異端の調合師 ~仲間のおかげで山あり谷あり激しすぎぃ~

こたつぬこ

文字の大きさ
11 / 61
第一章

1-10 調合モンスターの力

しおりを挟む
 交差する俺とエディ兄さんの視線。
 俺の心臓をヒヤリと冷たい手が掴む。
 怒りに染めあがったその顔。そしてその瞳孔の動きはだんだんと見られたくない床へと移っていった。

「モ、モンスターだとっ!!」

 怒りと驚愕が入り混じったその顔は、俺の心に恐怖を植え付ける。
 廊下に飾ってある飾り甲冑から剣を持ち出してくると、兄さんは俺の部屋へと駆け込んできた。

 一体どう思っているのだろうか?

 僅かなためらいもみせずに剣を振り下ろす。
 俺の眼前10センチの地点。俺に当たるということは考えていない剣筋。

 むしろ俺に当たっても構わないといった気配を感じたのは気のせいだろうか。

 だがその剣は地面に突き刺さっただけで、モンスターには当たることはなかった。
 勿論俺にもあたってはいない。
 というより、モンスターの動きは異様に速い。
 球体状の体でどうやればそこまでの速さが出せるのかというレベルに速い。
 俺では眼で追うのがやっとだ。

「なんだこいつらは!」

 けれど、エディ兄さんも騎士として素質を持ち、口だけで威張るタイプの男ではない。
 最初は焦った様子だったが、今はしっかりとモンスター(と呼ぶのは可哀そうなのでピギュンと名付けよう)の動きを眼で捉えている。

 そんな中俺だけは地面に座り込んだまま部屋の奥へと後ずさりした。
 俺になんとかできるレベルの戦いではないのだ。

 しかし、ピギュンはなぜエディ兄さんに攻撃をしているのだろうか?
 本当に人を襲うモンスター……? 俺には懐いていたというのに?
 頭の中でぐるぐると考えが回る。
 ピギュンが体当たりを繰り返し、それをエディ兄さんが冷静にいなしていると、ピギュンの大きさが少しずつ減っていくのが分かった。
 おそらくは自分の傷を回復しながら戦っているのだろう。
 なぜそこまでして……。

 とはいえ兄さんも剣一本じゃ辛そうだ。
 右からのピギュンの体当たりを剣でいなすと、左からピギュン二号が跳んでいき苦しそうな顔でよける。

「おい、早く誰か来い! ラージア、いないのか!」

 これ以上はやばいような気がする。だからといってピギュンの止め方は分からない。
 そうは思いつつも俺は思わず叫んでいた。

「ピギュン! もうやめてくれ!」

 飛び跳ねていた速度が急激に落ちる。そして二号が俺の方へと戻ってこようとした時、エディ兄さんの剣が一号の胴体を捉え両断した。
 俺は目を見開き、口から思わず声が漏れる。

「ああっ!!」

 エディ兄さんはピギュンが崩れたのを見てから、鬼のような形相を俺に向けてきた。
 まなじりが吊り上がり真っ赤な顔をしていて、そのまま俺の事も剣で切り捨てるんじゃないかと思う程に。

「これ、お前が何かやったのか!? まさか、モンスターと通じていたのか!?」

 兄さんがそう言いながら俺の方へと来ようとした時だった。
 両断されて崩れていたピギュンが、緑色の光の帯となり俺の方へと流れてきたのだ。
 意味が分からなかった。
 エディ兄さんも虚を突かれたような間抜けな表情をしている。
 けれど、意味が分からなかったのは光が俺の中へと流れ込んでくるまでだ。

 どうやらピギュンの力が俺に流れ込んできたらしい。
 僅かな身体能力の向上。傷を回復する力の取得。
 それはいいことなのかもしれない。
 けれど、エディ兄さんの怒り狂ったような顔を見て、最悪のタイミングだったのだと悟った。

「ディルレアン! お前をモンスターの手先として処刑する!」

「ああ、違うんだ! 調合したらモンスターになってしまったんだ!」

「……自白したな。お前がモンスターを呼び寄せたのだとな!」

 確かに言われてみればその通りだ。
 俺が調合した結果モンスターが現れたのだから、完全に俺がモンスターをここに出現させたことになる。
 だが、俺の目の前でピギュン二号が守ってくれるかのように立ちはだかっているため、容易に近付くことはできない様子。

 そんな時、ドアの向こうからドタドタと人が駆けつけてきたのだ。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...