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Mission:大地に光を
第53話:会遇 ~その人選は正しくない~
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「あ、博実くん、富士さんに挨拶いく時間やわ」
つまらない案内も終わりに差し掛かった頃、ふと壁にかけられた時計を見て、辻が言った。
「会わせていただけるの?」
荷物を失ったショックを隠しながら、富士に心酔する男を演じるのは面倒この上ない。
絞り出すようにそう言ったが、会って間もないからか、辻は下手くそな三嶋の演技に何も気づいていないようだった。
「幹部候補生の子は、だいたい初めに面通しやねん」
「……そうなんだ。ありがたい限りだね」
「その前に、とりあえず着替えてもらおかな」
「着替え?」
元々申し送りにあった内容である上、辻の白ずくめの格好を見て薄々察しはしていたが、とぼけておく。
「うちでは、女子は白ブラウスと白スカート、男子は白シャツと黒パンツって決まってるから」
隙のない笑顔で三嶋は頷く。なんとまあ汚れやすそうな服だこと。だが、いかにも宗教団体らしいといえばらしい。
管理部と呼ばれる部署に連れられた三嶋は、辻に言われるがままに備品申請書を書いて服を受け取り、男子トイレでいそいそと着替える。坂上弥恵が総務部のトップになってからというもの、備品をもらうには何でもかんでも申請書が必要になったのだと辻がこぼした。辻にしては珍しく、声の中にわずかにとげが含まれている。
辻と坂上は仲が悪そうだな。三嶋は機敏に察した。
辻と雑談する間に富士の部屋にたどり着いた。辻の言葉は完全に戻り、さっき見えたとげは勘違いだったか、とすら三嶋が思い始めた頃である。富士の部屋は、教団の施設の地下部分にあった。しかも、地上から何階も降りた先で、それはおそらく施設の最深部だった。信者から搾取した金で穴を掘れば随分深くまで掘れるらしい。
「富士さん。博実くんを連れてまいりました」
やたらタメ口を強要する割に、富士に対しては敬語だ。
中から返事はなかったが、辻はすっと扉を開けた。変な匂いのする部屋だった。お香を焚いているのだろう。
あまり広くない畳張りの部屋の中央で座イスに座っている男が富士らしい。風呂に入っているのかもわからないような薄汚い中年を予想していたが、まるで異なる若々しい男だった。三嶋と同じく白シャツと黒パンツ、そしてきっちりと髪には整髪料が塗られている。時代に合っていないオールバックだが、これは教団の前身で教祖だった富士隆から受け継いだスタイルらしい。
この男、経歴からすれば今年で三〇代中盤になるはずだが、外見では伊勢兄弟と同年齢のようにも見えた。つまり若い。
「三嶋博実くんです」
うやうやしく膝を立てて座った辻に合わせ、三嶋も同様にしゃがむ。
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「三嶋政実大臣の息子さんなんだってね」
優しそうな言葉遣いではあるが直球だな、と三嶋は思った。
「はい。次男でございます」
「我々はどうしても世間から疎くなってしまうから、世間の事情の最先端を知る人に来てもらいたくてね。ありがたい話だったよ」
本当にそうなら明らかに人選を間違っているが、三嶋は黙っていた。黙っていれば、富士が自らの目論見をいくらでも吐いてくれる。優秀なカモだ。
つまらない案内も終わりに差し掛かった頃、ふと壁にかけられた時計を見て、辻が言った。
「会わせていただけるの?」
荷物を失ったショックを隠しながら、富士に心酔する男を演じるのは面倒この上ない。
絞り出すようにそう言ったが、会って間もないからか、辻は下手くそな三嶋の演技に何も気づいていないようだった。
「幹部候補生の子は、だいたい初めに面通しやねん」
「……そうなんだ。ありがたい限りだね」
「その前に、とりあえず着替えてもらおかな」
「着替え?」
元々申し送りにあった内容である上、辻の白ずくめの格好を見て薄々察しはしていたが、とぼけておく。
「うちでは、女子は白ブラウスと白スカート、男子は白シャツと黒パンツって決まってるから」
隙のない笑顔で三嶋は頷く。なんとまあ汚れやすそうな服だこと。だが、いかにも宗教団体らしいといえばらしい。
管理部と呼ばれる部署に連れられた三嶋は、辻に言われるがままに備品申請書を書いて服を受け取り、男子トイレでいそいそと着替える。坂上弥恵が総務部のトップになってからというもの、備品をもらうには何でもかんでも申請書が必要になったのだと辻がこぼした。辻にしては珍しく、声の中にわずかにとげが含まれている。
辻と坂上は仲が悪そうだな。三嶋は機敏に察した。
辻と雑談する間に富士の部屋にたどり着いた。辻の言葉は完全に戻り、さっき見えたとげは勘違いだったか、とすら三嶋が思い始めた頃である。富士の部屋は、教団の施設の地下部分にあった。しかも、地上から何階も降りた先で、それはおそらく施設の最深部だった。信者から搾取した金で穴を掘れば随分深くまで掘れるらしい。
「富士さん。博実くんを連れてまいりました」
やたらタメ口を強要する割に、富士に対しては敬語だ。
中から返事はなかったが、辻はすっと扉を開けた。変な匂いのする部屋だった。お香を焚いているのだろう。
あまり広くない畳張りの部屋の中央で座イスに座っている男が富士らしい。風呂に入っているのかもわからないような薄汚い中年を予想していたが、まるで異なる若々しい男だった。三嶋と同じく白シャツと黒パンツ、そしてきっちりと髪には整髪料が塗られている。時代に合っていないオールバックだが、これは教団の前身で教祖だった富士隆から受け継いだスタイルらしい。
この男、経歴からすれば今年で三〇代中盤になるはずだが、外見では伊勢兄弟と同年齢のようにも見えた。つまり若い。
「三嶋博実くんです」
うやうやしく膝を立てて座った辻に合わせ、三嶋も同様にしゃがむ。
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「三嶋政実大臣の息子さんなんだってね」
優しそうな言葉遣いではあるが直球だな、と三嶋は思った。
「はい。次男でございます」
「我々はどうしても世間から疎くなってしまうから、世間の事情の最先端を知る人に来てもらいたくてね。ありがたい話だったよ」
本当にそうなら明らかに人選を間違っているが、三嶋は黙っていた。黙っていれば、富士が自らの目論見をいくらでも吐いてくれる。優秀なカモだ。
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