贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第一部

襲撃

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「ああ、随分と話し込んでしまったね。引き留めて悪かった」

 フレドリックが気づいたときには太陽がもうずいぶんと低い位置に降りていた。代行官屋敷にいるだけあって、リオは最低限の礼儀作法をわきまえていたし、貴族のわずらわしさも感じさせない態度の彼に、フレドリックは随分と気安く接してしまっていた。

「いえ、まだそんなに仕事はもらってないので……。すぐに寒くなってきますから、室内に戻りましょう」

 立ち上がって並んでみればリオはフレドリックの肩にも届いていなかった。ケイはフレドリックと同じくらいの身長なので、その弟であるリオももう少し伸びるのだろうな、とそのつむじを見ながら、先行するリオについていこうとしたその時。
 
 バシュッ

 思わず目の前にいたリオを引き寄せ、抱き込んでから東屋の中にしゃがみ込んだ。

「は?」
「しっ、黙って」

 音のしたところを見上げれば、東屋の柱に小さな穴が開いているのが見えた。

「……銃弾だ」
「銃弾?って銃って」

 銃は殺傷能力のある武器ではあるが、それゆえに所持が厳密に制限、管理されている。
 だからこんな長閑な田舎で飛んでくることなんてまずない。猟に使うそれも、街の側、しかも領主の館があるような場所では使用禁止のはずだ。
 信じられない様子で銃弾の後を見上げるリオを抱きしめたまま、フレドリックは思案する。
 リオと自分だったらきっと狙われているのは自分であろう。特に身分を隠してはいない。ここに来るのにも公爵家のものだとわかる馬車で来た。

「……私は応接室の側の出入り口から庭に出たのだけれども、そのほかに出入り口は?」
「――そこから建物の手前側に使用人用のものが一か所、そこから建物の反対側に折れてすぐに一か所がここから近い場所ですね。最寄りが使用人用、時点でフレドリック様が使ったところです」

 一番手っ取り早いのは窓から転がり込むことだろうが、さすがによそのお屋敷の窓ガラスを破るわけにはいかないし、そもそも騒乱があったからか、この代行官屋敷の一階の窓は大多数に鉄柵の飾りがつけられている。
 東屋からちょうど二手に分かれる形で最寄りと次点の出入り口が存在した。もう一つはきっと襲撃者の矢面に立つことになるだろうから除外する。

「……二手に分かれよう。君は一番近いところから、私は応接室のそばに駆け込む」
「えっ、フレドリック様も一番近いところから入ったほうが……」
「一緒にいたら君を巻き込むことになる。出来るだけ身体を低く、全速力で駆け込め」
「……わかりました」

 一発目を撃ってから次がない。ということはここ、東屋の中が見え辛いということだ。多分、リオが走っていく側よりもフレドリックが走っていく側の方が襲撃者から見て近い。体格差もあるから、リオが間違って的にされることはないと思いたい。

「……建物内に入ったら窓から見えないように身を低くして、代行官の元へまっすぐに向かうんだ。私よりも早く着いたらこのことを伝えて、父に、ウォルターズ公爵に連絡するように指示を」
「わかりました。……じゃあ」

 フレドリックは抱え込んでいたリオを離す。そして東屋の入り口で二人で顔を見合わせて、そして飛び出した。
 辺りを見回す余裕なんてなかった。案の定、走りながら銃弾が風を切る音がいくつか聞こえた。けれども、それはフレドリックに当たることはなかった。目の端で先に屋敷に駆け込むリオを確認して、そしてすぐにフレドリックも屋敷へと転がり込む。目の前に居合わせたメイドに襲撃を受けたこと、戸締りを急ぐことを伝えると、その足でフレドリックは屋敷を駆けた。




     ◇◇◇◇◇




「フレドリック様!!」

 すれ違う使用人はみな足早に動いていた。既に指示が出ていることを知って、フレドリックは非常事態だと屋敷を駆けて、代行官執務室へと駆け込んだ。そこには既にリオがいて、ハント代行官が指示を出し終えて、電話をかけていた。

「どうぞ、お水です。」

 まだ陽のある時間ではあったが、執務室のカーテンはしめられている。どうやら銃声が聞こえたらしく、リオが駆け込む前に屋敷内は既に厳戒態勢に入りつつあったらしい。
 先に執務室に来ていた侍従長のマイルズがフレドリックに水を差し出す。それを一気飲みすると、すっとそばにケイが来た。

「今ウォルターズ公爵に指示を仰いでいます。フレドリック様、東屋のことを聞いてもよろしいでしょうか」

 既にテーブルの上には屋敷の図面が広げられていた。

「……ああ、わかった」

 出来るだけわかりやすく最初の銃弾の説明をする。いつの間にかそばに来ていたリオもそれを補足する。

「――走っている最中に聞いた銃声は全部で五回。私だけを狙っているのかと思ったが……。リオも、狙われていたな」

 完全に自分狙いだと思っていた銃弾は確かにリオも狙っていた。射手は一人だが、目標は二人共だったのだ。

「おそらく射手の場所はこちら、の林の中だろう。角度的に木に隠れていたか、低い枝の上か。枝の高いところには乗っていないはずだ」

 それを聞いたケイが警備隊に指示を飛ばす。おそらく射手はもういないだろうが、その場所を特定し痕跡を探すためだ。

「ところで、父には連絡ついたか?今日は特に外出の予定は入っていなかったが」
「ずっと話し中なんです。フレドリック様を狙ったのならばあちらにも何かあったのでしょうか……」
「うちの屋敷の側には騎士団の屯所があるから大事はないと思いたいが……」

 そう話しているうちに、電話が鳴った。念のため、ケイがその電話を取ると受け答えでその電話の先がフレドリックの父であるウォルターズ公爵だと知れて、一同がほっとする。すぐにハント代行官に変わった。その横でケイが書記をやっている。とりあえずはそれを見て、フレドリックは椅子に座り込んだ。リオにも座るよう促す。青い顔をしているが、けがはないようでホッとした。長閑な田舎に住んでいれば、銃など縁がないだろう。しかもこの地域では猟も近場では行っていないだろう。よくもまあ腰も抜けずに屋敷に入った後ここまでこれたものだ。
 警備隊が外の捜索をしているし、あの事件の後街に出来た小さな騎士団の詰め所からも調査のため騎士が来ているだろう。カーテンがかかっているので外をうかがうことはできないが、ひとまずは安心、と言ったところだろうか。
 しかしフレドリックは自分だけではなくリオが狙われる理由に思い当たらなかった。フレドリックとリオ、両方狙われる理由がわからない。下手人が見つかって理由が判明しない限り、リオの安全は保障されない。これは公爵領に連れ帰るのもやむなしか、とフレドリックは思案した。
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