【完結】だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~

乙原ゆん

文字の大きさ
7 / 70

7.殿下とのお茶会

 マティアス殿下の誘導の元、廊下をいくつか曲がったところで王妃殿下の庭が見えてきた。
 貴族に開放されている王宮の前庭とは違い、この庭は王妃殿下の許可がないと立ち入ることができない場所だ。
 この庭で開かれるお茶会に呼ばれることは貴族の間でステータスでもある。
 エスコートされるままに庭の小道を進んでいく。
 記憶にある通りの庭だが、気が付くと思わず感嘆の溜息が漏れていた。
 蔓薔薇のアーチから始まる石畳の小道は白い石材で作られた優美な東屋に続いている。自然を模して季節の花や草が配置されており、時折見える要所を押さえるように咲き誇る薔薇が、ここがよく手入れされた王宮の庭だということを教えてくれていた。

「素敵ですね」
「君も気に入ったようだと後で母に伝えておくよ」

 庭を褒められるのはいつものことなのか、マティアス殿下は頷く。
 東屋に着くと、あらかじめこの流れが決まっていたのか侍女がお茶を準備して下がっていった。
 二人きりだが、私の意識はこの時間を無難に終わらせることへと向いていた。一度目、殿下からの婚約破棄が私の処刑の引き金を引いたとはいえ、当人を目の前にしても特に思うことはない。
 自分でも不思議だが、恐怖とか、嫌悪とかいうよりも、殿下に心を砕いても私への愛は生まれないのだという事実が大きいようだ。
 毒にも薬にもならない婚約者として過ごし、しかるべき時に婚約解消を申し出ると思い定めているからこそ、心は揺れない。
 殿下に勧められるままにお茶を口にすると、薫り高いものの少し苦みが強い。記憶にある通りの味に表情に出さないように気を付けていたけれど、殿下には伝わってしまったようだ。

「苦かったらどうぞお砂糖も使って」
「お気遣い、ありがとうございます」

 微笑みと共に砂糖壺を勧められ、遠慮なくお砂糖を一匙入れる。すると苦みが和らぎ、とても飲みやすくなった。

「よかった。お口にあったようだね」
「殿下の前で、失礼致しました」

 かしこまって頭を下げると、殿下は首を振る。

「これから婚約者として過ごすんだ。楽にしてくれていいよ」
「お気遣い恐れ入ります」

 もう少し砕けた口調を望まれていたようで、殿下は肩をすくめる。

「緊張しているだろうから、いきなりは難しいかな」
「殿下のご希望に沿えるよう、努力いたします」

 私は意識して微笑みを浮かべた。殿下の反応は悪くない。
 記憶の中の私は、その言葉に甘えて、マティアス殿下を質問攻めにしてしまった。
 好きな色や、好きなお菓子、殿下のことを少しでも知りたいと思いつくままに口に出していた。
 その時は殿下は微笑みながら相手をしてくれたが、思い返すと遠慮のない私に殿下は困惑していたような気がする。
 今回は少なくとも悪印象は残していないようだ。

「徐々に慣れていってくれるといいよ。ラバール侯爵令嬢、これからよろしく」
「よろしくお願いいたします」

 殿下は少し考えた後に続けた。

「早速だけど、僕のことは、マティアスと呼んでほしい。僕も君のこと、ジュリアと呼んでいいかな」
「もちろんでございます、マティアス殿下」

 答えると、殿下は美しい庭を背景に微笑みを浮かべた。まるで一幅の絵画のような思わずほうっとため息をつきたくなる光景に、一瞬見とれてしまい、それに気づいて気持ちを引き締めなおした。
 殿下が求めているのは、婚約者としての振る舞いで、私と親しくなりたいわけではないのだ。
 どんなに距離を詰めようとしても心の距離は近づかず、人としての信頼すら得られなかった。どこまでもお心に沿えなかった私に、婚約者として務めることは荷が重い。殿下は、美しいが、触れるには遠いお方なのだ。

「ところで、そのドレス、似合っているね。ジュリアは藍色が好きなのかな?」

 質問の意図がわからず困惑すると、殿下は続ける。

「僕の偏見かもしれないけれど、ご令嬢は水色とか桃色とか華やかな色が好きなんだと思ってたんだ。だから、そういう落ち着いた色のドレスを着ているのが珍しくて」

 ドレスの色は意図とは反対の方向に働いたようで、これはこれで失敗だったかもしれない。

「色としては桃色が好きです。このドレスは、その、殿下に少しでも落ち着いた人に見られたくて、選びました」
「そうだったんだ。しっかりと考えてくれているんだね。確かに君の言う通りの印象を持ったよ」

 驚いたように言われて、私は何と言っていいかわからず俯いた。

「でも、桃色も似合いそうだ。今度の婚約披露の茶会には、僕からドレスを贈らせて欲しいな」
「もったいないお言葉です」

 この展開は一度目にもなかったことだ。断りたいが、不敬にならない言い回しが思いつかない。
 それに殿下の興味も、きっと学園入学までだろう。
 調子に乗らないようにしようと自分に言い聞かせ、その後は殿下の好きな色を聞いたりと、一度目と似たようなことを話しながら過ごすのだった。
感想 24

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。 私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。 国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。 それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。 婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか! お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。 事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に! 彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います! ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。