? あれはメイアが使おうと思えばいつでも使えますし、使用後の消耗も長期間の戦闘不能に陥るほどではありません』
ミサヤが命彦を庇うように、勇子にだけ《思念の声》をぶつけ、命彦がドリアードの方を見つつ口を開いた。
「この先の展開がまだ読めん。それを使うべき時が来れば考えるが、今はその時じゃねえ。まだ俺達が無茶をすればどうにかできる範囲だ。無茶が通れば道理も引っ込む。生き残るために死ぬ気で戦え」
命彦が語った言葉を聞き、勇子が首をコクリと振る。メイアも首肯した。
「そういうことやったら、仕方あらへん。付きおうたるわ」
「私も分かったわ。偵察に行きたいって言ったのは私達の方だもの。自分で自分の面倒は見るつもりよ」
決意を固めたメイア達を見た後、命彦がきょとんとする舞子を一瞥してから全員へ指示する。
「舞子はメイアの傍にいろ。メイア、舞子を守ってやれ。〈シロン〉を全機投入してもいい。壊れた時の修理費は俺が出してやる。自分達を守れ。空太、この場の指揮はお前に任せるぞ? 最後に勇子、手当たり次第に暴れろ」
「め、メイアさん、ご迷惑をかけます」
「いいのよ。巻き込んで命かけさせてるのって、多分私達の方だしね?」
「僕ばっかり、しんどい役目が。とほほ……」
「よっしゃあ、本気出すでえ!」
メイア達から目を離し、ドリアードを見て命彦が言う。
「さあ、始めようか。俺達が全員で生き残るための戦いを。活路はある筈だ」
『マヒコが望めば、活路はいつでも開きます』
「ああ。行くぞ!」
継続使用していた命彦の風の精霊付与魔法が、多量の魔力を追加で注がれたことで魔法力場の厚みを増す。魔力の波動が周囲に走り、膠着状態が一気に崩れた。
一騎駆けのように、分厚い風の魔法力場を纏う命彦が緑地公園の跡地を目がけて疾駆する。
疾風のように駆けると同時に、命彦は他の精霊付与魔法も重ねて展開した。
「包め《火炎の纏い》、同じく包め《水流の纏い》! けりゃあっ!」
膠着が崩れると同時に、ドリアードの指示でバラバラに飛び出した20体のツルメ達。
風の魔法力場を纏って飛ぶ先頭の2体と、ドリアードまで100mの地点で交戦し、3重の魔法力場を纏う日本刀の武具型魔法具、〈魔狼の風太刀:ハヤテマカミ〉を、すれ違い様に命彦は振るった。
3重の魔法力場の集束と魔法具自体の効果もあって、ツルメ2体はすぐさま斬断され、絶命する。
一点物級の魔法具であるハヤテマカミは、刀身の反りを抑えた打ち刀に近い形状の太刀であり、ミサヤの本性である白い巨狼の牙を刀身に溶かし込み、焼き入れに使う水にまでミサヤの魔血を混ぜて、魅絃と命絃の手で作られた魔法具であった。
ミサヤの魔力を受けると刀身の切れ味が増し、封入された《旋風の纏い》の効力で、魔法具装備者の俊敏性を常時高める効果をハヤテマカミは持っている。
そのため《旋風の纏い》を装備者自身が使用した際の移動力や、魔法力場を集束させた際の魔法攻撃力は、凄まじいものであった。
しかし、続いて飛びかかる6体のツルメをも、まとめてこの武具型魔法具で斬り飛ばそうとした瞬間、命彦が顔をしかめる。
(固い……仕損じた!)
3m四方の風の移動系魔法防壁が6重に展開され、ツルメ達と刀身との間に割って入っており、命彦の魔法力場を纏う必殺の斬撃を、最後の1枚の魔法防壁が受け止め、硬い感触を手に残したのである。
ツルメ達は自分達が作り出し、命彦の斬撃を受け止めつつ押し返された1枚の魔法防壁に乗る形で、後方に吹き飛ばされたが、6体とも無傷で着地していた。
ジーンとする手に構わず、とにかくドリアードを目指してまた走り出す命彦。
『後退させます』
するとミサヤが、命彦達を取り囲み、あるいは通り過ぎようとするツルメ達へ、数百を超える火の追尾系魔法弾を射出し、ツルメ達をどんどんと後退させた。
しかし、ミサヤの追尾系魔法弾の撃ち終わりを狙って、前方から6つの集束系魔法弾が水平に走る。
膠着状態の前から展開していた精霊探査魔法《旋風の眼》で、事前に感知していたおかげもあり、余裕を持ってこれを回避する命彦だったが、移動速度が一瞬だけ落ちた。
そこへ本命とばかりに12発の集束系魔法弾が殺到して、命彦の心身をヒヤリとさせる。
身を捻って咄嗟に飛び退き、3重の魔法力場を集束した刀身で、ツルメの放つ集束系魔法弾を2つ3つと斬り払って、どうにかやり過ごす命彦。
ホッと息をつく間も与えられず、すぐさまドリアードが、具現化した数百に及ぶ風の追尾系魔法弾の雨を降らせた。1つ1つの追尾性は低いが、そもそも弾数が圧倒的に多い。
「くっ!」
『我が主には触れさせぬ!』
幾つかの追尾系魔法弾を避け切れず、命彦が魔法弾と衝突する寸前。
間一髪でミサヤの精霊結界魔法、6重の風の移動系魔法防壁の具現化が間に合い、命彦の周囲を囲む形で追尾系魔法弾の雨を防ぐ。
が、またしても《旋風の眼》に危険物が映り、命彦は脳裏の映像から危機を察知して、その場を全力で飛び退いた。
ドリアードがすぐさま具現化した、戦艦の主砲のように迫る火の集束系魔法弾が、命彦のいた場所に着弾し、爆風と土砂で魔法防壁を押して命彦をさらに後退させる。
命彦も負けじと、後退しつつも精霊攻撃魔法《旋風の槍》を詠唱し、放った。
「其の旋風の天威を束ねて槍と化し、一閃を持って、我が敵を撃ち払え。貫け《旋風の槍》」
『合わせます!』
ミサヤも命彦の魔法攻撃に合わせて雷撃の槍、基心外精霊である雷電の精霊を介した、精霊攻撃魔法《雷電の槍》を放つ。
ドリアードにまっすぐ迫った2つの集束系魔法弾は、ドリアードの周囲に突如発生した、18枚の風の移動系魔法防壁によって防がれた。
命彦とミサヤの射出した2つの集束系魔法弾は、6枚の魔法防壁を貫通するも、残り12枚の移動系魔法防壁に阻まれたのである。
周囲にいるツルメ達の援護魔法防御による、精霊結界魔法の多重展開であった。
『忌々しい雑魚共が、消え失せよ!』
苛立ったミサヤが火の範囲系魔法弾を瞬時に具現化して放つと、ドリアードも水の範囲系魔法弾を放ち、ミサヤの魔法攻撃を相殺する。
まさに一進一退。ドリアードまで100mの地点で、互いに譲らぬ互角の攻防が続いた。
しかし、あからさまに余裕が見えるのはドリアードとツルメ達の側である。
1人安全圏にいるドリアードが、命彦達の背後を一瞥すると、すぐに3体のツルメが動いた。
命彦を無視して、メイア達の方へ駆け出そうとするツルメ達の前に、命彦が一瞬で回り込み、刃を振るう。
「行かせんっ!」
手ごたえはあったが、崩れ落ちたツルメは1体だけであり、2体は瞬時に後退してドリアードの近くに戻っていた。そのツルメ達を見て、ミサヤが《思念の声》で語る。
『ツルメの数をまず減らすべきですね? このままでは邪魔です』
「ああ。ふぅー……3分と言ってみたものの、こいつは1分持たせるのも相当骨が折れるぞ」
息を吐いた命彦の言葉が、戦場で虚ろに響いた。
ただこの膠着状態の終わりが近いことを命彦は察知していた。
(左右の廃墟の上にいた18体のツルメのうち、こっちの死角にいた3体ずつ、計6体が廃墟内をゆっくり移動してる。上から多勢で襲撃して、こっちの注意が上に行ったところで横合いから奇襲する魂胆か。探査魔法抜きだったら確実に引っかかってたぜ。ただのツルメにしては、人工物である地形の使い方がいやに上手い。ドリアードの指示か……鬱陶しい真似をする)
命彦が顔をしかめると、肩に乗るミサヤが思念で語った。
『伏兵が配置についたらすぐに仕かけて来ますね。あのドリアード、手負いの分だけ非常に慎重ですが、退く様子はありません。私達に確実に勝てると思っているのでしょう。敵の算段が整う前にこちらが打って出るべきです。後手に回ればメイア達に被害が出ますよ?』
「ああ、分かってる」
ミサヤも膠着状態の終わりが近いと気付いていたのだろう。命彦に行動を急ぐよう助言した。
膠着状態に焦れていた勇子が、命彦の言葉を聞いて不敵に笑う。
「仕かけるんか? ええやん、乗ったるで? このまま見合っとっても埒があかんし」
「どうやって仕かけるのよ、無策で突っ込んだらそれこそ終わりでしょ?」
「もうちょい睨み合ってたら、相手がミサヤにビビって逃げてくれたりするかもよ?」
メイアが慎重に答え、空太が希望的観測を述べる。
空太の言葉に苛立ったのか、勇子が噛みついた。
「逃げるかアホ! 仮にも天魔種魔獣やぞ? それに戦力的にはあいつらの方が上や。そもそもあいつらからしたら、ウチらは巣の傍におる完全包囲した餌やで? 巣を襲撃して入口をつぶした件もあるし、逃がす気は絶対あらへん。ヤッコさん見てみ? 完全にトサカに来てるやん」
「確かにね? 目が血走ってるモノ……私達が少しでも多くの魔力を現出させた時点で、戦闘が再開すると見た方がいいわ」
口々に言うメイア達を見て、顔色を失っている舞子が問う。
「み、皆さん、随分落ち着いているんですね? 私とか心臓がバクバクして、今にも破裂しそうですよ?」
「そら年季が違うし、落ち着かんと無駄に死んでまうからねぇ?」
「ええ。私も悔いを残して死ぬのは嫌だから、必死に怖さを飲み込んで心を安定させてるのよ。冷静さを保てるようにね?」
「無駄死にだけは僕もごめんだ。それに、生き残る希望も少しはあると思ってるからね」
「……で、命彦、どうするんや?」
小隊員全員が希望を込めて命彦を見た。命彦が厳かに口を開く。
「この膠着状態を利用して作戦を考える、というか、今までずっと考えてた」
「それで、その結果は?」
「現状のまま普通に戦った場合、どうやっても俺とミサヤ以外は、全員死ぬと結論が出た」
「駄目じゃん! 僕ら死ぬの確定だよ!」
「落ち着け、現状のまま普通に戦ったらって言ったろ?」
「つまり、どういうこと?」
『全員が敵の裏をかき、無茶をすればいいということですよ』
ミサヤが感知しにくいほど微弱の魔力を放出し、《思念の声》で言う。
ミサヤの思念に続き、命彦がドリアードを見据えつつ口を開いた。
「俺とミサヤで前方のドリアードとその他を3分間は押さえるから、その間に周りのツルメをお前らで全部片付けろ。左右の廃墟を倒壊させれば、最低6体は一先ず戦闘不能に追い込める筈だ」
驚いた勇子が左右の廃墟をチラリと見て、面白そうに笑う。
「はあ? ……ぷくくく、無茶苦茶やんけ! それ作戦とちゃうし。そんで周りを片付けた後はよ?」
「俺の援護に来い。勝てそうだったらここでドリアードを討伐するし、負けそうだったらさっさと逃げる。相手の数を減らせれば逃げる隙も作れるだろ? 囲みも突破しやすい。皮算用だが、全員が生き残る方法はこれ以外にあり得ねえ。全員で無茶をするんだ」
「……3分、ホントに押さえられるの? ドリアードに加えてツルメが20体もいるのよ?」
「知るか。やってみんと分からん。でも押さえんとお前らが死ぬ。だったらできる限り押さえるさ。そもそもお前らだって、3分以内に30体ものツルメを倒す必要があるんだぞ? できるのかよ?」
「勿論……できると思いたいわね?」
「思いたいって、それって願望でしょ? やれやれ、ホント無茶苦茶だ。ほとんど出たとこ勝負の運任せだよ? これが作戦とは……ある意味、僕ららしいけどさ」
肩を落とす空太の横で、勇子が舞子を気にしつつ、命彦にこっそり耳打ちする。
「命彦、あんたやメイアの切り札を使えんのか? それを使えば天魔種魔獣かてイチコロやろ?」
『マヒコの持つ2つの切り札は、確かに使えれば天魔を討つことも簡単でしょうが、一方の切り札の使用には条件があり、他方の切り札も使用後のマヒコへの負担が酷過ぎます。今使うべきはメイアの切り札でしょう? あれはメイアが使おうと思えばいつでも使えますし、使用後の消耗も長期間の戦闘不能に陥るほどではありません』
ミサヤが命彦を庇うように、勇子にだけ《思念の声》をぶつけ、命彦がドリアードの方を見つつ口を開いた。
「この先の展開がまだ読めん。それを使うべき時が来れば考えるが、今はその時じゃねえ。まだ俺達が無茶をすればどうにかできる範囲だ。無茶が通れば道理も引っ込む。生き残るために死ぬ気で戦え」
命彦が語った言葉を聞き、勇子が首をコクリと振る。メイアも首肯した。
「そういうことやったら、仕方あらへん。付きおうたるわ」
「私も分かったわ。偵察に行きたいって言ったのは私達の方だもの。自分で自分の面倒は見るつもりよ」
決意を固めたメイア達を見た後、命彦がきょとんとする舞子を一瞥してから全員へ指示する。
「舞子はメイアの傍にいろ。メイア、舞子を守ってやれ。〈シロン〉を全機投入してもいい。壊れた時の修理費は俺が出してやる。自分達を守れ。空太、この場の指揮はお前に任せるぞ? 最後に勇子、手当たり次第に暴れろ」
「め、メイアさん、ご迷惑をかけます」
「いいのよ。巻き込んで命かけさせてるのって、多分私達の方だしね?」
「僕ばっかり、しんどい役目が。とほほ……」
「よっしゃあ、本気出すでえ!」
メイア達から目を離し、ドリアードを見て命彦が言う。
「さあ、始めようか。俺達が全員で生き残るための戦いを。活路はある筈だ」
『マヒコが望めば、活路はいつでも開きます』
「ああ。行くぞ!」
継続使用していた命彦の風の精霊付与魔法が、多量の魔力を追加で注がれたことで魔法力場の厚みを増す。魔力の波動が周囲に走り、膠着状態が一気に崩れた。
一騎駆けのように、分厚い風の魔法力場を纏う命彦が緑地公園の跡地を目がけて疾駆する。
疾風のように駆けると同時に、命彦は他の精霊付与魔法も重ねて展開した。
「包め《火炎の纏い》、同じく包め《水流の纏い》! けりゃあっ!」
膠着が崩れると同時に、ドリアードの指示でバラバラに飛び出した20体のツルメ達。
風の魔法力場を纏って飛ぶ先頭の2体と、ドリアードまで100mの地点で交戦し、3重の魔法力場を纏う日本刀の武具型魔法具、〈魔狼の風太刀:ハヤテマカミ〉を、すれ違い様に命彦は振るった。
3重の魔法力場の集束と魔法具自体の効果もあって、ツルメ2体はすぐさま斬断され、絶命する。
一点物級の魔法具であるハヤテマカミは、刀身の反りを抑えた打ち刀に近い形状の太刀であり、ミサヤの本性である白い巨狼の牙を刀身に溶かし込み、焼き入れに使う水にまでミサヤの魔血を混ぜて、魅絃と命絃の手で作られた魔法具であった。
ミサヤの魔力を受けると刀身の切れ味が増し、封入された《旋風の纏い》の効力で、魔法具装備者の俊敏性を常時高める効果をハヤテマカミは持っている。
そのため《旋風の纏い》を装備者自身が使用した際の移動力や、魔法力場を集束させた際の魔法攻撃力は、凄まじいものであった。
しかし、続いて飛びかかる6体のツルメをも、まとめてこの武具型魔法具で斬り飛ばそうとした瞬間、命彦が顔をしかめる。
(固い……仕損じた!)
3m四方の風の移動系魔法防壁が6重に展開され、ツルメ達と刀身との間に割って入っており、命彦の魔法力場を纏う必殺の斬撃を、最後の1枚の魔法防壁が受け止め、硬い感触を手に残したのである。
ツルメ達は自分達が作り出し、命彦の斬撃を受け止めつつ押し返された1枚の魔法防壁に乗る形で、後方に吹き飛ばされたが、6体とも無傷で着地していた。
ジーンとする手に構わず、とにかくドリアードを目指してまた走り出す命彦。
『後退させます』
するとミサヤが、命彦達を取り囲み、あるいは通り過ぎようとするツルメ達へ、数百を超える火の追尾系魔法弾を射出し、ツルメ達をどんどんと後退させた。
しかし、ミサヤの追尾系魔法弾の撃ち終わりを狙って、前方から6つの集束系魔法弾が水平に走る。
膠着状態の前から展開していた精霊探査魔法《旋風の眼》で、事前に感知していたおかげもあり、余裕を持ってこれを回避する命彦だったが、移動速度が一瞬だけ落ちた。
そこへ本命とばかりに12発の集束系魔法弾が殺到して、命彦の心身をヒヤリとさせる。
身を捻って咄嗟に飛び退き、3重の魔法力場を集束した刀身で、ツルメの放つ集束系魔法弾を2つ3つと斬り払って、どうにかやり過ごす命彦。
ホッと息をつく間も与えられず、すぐさまドリアードが、具現化した数百に及ぶ風の追尾系魔法弾の雨を降らせた。1つ1つの追尾性は低いが、そもそも弾数が圧倒的に多い。
「くっ!」
『我が主には触れさせぬ!』
幾つかの追尾系魔法弾を避け切れず、命彦が魔法弾と衝突する寸前。
間一髪でミサヤの精霊結界魔法、6重の風の移動系魔法防壁の具現化が間に合い、命彦の周囲を囲む形で追尾系魔法弾の雨を防ぐ。
が、またしても《旋風の眼》に危険物が映り、命彦は脳裏の映像から危機を察知して、その場を全力で飛び退いた。
ドリアードがすぐさま具現化した、戦艦の主砲のように迫る火の集束系魔法弾が、命彦のいた場所に着弾し、爆風と土砂で魔法防壁を押して命彦をさらに後退させる。
命彦も負けじと、後退しつつも精霊攻撃魔法《旋風の槍》を詠唱し、放った。
「其の旋風の天威を束ねて槍と化し、一閃を持って、我が敵を撃ち払え。貫け《旋風の槍》」
『合わせます!』
ミサヤも命彦の魔法攻撃に合わせて雷撃の槍、基心外精霊である雷電の精霊を介した、精霊攻撃魔法《雷電の槍》を放つ。
ドリアードにまっすぐ迫った2つの集束系魔法弾は、ドリアードの周囲に突如発生した、18枚の風の移動系魔法防壁によって防がれた。
命彦とミサヤの射出した2つの集束系魔法弾は、6枚の魔法防壁を貫通するも、残り12枚の移動系魔法防壁に阻まれたのである。
周囲にいるツルメ達の援護魔法防御による、精霊結界魔法の多重展開であった。
『忌々しい雑魚共が、消え失せよ!』
苛立ったミサヤが火の範囲系魔法弾を瞬時に具現化して放つと、ドリアードも水の範囲系魔法弾を放ち、ミサヤの魔法攻撃を相殺する。
まさに一進一退。ドリアードまで100mの地点で、互いに譲らぬ互角の攻防が続いた。
しかし、あからさまに余裕が見えるのはドリアードとツルメ達の側である。
1人安全圏にいるドリアードが、命彦達の背後を一瞥すると、すぐに3体のツルメが動いた。
命彦を無視して、メイア達の方へ駆け出そうとするツルメ達の前に、命彦が一瞬で回り込み、刃を振るう。
「行かせんっ!」
手ごたえはあったが、崩れ落ちたツルメは1体だけであり、2体は瞬時に後退してドリアードの近くに戻っていた。そのツルメ達を見て、ミサヤが《思念の声》で語る。
『ツルメの数をまず減らすべきですね? このままでは邪魔です』
「ああ。ふぅー……3分と言ってみたものの、こいつは1分持たせるのも相当骨が折れるぞ」
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俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
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