2 / 44
第一部
レオンの独白
しおりを挟むたった一夜でレオンを取り巻く環境は様変わりしてしまった。
父も母も、祖父も叔母も。
仲良く一緒に過ごしていた屋敷の使用人たちも、沢山の人が命を落としてしまった。
レオン・カレッジは子爵家当主の孫である。本来であればぼちぼち親世代が爵位を継ぐ年齢に差し掛かるはずであったがいわゆる跡取り騒動で、揉めに揉めていた。
レオンの父である子爵家長男が継ぐところであったが、そこに茶々を入れたのがレオンの叔母に当たる子爵家長女の婿である。とある伯爵家の末の子であった伯爵家の三男は火遊びに手を出して、カレッジ子爵家の娘を妊娠させた。その責任を取る形で婿に来た――ことになっている。子供が出来たことを口実にした体のいい厄介払いだったというのが貴族社会での共通認識だ。押し付けられたカレッジ子爵家としてはいい迷惑である。婚約者でもない未婚の、当時未成年の二人が姦通したのも問題だが、伯爵家が問題行動の多かった末子を丸投げにしたのだ。伯爵家から男と共に来た持参金はその男が自分の贅沢の為にたった一年で使い切ってしまったらしい。そうして自由になる金を使い切った男は自分が伯爵の息子だから跡を継がせろ、と無理難題を押し付けてきたのだ。
揉めた、というよりかは難癖付けられて代替わりが遅れている状況だ。相手の伯爵家は知らんぷりだし、子供を産んだ子爵家の娘と伯爵家の三男はすでに寝所どころか住まいを別にしているしで子爵家はたった二年でぐちゃぐちゃだった。
父と祖父が頭を抱えている光景しか覚えていないくらいだ。
そんなある日、四歳になったレオンは朝から調子が悪かった。あまり丈夫ではなかったから家の中で過ごすことも多かったが、こんなに頭が痛かったのは初めての経験だった。三日三晩苦しんで苦しんで――
そしてレオンは思い出したのだ。
「え、これって異世界転生ってやつなの?」
そう、自分がかつて別の世界で生きていたということを。
かつてレオンが生きたのは、地球という惑星の日本という島国だった。科学というものが進化して、遠くの星まで行くような、そんな世界。
今生きているこの世界はレオンがかつて生きたところのヨーロッパという国に似ている気がする。けれども文明がやや違うらしく同じものと違うものが混じりあっていた。それまでこちらの世界で生きてきた記憶をもとに考えるとどうやら異世界で生きた人間がこの世界で生まれることが、稀にあるらしい。魂の迷い人とか言われるらしいが、その迷い人が覚えている知識を披露するとこう、なんというかオーバーテクノロジー的にとあるものが発達するのだということが分かった。なるほど、だからトイレとか風呂とか鉄道とか車とか電話とかが発達しているのだろう。
そのせいか魂の迷い人は報告があれば国で保護してもらうことも出来るし、便宜を色々と計ってもらえることも出来る。保護してもらえば身分制度に振り回されることのない特権がもらえたりすると父が相談した公爵が教えてくれた。この公爵がレオンのことを報告してくれたらしい。レオンは貴族に生まれたので特に国に保護されることなくこの家にいることが出来た。
なんだかんだで最初はパニックになったからか、父や母がじっくり話を聞いてくれて、そういう人たちがいることを知った。だいたい記憶の整理に一年近くかかってその間、レオンは殆どベッドの住人と化していた。信頼できる母付きのメイドだったアニーと父についていた執事見習のケイが一時的にレオンについて、記憶の整理を手伝ってくれた。
その日も寝る前にアニーとケイと記憶の整理をしていたら、一階が騒がしくなった。ケイが外の様子を見て、そしてすぐに戻ってきた。
「襲撃です。どうやら婿殿が破落戸を従えて来たそうです。執事長から我々はここの奥の間に隠れているようにと、決してドアを開けてはならないと」
レオンの叔母の夫は色々悪い意味で有名だ。叔母はいわゆる日本でいうところの不良にころりといってしまい、子を成してしまった。いいとこの坊ちゃんだったその不良を押し付けられたカレッジ家はこの二年、家族及び使用人一同、頭を抱えている状態だ。
急いでリビングを整えて奥のベッドルームへと急ぐ。勿論鍵も忘れずに。
レオンのいるこの部屋はベッドルームのベッドの下に隠し小部屋が存在する。三人で急いでそこへ転がり込んだ。
「執事長はレオン様は別荘に行っていると伝えると言っていました。――急いで通報していましたので、騎士団が来るまで持ちこたえれば……」
貴族も取り締まることが出来る騎士団は二つ向こうの公爵家に駐屯地がある。そこから駆けつけてくるまでにはどんなに急いでも半日はかかるだろう。
どんどんと喧騒が近づいてくる。別荘に行ってくるといってもきっと我が家の車庫にある車や馬車の数が減っていないことに気づくだろう。誰かが命乞いの為に口を開くかもしれない。ただこの小部屋のことはごく少人数しか知らないから隠れきれる自信はあった。
結局夜に襲撃が来て、翌日の昼前に騎士団が来るまでの十四時間ほどを三人でそこで過ごすことになったのだ。
「ああ、よかった……無事だったんだな、レオン」
そう言って小部屋の扉を開けたのは、見たことのある紳士だった。騎士団が駐屯するウォルターズを治める、父の友人であり母の従兄であるウォルターズ公爵だ。前世の記憶があるとわかった時に相談に乗ってもらった国のお偉いさんである。
小部屋から這い出た後に見た屋敷は凄惨たるものだった。血の匂いが充満し、あちこちに血だまりと遺体が転がっている。レオンの部屋の扉の前ではメイド長と執事が息絶えていた。
アニーが悲鳴を上げてメイド長に縋りつく。ケイも執事長の元へ崩れ落ちた。見知った二人の死にレオンも涙を流す。
「公爵……。父さまと母さまは……。おじいさまは」
「――会うかい?」
「……会います」
わざわざ聞くということは、そういうことなのだろう。ふらついたレオンを抱き上げたウォルターズ公爵はゆっくりと歩を進めた。
屋敷のあちこちでうめき声が聞こえる。騎士が倒れている人を確かめて生きているか死んでいるか、家の人か侵入した破落戸かを確認しているようだった。
目をつぶっていてもいいと言われたが、レオンはじっと光景を眺めていた。破落戸以外は全員知っているのだ。共に暮らしていた家族なのだから。
公爵に連れてこられたのは両親の寝室だった。そこにはレオンの両親が横たわっていた。まるで寝ているかのようだが、近づいてみれば二人とも血で汚れていた。それでもきっと拭ってくれたのだろう。まるで寝ているような死に顔だった。
「子爵とクリフトンとヘレンは執務室で倒れていたよ……クリフトンとヘレンはここに、子爵も寝室に安置している」
聞けば叔母の婿もそこで死に絶えていたという。破落戸の何人かは公爵率いる騎士団が突入するまで使用人たちと戦っていたそうだ。それらはすべて捕らえられて、これから尋問され事の真相究明に当たるという。
「……ぼくは独りぼっちになってしまったんだな」
けったいな他人の記憶を思い出してしまったレオンを愛しんでくれた家族が、全員殺されてしまった。
「本来であれば君が子爵となるけれどね、まだ未成年だから。議会での話し合いにはなると思うが、成人までは代行官に管理してもらい、そして成人したら子爵を継ぐのが一般的だ。――ああ熱が出てきてしまったね。この屋敷では休まるものも休まらないだろう。――一度我が家に来るといい」
そうしてレオンはしばらくウォルターズ公爵家に世話になることになった。
なったのだが――
185
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
白家の冷酷若様に転生してしまった
夜乃すてら
BL
白碧玉(はく・へきぎょく)はうめいていた。
一週間ほど前に、前世の記憶がよみがえり、自分が『白天祐の凱旋』という小説の悪役だと思い出したせいだった。
その書物では碧玉は、腹違いの弟・天祐(てんゆう)からうらまれ、生きたまま邪霊の餌にされて魂ごと消滅させられる。
最悪の事態を回避するため、厳格な兄に方向転換をこころみる。
いまさら優しくなどできないから、冷たい兄のまま、威厳と正しさを武器にしようと思ったのだが……。
兄弟仲が破滅するのを回避すればいいだけなのに、なぜか天祐は碧玉になつきはじめ……?
※弟→兄ものです。(カップリング固定〜)
※なんちゃって中華風ファンタジー小説です。
※自分できづいた時に修正するので、誤字脱字の報告は不要です。
◆2022年5月に、アンダルシュのほうで書籍化しました。
本編5万字+番外編5万字の、約10万字加筆しておりますので、既読の方もお楽しみいただけるかと思います。
※書籍verでは、規約により兄弟の恋愛がNGのため、天祐が叔父の子――従兄弟であり、養子になったという設定に変わっています。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜
侑
BL
僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。
婚約者・隣国カリスト王国の辺境伯家、リリアナの社交界デビューに付き添うため、隣国の王都に足を踏み入れた。
しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。
王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。
転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。
リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて……
婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。
仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。
2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる