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第3章 校外学習で色々稼ごう

36.二次試験

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「ここが二次試験の会場ですね」

 試験会場は体育館みたいなところで、木目調の特有の床が広がり、壁は小さな穴がたくさん空いている。どうやら防音仕様っぽい。
 しかし、体育館と違う感じがするのは床に1本のテープによる線しか無いことだろうか。

「簡単な試験についての説明をさせてもらうと、先程の試験の的が近づいたものです。
 それを詳しく言うと、的の強度がさっきの3倍になり的の大きさが70センチメートルと少し小さくなりました。距離は見ての通り近づいていて、10メートルしか離れていません。
 それ以外はそこの『ラインを出ないで的を狙う』『スキルの使用』などは変わりません」

 的の強度が3倍か。
 皆ならそれくらいなら造作もないことだと思うが、心配と言えばさっきのエンセリアのように、エリックさんの試験後の仕事を増してしまいそうになることだろう。

「これもさっきの順番ということでいいか?」

 みんなそれでいいという感じだ。
 ということは今回もカリスからだろう。


「じゃあ、もう少し頑張るとするかー」

 カリスはそんなことを言いながらあまり意味がないと思うが、肩を回しながら何故か準備運動みたいのをして気合いを入れているようだ。

 それをやめたと思うと、的に向かい赤い直径30センチメートル程の火の球を飛ばす。

 火の球が的に当たると、雷が近くで落ちてきたかのような轟音がこの施設に響く。
 つまり、爆発する爆弾のようなものだったらしい。

 的はそんな攻撃に耐えられる訳もなく、バラバラになって地面に転がっていた。

「これは合格のようですね。ちょっと的を来ますね」

 今、とエリックさんは言った?今まではと言っていたのにと聞こえたのは俺の聞き間違え?
 いや、そんなことは無かったはずだ。
 となると言い間違えか、ほんとにそうするかとなるが果たしてどっちなのだろうか。

 そんなことを考えながら注意深くエリックさんの様子を見る。

 ここでも的のあたりまで一瞬で移動した。
 しかし、今回は的を支えていた棒の部分を何やら操作している。

 すると散らばっていた的は、強い磁力に引き寄せられたかのようにまっすぐもとの位置に戻り、俺達が試験を始める前と同じ状態に戻った。

 確かにこれは直すだな。
 さっき妙に的があれだけ壊れているのに、それを支える棒はしっかりと残っていて曲がってもいなかったのかと疑問だったが、再利用するために頑丈だったのかと納得する。

 しかし、こうなると外にあった的もこれを採用しないのかが疑問となる。後で試験が終わったら訊いてみるとしよう。

 ◇

「直しましたよ。次の人はここに来て始めてくださいね」

 カリスの次は俺なので、ラインの手前まで来る。

 どんな攻撃をするかだが、実はさっき外で時間逆行タイムリバースを使ってもと通りにしようとしたときのあれが俺が試験のときにもとに戻す際よりも範囲が広かったため魔力を大分使ってしまい今、残りの魔力は微々たるものしかない。
 そんな、ひとりで勝手に危機的状況に陥っている俺は無駄が多い魔法を使うことができない。

 そこで、何があの的を壊すのに、最も効率的か考えた。
 先ず攻撃に使えない光系統、回復系統、蘇生系統、移動系統、強化系統、防御系統、精神系統、干渉系統はこの際攻撃の増強に使えるとしても魔力の使用量を最適化することができなくなるので除外とする。

 水系統は、強化をたくさん施さないといけないので却下。そして、風系統の魔法なんかも何かを巻き込みながらぶつける感じでないと金属並みの硬さのあの的を壊すことは叶わない。炎系統も同様であれを焼却するのであれば少なくとも摂氏5000度は必要だろう。更にあそこまでその温度を維持させてという条件を上乗せすると、これは決していい案とは言い難い。
 土系統ももととなる土や岩が手元に無い。だからこれを今使うのは愚策だろう。
 後は、プラズマを発生させることぐらい?

 あ、炎系統には爆裂魔法があったんだっけ。
 なら、水素爆発でも起こすとするか。

 早速、一番酸素と水素の科学反応が起こりやすい酸素が2で水素が1の割合で気体を集め、シャボン玉のようなものに入れふわふわと的へと飛ばす。

 そして、的に触れるくらいまで近づくとその中で発火をさせる。
 すると、カリスのときよりは小さかったが十分轟音と言えるものが響き、的はバラバラになっていた。

 カリスよりも小規模にしておいたので勿論、的の棒は無事だった。

「エリックさんこれはどうですか?」

「これも文句無しの合格ですよ」

 エリックさんは合格ということを俺に告げると、また的のところへ行き棒を弄っている。


 ティアナはエリックさんが的を直している途中にラインの手前に立ち準備をしている。優等生感が半端無いですね。

 それはおいておき、ここでもティアナは剣を使うらしい。
 またしても剣を媒体として魔法を使うのだろうか。

「テストリネさんももう準備をしてくれてましたか。とても偉いですね。始めていただいていいですよ」

「ありがとうございます。では始めさせていただくことにします」

 ティアナは褒められて少し嬉かったようでいつもより口調が明るくなっている気がする。

 閑話休題、始めていいと言われたので手に持っていた剣を動かす。

 今回は、前につき出すような形ではなく、いつものような構え方をする。

 ということは少なくとも前回のとは違うということだろう。

 そして、その剣はゲームなどでよくあったソードスキルのように金属というより光のような色になっていき強化が施された感じがする。
 というかスキルの中で剣を強化したり、変化をさせたりするのがあるのだからソードスキルなのかもしれない。

 そんな、目で見ても分かる凄い強化されたであろう剣をティアナは的に向かって振り下ろす。

 え、ここから?と思ったが一応異世界ということなんだから常識、非常識とかは気にしないでおこう。
 ゲームの中とリアルだと未だに慣れないんだよね。あれだけ魔法使っておいてから、今更だけど。
 あと、この世界には以外にもがあるからこんなこともできるんだ、みたいな発見があるかもしれない。
 今のところ知ってることの中では魔法で大体できる。
 ただ、魔法と違ってスキルは自身に対して常時発動型があるということが決定的な違いだろうか。

 振り下ろすと一見すると風の魔法のようだけど違う衝撃波が一筋、二筋と別れながら放たれる。
 時速50キロメートルくらいで的へ到達する。どういう仕組みなんだろうか。

 的に触れると波の形は変形しつつも折るように通り過ぎていった。
 的は幾つかに分断されていた。

「エリックさん、これは合格でしょうか?」

 ティアナはカリス、俺、アリクスのときと違い的が分断はされているものの変形はあまりしていない。
 俺的には合格だと思うがどうだろうか?

「合格です。それにしてもこの距離からあのように分断できるとは将来が有望で楽しみですね」

「ありがとうございます!これからも精進していきます」

「そうですか。それは期待がよりもつことがそうですね」

 さて、次はエンセリアか。

 ◇

「これで最後ですか。ターリエさん、頑張ってくださいね」

「やっとボクの番が来ましたか」

 そこまでエンセリアがさっき試験でレーザーをぶっ放したときからは然程時は流れてないのだが……。

「ほんとにこの冒険者登録をするための試験で終わりなんですか?」

 エンセリアが本当にこの試験で最後なのかをエリックさんに訊く。
 俺も正直なところ、無いとは思うが日をまたいで何日間もとかまでして欲しいというものでも無いので気になっていた。

「本来ならば、魔物を実際に狩りに行くのですが……あなた達にとってはダンジョンにももう行かれていて魔法学院でも上位者ということなので、省かせてもらっていますのでこれで最後ですね。ターリエさん、こんな回答でよろしかったでしょうか?」

「あ、大丈夫です。丁寧に説明してくれてありがとうございます!じゃあ、試験の方始めますね」

「はい、頑張ってください」

 的の方へ向くと遠距離のときと同じように、唐突にエンセリアの目の前からレーザーが放たれた。何故かステッキとは関係ない何も無いところから出ていて、魔法陣とかも無いので不思議な光景だ。

 閑話休題、前のとは違いそのレーザーは決定的に小さかった。
 大きさは約直径30センチメートルくらいで速さに関しても音速近くまで遅くなっていた。

 的はというと、多少壊れかけているようだが合格となるレベルまでの破壊にはこのペースでは間に合わないだろう。

「……魔力をさっきの遠距離にある的を狙ったときに使いすぎたぞ……」

 おい、これってまさか不合格になってしまう感じか?!

「エリックさん、エンセリア———あ、ターリエさんに魔力渡してもいいですか?」

 このままではまずいと思い、咄嗟に俺はエリックさんにエンセリアに魔力を分けるということを提案した。

「うーん、魔力を渡すか……まあ、魔物と実際に倒すときもそういった場合もあるからありということにします。何故、君たちはルールの際をつくようなことばかりを、してくるのですか。偶然なので仕方ないですよね。最後の方は忘れていいので、魔力を渡し終えたら、続けるということでお願いしますね」

 少し、エリックさんに呆れられてしまったが魔力を渡すとするか。


「エンセリア、魔力を渡すから手を前に出してくれないか?十分だと思ったらストップと言ってくれ」

 魔力を渡すとか言っているが実際俺の中にある魔力は全然無く、自分の魔力を渡すのは無理だ。
 というわけで周りの魔素を取り込み、それをエンセリアに流していくという形にする。

「遠慮は要らないからな。分かったか?」

「わかったぞ。ほんとに助かる」

「お礼は全て終わってからにしてくれ。まだ、渡せたという訳では内のだから」

 もしかしたら、魔素を取り込みのにも自分の魔力も少なからず必要だからエンセリアが必要とする量を渡せないという可能性もある。だから、終わってから――そもそもこんなことで俺としてはお礼なんて要らないが。

「まあ、そういうことにしておくぞ。じゃ、よろしく頼む」

 早速エンセリアの手を俺は握った。そして、周りの魔素を吸収しながら、それを流していく。

「お!凄い、凄いぞ!ほんとに魔素が流れて込んできている!」

「こんな感じで魔力を分けてるけど大丈夫か?」

 魔素を流す勢いが早すぎると魔力を制御出来なくなって暴走してしまったり、取り込めていなかったらするのだ。
 最悪なのはその魔力で自爆してしまうということだ。

「特に問題は無いぞ」

「そうか、それは良かった。何度も言うようだが必要な分だけは取るようにしてくれよな」

「分かってるって」

 大丈夫そうなので、そのまま俺は周りの空気中から魔素を取り込みエンセリアに魔力を送る。


「セシリア、ありがとう。このくらいで足りると思うから魔力をもう分けなくても大丈夫だぞ」

 数十秒ほど送っていたら、もう大丈夫だと言われた。

「それは良かった。試験の的、頑張って壊して来いよ」

「もちろんだぞ!」

 俺が魔力渡し終えると再びラインの前へと向かう。

 位置に着くとまた唐突にエンセリアの前からレーザーが飛び出す。
 今回のは、直径1.5メートルくらいだ。速さも音速を遥かに上回るものだった。

 的に当たると轟音と共に今までの俺たちの試験の中で一番派手に壊した。
 もしかして、派手に壊すためにわざわざ俺から魔力を——やめよう、そういうのは。うん、きっと合格を確実なものにするためだよな。

「エリックさん、的壊しました!」

「そうですね。これで皆さん合格ですね。私は、最後にあの的を直してくるので、それから戻ってきたら正式に冒険者登録をしましょうか」

 エリックさんは、的を再び直してから戻ってくるようだ。
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