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第3部:ゆるふわスローライフは守られるべき! ~ちょっぴり騒がしい、お客様と秘密のお手紙~
第67話:収穫祭の夜、小さな願い事…そして王都では『アスターテ狂騒曲』の序章が始まる!
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太陽が西の空に傾き、アスターテの街が夕焼け色に染まる頃、収穫祭の喧騒は、心地よい賑わいへと変わっていた。
広場の中央には大きな篝火が焚かれ、その周りでは領民たちが手を取り合って踊り、陽気な音楽が奏でられている。
空気中には、香ばしい料理の匂いと、果実酒の甘い香りが満ちていて、誰もが笑顔でこの豊かな実りの日を祝っていた。
僕も、家族みんなと一緒に、その輪の中心で楽しい時間を過ごしていた。
父様や母様は、領民たちからの祝福の言葉ににこやかに応え、兄様たちは若い衆と力比べをしたり、姉様は子供たちに絵本の読み聞かせをしたりしている。
モルは僕の肩の上で、クロは僕の足元で、この温かい雰囲気を一緒に楽しんでいるようだ。
ティンクも、こっそり僕のところにやってきて、キラキラした粉を振りまきながら、楽しそうに踊っていた。
アルフレッドさんとレオナルドさんも、すっかりこのお祭りの雰囲気に溶け込んでいた。
アルフレッドさんは、領民たちが歌う古い収穫の歌に聞き入り、その歌詞や旋律に何か学術的な発見がないかと熱心にメモを取っている。
レオナルドさんはといえば、美味しいお酒と料理を片手に、普段の澄ました態度はどこへやら、領民たちと肩を組んで談笑したり、時には下手くそな踊りを披露したりして、すっかりご機嫌な様子だった。
「いやあ、クライネル子爵! このアスターテ領は、本当に素晴らしい土地ですな! こんなに心が豊かになる祭りは、王国広しといえど、そうそう経験できるものではありませんぞ!」
すっかり酔いが回ったレオナルドさんが、大きな声で父様に絡んでいる。
「もし……もし、この私がクライネル家の食客として、末席にでも加えていただけるのなら……毎日この美味いものが食え、こんな楽しい日々が送れるのなら……ヴァイス侯爵家の籍など、喜んで捨ててみせますぞ! はっはっは!」
その言葉は、半分以上本気だったのかもしれない。
父様は「それはそれは、光栄なことで」と苦笑いしている。
アルフレッドさんも、赤ら顔で「ヴァイス殿、あなたという人は……! しかし……この環境で研究を続けられるなら、私もアカデミーの堅苦しい規則など……いや、何を言っているんだ私は……!」と、本音がだだ漏れになっていた。
二人とも、すっかりアスターテ領の『魔力』に当てられてしまったようだ。
僕は、そんな大人たちの楽しそうな様子を微笑ましく眺めながら、ふと夜空を見上げた。
満天の星空が、まるでダイヤモンドを散りばめたようにキラキラと輝いている。
そして、その中を、一筋の流れ星がすーっと尾を引いて消えていった。
(あ、流れ星だ……!)
僕は、慌てて両手を胸の前で組み、ぎゅっと目を閉じて、心の中で小さな願い事をした。
(どうか、僕の大好きなみんなが、ずーっとずーっと笑顔で、毎日おいしいものをいっぱい食べて、幸せに暮らせますように。そして、僕はずーっと、モルとクロと、ティンクと、お昼寝したり、遊んだりしていたいなぁ……)
それは、僕にとっては一番大切で、一番切実な願い。
目を開けると、流れ星はもう消えていたけど、なんだか心がぽかぽかと温かくなった。
きっと、この願いは届いたはずだ。
その頃――。
遠く離れた王都では、アスターテ領からもたらされた『衝撃的な報告』が、ある人物の元へと届けられていた。
場所は、王城の一角に構えられた、壮麗にして華美な執務室。
部屋の主は、長く艶やかな銀髪を揺らし、見る者を射竦めるような怜悧な美貌を持つ、この国でも屈指の権力者の一人――公爵夫人にして、国王の姉でもある、イザベラ・フォン・エルムガルドその人だった。
彼女は、侍従から差し出された分厚い報告書――アスターテ領の異常な豊穣、奇跡としか思えない味の菓子、そして『祝福』とも呼ぶべき力を持つ可能性のある少年、ルーク・クライネルに関する詳細な記述――に、ゆっくりと目を通していた。
その美しい顔には、何の感情も浮かんでいないように見える。
しかし、報告書を読み終えた彼女の唇の端に、ほんの僅かな、しかし確かな笑みが浮かんだのを、長年彼女に仕える侍従は見逃さなかった。
「……アスターテの子爵家の三男坊……ルーク・クライネル、とな……。ふふっ、面白い……実に、面白いわね……」
イザベラは、まるで極上の玩具を見つけた子供のような、妖艶で、そしてどこか危険な光をその瞳に宿して呟いた。
「エリオット君の報告も、あながち大袈裟ではなかったようね。むしろ、まだ何かを隠しているかもしれないわ……。これは、一度、この私の目で確かめてみる必要がありそうね……。『神々に愛された土地』と、その『小さき天使』の正体を……」
その言葉は、静かな執務室に低く響き渡り、アスターテ領で繰り広げられている平和な収穫祭の喧騒とは裏腹に、新たな波乱の始まりを予感させるものだった。
ルークのゆるふわスローライフは、本人のあずかり知らぬところで、王都の権力者たちをも巻き込む『アスターテ狂騒曲』の序章を奏で始めていたのである。
――もちろん、そんなこととは全く無関係に、ルークは収穫祭の綿あめを頬張りながら、次の露店はどこにしようかと、目を輝かせているのだった。
広場の中央には大きな篝火が焚かれ、その周りでは領民たちが手を取り合って踊り、陽気な音楽が奏でられている。
空気中には、香ばしい料理の匂いと、果実酒の甘い香りが満ちていて、誰もが笑顔でこの豊かな実りの日を祝っていた。
僕も、家族みんなと一緒に、その輪の中心で楽しい時間を過ごしていた。
父様や母様は、領民たちからの祝福の言葉ににこやかに応え、兄様たちは若い衆と力比べをしたり、姉様は子供たちに絵本の読み聞かせをしたりしている。
モルは僕の肩の上で、クロは僕の足元で、この温かい雰囲気を一緒に楽しんでいるようだ。
ティンクも、こっそり僕のところにやってきて、キラキラした粉を振りまきながら、楽しそうに踊っていた。
アルフレッドさんとレオナルドさんも、すっかりこのお祭りの雰囲気に溶け込んでいた。
アルフレッドさんは、領民たちが歌う古い収穫の歌に聞き入り、その歌詞や旋律に何か学術的な発見がないかと熱心にメモを取っている。
レオナルドさんはといえば、美味しいお酒と料理を片手に、普段の澄ました態度はどこへやら、領民たちと肩を組んで談笑したり、時には下手くそな踊りを披露したりして、すっかりご機嫌な様子だった。
「いやあ、クライネル子爵! このアスターテ領は、本当に素晴らしい土地ですな! こんなに心が豊かになる祭りは、王国広しといえど、そうそう経験できるものではありませんぞ!」
すっかり酔いが回ったレオナルドさんが、大きな声で父様に絡んでいる。
「もし……もし、この私がクライネル家の食客として、末席にでも加えていただけるのなら……毎日この美味いものが食え、こんな楽しい日々が送れるのなら……ヴァイス侯爵家の籍など、喜んで捨ててみせますぞ! はっはっは!」
その言葉は、半分以上本気だったのかもしれない。
父様は「それはそれは、光栄なことで」と苦笑いしている。
アルフレッドさんも、赤ら顔で「ヴァイス殿、あなたという人は……! しかし……この環境で研究を続けられるなら、私もアカデミーの堅苦しい規則など……いや、何を言っているんだ私は……!」と、本音がだだ漏れになっていた。
二人とも、すっかりアスターテ領の『魔力』に当てられてしまったようだ。
僕は、そんな大人たちの楽しそうな様子を微笑ましく眺めながら、ふと夜空を見上げた。
満天の星空が、まるでダイヤモンドを散りばめたようにキラキラと輝いている。
そして、その中を、一筋の流れ星がすーっと尾を引いて消えていった。
(あ、流れ星だ……!)
僕は、慌てて両手を胸の前で組み、ぎゅっと目を閉じて、心の中で小さな願い事をした。
(どうか、僕の大好きなみんなが、ずーっとずーっと笑顔で、毎日おいしいものをいっぱい食べて、幸せに暮らせますように。そして、僕はずーっと、モルとクロと、ティンクと、お昼寝したり、遊んだりしていたいなぁ……)
それは、僕にとっては一番大切で、一番切実な願い。
目を開けると、流れ星はもう消えていたけど、なんだか心がぽかぽかと温かくなった。
きっと、この願いは届いたはずだ。
その頃――。
遠く離れた王都では、アスターテ領からもたらされた『衝撃的な報告』が、ある人物の元へと届けられていた。
場所は、王城の一角に構えられた、壮麗にして華美な執務室。
部屋の主は、長く艶やかな銀髪を揺らし、見る者を射竦めるような怜悧な美貌を持つ、この国でも屈指の権力者の一人――公爵夫人にして、国王の姉でもある、イザベラ・フォン・エルムガルドその人だった。
彼女は、侍従から差し出された分厚い報告書――アスターテ領の異常な豊穣、奇跡としか思えない味の菓子、そして『祝福』とも呼ぶべき力を持つ可能性のある少年、ルーク・クライネルに関する詳細な記述――に、ゆっくりと目を通していた。
その美しい顔には、何の感情も浮かんでいないように見える。
しかし、報告書を読み終えた彼女の唇の端に、ほんの僅かな、しかし確かな笑みが浮かんだのを、長年彼女に仕える侍従は見逃さなかった。
「……アスターテの子爵家の三男坊……ルーク・クライネル、とな……。ふふっ、面白い……実に、面白いわね……」
イザベラは、まるで極上の玩具を見つけた子供のような、妖艶で、そしてどこか危険な光をその瞳に宿して呟いた。
「エリオット君の報告も、あながち大袈裟ではなかったようね。むしろ、まだ何かを隠しているかもしれないわ……。これは、一度、この私の目で確かめてみる必要がありそうね……。『神々に愛された土地』と、その『小さき天使』の正体を……」
その言葉は、静かな執務室に低く響き渡り、アスターテ領で繰り広げられている平和な収穫祭の喧騒とは裏腹に、新たな波乱の始まりを予感させるものだった。
ルークのゆるふわスローライフは、本人のあずかり知らぬところで、王都の権力者たちをも巻き込む『アスターテ狂騒曲』の序章を奏で始めていたのである。
――もちろん、そんなこととは全く無関係に、ルークは収穫祭の綿あめを頬張りながら、次の露店はどこにしようかと、目を輝かせているのだった。
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