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005.猫耳の女の子です。
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じっと見つめてきている女の子。
それは単なる僕の気のせいではない。
本当は嬉しく思ったりするところなのかもしれない。
(でも女の子には全く良い思い出がないんだよね)
と、思いながら短い人生の女の子との記憶を掘り起こす。
いじめられてズボン脱がされた時も「だせぇパンツ履いてやがる」と言って笑っていた。
無視されたこともあるし、いじめている集団に進んで混ざってくるような子もいた。
可愛い幼馴染なんかがいればまた変わるのかもしれないけれど。
僕にはそんなものはいない。姉妹もいない。
けれど、現在顔を向けてきている女の子は少し気になるのも事実。
くりっとした黒色の瞳。小さい鼻に桃色の大きめの口。
ちょっとやわらかそうなほっぺたをしてて、茶色の髪が肩口でさらさら揺れている。
そして一番気になるのがフードをすこし押し上げている、ネコのような短い毛の生えた耳。
年齢的に言えば中学生くらいのような感じだけれど、柔らかな印象の中、顔立ちは整っていて結構可愛いと僕でも思う。
(僕も生物学的に男ってことなのかな。女性恐怖症というほどのものではないし)
それでもローブの下に覗くのは少し硬そうな鎧のような物を着けているし、腰には剣のようなものを差していて安心できるような相手ではない。
「あ、あのっ!」
そう思ってると僕らの方に歩み寄り声を掛けてきた。
警戒感は高まったが、ここで逃げられずに言葉を返してしまうところは、僕の弱い部分だろう。
「ええっと……?」
「その喋れる猫さん、可愛いです! 私とおんなじお耳をしています!」
大きめの口を開いて嬉しそうに見ているのはピュイの事。
確かに同じ灰と白の耳をしている。
「そうだね、ピュイ、何か話してあげてよ」
「ピュイはご主人様以外とは話さないのです! しっしなのです!」
ピュイが前足(手?)をふりながらそう言うと、女の子は泣きそうな顔になり顔を俯かせた。
別に女の子の味方をするわけではない。
けれど、女の子はピュイの事を褒めた。
なら、それにはちゃんと答えてあげるべきなんじゃないかと思うのが僕の心。
「あーあ。ピュイがそんなこと言うから……。ね、大丈夫だよ? ピュイはツンデレだから仲良くなったら話してくれるよ」
ピュイは尻尾をぴんと立て、つーんと顔をそっぽに向けたが、頭を撫でてやるとぴゅいと嬉しそうに鳴く。
「じゃあ、猫さんと仲良くなれるまで一緒にいたいです。一緒に連れてってくださいです」
「いやいや、意味がよく分からないのだけど。親御さんは?」
と僕が聞くと女の子は再度泣きそうな顔となった。
自分の言葉が原因で女の子が瞳をジワリと滲ませる。
それがこんなにも心に響くなんて思ってもみなかった。
「あーあーあー、聞いちゃ駄目だったのかな。ごめんよ。えっと、じゃあ、まずは名前! 名前から言うもんだよ!
ちなみに僕の名前は…………」
そこまで言って、しまったという気持ちが頭の中を駆け巡る。
流石に相川武蔵じゃまずいはず。
けれど、この世界の名前がどんな感じか分からない。
ムサシ、でいいなら簡単だけれど、聞いてないのだから、もしかしたら日本名が正解の可能性もあるかもしれない。
だが、そこまで考えたが、女の子の言葉で杞憂と言わんばかりに消散した。
「私の名前はキャルアって言います。私、私、両親に捨てられてしまったんです」
キャルア。というとカタカナの名前が正解ということでいいのだろう。
ということは僕の名前はムサシで良いという事。
ちょっと響きに差異があるような気がするのは仕方がない。
アメリカに行ってムサシ・アイカワにしたところで、絶対アメリカ人になれないのと同じだ。
それよりも両親に捨てられたという言葉が気にかかった。
「え、ええ!? どういうことなの?」
どうやらキャルメは獣人たるものもっと強くなくてはいけない、と親に言われて故郷からこの街へと一人旅に出されてしまったとの話。
それだと、捨てられたとは全く違うような気がするけれど、僕には口を挟むことは出来ない。
何か本当の事を隠している、それが話してみての感想。
ただ、根っからの悪人ではなさそうな気がするし、完全に嘘を言っているわけでもないような気がするが、それを見抜く経験と眼力は持ち合わせていなかった。
「えっと、どうする? ピュイ」
「私はご主人様にお任せするのです! でも、猫耳を付けた人に悪い人はいないのです!」
ピュイはどういった存在に当たるかは分からない。
けれど見た目だけ見れば完全に猫。
猫耳は当たり前のようについているし、人でもない。
それでも、今の言葉は明らかに贔屓からきているものなんじゃないかと思う。
(しかし、さっきはしっしとか言ってたのに、ピュイは本当にツンデレってやつなのかな?)
そんなことを思いながらキャルアに笑いかける。
「じゃあ、キャルア。しばらくの間よろしくね?」
「はい! よろしくおねがいします! えと……お名前……」
「あーそっか。ムサシだよ、ムサシ。ムサシって呼んでくれればいいよ」
「分かりましたです、ムサシ!」
それを聞き、あー呼び捨てで呼び合うようになっちゃった、と思ったけれど、笑顔が可愛く僕の心を僅かに弾ませたので、良しとすることにした。
それは単なる僕の気のせいではない。
本当は嬉しく思ったりするところなのかもしれない。
(でも女の子には全く良い思い出がないんだよね)
と、思いながら短い人生の女の子との記憶を掘り起こす。
いじめられてズボン脱がされた時も「だせぇパンツ履いてやがる」と言って笑っていた。
無視されたこともあるし、いじめている集団に進んで混ざってくるような子もいた。
可愛い幼馴染なんかがいればまた変わるのかもしれないけれど。
僕にはそんなものはいない。姉妹もいない。
けれど、現在顔を向けてきている女の子は少し気になるのも事実。
くりっとした黒色の瞳。小さい鼻に桃色の大きめの口。
ちょっとやわらかそうなほっぺたをしてて、茶色の髪が肩口でさらさら揺れている。
そして一番気になるのがフードをすこし押し上げている、ネコのような短い毛の生えた耳。
年齢的に言えば中学生くらいのような感じだけれど、柔らかな印象の中、顔立ちは整っていて結構可愛いと僕でも思う。
(僕も生物学的に男ってことなのかな。女性恐怖症というほどのものではないし)
それでもローブの下に覗くのは少し硬そうな鎧のような物を着けているし、腰には剣のようなものを差していて安心できるような相手ではない。
「あ、あのっ!」
そう思ってると僕らの方に歩み寄り声を掛けてきた。
警戒感は高まったが、ここで逃げられずに言葉を返してしまうところは、僕の弱い部分だろう。
「ええっと……?」
「その喋れる猫さん、可愛いです! 私とおんなじお耳をしています!」
大きめの口を開いて嬉しそうに見ているのはピュイの事。
確かに同じ灰と白の耳をしている。
「そうだね、ピュイ、何か話してあげてよ」
「ピュイはご主人様以外とは話さないのです! しっしなのです!」
ピュイが前足(手?)をふりながらそう言うと、女の子は泣きそうな顔になり顔を俯かせた。
別に女の子の味方をするわけではない。
けれど、女の子はピュイの事を褒めた。
なら、それにはちゃんと答えてあげるべきなんじゃないかと思うのが僕の心。
「あーあ。ピュイがそんなこと言うから……。ね、大丈夫だよ? ピュイはツンデレだから仲良くなったら話してくれるよ」
ピュイは尻尾をぴんと立て、つーんと顔をそっぽに向けたが、頭を撫でてやるとぴゅいと嬉しそうに鳴く。
「じゃあ、猫さんと仲良くなれるまで一緒にいたいです。一緒に連れてってくださいです」
「いやいや、意味がよく分からないのだけど。親御さんは?」
と僕が聞くと女の子は再度泣きそうな顔となった。
自分の言葉が原因で女の子が瞳をジワリと滲ませる。
それがこんなにも心に響くなんて思ってもみなかった。
「あーあーあー、聞いちゃ駄目だったのかな。ごめんよ。えっと、じゃあ、まずは名前! 名前から言うもんだよ!
ちなみに僕の名前は…………」
そこまで言って、しまったという気持ちが頭の中を駆け巡る。
流石に相川武蔵じゃまずいはず。
けれど、この世界の名前がどんな感じか分からない。
ムサシ、でいいなら簡単だけれど、聞いてないのだから、もしかしたら日本名が正解の可能性もあるかもしれない。
だが、そこまで考えたが、女の子の言葉で杞憂と言わんばかりに消散した。
「私の名前はキャルアって言います。私、私、両親に捨てられてしまったんです」
キャルア。というとカタカナの名前が正解ということでいいのだろう。
ということは僕の名前はムサシで良いという事。
ちょっと響きに差異があるような気がするのは仕方がない。
アメリカに行ってムサシ・アイカワにしたところで、絶対アメリカ人になれないのと同じだ。
それよりも両親に捨てられたという言葉が気にかかった。
「え、ええ!? どういうことなの?」
どうやらキャルメは獣人たるものもっと強くなくてはいけない、と親に言われて故郷からこの街へと一人旅に出されてしまったとの話。
それだと、捨てられたとは全く違うような気がするけれど、僕には口を挟むことは出来ない。
何か本当の事を隠している、それが話してみての感想。
ただ、根っからの悪人ではなさそうな気がするし、完全に嘘を言っているわけでもないような気がするが、それを見抜く経験と眼力は持ち合わせていなかった。
「えっと、どうする? ピュイ」
「私はご主人様にお任せするのです! でも、猫耳を付けた人に悪い人はいないのです!」
ピュイはどういった存在に当たるかは分からない。
けれど見た目だけ見れば完全に猫。
猫耳は当たり前のようについているし、人でもない。
それでも、今の言葉は明らかに贔屓からきているものなんじゃないかと思う。
(しかし、さっきはしっしとか言ってたのに、ピュイは本当にツンデレってやつなのかな?)
そんなことを思いながらキャルアに笑いかける。
「じゃあ、キャルア。しばらくの間よろしくね?」
「はい! よろしくおねがいします! えと……お名前……」
「あーそっか。ムサシだよ、ムサシ。ムサシって呼んでくれればいいよ」
「分かりましたです、ムサシ!」
それを聞き、あー呼び捨てで呼び合うようになっちゃった、と思ったけれど、笑顔が可愛く僕の心を僅かに弾ませたので、良しとすることにした。
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