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第二章
2-39 フランシスと
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とりあえず調合台や道具を出すところは見られたくないので、フランシスに部屋を片付けると言って中に先に入る。
ベッドと棚、小さな鏡や窓からの眺めをモチーフにした絵画などが置かれているだけの部屋。
コーラム家の自室よりも少しばかり小さいが、あの時よりも自由を感じられて気分は悪くない。
「っと、さっさと準備しないと」
調合表を見ながら必要になりそうな道具を準備していく。
ドアの外からは「まだ~?」というフランシスの声が聞こえてくるのだ。
焦らせないで欲しいが愚痴を言っても仕方がない。
必要なのは乳鉢乳棒、電熱加熱機やチューブに容器など…………いつもとそれほど変わらない感じかな。
まぁジョカの時の調合がちょっとおかしかっただけだし、普通はこんなもんなのかもしれない。
準備を整えた俺はフランシスを中に入れてやる。少しさび付いたドアノブが軋む。
少し緊張した面持ちのフランシスが隙間から顔を覗かせた。
「もういい? って、なにそれ! まるで研究所みたい!」
「いや、それは大袈裟だと思うけど……うん、調合師だからね、俺は」
「へぇ。その持ってるのが調合のやり方の本? ちょっと見てもいい?」
意外なことにフランシスは目を輝かせていた。
女の子がこう言うのが好きというイメージはなかったのだが、フランシスは好きなんだろうか?
調合書をパラパラと捲り軽く目を通した後、タタッと調合台に駆け寄っていく。
キョロキョロと道具類を見渡した結果台の上にある電熱加熱機がもっとも興味を引いたようで、それに触れた時であった。
いや、正確に言えば電熱加熱機の作動ボタンを押したときだ。
「なにこれ、押してもいいのかな?」
まるで気流のようにシュンっとフランシスの体から何かが抜け出たように見えて、そのまま崩れ落ちるように倒れ込む。
同時に俺は駆け出していた。覇道廻廊様様といった俊敏な反応。
「あぶないっ!」
間一髪フランシスの体を抱き留めその状態を確認する。
温かな体温が腕を通して伝わってくる。
「フランシス! フランシス! どうした? しっかりしろ!」
が、しかし。
フランシスは意識を失ってしまっているのか、ピクリとも動く様子はない。
脈も小さいような気がするし、呼吸も浅い。
俺はベッドまでフランシスを運び、布団をかけてやった。
一体何がどうなったのか意味が分からない。まさか、調合台の道具は俺しか使えない?
考えているとジョカの穏やかな声が耳に届く。
【おなごは重度の魔力酔いを起こしておりまする。主殿の道具、それに触れた瞬間茫漠な魔力の奔流がおなごの体から吸い出されたでありまするな】
(魔力が吸い出された……そうか、そういえば俺も使い続けていてふらついたことが……)
【主殿はその道具を使い続けることができるでありまするか。見たところそのおなごも他の人間に比べて多い魔量を持っている様子。
ですが妾の見立てからすると、主殿の魔力量はおなごの一万倍を軽く超えておりまするな】
(い、いちまんばいっ!? 何それ! そんなの感じたこともなかったよ!?)
【おそらくはその台や道具に内包魔力の大半を割いているのでしょう。妾の見立てに間違いはないでありまする】
(そ、そうなの……)
よく分からない。よく分からないが俺はフランシスの小さな手を握っていた。
俺のせいで申し訳ないことをしてしまったという気持ちからだったのだが、その手から感じるものに俺はギョッとする。
「冷たいっ!? 脈も……弱い!」
【おなごは道具にその魔力容量全てを吸いつくされ、さらに足りない分を生命力を強制的に魔力に変換させて吸ってしまっておりまする】
(それって大丈夫なの!? 魔力酔いはどんなに激しくても死んだりはしないって聞いたことがあるけど……)
【それは通常の場合でありましょう。おなごはこのまま放っておくと死にまする】
(そ、そんな……。どうしたらいいの!? 何か手はない?)
俺はフランシスの額に当て回復魔法を試してみた。
だが、まるで意味はなかった。
いや……分かっていたことだ。魔力酔いを回復する手段は時間の経過しかない。
貴重な魔力回復系の薬を使うこともできるとフォーカス兄さんは言っていたが、そんなものはない。
いや。
まてよ。
俺は調合師だ。
思いながら調合冊子をパラパラと捲るが見つからなかった。
そりゃそうだ。魔力回復系の薬は相当に貴重なものと聞く。
それをおいそれと調合できるわけはないのだ。
【主殿、妾が最初に主殿にやったのと同じことをすれば助かるかと思いまする】
(本当!? 最初って言うと…………ま、まさか!? 覇導廻廊を開くってこと!?)
【そうありまする。やり方は簡単でありまする。口腔接触を行い覇気を送り込むだけ。妾は主殿以外、それもおなごとなんかするのは嫌でありまする故に】
「こうくッ……」
フランシスの桜色の唇。しかし……少しずつ血の気が失われて行っているのが分かる。
迷っている暇はない……けれど、良いのか!?
女の子に……いや、だが……人命が優先されるところだろ!
俺は意を決してフランシスの唇に俺の口を当てた。
やり方はよく分からない。けれど、覇気を……。
柔らかな感触、ジョカの時の頭が訳分からなくなってた時と違って俺の意識は覚醒している。
…………
ゆっくりとフランシスの瞳が開いていく。なんだかフランシスの体全体が靄のような物で包まれているような……。
そのまま口を開き……ハッとしたような表情で口元に手を当てた。
「ディルくん……私…………。!? まさか! ディルくん、私が寝てる間にチューした!?」
「あ、え、は、い、いや……ええっと……はい。しました」
「な、な、な、な、な、な」
顔がぼんっと赤くなり布団を大きく被るフランシス。
途方に暮れた俺は頭を掻くしかない。
しばしの静寂が部屋の中を埋めていく。
そして、ゆっくりとフランシスが布団から顔を……いや、目元までを覗かせた。
「……き……ん……って……」
「え……何? なんていったの?」
口は布団に覆われているため当然声は俺の耳まで届かない。
そのため顔を近付けて聞き返したのだが、再度布団をがばっとかぶり中に潜り込んでしまった。
ベッドと棚、小さな鏡や窓からの眺めをモチーフにした絵画などが置かれているだけの部屋。
コーラム家の自室よりも少しばかり小さいが、あの時よりも自由を感じられて気分は悪くない。
「っと、さっさと準備しないと」
調合表を見ながら必要になりそうな道具を準備していく。
ドアの外からは「まだ~?」というフランシスの声が聞こえてくるのだ。
焦らせないで欲しいが愚痴を言っても仕方がない。
必要なのは乳鉢乳棒、電熱加熱機やチューブに容器など…………いつもとそれほど変わらない感じかな。
まぁジョカの時の調合がちょっとおかしかっただけだし、普通はこんなもんなのかもしれない。
準備を整えた俺はフランシスを中に入れてやる。少しさび付いたドアノブが軋む。
少し緊張した面持ちのフランシスが隙間から顔を覗かせた。
「もういい? って、なにそれ! まるで研究所みたい!」
「いや、それは大袈裟だと思うけど……うん、調合師だからね、俺は」
「へぇ。その持ってるのが調合のやり方の本? ちょっと見てもいい?」
意外なことにフランシスは目を輝かせていた。
女の子がこう言うのが好きというイメージはなかったのだが、フランシスは好きなんだろうか?
調合書をパラパラと捲り軽く目を通した後、タタッと調合台に駆け寄っていく。
キョロキョロと道具類を見渡した結果台の上にある電熱加熱機がもっとも興味を引いたようで、それに触れた時であった。
いや、正確に言えば電熱加熱機の作動ボタンを押したときだ。
「なにこれ、押してもいいのかな?」
まるで気流のようにシュンっとフランシスの体から何かが抜け出たように見えて、そのまま崩れ落ちるように倒れ込む。
同時に俺は駆け出していた。覇道廻廊様様といった俊敏な反応。
「あぶないっ!」
間一髪フランシスの体を抱き留めその状態を確認する。
温かな体温が腕を通して伝わってくる。
「フランシス! フランシス! どうした? しっかりしろ!」
が、しかし。
フランシスは意識を失ってしまっているのか、ピクリとも動く様子はない。
脈も小さいような気がするし、呼吸も浅い。
俺はベッドまでフランシスを運び、布団をかけてやった。
一体何がどうなったのか意味が分からない。まさか、調合台の道具は俺しか使えない?
考えているとジョカの穏やかな声が耳に届く。
【おなごは重度の魔力酔いを起こしておりまする。主殿の道具、それに触れた瞬間茫漠な魔力の奔流がおなごの体から吸い出されたでありまするな】
(魔力が吸い出された……そうか、そういえば俺も使い続けていてふらついたことが……)
【主殿はその道具を使い続けることができるでありまするか。見たところそのおなごも他の人間に比べて多い魔量を持っている様子。
ですが妾の見立てからすると、主殿の魔力量はおなごの一万倍を軽く超えておりまするな】
(い、いちまんばいっ!? 何それ! そんなの感じたこともなかったよ!?)
【おそらくはその台や道具に内包魔力の大半を割いているのでしょう。妾の見立てに間違いはないでありまする】
(そ、そうなの……)
よく分からない。よく分からないが俺はフランシスの小さな手を握っていた。
俺のせいで申し訳ないことをしてしまったという気持ちからだったのだが、その手から感じるものに俺はギョッとする。
「冷たいっ!? 脈も……弱い!」
【おなごは道具にその魔力容量全てを吸いつくされ、さらに足りない分を生命力を強制的に魔力に変換させて吸ってしまっておりまする】
(それって大丈夫なの!? 魔力酔いはどんなに激しくても死んだりはしないって聞いたことがあるけど……)
【それは通常の場合でありましょう。おなごはこのまま放っておくと死にまする】
(そ、そんな……。どうしたらいいの!? 何か手はない?)
俺はフランシスの額に当て回復魔法を試してみた。
だが、まるで意味はなかった。
いや……分かっていたことだ。魔力酔いを回復する手段は時間の経過しかない。
貴重な魔力回復系の薬を使うこともできるとフォーカス兄さんは言っていたが、そんなものはない。
いや。
まてよ。
俺は調合師だ。
思いながら調合冊子をパラパラと捲るが見つからなかった。
そりゃそうだ。魔力回復系の薬は相当に貴重なものと聞く。
それをおいそれと調合できるわけはないのだ。
【主殿、妾が最初に主殿にやったのと同じことをすれば助かるかと思いまする】
(本当!? 最初って言うと…………ま、まさか!? 覇導廻廊を開くってこと!?)
【そうありまする。やり方は簡単でありまする。口腔接触を行い覇気を送り込むだけ。妾は主殿以外、それもおなごとなんかするのは嫌でありまする故に】
「こうくッ……」
フランシスの桜色の唇。しかし……少しずつ血の気が失われて行っているのが分かる。
迷っている暇はない……けれど、良いのか!?
女の子に……いや、だが……人命が優先されるところだろ!
俺は意を決してフランシスの唇に俺の口を当てた。
やり方はよく分からない。けれど、覇気を……。
柔らかな感触、ジョカの時の頭が訳分からなくなってた時と違って俺の意識は覚醒している。
…………
ゆっくりとフランシスの瞳が開いていく。なんだかフランシスの体全体が靄のような物で包まれているような……。
そのまま口を開き……ハッとしたような表情で口元に手を当てた。
「ディルくん……私…………。!? まさか! ディルくん、私が寝てる間にチューした!?」
「あ、え、は、い、いや……ええっと……はい。しました」
「な、な、な、な、な、な」
顔がぼんっと赤くなり布団を大きく被るフランシス。
途方に暮れた俺は頭を掻くしかない。
しばしの静寂が部屋の中を埋めていく。
そして、ゆっくりとフランシスが布団から顔を……いや、目元までを覗かせた。
「……き……ん……って……」
「え……何? なんていったの?」
口は布団に覆われているため当然声は俺の耳まで届かない。
そのため顔を近付けて聞き返したのだが、再度布団をがばっとかぶり中に潜り込んでしまった。
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