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9.王宮の庭での思い出
翌週、王宮での王太子妃教育が始まった。
王族として相応しい礼儀作法や、外国語や周辺諸国の知識をメインに教えて貰う。一度目の記憶にある通りの先生方だ。
滑り出しは順調だった。
礼儀作法に関しては、知識だけでは美しい振る舞いはできないため練習が必要だが、先生には筋がいいと褒められている。
少しズルをしている気もするが、一度目で努力した結果だと受け取っている。
今日は交易国の文化や風土についての授業を受けていた。
一人で受けているのがもったいない位のお話を聞かせてもらっていると、窓の外から授業終了を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
「それでは、少し早いですが本日はここまでと致しましょう。次回はこの続きを行います」
「ありがとうございました」
先生が出て行かれるのを見送って机の上を片付けると、これからどうするかと考える。この後は昼食を頂きながらの礼儀作法の実践授業となるが、空き時間が一時間ある。
(折角なので王宮図書館に行ってみようかしら)
王太子妃教育に伴って、王宮内にある図書館の利用も許可されている。
確認をしようと部屋の後ろに控えていたコリンヌに話しかけた。ちなみに、王宮内では常に侍女が一人はついてくれていて、今日の担当は先日の顔合わせの時に案内してくれたコリンヌだった。
「これから図書館に行ってもよろしいでしょうか」
コリンヌがスケジュールを確かめて頷いた。
「はい。問題ありません。許可もありますのでご案内致します」
「お願いします」
図書館は王宮の敷地内にあるが、建物としては独立している。
百十数年前に王命で建てられたもので、著名な建築家が設計し、防火は勿論、許可のない本の持ち出しもできないような魔術がかかっていると聞く。
私の目的は、魔術の本だ。
巻き戻りに気がついてから未来を変えることの方に必死で深く考えてこなかったけれど、折角王宮の図書館に出入りできる立場にいるのだから、おとぎ話でしか聞いたことのない魔術が実際にあるのか調べてみようと思ったのだ。
それに、左手の小指にある外せない指輪についても気になる。
(少しでも参考になる本があればいいのだけれど)
考えながらコリンヌについて行くと、貴族とその家族に開放されている庭に面する回廊に差し掛かった。
庭の中央には特徴的な赤い煉瓦造りの時計塔が建っている。
塔の一番上に鐘がついており、さっき聞こえた鐘の音もこの時計塔のものだ。
どこかの貴族家が子連れで遊びに来ているようで、貴族らしい親子の三人と使用人達の姿が遠目に見える。
そういえば、私も幼いころに何度か両親に連れてきてもらった。
(懐かしい……)
確か、時計塔の近くにある花をお母様と見ていて、私は途中で飽きて時計塔を見に行った。
流石に中には入らなかったが、扉の前に立ったタイミングで魔術師であることを示す黒いローブを着た大人が中から出てきて、私は驚いて泣いてしまったのだ。魔術師は私に怒ることはなく『危ないから気を付けなさい』なんて優しく注意するだけだったけれど、私は知らない人が怖くて余計に泣いてしまった。そして、その人の後ろから見習いらしい小柄な少年が出てきて、飴を貰ったのだ。
異変に気づいたお母様も駆けつけた魔術師に頭を下げて、後で沢山叱られてしまった。
後から食べたその時の飴は苺味で、楽しいばかりの思い出とはいえないのに、それからの私は苺の飴をなんとなく好むようになった。
後から知ったが、時計塔の管理は王宮魔術師がしているそうだ。
私は点検に来た魔術師と鉢合わせしてしまったようだが、それ以降は塔の管理に来た魔術師と会うこともなく、お母様が亡くなってからは王宮の庭に来ることも無くなった。
家族連れの姿につい見入ってしまい、足が止まっていた。
コリンヌも足を止めて振り返る。
「お疲れでいらっしゃいますか?」
慣れない王宮の授業に疲れたのかとコリンヌが心配げだ。
「大丈夫です。昔こちらのお庭に来たことがあって、その時のことを思い出していました」
「そうでしたか」
コリンヌは柔らかく微笑むと続けた。
「こちらには、私も昔一度だけつれて来てもらいました」
「コリンヌさんも?」
「はい。王宮にお庭だけとはいえ、子供でも入れるのです。憧れて、どうしてもと父に願って、叶えてもらいました」
「憧れますよね」
その気持ちはすごくわかる。
「私の家は子爵家で領地も遠く、子供時代に王都に来られたのはその一度きりだったのですが、とても嬉しかったのを覚えています」
「大切な思い出ですね」
コリンヌと少し打ち解けることができた気がするが、コリンヌは話し過ぎたと思ったようだ。
きりりと表情を引き締めて、前を向く。
「私としたことが、ご案内の途中で失礼しました。では、向かいましょう」
そうして、図書館へと向かった。
王族として相応しい礼儀作法や、外国語や周辺諸国の知識をメインに教えて貰う。一度目の記憶にある通りの先生方だ。
滑り出しは順調だった。
礼儀作法に関しては、知識だけでは美しい振る舞いはできないため練習が必要だが、先生には筋がいいと褒められている。
少しズルをしている気もするが、一度目で努力した結果だと受け取っている。
今日は交易国の文化や風土についての授業を受けていた。
一人で受けているのがもったいない位のお話を聞かせてもらっていると、窓の外から授業終了を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
「それでは、少し早いですが本日はここまでと致しましょう。次回はこの続きを行います」
「ありがとうございました」
先生が出て行かれるのを見送って机の上を片付けると、これからどうするかと考える。この後は昼食を頂きながらの礼儀作法の実践授業となるが、空き時間が一時間ある。
(折角なので王宮図書館に行ってみようかしら)
王太子妃教育に伴って、王宮内にある図書館の利用も許可されている。
確認をしようと部屋の後ろに控えていたコリンヌに話しかけた。ちなみに、王宮内では常に侍女が一人はついてくれていて、今日の担当は先日の顔合わせの時に案内してくれたコリンヌだった。
「これから図書館に行ってもよろしいでしょうか」
コリンヌがスケジュールを確かめて頷いた。
「はい。問題ありません。許可もありますのでご案内致します」
「お願いします」
図書館は王宮の敷地内にあるが、建物としては独立している。
百十数年前に王命で建てられたもので、著名な建築家が設計し、防火は勿論、許可のない本の持ち出しもできないような魔術がかかっていると聞く。
私の目的は、魔術の本だ。
巻き戻りに気がついてから未来を変えることの方に必死で深く考えてこなかったけれど、折角王宮の図書館に出入りできる立場にいるのだから、おとぎ話でしか聞いたことのない魔術が実際にあるのか調べてみようと思ったのだ。
それに、左手の小指にある外せない指輪についても気になる。
(少しでも参考になる本があればいいのだけれど)
考えながらコリンヌについて行くと、貴族とその家族に開放されている庭に面する回廊に差し掛かった。
庭の中央には特徴的な赤い煉瓦造りの時計塔が建っている。
塔の一番上に鐘がついており、さっき聞こえた鐘の音もこの時計塔のものだ。
どこかの貴族家が子連れで遊びに来ているようで、貴族らしい親子の三人と使用人達の姿が遠目に見える。
そういえば、私も幼いころに何度か両親に連れてきてもらった。
(懐かしい……)
確か、時計塔の近くにある花をお母様と見ていて、私は途中で飽きて時計塔を見に行った。
流石に中には入らなかったが、扉の前に立ったタイミングで魔術師であることを示す黒いローブを着た大人が中から出てきて、私は驚いて泣いてしまったのだ。魔術師は私に怒ることはなく『危ないから気を付けなさい』なんて優しく注意するだけだったけれど、私は知らない人が怖くて余計に泣いてしまった。そして、その人の後ろから見習いらしい小柄な少年が出てきて、飴を貰ったのだ。
異変に気づいたお母様も駆けつけた魔術師に頭を下げて、後で沢山叱られてしまった。
後から食べたその時の飴は苺味で、楽しいばかりの思い出とはいえないのに、それからの私は苺の飴をなんとなく好むようになった。
後から知ったが、時計塔の管理は王宮魔術師がしているそうだ。
私は点検に来た魔術師と鉢合わせしてしまったようだが、それ以降は塔の管理に来た魔術師と会うこともなく、お母様が亡くなってからは王宮の庭に来ることも無くなった。
家族連れの姿につい見入ってしまい、足が止まっていた。
コリンヌも足を止めて振り返る。
「お疲れでいらっしゃいますか?」
慣れない王宮の授業に疲れたのかとコリンヌが心配げだ。
「大丈夫です。昔こちらのお庭に来たことがあって、その時のことを思い出していました」
「そうでしたか」
コリンヌは柔らかく微笑むと続けた。
「こちらには、私も昔一度だけつれて来てもらいました」
「コリンヌさんも?」
「はい。王宮にお庭だけとはいえ、子供でも入れるのです。憧れて、どうしてもと父に願って、叶えてもらいました」
「憧れますよね」
その気持ちはすごくわかる。
「私の家は子爵家で領地も遠く、子供時代に王都に来られたのはその一度きりだったのですが、とても嬉しかったのを覚えています」
「大切な思い出ですね」
コリンヌと少し打ち解けることができた気がするが、コリンヌは話し過ぎたと思ったようだ。
きりりと表情を引き締めて、前を向く。
「私としたことが、ご案内の途中で失礼しました。では、向かいましょう」
そうして、図書館へと向かった。
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