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第一章
1-15 ディルの旅立ち後のコーラム家 その②
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ディルレアンが去って二日後、フォーカスは父であるリーガルに呼び寄せられていた。
リーガルの私室には長女のニチェリアとメイドのリーザの姿もあった。
この面子を見てフォーカスはピンとくる。
どうやら父はディルレアンのことをちゃんと見ていたのだと。
そのまま女性二人に目を向ける。
明らかにその顔を暗くしている、と言ったわけではないが顔を僅かに俯かせていた。
二人の事を見ながら、ディルレアンが去ってからの二日の事をフォーカスは思い出していた。
まずディルレアンが死んだことはエディによって領内全体に知らされた。
勿論魔物と内通していた、そんな内容ではない。
ただ誤って崖から転落したという不名誉な死に方で知らされた。
コーラム伯爵家として、モンスターとの内通者が家族にいたという汚名をかぶるわけにはいかないからだ。
ただ家族全員にはモンスターと内通していたと知らされている。
ディルレアンの立場が元々家の中で弱かったのをエディは知っていたためだ。
その上で手を下したのはフォーカスだということも大々的に知らされた。
家族の多くの者はほとんど興味を持たない、又はよくやったと賞賛を向ける者が大多数。
けれど。
ここにいる二人はそうではなかった。
それはそれは責められた。
顔を涙で濡らし責め立てられた。リーザは流石にそこまでではなかったようだが。
それでもフォーカスはディルレアンとの約束を律儀に守り、生きてることは言わなかった。
残された人間よりも旅立った人間の方が優先される。
そうも思っていたし、この二人は泣いてはいても精神が強いことを知っていたためだ。
しかし今この状況で自分が呼ばれたとなると、それは父にも責められるから?
だがコーラム伯爵領は、父のリーガル伯爵で持っていると言っても過言ではない土地。
はっきり言ってしまえば有能な男だ。
「フォーカス、なぜ呼び出したか分かるか?」
黒い立派な髭を揺らしてそう口にした。
掘りの深い顔立ち、年齢にふさわしい佇まい。
なぜこの父ににしてあの長男が育つのか? そんな思いにとらわれてしまう程だ。
「はい、父上。ディルレアンの件でございましょう?」
「うむ……。流石は我が息子たちの中で最も期待がかけられておるだけはあるな」
「いえ、普通に考えればそれしかありませんので」
フォーカスがそう口にするとリーガルは小さく口を歪めた。
「くく。普通……な。その普通というものが理解できんということもあるのだ。それでもお前にとっての兄は兄。
この家にいる間だけでも良い。エディとラージアを支えてやって欲しい。あんなでも儂の息子なのだ」
「あ、はい……。しかし、なぜそのようなことを……」
そう尋ねかけた時、リーガルはゴフと咳をし……押さえつけたその手は赤く血塗られていた。
タイミングが良かったというべきか、悪かったというべきかは不明だがリーガルは薄ら笑いを浮かべている。
「父上っ!? 一体……?」
「ふん……。今に始まったことではない。……ことではないのだが、恐らく儂はもう長くはないだろう。つまり、そういうことだ」
「い、医者には見てもらったのですか? いや……スレイブンにはまともな医者はいないか。だが、王都まで行くには……」
「大丈夫だ。儂の体の事は儂が一番よく分かっておる。見てもらったところでどうにもなりはせん」
ニチェリアとリーザは顔色を変えていないことから、既に知っていたということなのだろう。
フォーカスは小さく下唇をかむと、リーガルに顔を向けた。
「父上がそうおっしゃるのなら……。兄の事は分かりました。善処はしたいと思います。それで……ディルレアンの件については?」
リーガルは椅子を少し下げると、カーテンを開き窓から外の景色を見つめた。
白い帯のような日差しが部屋へと差し込んでくる。
「ディルレアンは死んでおらん。そうだろう?」
「まさか、本当なのっ?」
リーガルの言葉にいち早く反応したのはニチェリア。
リーザはメイドという立場であるので、許可を得ない限りは今喋ることはない。
もっとも驚いた様子を僅かに表情に表したようだが。
フォーカスはしばし黙り込んで考えるそぶりを見せている。
言ってもいいものかと自問自答を行っているのだろう。
やがて意を決したように口を開いた。
「その通りです。ディルは死んだことにして旅立たせました」
「ふむ……だろうな。あいつが死ぬとは思えん」
「何か根拠があるのですか……?」
そう尋ねる横ではリーザとニチェリアが顔を小さく見合わせ、嬉しそうに微笑んでいた。
それを見てフォーカスは少しだけ嬉しい気持ちになった。
ディルのことを大切に思っているのを改めて知ったこと。
ディルが自分が殺したと嘘をついていたことに罪悪感を感じていたこと。
約束は破ってしまったが、父の死が近いという状態は嘘をつくのを限りなく困難にさせたのだ。
「うむ。あいつはな……、生まれた時から普通ではなかったのだ」
リーガルの私室には長女のニチェリアとメイドのリーザの姿もあった。
この面子を見てフォーカスはピンとくる。
どうやら父はディルレアンのことをちゃんと見ていたのだと。
そのまま女性二人に目を向ける。
明らかにその顔を暗くしている、と言ったわけではないが顔を僅かに俯かせていた。
二人の事を見ながら、ディルレアンが去ってからの二日の事をフォーカスは思い出していた。
まずディルレアンが死んだことはエディによって領内全体に知らされた。
勿論魔物と内通していた、そんな内容ではない。
ただ誤って崖から転落したという不名誉な死に方で知らされた。
コーラム伯爵家として、モンスターとの内通者が家族にいたという汚名をかぶるわけにはいかないからだ。
ただ家族全員にはモンスターと内通していたと知らされている。
ディルレアンの立場が元々家の中で弱かったのをエディは知っていたためだ。
その上で手を下したのはフォーカスだということも大々的に知らされた。
家族の多くの者はほとんど興味を持たない、又はよくやったと賞賛を向ける者が大多数。
けれど。
ここにいる二人はそうではなかった。
それはそれは責められた。
顔を涙で濡らし責め立てられた。リーザは流石にそこまでではなかったようだが。
それでもフォーカスはディルレアンとの約束を律儀に守り、生きてることは言わなかった。
残された人間よりも旅立った人間の方が優先される。
そうも思っていたし、この二人は泣いてはいても精神が強いことを知っていたためだ。
しかし今この状況で自分が呼ばれたとなると、それは父にも責められるから?
だがコーラム伯爵領は、父のリーガル伯爵で持っていると言っても過言ではない土地。
はっきり言ってしまえば有能な男だ。
「フォーカス、なぜ呼び出したか分かるか?」
黒い立派な髭を揺らしてそう口にした。
掘りの深い顔立ち、年齢にふさわしい佇まい。
なぜこの父ににしてあの長男が育つのか? そんな思いにとらわれてしまう程だ。
「はい、父上。ディルレアンの件でございましょう?」
「うむ……。流石は我が息子たちの中で最も期待がかけられておるだけはあるな」
「いえ、普通に考えればそれしかありませんので」
フォーカスがそう口にするとリーガルは小さく口を歪めた。
「くく。普通……な。その普通というものが理解できんということもあるのだ。それでもお前にとっての兄は兄。
この家にいる間だけでも良い。エディとラージアを支えてやって欲しい。あんなでも儂の息子なのだ」
「あ、はい……。しかし、なぜそのようなことを……」
そう尋ねかけた時、リーガルはゴフと咳をし……押さえつけたその手は赤く血塗られていた。
タイミングが良かったというべきか、悪かったというべきかは不明だがリーガルは薄ら笑いを浮かべている。
「父上っ!? 一体……?」
「ふん……。今に始まったことではない。……ことではないのだが、恐らく儂はもう長くはないだろう。つまり、そういうことだ」
「い、医者には見てもらったのですか? いや……スレイブンにはまともな医者はいないか。だが、王都まで行くには……」
「大丈夫だ。儂の体の事は儂が一番よく分かっておる。見てもらったところでどうにもなりはせん」
ニチェリアとリーザは顔色を変えていないことから、既に知っていたということなのだろう。
フォーカスは小さく下唇をかむと、リーガルに顔を向けた。
「父上がそうおっしゃるのなら……。兄の事は分かりました。善処はしたいと思います。それで……ディルレアンの件については?」
リーガルは椅子を少し下げると、カーテンを開き窓から外の景色を見つめた。
白い帯のような日差しが部屋へと差し込んでくる。
「ディルレアンは死んでおらん。そうだろう?」
「まさか、本当なのっ?」
リーガルの言葉にいち早く反応したのはニチェリア。
リーザはメイドという立場であるので、許可を得ない限りは今喋ることはない。
もっとも驚いた様子を僅かに表情に表したようだが。
フォーカスはしばし黙り込んで考えるそぶりを見せている。
言ってもいいものかと自問自答を行っているのだろう。
やがて意を決したように口を開いた。
「その通りです。ディルは死んだことにして旅立たせました」
「ふむ……だろうな。あいつが死ぬとは思えん」
「何か根拠があるのですか……?」
そう尋ねる横ではリーザとニチェリアが顔を小さく見合わせ、嬉しそうに微笑んでいた。
それを見てフォーカスは少しだけ嬉しい気持ちになった。
ディルのことを大切に思っているのを改めて知ったこと。
ディルが自分が殺したと嘘をついていたことに罪悪感を感じていたこと。
約束は破ってしまったが、父の死が近いという状態は嘘をつくのを限りなく困難にさせたのだ。
「うむ。あいつはな……、生まれた時から普通ではなかったのだ」
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