異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第37話:学者の結論と旅立ちの気配。ルーク様、あなたの『何もしない』が世界を救うのです!たぶん

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 サザンベルク伯爵家のご子息、オーギュスト坊ちゃまが、モフモフの前に完全敗北を喫したあの日から、数日が過ぎた。
 あの一件以来、オーギュスト坊ちゃまから俺への風当たりは皆無となり、むしろ若干避けられているような気さえする。
 まあ、俺としては願ったり叶ったりなので、特に気にしていない。

 一方、学者先生ことエリオットさんは、相変わらず熱心にアスターテ領の調査(という名の俺とモルの観察)を続けていた。
 彼の羊皮紙のノートには、びっしりと何やら難しい文字や記号が書き込まれており、時折それを眺めては深いため息をついたり、逆に目をキラキラさせて何かを閃いたようにペンを走らせたりしている。
 俺にはさっぱり理解できないが、とにかく彼がこの土地と、俺たちの何かに強い興味を抱いていることだけは確かだった。

 そんなある日の午後、エリオットさんは珍しく、俺とモルが日向ぼっこをしているカシワの木の下へやってきた。
 その表情は、いつもより少しだけ真剣で、どこか決意を秘めているようにも見える。

「ルーク様、モル殿。少し、お話してもよろしいでしょうか」

 エリオットさんは、丁寧にそう切り出した。
 ちなみに、いつの間にかモルも「モル殿」と敬称付きで呼ばれるようになっていた。学者先生の中では、モルは相当偉い生き物らしい。

「うん、いいよ。どうしたの、エリオットお兄さん?」

 俺がそう答えると、エリオットさんは一度ごくりと喉を鳴らし、言葉を選びながら話し始めた。

「実は……私、近いうちにこのアスターテの地を離れ、王都へ戻ろうと考えております。当初の目的であった、この地の豊穣の秘密……その一端に触れることができたと、私は考えておりますので」

「えっ、もう帰っちゃうの?」

 少しだけ驚いた。
 もっと長く滞在して、この土地の『謎』を解き明かすまで粘るのかと思っていたからだ。
 少しだけ、名残惜しいような気もする。

 エリオットさんは、俺の反応を見て、ふっと微笑んだ。

「はい。ですが、ルーク様……そして、このモル殿と出会えたことは、私にとって何物にも代えがたい、貴重な経験となりました。あなた方は、このアスターテ領にとって、かけがえのない『祝福』そのものです。あなた方がただここに存在し、日々を健やかに過ごされること。それ自体が、この土地に計り知れないほどの恩恵をもたらしている……私は、そう結論づけました」

 その言葉は、まるで詩の一節のように、穏やかで、そしてどこか確信に満ちていた。

「あなたのその力は、おそらくご自身でもまだ完全には理解されていない、極めて稀有で、そして尊いものです。どうか、これからも変わらず、このアスターテの地で、あなたらしく、モル殿と共に、幸せにお過ごしください。それが、この土地の豊かさと平和を維持する、何よりの方法なのだと、私は信じております」

 エリオットさんは、そう言うと、俺の小さな手を両手で優しく包み込んだ。
 その真摯な態度に、俺は少しだけ戸惑ってしまう。

(えっと……つまり、俺は何もしなくてもいいってこと……? それって、最高の褒め言葉じゃないか……!?)

 学者先生が何を言っているのか、正直半分も理解できなかったが、どうやら俺の『何もしない生活』が、何らかの形でこの土地のためになっているらしい、ということだけは分かった。
 それは、俺にとって、これ以上ないほど都合の良い結論だ。

「うん!わかったよ、エリオットお兄さん! 僕、これからもモルとずーっと仲良く、ここで楽しく暮らすね!」

 俺が満面の笑みでそう答えると、エリオットさんは、満足そうに頷いた。

「ええ、それが一番です。……ただ、一つだけ。あなたのその素晴らしい力は、時に心ない者たちに狙われる可能性もございます。どうか、ご自身の力を過信せず、そして、むやみに他言なさらぬよう……それが、あなた自身と、この土地を守ることに繋がるでしょう」

 その言葉には、わずかながら心配の色が滲んでいた。
 俺は、その忠告を素直に受け止めることにした。まあ、そもそも他言するような力があるとも思っていないし、面倒なことに巻き込まれるのはごめんだからな。

 エリオットさんは、何か吹っ切れたような、それでいて少し寂しそうな複雑な表情で立ち上がると、俺とモルに改めて一礼した。

「旅立ちの準備が整いましたら、改めて皆様にご挨拶に伺います。それまで、どうかお元気で、ルーク様、モル殿」

 そう言い残し、エリオットさんは客間へと戻っていった。
 彼が、このアスターテ領で何を発見し、何を結論づけたのか。
 その詳細は、俺には分からない。
 だが、彼が残していった「あなたらしく、幸せに過ごしてください」という言葉は、不思議と俺の心に温かく残った。
 学者先生は、近いうちに帰ってしまうらしい。やっぱり、少しだけ、寂しいな、と俺は思った。
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