王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

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「何ですのこれ……?」

 部屋に怪しげな物はないか探してみたが、特に何かがあるような様子はなかった。
 そのまま中央の台座に目を向ける。
 周囲を囲むのは僅かに黄色い苔が光る岩肌であるが、台座は綺麗にきりぬかれた直方体がいくつも積み重なって出来たもの。
 僅かに光沢を放ち、この世界に来て見たことのある素材よりは現代のセラミックなんか近い見た目だ。

「不思議な材質ですね」

 エリーゼがコンコンと乾いた軽そうな音を奏でながら台座を確認する。

「そんなのはどうでもいいですわ。この上の箱の方ですわよ。明らかに異質というかなにか良い物でも入っていそうというか」

「私はお楽しみは最後にとっておく派なんです。でも、そうですね。エトワイアはどう思いますか?」

 どう見ても隠し部屋と宝箱、というのが俺の考えだ。
 けれど意味が分からないというのも事実。
 だれが、なぜ、何の目的でこんなことをしたのかこんなものを置いたのか。
 ダンジョンというモノが精製された現状で、そんなことを言っても仕方がないのかもしれない。
 疑問を持たずに開けてしまってもいいのかもしれないが、色々な理由から俺は二人に注意を促す。

「良い物が入っているという可能性は高いと思う。けれど罠の可能性もある。
 だから二人は部屋の外に出て待っていてくれ」

「それは開けると何か良くないことが起こるということですの?」

「ああ、可能性はある。見た所なんの仕掛けもない部屋だが天上が落ちてきたりするかもしれん。入り口を塞がれてな」

「私には分かりませんが、もしそうであるというのなら、なおさらエトワイアから離れることはできませんわ! ね、エリーゼ」

「勿論です。エトワイアを守るのが役目なのにそれでは意味がないですよ。それに死ぬときは一緒です。
 また二人でベッドで迫っちゃいますよ」

 こういう時だけは二人の連携と絆は固い。
 俺の脳裏に以前の記憶が思い出される。
 冒険者をやる上で危険なことは俺が全て引き受けると言った時、二人にベッドに押し倒されたのだ。
 勿論服は着ていたし何かをしたわけじゃないけれど、二人の吐息が耳元や首筋にかかり俺の心臓はばくついた。
 据え膳を食わねばなんちゃらというやつだったのかもしれないが、俺は二人との約束を果たすまでは一線を越えるつもりはない。
 それでこそ王子の中の王子としてこの国に君臨することができるのだ。

「二人を妻にすると尻に……いや、既に敷かれているのかもしれんな……。じゃあ、くれぐれも注意だけは怠らないでくれ」

「分かりましたわ」

「勿論です」

 嬉しそうに笑う二人の笑顔見ていると、俺も少しだけ幸せになれる。
 こんな薄暗いダンジョンの中といえどもだ。
 流石に開ける役目は俺が担い宝箱に向き合った。
 留め金を外すボタンのようなものを押し込むと、パカッと気持ちの良い音を立てて箱は開く。

「指輪……ですか?」

 箱の中に入っていたのは、エリーゼの言うとおり指輪だった。
 外側の華美な装飾とは裏腹に、つくりの地味な内部に小さな指輪が四つの転がっているだけ。
 ただ普通の指輪ではないのは明らか。
 この世界でも指輪はあるが、それは日本にあるような精緻な細工を施されたようなものではない。
 というよりそんな技術がないのだ。有り様はずがない。

 この世界の指輪は鉱山から出土する金等を加工し、きらびやかな宝石などを埋め込んだ程度の荒いつくり。
 それでも高級品であり貴族でも滅多に付けてはいない。
 アリゼッタとエリーゼもつけてはいない。結婚や婚約指輪としての風習が強いのだ。

 けれど箱の底に無造作に転がっていた指輪はどちらとも違うモノ。
 全てが同じ形で少し大きめの輪が、5ミリ程の幅で円環になっているだけだ。
 そのすべてが揺らめくような光彩を内包し、神秘的な印象を俺たちに届ける。

「ねぇエト。この指輪どう見ても変わってるから普通じゃないのは分かるんだけど……、これを婚約指輪として私達に嵌めてちょうだいよ」

「あら、それはいい考えですね!」

「3人で見つけたものなのにそれでいいのか?」

 俺は二人に婚約指輪を送っていなかった。それはまだ公にしてはいけない事項だと感じていたから。
 だが変装してる時に付ける分には駄目ではないのかもしれない。
 周りからどう見られるか分かったもんじゃないが。

「ええ、勿論ですわ。エリーゼはピンクでしょ? で、私はこの紫のがいいですわ」

「あら、アリゼッタに好みを知られてるとは思わなかったです。エトはその繋がれてるやつを両手の薬指に付けてください。二人との証として」

「左手の薬指と繋がるのは私の指輪ですわよ!」

「何を言ってるんですか! 私も左手に付けます!」

「ほらほら。二人とも薬指につければいいじゃないか。俺たちの心が繋がっていればそれでいいだろ?」

 そう言ってやると納得したのか一瞬鋭い視線を交わらせたが、俺に顔を向けて手を差し出してきた。
 女の子の指に指輪をはめた経験など勿論ない。
 ドキドキしながら指輪を嵌めていったのだが、その指輪がただの装飾品ではないとは考えてもみなかったのだ。
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