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第二章
2-25 覇気
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ジョカの手の先に現れる小さな火の玉。だがそれは赤黒く不気味に輝き、どう見てもフォーカス兄さんが使っていたファイアボールとは違う。まるで別物だ
手から離れた瞬間、まるで全身を焼くような熱風が吹き荒れ身をよじる。堀にかけられていた石橋の上で待機していた門番達を四人、高熱と爆風で堀へと吹き飛ばす。
赤褐色の門に着弾した瞬間、ゴギャァ、と鈍い音を軋ませながら炎は広がり門を円型にくり抜くように溶解させた。
溶けて流れるオレンジ色の液体から逃げるように門番達が避難していく。
無茶苦茶だ。
これではまるで侵略者のようではないか。
「何やってんだあああ!! やりすぎだよ! やりすぎ! 手加減するんじゃなかったの!?」
「しゅ、主殿、妾は全力で手加減した所存で……。その証拠に人の命は奪ってはおりませぬ」
門の側に立っていた兵士も結局炎熱から逃げるように堀の中へと逃げ込んだので、門周辺にはもう誰もいない。
兵士たちは堀の中で動くのが見えたので、水の中でおぼれて死ぬということもあるまい。
確かに全員生きている。
なら、これで良かったのだろうか?
「いや! よくないよ! そういう問題じゃない! で、でも、うん、ジョカにしては手加減したってことを認めるよ。
じゃあ、あの溶岩みたいになったのを冷やすだけ……冷やすだけだよ? とかできる?」
しっかりと忠告しておいた。でないと一面雪景色……いや、街ごと全て氷漬けにしてしまいそうだったからだ。
ジョカは僅かに口元をほころばせると、溶岩に向けて息を吹きかけるように口を尖らせた。
それだけで溶解していた門は灼熱で真っ赤だった状態から赤褐色に戻っていた。
仕事がとても早いです。
「ちなみにさ、あれを直すこととかってできないよね?」
「妾は傷を負ったことがない故に守ることと治すことは苦手でありまする。主殿が望むのであれば創造を試してみても良いかと思いまするが」
ジョカが傷を負ったことがないというのは納得できる。まぁ満場一致だろう。
それよりも創造という単語が気にかかった。
「そ、創造……ってなに……? い、いや、なんとなく分かるし聞きたくないんだけどさ」
「妾は覇気と魔力を融合させた覇力を使い、ある程度自由に魔法……いえ、この場合は覇法と呼んでおりまするが、それを創造できるのでありまする」
予想通りだったとはいえそんな話は聞いたことがない。
受けた素質に応じて、その体内魔力を感じ勉強と修練を行い自己に秘める魔法を発現させる。
魔法とはそういうものだとフォーカス兄さんは教えてくれた。
それを自分で作り出してしまうだって?
ツツッと冷や汗が流れるのを感じたが、ジョカに関してはもうそれくらいで驚いていては仕方がないのかもしれない。
とりあえず魔法(覇法?)を創造させるのはやめておくことにした。
「そ、そうなんだ……。でも、創造はいいや……。ええと…………そういえば最初も言ってたけど、覇気って何?」
ジョカが回復魔法なんて覚えでもしたら、死人すら蘇らせてしまうような気がする。
それが良いのか悪いのかは全く分からないが、人の理を外れているのは確か。人間の魂は決して弄んではいけないと思う。
いや、人間だけじゃない。
命が尽きれば死ぬ。それは仲間の命を背負ってる俺も同じこと。
全てを捻じ曲げていては世界の円環から外れて弾かれてしまうだろう。
それすらも掌中に収めてしまいそうで怖いのだけれど。
「覇気は体内の覇導廻廊が開けている存在だけに使用できる力でありまする。今は主殿の覇導廻廊も開けています故、覇気が体を流れておりまする」
「へ……!?」
ジョカの言葉を聞いて間の抜けた言葉が口から漏れる。いや、顔自体も口が半開きになっているのは確か。
俺にそんな訳の分からないものがどうかなってるという自覚は全くない。一ミリたりともない。
「妾、主殿との口腔接触で覇導廻廊をこじ開けました故に。主殿の精神が妾の覇気により半壊しかけていたため、仕方のなかった措置でありまする」
色々な記憶が黄昏のように俺の心へと落ちていく。
確かに最初ジョカが現れた時、俺の身体も意識も自由がなくなりまともに物を考えることができなくなっていた。
その時感じた口を塞がれる感触と…………ま、まさか? まさか、まさか!? 俺のファーストキ…………!?
俺の顔に急激に熱が上る。ジトっと脇が湿り、そして気恥ずかしさからフランシスに目を向けていた。
三人は俺たち、というよりはジョカのことを怯えた様子で見ており、何やらぼそぼそと話をしている。
ジョカの言葉を聞かれた様子はなかった。こ、こうく…………なんて女の子に聞かれたくない。
ホッと胸をなでおろし、俺の手首や足首に目を向けた。
「まさか、おもりが軽く感じるのってそのせいなのか?」
「おもり……その黒き物でありまするか? おそらくそのせいでありましょう。とはいえ流れる覇気は微々たるもの。残念ながら妾のように操る事は敵いませぬ」
別にそれは構わない。
けれど。
なんとなく俺自身も人から外れてしまったような気がして、心に暗雲がかかる。
俺はおもむろに地面から小石を拾い上げると、明後日の方向に向かって投げてみた。
当然全力だ。
ボッっと奇妙な音を奏でながら放たれた小石は、微かに粉塵を散らしながら見えなくなるほどの距離まで飛んで行ってしまう。
もう無茶苦茶だ。
僅かな覇気? 俺はくそ重いおもりを着けている状態で、こんな化け物みたいな力を発揮できるようになって!?
「はぁぁぁ。分かった。うん、もうこういうもんだと思って諦める。ええと…………じゃあ今は腰で待機しといてくれる?」
俺の心が壊れかけていたのを救ってくれたのだから、何も言うことはできない。
自分の力で強くなったのではなく、ジョカの恐ろしい力を流し込まれたような気がしてなんとももやもやするのだけど。
それに今は現状を何とかしないといけない。ジョカがいてはまとまる話も全て消え失せてしまう。
「妾、何か粗相をしてしまいましたでしょうか? で、ですが、とりあえず主殿の命に従いまする」
ジョカは少しあたふた様子を見せて可愛かったのだが、やがて光と変わり俺の腰へと消えていった。
それを見てか三人……というよりはフランシスが、タタッと俺の前へと駆けてくる。
門のことを怒られるような気がして胃がキリキリと痛む。
が。
フランシスの口から飛び出した言葉は門の事ではなかった。
手から離れた瞬間、まるで全身を焼くような熱風が吹き荒れ身をよじる。堀にかけられていた石橋の上で待機していた門番達を四人、高熱と爆風で堀へと吹き飛ばす。
赤褐色の門に着弾した瞬間、ゴギャァ、と鈍い音を軋ませながら炎は広がり門を円型にくり抜くように溶解させた。
溶けて流れるオレンジ色の液体から逃げるように門番達が避難していく。
無茶苦茶だ。
これではまるで侵略者のようではないか。
「何やってんだあああ!! やりすぎだよ! やりすぎ! 手加減するんじゃなかったの!?」
「しゅ、主殿、妾は全力で手加減した所存で……。その証拠に人の命は奪ってはおりませぬ」
門の側に立っていた兵士も結局炎熱から逃げるように堀の中へと逃げ込んだので、門周辺にはもう誰もいない。
兵士たちは堀の中で動くのが見えたので、水の中でおぼれて死ぬということもあるまい。
確かに全員生きている。
なら、これで良かったのだろうか?
「いや! よくないよ! そういう問題じゃない! で、でも、うん、ジョカにしては手加減したってことを認めるよ。
じゃあ、あの溶岩みたいになったのを冷やすだけ……冷やすだけだよ? とかできる?」
しっかりと忠告しておいた。でないと一面雪景色……いや、街ごと全て氷漬けにしてしまいそうだったからだ。
ジョカは僅かに口元をほころばせると、溶岩に向けて息を吹きかけるように口を尖らせた。
それだけで溶解していた門は灼熱で真っ赤だった状態から赤褐色に戻っていた。
仕事がとても早いです。
「ちなみにさ、あれを直すこととかってできないよね?」
「妾は傷を負ったことがない故に守ることと治すことは苦手でありまする。主殿が望むのであれば創造を試してみても良いかと思いまするが」
ジョカが傷を負ったことがないというのは納得できる。まぁ満場一致だろう。
それよりも創造という単語が気にかかった。
「そ、創造……ってなに……? い、いや、なんとなく分かるし聞きたくないんだけどさ」
「妾は覇気と魔力を融合させた覇力を使い、ある程度自由に魔法……いえ、この場合は覇法と呼んでおりまするが、それを創造できるのでありまする」
予想通りだったとはいえそんな話は聞いたことがない。
受けた素質に応じて、その体内魔力を感じ勉強と修練を行い自己に秘める魔法を発現させる。
魔法とはそういうものだとフォーカス兄さんは教えてくれた。
それを自分で作り出してしまうだって?
ツツッと冷や汗が流れるのを感じたが、ジョカに関してはもうそれくらいで驚いていては仕方がないのかもしれない。
とりあえず魔法(覇法?)を創造させるのはやめておくことにした。
「そ、そうなんだ……。でも、創造はいいや……。ええと…………そういえば最初も言ってたけど、覇気って何?」
ジョカが回復魔法なんて覚えでもしたら、死人すら蘇らせてしまうような気がする。
それが良いのか悪いのかは全く分からないが、人の理を外れているのは確か。人間の魂は決して弄んではいけないと思う。
いや、人間だけじゃない。
命が尽きれば死ぬ。それは仲間の命を背負ってる俺も同じこと。
全てを捻じ曲げていては世界の円環から外れて弾かれてしまうだろう。
それすらも掌中に収めてしまいそうで怖いのだけれど。
「覇気は体内の覇導廻廊が開けている存在だけに使用できる力でありまする。今は主殿の覇導廻廊も開けています故、覇気が体を流れておりまする」
「へ……!?」
ジョカの言葉を聞いて間の抜けた言葉が口から漏れる。いや、顔自体も口が半開きになっているのは確か。
俺にそんな訳の分からないものがどうかなってるという自覚は全くない。一ミリたりともない。
「妾、主殿との口腔接触で覇導廻廊をこじ開けました故に。主殿の精神が妾の覇気により半壊しかけていたため、仕方のなかった措置でありまする」
色々な記憶が黄昏のように俺の心へと落ちていく。
確かに最初ジョカが現れた時、俺の身体も意識も自由がなくなりまともに物を考えることができなくなっていた。
その時感じた口を塞がれる感触と…………ま、まさか? まさか、まさか!? 俺のファーストキ…………!?
俺の顔に急激に熱が上る。ジトっと脇が湿り、そして気恥ずかしさからフランシスに目を向けていた。
三人は俺たち、というよりはジョカのことを怯えた様子で見ており、何やらぼそぼそと話をしている。
ジョカの言葉を聞かれた様子はなかった。こ、こうく…………なんて女の子に聞かれたくない。
ホッと胸をなでおろし、俺の手首や足首に目を向けた。
「まさか、おもりが軽く感じるのってそのせいなのか?」
「おもり……その黒き物でありまするか? おそらくそのせいでありましょう。とはいえ流れる覇気は微々たるもの。残念ながら妾のように操る事は敵いませぬ」
別にそれは構わない。
けれど。
なんとなく俺自身も人から外れてしまったような気がして、心に暗雲がかかる。
俺はおもむろに地面から小石を拾い上げると、明後日の方向に向かって投げてみた。
当然全力だ。
ボッっと奇妙な音を奏でながら放たれた小石は、微かに粉塵を散らしながら見えなくなるほどの距離まで飛んで行ってしまう。
もう無茶苦茶だ。
僅かな覇気? 俺はくそ重いおもりを着けている状態で、こんな化け物みたいな力を発揮できるようになって!?
「はぁぁぁ。分かった。うん、もうこういうもんだと思って諦める。ええと…………じゃあ今は腰で待機しといてくれる?」
俺の心が壊れかけていたのを救ってくれたのだから、何も言うことはできない。
自分の力で強くなったのではなく、ジョカの恐ろしい力を流し込まれたような気がしてなんとももやもやするのだけど。
それに今は現状を何とかしないといけない。ジョカがいてはまとまる話も全て消え失せてしまう。
「妾、何か粗相をしてしまいましたでしょうか? で、ですが、とりあえず主殿の命に従いまする」
ジョカは少しあたふた様子を見せて可愛かったのだが、やがて光と変わり俺の腰へと消えていった。
それを見てか三人……というよりはフランシスが、タタッと俺の前へと駆けてくる。
門のことを怒られるような気がして胃がキリキリと痛む。
が。
フランシスの口から飛び出した言葉は門の事ではなかった。
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