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6.顔合わせと意外な出会い
王宮に到着し馬車を降りると、王宮の女官が出迎えに立っていた。
「ラバール侯爵家の御令嬢をお連れしました」
「ジュリアと申します」
「ようこそいらっしゃいました。私はコリンヌと申します。本日はジュリア様のご案内を担当いたします」
挨拶の後、コリンヌはついてくるように言うと歩き出した。
王宮内で人前に出る仕事に就く人は、ほとんどが貴族家出身だ。洗練された身のこなしが素敵だ。私も遅れないようその後を追いかける。
人々の行きかう広間を横切り、絵の飾られた回廊を通り抜けると、目的の謁見室は近い。廊下をもう少し進むと到着のはずだ。
(今度は、もう、あの方に愛を求めたりはしない……)
今の段階で婚約は覆せないのだから婚約者であることは受け入れるが、もう過ちは繰り返さない。そう改めて心に誓っていたからだろう、その物音を聞き逃した。一度目、何もなかったから油断していたのもある。
コリンヌさんの注意も間に合わず、先を歩くコリンヌさんと私の間にある扉が開き、すごい勢いで人が飛び出してきた。
咄嗟には体が動かず、その人とぶつかってしまう。
衝撃で床に倒れそうになるが、そうならなかったのはその人が抱き留めてくれたからのようだ。
「きゃっ」
「ジュリア様、大丈夫でございますか!」
「失礼」
腰に回された手は、私が立つとすぐに離れていった。
ぶつかってきたのは黒髪の青年だった。金色の瞳には私を心配しながらも驚きが滲んでいる。
「クロード様……?」
コリンヌが呟いたのは弱冠十六歳で王宮の筆頭魔術師の席に就いたという天才魔術師の物だった。
「お許しください。急いでいたもので、注意を怠りました。お怪我はございませんか?」
謝罪され、はっとする。確かめることなく扉を開けて飛び出てきた位だ。何か緊急事態なのだろう。引き留めては悪い。
「支えてくださったので怪我などしておりません。急いでいらっしゃるなら、どうぞそちらに向かわれてください」
「感謝致します。このお詫びは後日、必ず致します」
クロード様は私の右手の甲に軽く口づけを落とすと、身をひるがえした。
その姿を見送ると、侍女が言う。
「珍しいですね」
「ええ。まさかクロード様にお目にかかれるとは思いませんでした」
「いえ。そうではなく。クロード様が貴婦人の手を取ってご挨拶されている姿を初めて見ました。その、お生まれから、あまり貴族のお作法が得意ではないと聞いていたもので」
「まぁ、そうでしたのね」
全然そのような様子はなかったが、所詮噂に過ぎないということだろうか。
「お怪我がなくて何よりでした。私達も参りましょうか」
「お願い致します」
その後はトラブルに遭うこともなく、目的地へと到着した。
私が到着して間もなく、お父様がやってきた。
特に会話もなく、無言のまま陛下達の到着を待つ。先程のことについて考えていたので、沈黙は気にならない。
(やっぱりどう思い返してもクロード様と出会うなんて、一度目にはなかった)
一度目に起きたことを変えることもできたのだ。もしかしたら、少しの時間のずれなどでも一度目と違うことが起きるのかもしれない。
考え込んでいると謁見室にノックが響き、頭を下げたところで陛下と王妃殿下、王太子殿下が入室された。
「楽にせよ」
陛下の言葉に父が体を起こすのを待って顔を上げる。
「そなたがラバール侯爵の娘か」
「陛下、娘のジュリアでございます」
「うむ」
お父様の紹介に合わせ挨拶を行う。王太子殿下は一度目と同じ微笑みを浮かべて私を見ていた。王妃殿下譲りのプラチナブロンドと矢車菊よりも明るいネモフィラの花の色をした瞳、そして優し気な微笑みに一度目の私はここで恋に落ちたのだ。今回は、一度目を知っているから、心は揺れない。
「では、ラバール侯爵の娘ジュリアを王太子マティアスの婚約者と定める」
「謹んでお受け致します」
陛下のお言葉に作法通りに返事を行うと、陛下は満足げに頷いた。
文官が差し出す書類に、陛下とお父様、殿下と私が名前を記入し、婚約は成立した。
「では、詳しいことは王妃に頼んである。よく務めよ」
そうして、陛下はあっという間に退室された。入れ替わりに王妃殿下が発言される。
「マティアスの母です。ジュリアさん、何か困ったことがあれば相談してくださいね」
「不束者ですがご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」
「そう硬くならなくていいのよ。あまり気負い過ぎると疲れてしまうから、徐々に慣れていってね」
「かしこまりました」
「ふふ、ラバール侯爵家でしっかり教育されているのね。安心です。マティアス、この可愛いレディに奥の庭を案内して差し上げて」
王妃殿下のお言葉にマティアス殿下が頷き私の前に来ると手を差し出す。
「お手をよろしいですか?」
声変わりを迎える前なので記憶よりも高いけれど、久しぶりに聞くマティアス殿下の声だった。
確認のために王妃殿下を見るとにこやかに頷かれ、私は殿下の手を取った。
「では行って参ります」
王妃殿下とお父様に見送られ、私達は王妃殿下の庭へと向かった。
「ラバール侯爵家の御令嬢をお連れしました」
「ジュリアと申します」
「ようこそいらっしゃいました。私はコリンヌと申します。本日はジュリア様のご案内を担当いたします」
挨拶の後、コリンヌはついてくるように言うと歩き出した。
王宮内で人前に出る仕事に就く人は、ほとんどが貴族家出身だ。洗練された身のこなしが素敵だ。私も遅れないようその後を追いかける。
人々の行きかう広間を横切り、絵の飾られた回廊を通り抜けると、目的の謁見室は近い。廊下をもう少し進むと到着のはずだ。
(今度は、もう、あの方に愛を求めたりはしない……)
今の段階で婚約は覆せないのだから婚約者であることは受け入れるが、もう過ちは繰り返さない。そう改めて心に誓っていたからだろう、その物音を聞き逃した。一度目、何もなかったから油断していたのもある。
コリンヌさんの注意も間に合わず、先を歩くコリンヌさんと私の間にある扉が開き、すごい勢いで人が飛び出してきた。
咄嗟には体が動かず、その人とぶつかってしまう。
衝撃で床に倒れそうになるが、そうならなかったのはその人が抱き留めてくれたからのようだ。
「きゃっ」
「ジュリア様、大丈夫でございますか!」
「失礼」
腰に回された手は、私が立つとすぐに離れていった。
ぶつかってきたのは黒髪の青年だった。金色の瞳には私を心配しながらも驚きが滲んでいる。
「クロード様……?」
コリンヌが呟いたのは弱冠十六歳で王宮の筆頭魔術師の席に就いたという天才魔術師の物だった。
「お許しください。急いでいたもので、注意を怠りました。お怪我はございませんか?」
謝罪され、はっとする。確かめることなく扉を開けて飛び出てきた位だ。何か緊急事態なのだろう。引き留めては悪い。
「支えてくださったので怪我などしておりません。急いでいらっしゃるなら、どうぞそちらに向かわれてください」
「感謝致します。このお詫びは後日、必ず致します」
クロード様は私の右手の甲に軽く口づけを落とすと、身をひるがえした。
その姿を見送ると、侍女が言う。
「珍しいですね」
「ええ。まさかクロード様にお目にかかれるとは思いませんでした」
「いえ。そうではなく。クロード様が貴婦人の手を取ってご挨拶されている姿を初めて見ました。その、お生まれから、あまり貴族のお作法が得意ではないと聞いていたもので」
「まぁ、そうでしたのね」
全然そのような様子はなかったが、所詮噂に過ぎないということだろうか。
「お怪我がなくて何よりでした。私達も参りましょうか」
「お願い致します」
その後はトラブルに遭うこともなく、目的地へと到着した。
私が到着して間もなく、お父様がやってきた。
特に会話もなく、無言のまま陛下達の到着を待つ。先程のことについて考えていたので、沈黙は気にならない。
(やっぱりどう思い返してもクロード様と出会うなんて、一度目にはなかった)
一度目に起きたことを変えることもできたのだ。もしかしたら、少しの時間のずれなどでも一度目と違うことが起きるのかもしれない。
考え込んでいると謁見室にノックが響き、頭を下げたところで陛下と王妃殿下、王太子殿下が入室された。
「楽にせよ」
陛下の言葉に父が体を起こすのを待って顔を上げる。
「そなたがラバール侯爵の娘か」
「陛下、娘のジュリアでございます」
「うむ」
お父様の紹介に合わせ挨拶を行う。王太子殿下は一度目と同じ微笑みを浮かべて私を見ていた。王妃殿下譲りのプラチナブロンドと矢車菊よりも明るいネモフィラの花の色をした瞳、そして優し気な微笑みに一度目の私はここで恋に落ちたのだ。今回は、一度目を知っているから、心は揺れない。
「では、ラバール侯爵の娘ジュリアを王太子マティアスの婚約者と定める」
「謹んでお受け致します」
陛下のお言葉に作法通りに返事を行うと、陛下は満足げに頷いた。
文官が差し出す書類に、陛下とお父様、殿下と私が名前を記入し、婚約は成立した。
「では、詳しいことは王妃に頼んである。よく務めよ」
そうして、陛下はあっという間に退室された。入れ替わりに王妃殿下が発言される。
「マティアスの母です。ジュリアさん、何か困ったことがあれば相談してくださいね」
「不束者ですがご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」
「そう硬くならなくていいのよ。あまり気負い過ぎると疲れてしまうから、徐々に慣れていってね」
「かしこまりました」
「ふふ、ラバール侯爵家でしっかり教育されているのね。安心です。マティアス、この可愛いレディに奥の庭を案内して差し上げて」
王妃殿下のお言葉にマティアス殿下が頷き私の前に来ると手を差し出す。
「お手をよろしいですか?」
声変わりを迎える前なので記憶よりも高いけれど、久しぶりに聞くマティアス殿下の声だった。
確認のために王妃殿下を見るとにこやかに頷かれ、私は殿下の手を取った。
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