異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~

第45話:元凶エリオットの王都報告! 『規格外の祝福』を持つ少年と『幻の聖獣』…アカデミー上層部が色めき立つ!?

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 王国の首都、その一角にそびえ立つ『王立魔法アカデミー』。
 その一室、若き魔法研究者エリオット・アシュフォードの個人研究室は、堆く積まれた書物と、雑多ながらも系統だって整理された研究資料に埋もれていた。

 エリオットは、アスターテ領での濃密な数週間を記録した分厚いノートを閉じ、ふぅ、と小さく息をついた。
 机の隅には、大切に仕舞われていたルークお手製のクッキーが、残り数枚となっている。時折、それを一枚取り出しては、あの日の味と香りを思い出し、研究の合間の癒やしとしていた。

(クライネル子爵家三男、ルーク・クライネル様……いや、やはり『ルーク様』と呼ぶのがしっくりくるか。彼のあの力は、既存の魔法体系では到底説明がつかない。まさに『祝福』と呼ぶにふさわしい、尊く、そして底知れないものだ)

 エリオットは、ルークに宛てて先ほど発送した手紙と小包のことを思い出していた。
 王都で見つけた珍しいハーブの種とドライハーブ。あれらが、あの少年の手に渡れば、きっと想像を超える素晴らしいものへと変わるのだろう。そんな確信にも似た期待があった。

(彼の無邪気な行動一つ一つが、周囲に計り知れない恩恵をもたらしている。あの土地の異常なまでの豊穣さ、人々の穏やかさ、そして何より、あの『モル殿』の存在……全てが、ルーク様を中心に調和しているかのようだ)

 しかし、その一方で、エリオットの胸には学術的な探求心とは別に、ある種の『保護欲』にも似た感情が芽生えていた。
 あのアスターテ領での特異現象をアカデミーに報告したこと自体に後悔はない。研究者として、それは当然の義務だった。
 だが、報告を受けた上層部や、一部の有力な魔法使いたちが示した過剰なまでの関心には、一抹の不安を覚えざるを得なかった。

(彼らは、ルーク様の力を、そしてアスターテ領を、純粋な学術的興味だけで見ているだろうか? あの穏やかな土地と、彼の『ゆるふわ』な日常が、外部からの無遠慮な干渉によって乱されることだけは避けなければならない……)

 エリオットは机の上に広げられた、アスターテ領から持ち帰った土壌サンプルや植物片の分析データに目を落とした。
 そこには、目を疑うような数値が並んでいた。
 通常の土壌では考えられないほどの生命力活性値。植物片から検出される、微弱ながらも極めて質の高い魔力反応。

「やはり、あの土地自体が、そしてルーク様自身が『規格外』なのだ……! このデータを見れば、どんな頑迷な学者でも、アスターテ領の特異性を認めざるを得ないだろう」

 だが、同時に、この情報が野心的な者たちの手に渡ればどうなるか。
 想像するだに恐ろしい。

(私がすべきことは、この力の『価値』を正しく評価し、同時にその『危険性』を訴え、ルーク様とアスターテ領を守るための理論武装をすることだ。そして何よりも……)

 エリオットは、窓の外に広がる王都の喧騒から目を逸らし、遠いアスターテの空に想いを馳せた。
 あの小さな少年と、その傍らに寄り添う銀色の『もふもふ』。

(彼らが、ただ穏やかに、幸せに過ごすこと。それこそが、この世界にとって、最も価値あることなのかもしれない……。そのためなら、私はどんな努力も惜しまない)

 若き研究者は、静かに、しかし固い決意を胸に刻む。
 ルーク・クライネルという存在が、彼の研究者人生において、そしてあるいはこの世界の未来において、どれほど大きな意味を持つことになるのか。
 その壮大な物語の序章が、今、静かに動き出そうとしていた。
 エリオット自身も、まだその全貌を知る由もなかったが。
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