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第一部
リオとフレドリック
しおりを挟む「君、ちょっといいかな?」
助けてください、ピンチです。
目の前にはにこりと笑うフレドリック。
フレドリックの目の前には死んだことにしている元レオンで現リオの自分。
しかしながら現実的に助けてくれそうなケイもケビンも執務室で小難しい話の最中です。
広い屋敷だからばったりと会うことなんてないだろうとか思ってたけどすいませんでした……。いやでもフレドリックがいる間部屋にこもっているのもどうかとリオは思っていたのである。レオンがリオだったと知っている人はほとんどいない。今までこの代行官邸にどんなにお偉いさんが来ても普通の生活をしていたリオがフレドリックの時だけ籠るのなんて怪しすぎる、という理由でいつも通り過ごしていただけなのに、なぜ俺は捕まっているのでしょう……?
疑問が頭の中を駆け巡るのだけれども、顔は平凡な平民を装う。相手は公爵家の長男様である。
呼び止めた謝罪と身元確認と自己紹介が流れるように行われて、話をしたいとお願いされてしまった。鮮やかなその手腕に困りながらも感心してしまう。さすがあのウォルターズ公爵の息子である。
いやしかし、あの悪役令息もかくや、流行りの小説が自分の家でも起きるかもと早合点して断罪してくれたあの小さな少年がこんなに育ってしまったのか、と感慨深い。思えば成人である十八歳を迎えたからここに来る許可が下りたのだとケビンが言っていた。
いやでも本当にあの時現状が理解できずに反応を返すことが出来なくてよかったと思う。おかげでこの目の前の男、レオンの声とか話し方も知らない。あの時の病弱な子爵家のレオンと今の元気いっぱいなリオじゃあ印象が違うだろう。
よし、と意を決してリオは話を聞きたいというフレドリックに応じることにした。
◇◇◇◇◇
フレドリックが丘の上に向かうリオを見ていたとは思わなかった。
確かにリオとして墓に赴いているのは確かに不思議に見えるだろう。リオという子供はあの事件以前はこの屋敷から半日ほど離れた場所の孤児院にいたことになっているのだから。ケイの弟として、というのは代行官であるケビンとその補佐官ケイの庇護下にあるのに一番都合のよい場所だったからだ。そしてケイの両親はちょうどレオンが生まれるかどうかの時に亡くなっているのを利用させてもらった形だ。国はリオの経歴が追えないように、ケイの実家近くの教会併設の孤児院をいったん解散させて、孤児や職員をいくつか新しく建てた孤児院や元からあった孤児院に分散させるということまでしている。
そうしてリオは事件の後、孤児院の解散を機にケイに引き取られたことになっている。
リオの墓参りの口実を、リオ自身は思いつかなかった。
子供ってそんなものでしょう?と押し切った形だったので、面と向かって聞かれても困ってしまう。
「小さいころはよくわかりませんでしたが、あの屋敷にいればおのずと知ることです。兄からも当時のことをよく聞きます。――レオン様と俺が同じ年だからって」
「そうか、君はレオンと同じ年なのか……」
きっと記憶の中のレオンとリオを比べているのだろう。
藍色の瞳はともかく、リオの容姿は比較的市井にいても埋没出来るようなものだ。目の前にいる銀髪碧眼のイケメンに比べたらおそらく他人の空似が国内に十人はいるだろう。だからきっとバレない。バレてたまるものか。
そう心の中で冷や汗をかきながらフレドリックの視線を受け止める。
フレドリックは星が瞬くように何度か目をつぶると、もう一度リオを見つめた。
「君から見て、このカレッジ領はどんな街かな」
「……いいところだと思います。俺はここしか知らないけれど、のどかだし、みんな優しいし、ご飯もおいしいし」
「王都に行きたいとかは思わない?」
「あそこは、ちょっと……忙しないから」
あの事件の後、ウォルターズ公爵家を発ったレオンはその足で一度王宮に行っている。その時にしばらく滞在した王都はさすがに首都、といった感じで洗練されてはいたが騒がしかった。魂の迷い人関連の手続きをしなければならなかったからではあるが、出来ればあのままカレッジ領に戻りたかった。カレッジ領の長閑な土地柄はリオとして戻ってきても、とても心地よかった。
「成人しても、ケイやケビン代行官が許す限りは、ここにいたいと思うほどには、この土地が大好きです」
「うん……そう思える領地があるのは施政者にとっても住民にとっても幸せだね」
それから二人でたくさんの話をした。街を歩いて問題を探すカレッジ子爵時代からの手法は、フレドリックも驚いていた。ウォルターズ公爵家はカレッジ子爵領の何倍もある広大な土地を治めている。フレドリックも自領のことについてとてもよく知っていて、本当に継ぐ気がないのだろうかとリオは内心首をかしげていた。
あの日、あんなに険しい顔を向けてきた少年は、今や穏やかな笑顔を浮かべる聡明な青年になっている。
成長をうれしく思うものの、リオとしては優秀な跡取りを後ろ向きにさせてしまった後ろめたさを感じてしまう。
早く前を向いて、レオンの幻にとらわれていないで、歩いていければよいのに。
リオはそう思った。あの頃の悪ガキ感などもうみじんも感じさせない青年になったフレドリックを見上げながら。
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