贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第三部

フレドリックと悪友

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フレドリックと悪友




「初めまして、魂の迷い人。モーリス・スターレットと申します」

「初めまして、リオです。堅苦しいことは苦手なのでどうぞ公の場以外ではフレドリックと同じようにリオと呼んでください」



 フレドリックの目の前で、リオと友人のモーリスがあいさつを交わしていた。

 予定通り、結婚式の主賓であるスターレット公爵家から嫡男のモーリスがロイド領に到着した。ロイド伯爵家との挨拶を済ませた後、準備もそこそこにモーリスはフレドリックとリオの部屋を訪れた。
 王妃はモーリスの伯母であり、今回王太子の側近であるパトリックの実家の跡取りの結婚式ということで、実質王太子の名代として結婚式に出ることになっている。


「それではお言葉に甘えさせていただきますね、リオ。俺のこともどうぞモーリスと。――聞いたぞフレドリック!!おまえ面倒くさい問題呼び込んだなぁ!!」


 リオとフレドリックの参加に伴うあれやこれやは出席の打診をした時にパトリックから説明されていたらしい。フレドリックが来るならと、スターレット公爵も自分ではなくモーリスを出してくれたのだろう。


「うるさい、不可抗力だしお前も関わってるんだぞ。リオ、見ての通りこんな奴だ。適当に相手をしてやってほしい。――ところでパートナーは?」

「ああ、ダンフィード侯爵家のセシリアだ。先日婚約してね。ちょっと慌ただしく来てしまったから部屋で休ませてるよ」

「それはおめでとう。ダンフィードか。よく了承してもらえたな」

「口説き落としましたとも!!」

「リオ、モーリスの婚約者は俺たちの同級生のダンフィード家のご令嬢だ。見た目通り、モーリスはいろんな意味で軽い奴で在学中はモーリスがセシリア嬢をからかっては退けられてたんだ。家格的には納得だけれども、セシリア嬢がモーリスとの婚約に了承したことはびっくりだ」

「ダンフィード侯爵令嬢……シェリー姉様のお話に出てきたことがある気がする」

「ああ、ダンフィード家とフィンドレイ家は領地が隣り合ってるから幼い頃から交流があったみたいだ。本来なら俺の妹を連れてくるつもりだったんだが、シェリー嬢の結婚式に出られるなら!! とセシリアが希望したんだ。だからさっき応接室でモーグ子爵家の暴挙を聞いてものすごく怒っていた」

「セシリア嬢はリオのことは?」

「知っている。パトリック様から事前に話しておいてほしいと言われていたから。リオに会えるの楽しみにしていたよ」


 その言葉を聞いてリオが胸を撫で下ろす。モーリスは知っているとフレドリックが言っていたけれども、そのパートナーも知っているのはたいそう心強い。


「社交にほとんど出てこなかったフレドリックは知らなかっただろうけど、モーグ子爵家の娘贔屓は度が過ぎていると最近話題になっていたんだ」

「それほどか」

「それほどだよ。既に嫡男のナイジェル殿が動いているかもしれないけれど、今回どれだけ狼藉を働くんだろうな」


 にやりと笑うモーリスにフレドリックが頭を押さえた。


「とりあえずフィンドレイ側の客だからロイド伯爵家の体面を気にする必要がないのが不幸中の幸いだ。何よりうちとお前の家だしな」

「公爵夫妻とお前たちが参列していたらそれこそヤバかっただろう。フィンドレイ侯爵家とロイド伯爵家にとって公爵本人がどちらも出ていないのが不幸中の幸いだ」


 社交の場で公爵になにかしでかした場合、それこそ貴族としての命が危うかっただろう。あくまでまだ家を継いでいない嫡男しかいないからこそ収められる騒動もあるのだ。


「それじゃあ、俺も部屋に戻るよ。リオ、明日はセシリアと四人で食事かお茶をご一緒しよう」

「ぜひ!!」

「じゃあまた明日。何かあったら声をかけてくれ」


 ひらりと手を振ってモーリスは部屋から出ていった。



「……フレドリックの友人って聞いてたから真面目系が来ると思っていたけど、まさかのチャラ系だった!! 意外過ぎる!!」

「俺もそう思う。なんだかんだ言って俺の年で公爵家の子供は二人だけだったからな。つるんでた方がお互い煩わしさがなかったんだろうな。俺がふさぎ込み始めた時もなんだかんだ言いながらつるむことを止めなかった」


 結局本音をぶつけられる同学年の友達と言ったらモーリスだけになっていた。ああ軽いくせにフレドリックの贖罪をくだらないものとしなかった。今では親友といってもいいくらいの間柄だ。スターレットとウォルターズは公爵同士、代々それなりに良い関係を築いているのも大きかった。


「そっか。モーリスとも仲良くなれそう。明日セシリア様に会うの楽しみだな」


 式は明後日である。明日はセシリアと親交を深めて、明後日の対応を相談する時間を確保できる。当日初顔合わせで問題の対応に当たるよりは余裕があるだろう。その辺を見込んでスターレット家も通常より一日早めにモーリスたちを送ってくれたんだろう。後日スターレット公爵宛にお礼を書かねばならないなとフレドリックは手帳に書き留めておいた。




     ◇◇◇◇◇





「フレドリック様の心を溶かしたリオ様がこんなに可愛いなんて!!」


 翌日、今度はモーリスの割り当てられた東の客間の応接室のソファにフレドリックとリオは座っていた。目の前にはモーリスと先ほど自己紹介し合ったダンフィード侯爵令嬢のセシリアがニコニコと笑っている。小柄で美しい黒髪を持つ令嬢だった。薄茶色でフレドリックと同じくらい長身のモーリスと並ぶと大変絵になる。

 リオは感動したようにリオを可愛いと褒めたたえるセシリアにちょっとだけひきつった笑みを浮かべながらお礼だけを述べた。可愛い可愛い言っている女性に何を言っても無駄だと知っているからだ。

 そうしてひとしきりリオとの会話を楽しんで落ち着いた後、セシリアはため息をつきながらティーカップを手に取る。さすが侯爵家のご令嬢である、興奮状態からストンと真顔になれるのがすごい。


「それにしてもモーグ子爵は何を考えているのでしょうね」

「――多分だけど娘のことしか考えていないのでしょうね」


 リオはそれがテンプレである、とは言わなかったが、おそらく間違いないだろう。古今東西、ああいった輩は根拠もなしに自分の思い通りに世界が進むと信じている。どれだけ自分が不利な状況であろうと余計な力が働いているのではないかと疑ってしまうくらいうまくいくと信じているのだ。


「モーグ子爵令嬢はそこまで言えるくらい才色兼備な方なのでしょうか?」

「いや? 父親にそっくりな容姿だな。兄の方は母親に似てるんだが。娘の方は多分群衆に紛れる」


 モーリスが首を傾げる。この世界に写真はあるが、かなり貴重なのでそうそう撮るものでない。公爵家レベルなら家族の肖像を描く時に一緒に撮ったりするが、子爵レベルならそうそう出回らないだろう。だから貴族名鑑に載るような肖像画でしかその容姿を知ることは出来ない

 貴族としては取り立てて特徴のない、いわゆるモブ顔に近いのだろう。人相を知らないとなると当日ちょっと不安だな、と思っているとセシリアがにっこりと笑った。


「大丈夫です、リオ様。当日はフレドリック様とモーリスが一緒にいれば必然的に私とリオ様も一緒ですわ。私はモーグ子爵令嬢の顔を知っていますので」


 流石に顔を見て突っ込んでは来ないでしょうとセシリアは付け足した。リオとしては突っ込んでくる可能性もなきにしもあらずだな、確率としては半分半分くらいかなと思いつつも頷いた。現在リオの頭の中では愚か系のテンプレであらゆるシミュレーションがされている。

 そしてセシリアが教えてくれたパトリックが集めたものよりも生々しいモーグ子爵令嬢の逸話の数々を聞いて、男三人絶句してしまった。


「そ、それは貴族学院で許されたのか?」

「許されるわけありません。モーグ子爵が多額の賠償金を払って、学院に寄付金を積んで退学を免れたと聞いています」

「いや、それでどうこうなったのおかしい気がする。絶対退学案件だろう」

「残念ながら相手が男爵家だったのが災いしました」

「モーグ家の嫡男は学院卒業後、王都に来ることを子爵に禁止されているらしいですが、最近王都での目撃情報が有りますので、何かしら動いていらっしゃるのだともっぱらの噂です」


 女性のうわさ話は凄いなと男三人感服するしかない。長男が王都にいたのであれば、秘密裏に王宮と連絡を取り合っている可能性もある。


「なにはともあれ、シェリーお姉様の結婚式に泥を塗るような愚行を許すわけにはいけません。せっかく参列を許されたのですから私も全力を尽くすまでです」


 ぐっとこぶしを握り締めたセシリアを、モーリスがにこにこと眺めている。モーリスは本当にセシリアのことが好きなんだなぁと思いつつ、セシリアは暴走してくれるなよとリオとフレドリックは祈るしかなかった。








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