異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第38話:春の市と『幸せのクッキー』再び。また僕の名前で変なものが売られてるんですが!?

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 エリオットお兄さんがアスターテ領に滞在して数日が過ぎ、彼が熱心に何かを調査しているのを横目に、俺はいつも通りモルとのんびり過ごしていた。そんな穏やかな日々に、町が少しだけ賑やかになる楽しいイベントが近づいていた。
 アスターテ領では、春の訪れと豊かな実りを願って、年に一度「春の市」が開かれるのだ。
 秋の大収穫祭ほどではないけれど、領都の広場には様々な露店が立ち並び、近隣の村からも多くの人がやってくる。

「ルークちゃん、明日は春の市ですって!きっと美味しいものがたくさんありますわよ!」

 朝食の席で、母セレスティーナが嬉しそうに俺に告げた。
 俺はもちろん、その言葉に目を輝かせた(主に『美味しいもの』という部分に)。

(春の市……ということは、春限定の特別なおやつがあるかもしれない……!これは行かねばなるまい!)

 翌日、俺は家族みんなで領都アスターテへと向かった。
 モルも、お出かけ用の小さなバスケット(姉セシルの手作りだ)にすっぽりと収まり、俺の腕の中で大人しくしている。
 春の市は、予想以上の賑わいだった。
 広場には、色とりどりの布地や手工芸品、採れたての新鮮な野菜や果物、そして何よりも魅力的な、甘い香りを漂わせるお菓子の露店がずらりと並んでいる。

「わぁ……!どれも美味しそうだなぁ……!」

 俺は、目をキラキラさせながら、あちこちの露店を指差す。
 父や兄たちは、そんな俺の姿を微笑ましそうに見守り、気前よく色々なお菓子を買ってくれた。
 春摘みベリーのタルト、花の蜜を練り込んだ飴、焼きたてのハーブクッキー……。
 どれもこれも、春の恵みがたっぷり詰まった、優しい味わいだ。
 もちろん、モルにもこっそりおすそ分けするのを忘れない。

 一通り食べ歩きを楽しんだ後、俺はふと、見覚えのある人だかりを見つけた。
 確か、秋の収穫祭の時にもあった、チャリティーの出店だ。
 そこでは、メイド長のマーサが、にこやかに何かを販売している。
 そして、その商品の前には、なぜか長い行列ができていた。

(あれ……? マーサ、何を売ってるんだろう……?)

 興味本位で近づいてみると、そこには、可愛らしい小箱に詰められた、色とりどりのハーブクッキーが並べられていた。
 そして、その横には、またしても達筆な立て札が。

『クライネル家メイド長謹製! 春の妖精の祝福クッキー ~ルーク坊ちゃまお気に入り~(お一人様一箱限り・幸運のお守り付き)』

(…………またか)

 俺は、デジャヴを感じずにはいられなかった。
 どうやらマーサは、俺が先日厨房で「春の香りのハーブティー」を作った際、余ったハーブと俺の『魔法』で風味付けした生地を使って、またしても勝手にクッキーを焼き上げ、出品しているらしい。
 しかも、今回は『ルーク坊ちゃまお気に入り』という、余計なキャッチコピーまでついている。
 俺は別に、このクッキーがお気に入りというわけでは……いや、確かに美味しいけども。

 行列に並んでいる人々は、口々にそのクッキーの評判を噂していた。

「聞いたかい?このクッキーを食べると、なんだか良いことがあるらしいぜ!」
「ええ、そうなのよ!隣の奥さんなんて、これを食べたら長年悩んでた肩こりが治ったって言うじゃない!」
「うちの娘も、これを食べたら試験に合格したんだとさ!まさに『幸せ運ぶ妖精のクッキー』だよ!」

(……いやいや、肩こりとか試験合格とか、それはさすがに盛りすぎでは……?)

 俺は、そのあまりのトンデモエピソードに、若干引いてしまう。
 俺の『生活魔法』に、そんな万能な効果があるとは到底思えない。
 せいぜい、食べた人がちょっとだけ幸せな気分になる、程度のはずだ。
 だが、人々は真剣な顔でそのクッキーを買い求め、ありがたそうに手にしている。

 ちょうどその時、俺の存在に気づいたマーサが、満面の笑みで手招きしてきた。

「ルーク坊ちゃま!いらっしゃいませ!坊ちゃまのおかげで、このクッキーも大評判でございますよ!」

「あ、うん……そうなんだ……よかったね、マーサ……(棒読み)」

 俺が曖昧に返事をすると、マーサは「これも坊ちゃまのお力添えあってこそですわ」と、なぜか感極まったように目を潤ませている。
 もう、何をどうツッコんでいいのか分からない。

 結局、俺はその場からそそくさと退散し、別の露店で売っていた、串焼きソーセージの魅力的な匂いに誘われていった。
 自分の知らないところで、自分の名前(とお気に入りという触れ込み)が勝手に使われ、何やらすごい評判を呼んでいるらしいが……まあ、誰かが幸せになっているのなら、それでいいのかもしれない。
 俺は、熱々のソーセージを頬張りながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
 春の市は、今日も平和で、そして美味しいもので溢れていた。
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