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Mission:インサイダー・パーティー
第16話:礼服 ~安い服しか持ってない~
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「そうだ多賀、お前、礼服って持ってる?」
昼を過ぎ、諏訪が交通課に行って、すこしがらんとした情報課会議室で、章が思いついたように言った。
「れ、礼服ですか?」
聞けば、合コンは高級レストランで行われるらしく、相応のドレスコードがあるらしい。
多賀はそんな店に行ったことなどまるでなく、高級店の存在など、半ば都市伝説とすら思っていた。
「まあ、若者ばかりだから、スーツでもいいんだけど。多賀のそれ、リクルートスーツだろ? 上下でいくらか聞いていい?」
「15,200円のスーツを、学割10%引きで買いました」
章は一瞬硬直する。実際にいくらだったのかを計算したのか、あるいは、予想外の安さに戸惑ったのかもしれない。
章も背広の仕立てはNEIGEらしく、一着で多賀の十倍の値段くらいはしそうである。
「ウブっぽくていいけど、ちょっとマズいかなぁ」
「で、ですよね……」
「ちゃんとした礼服とかはない?」
多賀の下宿には、そんなものなど当然ない。では、実家はどうかというと、
「父の紋付ならあります!」
多賀は、警察学校仕込みの、歯切れよい返事をした。
「合コン会場で着てね、それ」
「あ、いえ……」
焦る多賀を見て、章は快活に笑う。
しかし、一方で多賀の紋付袴に興味はあったのか、少し残念そうでもあった。
「すみません」
「いやいや、多賀の歳じゃ、普通持ってないよ。そういや、僕の長兄の古いタキシードが実家にある。兄の体格は多賀と同じくらいだったはずだから、それ着たら?」
「いいんですか?」
「ああ。明日の晩、僕の家においで。僕らの家まで、裕に送らせるから」
多賀は思いつく限りの礼を言って、深々と頭を下げた。
そして、翌日である。
「多賀、車出してきたから送るよ」
定時を過ぎ、西日の差している無人の会議室で待つ多賀を、裕が呼びに来た。
鼻歌交じりに自動車を発進させる裕は、驚くほど運転が上手い。
「章はもっと上手いよ」
「裕さんより?」
手先の器用さには自信があるが、運転は苦手な多賀からすれば、後ろを見ずにバックが出来る時点で人智を越えていると言っていい。
「章はセミプロだからねぇ。車だって、俺よりかなりいいの乗ってるし」
「……裕さんより?」
イセは、主にマニアック系大衆車(矛盾がある言い方にしか聞こえないが)を生産している。
どの車種にも、特段値段の違いはない。
第一、裕の洒落たワゴンは、CMを見る限り、山ほど機能のついた最新型のはずだ。
裕は完全に無視しているが、カーナビの中で様々なシステムが作動している。
開発者側が無視していいのか、という気がしないでもない。
「章は改造車に乗ってるんだよ」
「改造車?」
夜中に爆音で公道を走る改造車を想像した多賀は眉間にしわを寄せる。それに気づいたらしい裕は、うつむいて苦笑したので、助手席の多賀は少々焦った。
「自動車レースに出るようなタイプの改造車だよ。スピードは出るけど音は出ない」
「いっぺん乗ってみたいです」
「大喜びで乗せてくれるだろうけど、燃費も乗り心地もイマイチだから止めとけ」
え、と多賀が反応する前に、自動車の速度は急に落ちた。
「着いたよ。俺たちの家だ」
多賀の目の前には、タワーマンションがある。そして車内で光っていたカーナビからして、ここは都内だ。
都内のタワーマンション、なんとセレブリティ溢れる響きだろうか。
さすが、世帯年収が数千万近いだろう伊勢兄弟が住む家である。
「す、すごいですね……」
「いや、そんなことないよ」
裕はすました顔で謙遜してみせた。
昼を過ぎ、諏訪が交通課に行って、すこしがらんとした情報課会議室で、章が思いついたように言った。
「れ、礼服ですか?」
聞けば、合コンは高級レストランで行われるらしく、相応のドレスコードがあるらしい。
多賀はそんな店に行ったことなどまるでなく、高級店の存在など、半ば都市伝説とすら思っていた。
「まあ、若者ばかりだから、スーツでもいいんだけど。多賀のそれ、リクルートスーツだろ? 上下でいくらか聞いていい?」
「15,200円のスーツを、学割10%引きで買いました」
章は一瞬硬直する。実際にいくらだったのかを計算したのか、あるいは、予想外の安さに戸惑ったのかもしれない。
章も背広の仕立てはNEIGEらしく、一着で多賀の十倍の値段くらいはしそうである。
「ウブっぽくていいけど、ちょっとマズいかなぁ」
「で、ですよね……」
「ちゃんとした礼服とかはない?」
多賀の下宿には、そんなものなど当然ない。では、実家はどうかというと、
「父の紋付ならあります!」
多賀は、警察学校仕込みの、歯切れよい返事をした。
「合コン会場で着てね、それ」
「あ、いえ……」
焦る多賀を見て、章は快活に笑う。
しかし、一方で多賀の紋付袴に興味はあったのか、少し残念そうでもあった。
「すみません」
「いやいや、多賀の歳じゃ、普通持ってないよ。そういや、僕の長兄の古いタキシードが実家にある。兄の体格は多賀と同じくらいだったはずだから、それ着たら?」
「いいんですか?」
「ああ。明日の晩、僕の家においで。僕らの家まで、裕に送らせるから」
多賀は思いつく限りの礼を言って、深々と頭を下げた。
そして、翌日である。
「多賀、車出してきたから送るよ」
定時を過ぎ、西日の差している無人の会議室で待つ多賀を、裕が呼びに来た。
鼻歌交じりに自動車を発進させる裕は、驚くほど運転が上手い。
「章はもっと上手いよ」
「裕さんより?」
手先の器用さには自信があるが、運転は苦手な多賀からすれば、後ろを見ずにバックが出来る時点で人智を越えていると言っていい。
「章はセミプロだからねぇ。車だって、俺よりかなりいいの乗ってるし」
「……裕さんより?」
イセは、主にマニアック系大衆車(矛盾がある言い方にしか聞こえないが)を生産している。
どの車種にも、特段値段の違いはない。
第一、裕の洒落たワゴンは、CMを見る限り、山ほど機能のついた最新型のはずだ。
裕は完全に無視しているが、カーナビの中で様々なシステムが作動している。
開発者側が無視していいのか、という気がしないでもない。
「章は改造車に乗ってるんだよ」
「改造車?」
夜中に爆音で公道を走る改造車を想像した多賀は眉間にしわを寄せる。それに気づいたらしい裕は、うつむいて苦笑したので、助手席の多賀は少々焦った。
「自動車レースに出るようなタイプの改造車だよ。スピードは出るけど音は出ない」
「いっぺん乗ってみたいです」
「大喜びで乗せてくれるだろうけど、燃費も乗り心地もイマイチだから止めとけ」
え、と多賀が反応する前に、自動車の速度は急に落ちた。
「着いたよ。俺たちの家だ」
多賀の目の前には、タワーマンションがある。そして車内で光っていたカーナビからして、ここは都内だ。
都内のタワーマンション、なんとセレブリティ溢れる響きだろうか。
さすが、世帯年収が数千万近いだろう伊勢兄弟が住む家である。
「す、すごいですね……」
「いや、そんなことないよ」
裕はすました顔で謙遜してみせた。
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