14 / 70
14.襲撃の説明
王宮の一室に案内されても、エリクさんは震えが収まらず私とも手を繋いだままだ。
客室は広く、大きな窓は城の正門側に面していて、襲撃のあった庭は見えないようになっている。
ぼんやりと行き来する馬車を眺めていると、ノックの音が響いた。お父様だ。お父様は部屋に入るなり、お継母様に駆け寄った。
「襲われたと聞いたが、怪我は?」
「私は何も。狙われたのは子供達ですわ」
「そうか、無事でよかった」
お父様がお継母様から離れると私達を一瞥し、「二人共無事で何より」と言うと、エリクさんを抱きしめた。
「怖かっただろう、もう大丈夫だ」
私は動揺を隠す様に二人から目を離した。
傷つかないと言ったら嘘になるが「もうお父様の愛を期待してはいないのだから」と自分に言い聞かせる。
視線を外した先で、お継母様の唇の端がほんの僅かに上を向いている気がした。けれど、すぐに扇で隠されてしまい確証はない。
侍女が入ってきて、気分が落ち着くというお茶が並べられていく。
三人掛けのソファにエリクさんを挟んでお父様とお継母様が座り、私は一人掛けのソファに座った。
お父様がお継母様に、庭園で起きたことを聞いている。しばらく待ったところでマティアス殿下がやってきた。一緒に先程話をしていた近衛兵の責任者らしき男性も一緒だ。男性はお父様より年上に見える。
私達は立ち上がり、頭を下げた。
「楽にしていい」
顔を上げると、殿下と目が合った。意外なことに、私を見て殿下は表情を緩める。
「怪我がなくてよかった」
「……ありがとうございます」
心配してくださっていたのだろうか。義務的な婚約者というには今までよりも態度が柔らかくなった気がして、意図がくみ取れない。
混乱する私を置いて、殿下は表情を引き締めると言った。
「今回の件について、近衛兵長であるボートン侯爵が話を聞きたいそうだ。怖い思いをした直後だとは思うが、協力して欲しい。ラバール侯爵、許可を貰えるな?」
「もちろんでございます」
「では、座って話を聞こう」
殿下に促され、席に着く。
「まず教えて頂きたいのだが、ラバール侯爵にご家族が狙われるような心当たりがあれば教えて貰いたい」
ボートン侯爵がお父様を見つめながら言う。
「どう、でしょうか。私自身、侯爵という立場にいますから、それなりに人から羨ましがられる立場です。しかし襲われたのは子供達と聞いています。ですので、もったいなくも娘が殿下の婚約者に決まったことが、原因と思っています」
お父様は、私のせいで今回の件が起きたと思っているのだ。私は思わずうつむいた。
「もしや、婚約の件で侯爵家に嫌がらせがあったのですか?」
「いいえ、そのような事はありません」
「でしたら、何故そのように思われるのか疑問です。正直、ご令嬢を襲うならば、王宮よりも侯爵家を狙いそうなものです」
ボートン侯爵が視線鋭くお父様を見つめる。お父様はボートン侯爵には答えず、殿下の方を向く。
「今回の件、王宮側に迅速に対応して頂いたと妻から聞きました。なんでも、襲われたタイミングで近衛兵が助けに入ってくださったとか。王宮側は今回の件を把握しておられたのですか?」
ボートン侯爵が目線で殿下に問い、殿下が頷く。
「詳しいことまでは把握していませんでした。ただ、先日、庭園で何かが起きるだろうという匿名での投書がありましたので、念のために警備を増やしておりました」
「ですが、殿下もその場にいらっしゃったと聞いています」
お父様が言うと、殿下は頷いた。
「私が現場にいたのは、ジュリアが家族で庭園に来ると耳に挟んだので、折角なのでご家族にも挨拶をしようと思っただけだ。襲撃が重なるとは、思っていなかった」
「そうですか」
頷きながらも、お父様は納得していない様子だ。
「それに、そちらの令息とも顔を合わせておきたかった。侯爵家を継がせるために引き取られたのだろう?」
「はい。今後の成績次第の部分もありますが、現在はそのように考えております」
お父様の答えに、ボートン侯爵が驚いたように目を見開く。
「ラバール侯爵家には優秀なご親族もおられると伺っておりますが、ご親族は納得されたのですか?」
「当主は私ですので」
お父様の言葉に、ボートン侯爵は言う。
「なら、そちらの可能性もあるということですな」
「なっ、我が家門に限って、そのようなこと……」
「悪しからず。あらゆる可能性を考慮せねばなりませんので」
黙り込んだまま見つめ合う二人を見て、殿下が言う。
「ひとまず、この件は王宮が責任を持って解明させる。ジュリアには王太子妃教育で通ってもらうが、今後はこのような事が起きないよう対応するから安心して欲しい」
「ありがたく存じます」
お父様が頭を下げるのに従って、私達も頭を下げる。
「それと、今回の件、目撃者もいて箝口令を敷いても絶対はない。ジュリアに傷が付かぬよう、対外的には訓練という形で発表するつもりだ。何か言われても、そう答えるように」
「かしこまりました」
「では、協力感謝する。帰りは王宮から馬車を出す。使ってくれ」
「ご配慮感謝いたします」
殿下とボートン侯爵が退出すると、そう待つこと無く馬車の準備が出来たと案内された。馬車停めには護衛付きで王族の紋の入った馬車が用意されている。さすがに護衛付きの、王家の紋が入った馬車を襲う人はいないだろう。
安心して乗り込んだが、馬車の中には沈黙が満ちていた。
客室は広く、大きな窓は城の正門側に面していて、襲撃のあった庭は見えないようになっている。
ぼんやりと行き来する馬車を眺めていると、ノックの音が響いた。お父様だ。お父様は部屋に入るなり、お継母様に駆け寄った。
「襲われたと聞いたが、怪我は?」
「私は何も。狙われたのは子供達ですわ」
「そうか、無事でよかった」
お父様がお継母様から離れると私達を一瞥し、「二人共無事で何より」と言うと、エリクさんを抱きしめた。
「怖かっただろう、もう大丈夫だ」
私は動揺を隠す様に二人から目を離した。
傷つかないと言ったら嘘になるが「もうお父様の愛を期待してはいないのだから」と自分に言い聞かせる。
視線を外した先で、お継母様の唇の端がほんの僅かに上を向いている気がした。けれど、すぐに扇で隠されてしまい確証はない。
侍女が入ってきて、気分が落ち着くというお茶が並べられていく。
三人掛けのソファにエリクさんを挟んでお父様とお継母様が座り、私は一人掛けのソファに座った。
お父様がお継母様に、庭園で起きたことを聞いている。しばらく待ったところでマティアス殿下がやってきた。一緒に先程話をしていた近衛兵の責任者らしき男性も一緒だ。男性はお父様より年上に見える。
私達は立ち上がり、頭を下げた。
「楽にしていい」
顔を上げると、殿下と目が合った。意外なことに、私を見て殿下は表情を緩める。
「怪我がなくてよかった」
「……ありがとうございます」
心配してくださっていたのだろうか。義務的な婚約者というには今までよりも態度が柔らかくなった気がして、意図がくみ取れない。
混乱する私を置いて、殿下は表情を引き締めると言った。
「今回の件について、近衛兵長であるボートン侯爵が話を聞きたいそうだ。怖い思いをした直後だとは思うが、協力して欲しい。ラバール侯爵、許可を貰えるな?」
「もちろんでございます」
「では、座って話を聞こう」
殿下に促され、席に着く。
「まず教えて頂きたいのだが、ラバール侯爵にご家族が狙われるような心当たりがあれば教えて貰いたい」
ボートン侯爵がお父様を見つめながら言う。
「どう、でしょうか。私自身、侯爵という立場にいますから、それなりに人から羨ましがられる立場です。しかし襲われたのは子供達と聞いています。ですので、もったいなくも娘が殿下の婚約者に決まったことが、原因と思っています」
お父様は、私のせいで今回の件が起きたと思っているのだ。私は思わずうつむいた。
「もしや、婚約の件で侯爵家に嫌がらせがあったのですか?」
「いいえ、そのような事はありません」
「でしたら、何故そのように思われるのか疑問です。正直、ご令嬢を襲うならば、王宮よりも侯爵家を狙いそうなものです」
ボートン侯爵が視線鋭くお父様を見つめる。お父様はボートン侯爵には答えず、殿下の方を向く。
「今回の件、王宮側に迅速に対応して頂いたと妻から聞きました。なんでも、襲われたタイミングで近衛兵が助けに入ってくださったとか。王宮側は今回の件を把握しておられたのですか?」
ボートン侯爵が目線で殿下に問い、殿下が頷く。
「詳しいことまでは把握していませんでした。ただ、先日、庭園で何かが起きるだろうという匿名での投書がありましたので、念のために警備を増やしておりました」
「ですが、殿下もその場にいらっしゃったと聞いています」
お父様が言うと、殿下は頷いた。
「私が現場にいたのは、ジュリアが家族で庭園に来ると耳に挟んだので、折角なのでご家族にも挨拶をしようと思っただけだ。襲撃が重なるとは、思っていなかった」
「そうですか」
頷きながらも、お父様は納得していない様子だ。
「それに、そちらの令息とも顔を合わせておきたかった。侯爵家を継がせるために引き取られたのだろう?」
「はい。今後の成績次第の部分もありますが、現在はそのように考えております」
お父様の答えに、ボートン侯爵が驚いたように目を見開く。
「ラバール侯爵家には優秀なご親族もおられると伺っておりますが、ご親族は納得されたのですか?」
「当主は私ですので」
お父様の言葉に、ボートン侯爵は言う。
「なら、そちらの可能性もあるということですな」
「なっ、我が家門に限って、そのようなこと……」
「悪しからず。あらゆる可能性を考慮せねばなりませんので」
黙り込んだまま見つめ合う二人を見て、殿下が言う。
「ひとまず、この件は王宮が責任を持って解明させる。ジュリアには王太子妃教育で通ってもらうが、今後はこのような事が起きないよう対応するから安心して欲しい」
「ありがたく存じます」
お父様が頭を下げるのに従って、私達も頭を下げる。
「それと、今回の件、目撃者もいて箝口令を敷いても絶対はない。ジュリアに傷が付かぬよう、対外的には訓練という形で発表するつもりだ。何か言われても、そう答えるように」
「かしこまりました」
「では、協力感謝する。帰りは王宮から馬車を出す。使ってくれ」
「ご配慮感謝いたします」
殿下とボートン侯爵が退出すると、そう待つこと無く馬車の準備が出来たと案内された。馬車停めには護衛付きで王族の紋の入った馬車が用意されている。さすがに護衛付きの、王家の紋が入った馬車を襲う人はいないだろう。
安心して乗り込んだが、馬車の中には沈黙が満ちていた。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。
【完結】今さら執着されても困ります
リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
・全体的に暗い内容です。
・注意喚起を含む章は※を付けています。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)