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第4話「意識」

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「その箱なんだよ?」
「クリスマスだから、丁度いいでしょう? せめてこのくらいは食べたって、バチ当たらないわよ」

 神崎は白い箱から、美しいケーキを取り出した。二、三人で食べるくらいの大きさのホールケーキだ。
「……え? ここで食べちゃっていいのかよ? 持って帰るつもりだったんじゃねーの?」
「? ……元々帰ったら、一人で食べるつもりだったし。半分あげるわよ」
 
 これを一人でと、女の甘い物に対する胃袋の在り方に、相楽は少し感心する。自分ならとてもこんなホールケーキを、一人で食べようなんて思わないだろう。

 ベッド横のローテーブルの上に、神崎が買って来たおでんとケーキ、相楽が作ったつまみや酒類を並べ、二人だけのささやかな、クリスマスパーティーが開かれた。

 クリスマスパーティーというには全く色気はないが、今の二人にはそれで充分だった。今日の虚しく切ない一日の締めくくりに、ぴったりだとお互い感じていた。

 特に神崎には、この暖かで穏やかな心地よい空間が、本当に有り難かった。天国とはこういう所なのではと、思ったくらいだ。
 
 ほんの少し前まで雪の降る中、いつ乗れるか分からないバスを待ち続け、空腹の中、身も心も凍えそうになりながら、惨めな今日の自分を振り返り、自分の運命を呪っていた。

 そんな中、救世主が現れた。ただの友人が天使に見えたくらいだ。捨てる神あれば拾う神ありだと、玉子酒を啜りながら、神崎は今の幸せを噛み締めた。

***

 ローテーブルの上に並べてあった、食べ物を食べ尽くし、酒を煽りながらテレビに映る、L字の交通機関情報を二人は眺めていたが、日付を跨いでも復旧の兆しはないようだった。
 スマホを確認しても、それは同じだった。
 はあっと、神崎が諦めの溜め息を吐いた。見かねた相楽はボソリと呟いた。

「……泊まっていくか?」

 しばし沈黙の間が流れた。相楽は沈黙に耐えかねて、ちらっと神崎を見遣る。神崎は驚いたように目を丸くしていた。だが一拍置いて、神崎は「いいの?」と相楽に尋ねた。
 
 更に微妙な空気が、二人の間に流れる。その後、相楽は「いいよ」と静かに答えた。


つづく
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