のんびりダンジョン経営してたら億万長者になりました。

こたつぬこ

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018.キャルア一人でボス戦に。

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 ダンジョンのステータスを何気なく見て、キャルアの内心で考えていることが分かることに罪悪感を覚えた。

 先ほどから僕の役に立ちたいという言葉は、チラチラと視界の端に映っていた。
 どうあがいてもコンソールを操作すればステータスは目に入るのだ。

 けれど、その気持ちに対して重いだとか、嫌だとかそういう感情は全く湧いてこない。

 誰かに必要とされたい。

 その気持ちは痛いほどわかる。
 僕は誰かに必要とされたことなんてなかった。
 両親に言えばそんなことはないと言っていたかもしれない。

 でも、結局気付くチャンスはあったと思うけど、気付いてはくれなかった。
 シグナルのないSOSを出したこともあった。
 無言の救済を求めたこともあった。

 駄目だった。全てが意味がなかった。

 それはちゃんと言わない僕が悪かったのかもしれない。いじめられる僕が悪いのかもしれない。
 やっぱりそれでも気付いて欲しかったし、助けてほしかったと思う。

 だから僕はキャルアを、今日出会ったばかりの名前以外ほとんど知らない少女を、見捨てたくなかった。
 見捨てられたくなかった。失いたくはなかった。

 恋愛感情とか言ったそんな高尚なもんじゃない。
 ただただ、お互いにすがりたい。それでも大切にしたいと思えた。

「ムサシ、悲しそうな顔してます。キャルア、ボス行かないほうがいいですか?」

 不安げな顔をして覗き込んでくるキャルア。
 僕のせいで不安にさせてしまったのかと自分の軽率さを悔いた。

「いや、なんでもないよ。くれぐれも気を付けて。応援してるから頑張って!」

 そう言って笑いかけると、嬉しそうに笑い返してくれて。

「ピュイも応援しているのです! キャルア、頑張るなのです!」

 ピュイが僕の腕の中にいて、

「頑張ります!」

 キャルアが自信にあふれた背中を見せてくれる。
 何もしていない。
 ただ、今の状況だけでなんとなく幸せだなと感じていた。

 けれど、時間は待ってくれない。

 グランボアのいる部屋にはすぐ辿り着き、そして入ると同時にこげ茶の毛を逆立てた全長二メートルの猪、グランボアがキャルアに気付き二回後ろ足を蹴り突進してきた。

「わわ、です」

 いきなりの突進に驚いた様子だが、きちんと対応し剣を抜き構える。

 グランボアはどうやら体当たりだけのモンスターらしく、キャルアは闘牛士張りに避けては切り付けを繰り返し、確実にダメージを蓄積させていく。
 ザザと地を滑り円の軌跡を描きながら、確実に剣線をかすらせる。

 それを僕は見てるだけ。ピュイと一緒に見てるだけ。
 応援の言葉をかけることは出来る。
 けれど、あまり激しいと集中を欠いてしまいそうな気がして気が引ける。

 およそ五分少々それを繰り返し、キャルアが僅かに息を切らせたとき、グランボアの鼻っ面がキャルアの足に当たり、ごろんごろんと地を転がった。

「キャルア!」

 思わず名前を叫ぶ。ほんとは駆けつけたかった。
 しかし、それすらも邪魔になるだろう。
 勝負は終わるまで傍観者は何もする資格はない。
 そう思っていが、グランボアにキャルアの剣が刺さっているのが見え、ブオォ、と雄たけびを上げた後、光の粒子となり消えていった。
 そのまま剣が落ち、カランカラン、と硬質な音がダンジョンに響き渡る。

「や、やったあああああ! キャルア凄い! やったよ!」

「キャ、キャルアやりました。ボス倒せましたです」

「ピュルルル。キャルアよくやったのです! 頭撫でてあげるのです!」

 ピュイはパタパタと翼を広げ、短い手で倒れているキャルアの頭を撫でた。

「大丈夫? 立てる?」

 言いながら手を差し伸べると、嬉しそうに笑って手を取りゆっくりと立ち上がろうとする。

「お疲れ様、痛かったでしょ? 大丈夫?」

「ん、ふ。足を捻ってしまったです。でも、大丈夫です」

 口ではそう言ったが、ヒョコヒョコと歩いてみせる……が、顔をしかめているので、痛くないことはないのだろう。
 僕は落ちていた剣を拾ってキャルアの腰に戻してやると、腰をかがめて背中を向けた。

「ピュイちょっと飛んだままでお願いね。キャルア、頼りない背中だけど、宿屋までおぶっていくよ」

「ピュイは大丈夫なのです! 御主人様の優しさにピュイは感動しているのです!

「キャ、キャルア……。ムサシのご迷惑に……」

「迷惑なんかじゃないよ。僕がこうしたいからこうするんだ。ただ見てることしかできなかった僕も、ちょっとは役に立ちたいんだよ」

 そう言うとコクリと小さく頷いて、恐る恐る僕の背中に体重を預けてきた。

 小柄な体躯なのに意外とその重量は重く、僅かに足がよろめきそうになる。
 僕は歯を食いしばって地に足を付け、ゆっくりと足を踏み出していく。

 必死によろめかないように堪えて、音を上げないように気力と体力を振り絞る。
 発育の度合いが低めの体に、纏う胸当てで、話に聞く柔らかな感触なんてものはまるで感じない。

 色気のある話でも、愛嬌のある話でもない。

 それでも、

(誰かをおんぶしたことなんて初めてだな。しかも、女の子。こんなに良い匂いがして、温かくて、幸せな気分になる物なんだ)

 と感じ、

(そういえば、おんぶをしたことはなかったけど、してもらった記憶は残ってる。お父さんと、お母さんの温かい背中)

 虐げられてきたわけじゃなかった。
 生まれてきたのを否定されたわけでもなかった。
 そう思えば、世の中のもっと辛い人よりも満たされていたのかもしれない。

 そんな感情が生まれ、僕の目の端からキラリと光る雫が一滴垂れ落ち、ダンジョンの地面へと広がった。

『名無しのダンジョン』
『マスター』         「相川武蔵」
『レベル』          「5」
『ランク』          「G」
『評価値』          「3」
『保有ダンジョンポイント』  「1」
『入場者数』         「1」
『入ダンジョン料』      「0」
『使用者の意見』
「ムサシに迷惑かけてしまいましたです。でも、おんぶしてもらって、背中があったかくて、安心しましたです」
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