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第一章
1-5 怪しい箱
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暗い暗いコーラル家の屋敷の地下倉庫の扉が、ぎぎっときしむような音を立てゆっくりと開く。
コツコツとまるで死霊型モンスタ――アンデッドのように小さな足音が部屋をいっぱいにする。
チカチカと魔導ランプの明かりがその影を照らし……ってナレーションをやってるの俺なんだけどね。
地下倉庫は鍵がかかっていて本当は入ってはいけないのだけど、調合の材料になりそうな物がないかと思って忍び込んでいる。
もっとも音を立てない限り誰も気付くことはない。
開かずの間といっても過言ではないくらいに、閉め切られていて誰も入ろうとはしない部屋なんだから。
だから、というか埃っぽいし、古臭いにおいが充満している。
入ったことはないというのになんだか懐かしい匂い。何とも奇妙な感覚だ。
さて。
探すのを再開しなければいけないのだけど、正直何を探しているのか自分でもわかっていない。
結局文献では調合材料になりそうなものはいくつか載っていたが、調合して何かを作り出す方法は終ぞ見つからなかったのだ。
調合専門の本なんてものはうちの家には置いていなかった。
おそらくは冒険者として生きていく上での知識としての本。森ウサギの角が有用な事だけを知っていれば十分ということなんだろう。
確かにそれは必要な事なんだけど、俺が今必要としているのはそういう事じゃない。
何と何をどのくらい混ぜ合わせれば良い効用を示すものが作れるかということだ。
それは調合台というものを得たからと言って分かったりはしない。あくまであれは道具というだけのもの。
だから、ここで探しているのは調合材料と共に、そういった本がないかと言うのも探していた。
結局何も見つかってはいないのだけど。
「はぁ~」
溜息をつき、さらに探すこと一時間。
俺の鼻が埃でムズムズしだして止めようかと思ったその時、がつんと床のとっかかりにつまづいて転びそうになる。
体勢を立て直し転びはしなかったが、転ばなかったら良いという訳でもない。
「ったたた。っと、やば、音出ちゃったかな……」
息を殺して耳を澄ませてみたが、どうやらここに近付いてくるような音は聞こえない。
ホッと胸をなでおろし何につまづいたのかを見ると、床にでっぱりのような物が付いているのが見えた。
「ん……。扉……?」
薄らと埃が積もった床に線が見える。
地下についているさらに地下への扉。開けてみたくなるのが人の性というもの。
鍵などはかかっていないらしく、開けてみると……それはただの小さな収納庫のような物だった。
地下室の下にさらに地下室があるのかと思ってワクワクしていた分少し残念な気持ちになったが、そこから出てきたのは一つの小さな箱を見て少し気持ちが高まる。
古ぼけすぎるほどに古ぼけた黄褐色の細工箱。鈍い光を放つ血のような色の宝石で飾られていて、より俺の興味を引いた。
「ま、今日は面白いもの見つけたってことでいいかな」
それを持っているのを見られると色々と追及されそうだったので、調合台を出してその引き出しにしまい込んだ。
ここにしまっておくと手ぶらを装うことができるのだ。
なんだかんだいって調合台は意外と便利だ。人に見られないように気を配る必要はあるのだけど。
座る場所を確保してお弁当を食べるときにも使えるし。
用事は済んだのか微妙だが、帰ろうと思い入ってきた扉に手をかける。
が部屋から出たその瞬間、一番見つかりたくなかった相手に見つかってしまう。
俺を見るや否や顔を怒りに染め上げる。
「おい、こら。ディルレアン! お前そこに入っちゃいけないってのを知らないのか?」
「あ、あぁ……エディ兄さん……。はい、知ってます」
「知らなかったのならただの馬鹿だ。だが知っていたのならお前はクズだ! 無能のくせに不審な行動をするな! ここは俺が継ぐ家なんだからな!」
「すみません……。少し探し物をしていただけなんです……」
「ふん。とにかく今はただ置いてやってるだけなんだからな! 大人しくしておけ!」
胃がキリキリと痛む。エディ兄さんはこの家の跡継ぎが決まっているために、家の評価が落ちるのが気に入らないのだろう。
つまり騎士の名家であるコーラム伯爵家において、調合師という素質を受けた俺の存在自体を害悪だと思っている。
生まれてきた順番が前後しただけというのならいざ知らず、エディ兄さんは騎士として素質も十分なものをもらっているのだ。
悔しいが何も言い返すことはできない。涙がにじむ。
そんな俺の様子を見て満足したのか、エディ兄さんは薄ら笑いを浮かべて背中を向けると、大きな足音を立てて歩いていった。
コツコツとまるで死霊型モンスタ――アンデッドのように小さな足音が部屋をいっぱいにする。
チカチカと魔導ランプの明かりがその影を照らし……ってナレーションをやってるの俺なんだけどね。
地下倉庫は鍵がかかっていて本当は入ってはいけないのだけど、調合の材料になりそうな物がないかと思って忍び込んでいる。
もっとも音を立てない限り誰も気付くことはない。
開かずの間といっても過言ではないくらいに、閉め切られていて誰も入ろうとはしない部屋なんだから。
だから、というか埃っぽいし、古臭いにおいが充満している。
入ったことはないというのになんだか懐かしい匂い。何とも奇妙な感覚だ。
さて。
探すのを再開しなければいけないのだけど、正直何を探しているのか自分でもわかっていない。
結局文献では調合材料になりそうなものはいくつか載っていたが、調合して何かを作り出す方法は終ぞ見つからなかったのだ。
調合専門の本なんてものはうちの家には置いていなかった。
おそらくは冒険者として生きていく上での知識としての本。森ウサギの角が有用な事だけを知っていれば十分ということなんだろう。
確かにそれは必要な事なんだけど、俺が今必要としているのはそういう事じゃない。
何と何をどのくらい混ぜ合わせれば良い効用を示すものが作れるかということだ。
それは調合台というものを得たからと言って分かったりはしない。あくまであれは道具というだけのもの。
だから、ここで探しているのは調合材料と共に、そういった本がないかと言うのも探していた。
結局何も見つかってはいないのだけど。
「はぁ~」
溜息をつき、さらに探すこと一時間。
俺の鼻が埃でムズムズしだして止めようかと思ったその時、がつんと床のとっかかりにつまづいて転びそうになる。
体勢を立て直し転びはしなかったが、転ばなかったら良いという訳でもない。
「ったたた。っと、やば、音出ちゃったかな……」
息を殺して耳を澄ませてみたが、どうやらここに近付いてくるような音は聞こえない。
ホッと胸をなでおろし何につまづいたのかを見ると、床にでっぱりのような物が付いているのが見えた。
「ん……。扉……?」
薄らと埃が積もった床に線が見える。
地下についているさらに地下への扉。開けてみたくなるのが人の性というもの。
鍵などはかかっていないらしく、開けてみると……それはただの小さな収納庫のような物だった。
地下室の下にさらに地下室があるのかと思ってワクワクしていた分少し残念な気持ちになったが、そこから出てきたのは一つの小さな箱を見て少し気持ちが高まる。
古ぼけすぎるほどに古ぼけた黄褐色の細工箱。鈍い光を放つ血のような色の宝石で飾られていて、より俺の興味を引いた。
「ま、今日は面白いもの見つけたってことでいいかな」
それを持っているのを見られると色々と追及されそうだったので、調合台を出してその引き出しにしまい込んだ。
ここにしまっておくと手ぶらを装うことができるのだ。
なんだかんだいって調合台は意外と便利だ。人に見られないように気を配る必要はあるのだけど。
座る場所を確保してお弁当を食べるときにも使えるし。
用事は済んだのか微妙だが、帰ろうと思い入ってきた扉に手をかける。
が部屋から出たその瞬間、一番見つかりたくなかった相手に見つかってしまう。
俺を見るや否や顔を怒りに染め上げる。
「おい、こら。ディルレアン! お前そこに入っちゃいけないってのを知らないのか?」
「あ、あぁ……エディ兄さん……。はい、知ってます」
「知らなかったのならただの馬鹿だ。だが知っていたのならお前はクズだ! 無能のくせに不審な行動をするな! ここは俺が継ぐ家なんだからな!」
「すみません……。少し探し物をしていただけなんです……」
「ふん。とにかく今はただ置いてやってるだけなんだからな! 大人しくしておけ!」
胃がキリキリと痛む。エディ兄さんはこの家の跡継ぎが決まっているために、家の評価が落ちるのが気に入らないのだろう。
つまり騎士の名家であるコーラム伯爵家において、調合師という素質を受けた俺の存在自体を害悪だと思っている。
生まれてきた順番が前後しただけというのならいざ知らず、エディ兄さんは騎士として素質も十分なものをもらっているのだ。
悔しいが何も言い返すことはできない。涙がにじむ。
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