18 / 70
18.殿下の変化
今日から中断していた王太子妃教育が始まる。
先日の襲撃事件がどう決着がついたのかは知らされていないが、呼ばれたということは一段落付いたのだろう。
警備が厳しくなり、今後は馬車も王宮が用意するという。迎えの馬車に乗って王宮へと向かう。
ロータリーに着くと、思ってもみない人物が待っていた。
「ジュリア、よく来てくれた。さぁ、手を」
「マティアス殿下」
差し出された手を取って馬車を下りるが、内心は戸惑いでいっぱいだった。殿下が出迎えてくださるようなことは今まで無かった。何かあったのだろうか。
「早くジュリアと会いたくて、迎えに来てしまった。迷惑だったか?」
「滅相もございません。私も殿下とお会いでき嬉しゅうございます」
「そうか」
嬉しそうに頷く殿下に私も頑張って微笑を浮かべる。殿下の態度が突然変わったことは頂いたお手紙からわかっていたものの、温度差についていけない。そうだ、手紙と言えば、お返事はしたものの、お礼を言っておいた方がいいだろう。
「殿下、お手紙、ありがとうございました」
「ああ。会いに行くことができず、せめて手紙だけでもと思ったのだ。不安ではなかったか?」
「殿下のお気遣いでつつがなく過ごすことができました」
「そうか」
柔らかく微笑む殿下に目が奪われる。
「さぁ、授業のある部屋に案内しよう」
殿下の変わりように周囲に居る護衛や侍女は顔色を変えることはない。私も内心を表情を変えないように気をつけながら殿下のエスコートで本日の授業がある部屋へと向かった。
一日の最後の授業が終わったところで、殿下が迎えに来られた。
「まぁ、殿下、いらしているとは知らず、お待たせしました」
礼儀作法の先生が恐縮した様子で言う。これまで、殿下が私の授業が終わるのを待たれていたことなどなかったから、先生も驚いておられるようだ。
「いや、構わない。急に思いついて立ち寄ったからな。授業は終わったようだが、ジュリアを連れて行っても良いだろうか?」
「勿論でございます」
先生の返事を聞いて、殿下は私の手を取る。
「さぁ、行こう」
殿下に連れていかれたのは、いつも殿下との交流で使っている部屋だ。だが、いつもより、菓子の種類が多い。
「さぁ、こちらに」
「ありがとうございます」
椅子を引かれ用意された席に座ると、殿下は向かいへと座った。
私が並べられた菓子を見ていると、殿下は困ったように眉を寄せた。
「ジュリアの好きな菓子を準備しようと思ったのだが、そういえば聞いたことがなかったと思ってな。今まで、我慢をさせていたのではないか?」
「滅相もありません。今まで頂いたものは全部美味しくて、流石王宮のおもてなしと思っておりました」
「そう言ってくれると気が楽になるよ」
殿下は表情を和らげると、続ける。
「ジュリアの好きなお菓子はこの中にあるだろうか? なければ次回用意させるから、遠慮なく教えて欲しい」
「まぁ、でしたら、私も殿下のお好きな物を伺いたいです」
「もちろん、ジュリアの話を聞いたら教えるよ」
そう言われ、私は並べられた物の中から、好きな物を挙げていく。
「ベリー系の物が多いな。苺が好きなのか?」
「はい」
「ふむ、では、旬の季節には苺でタルトを作らせよう」
「楽しみにしております。ところで、そろそろ殿下のお好みを教えて下さいませ」
「そうだな。約束だった。私は――」
殿下の視線が、私を捉える。
「ジュリアが喜ぶ顔が見られれば、味などどうでも良いと思っていたところだ」
息を呑む私に、殿下は微笑んで頬杖をついた。プラチナブロンドがはらりと流れ、ネモフィラの花の色をした瞳がうっとりと私を見つめる。席が離れていて幸いだったが、それでも殿下が振りまく魅力に一瞬呼吸が止まる。
「……それは、困ります」
かろうじて出した答えに、殿下は首を傾げる。
「どうして?」
「私も、殿下が好まれる物をお贈りしたいと思いますから」
「そうか。なら、考えよう。……そうだな、甘い物よりは塩気の強い物が好きだな」
そういえば、と見るとテーブルの上にはベーコンやホウレンソウが混ぜ込まれたケークサレも並んでいる。
「でしたら、こちらなどお好きなのでは?」
「では、食べてみようか。取ってもらえるかな?」
「かしこまりました」
殿下の皿に取り分けた後、自分の皿にも載せる。
「おや? ジュリアも食べるのかい?」
「折角ですから、私も頂いてみようかと」
「そうか」
殿下は嬉しそうに微笑み、カラトリーを手に取る。
「うむ、確かに好きな味だ。ジュリアはどうだ?」
「美味しいです」
殿下は頷き、言う。
「これと、後は先ほどジュリアが好むと言った菓子を土産に包ませよう」
「よろしいのですか?」
今まで、そんなこと言われたことは無かった。
「もちろん。代わりに、家でも私のことを想い出して欲しい」
「わ、わかりましたわ」
どこまでも甘い殿下に戸惑いながら、茶会は続いた。
先日の襲撃事件がどう決着がついたのかは知らされていないが、呼ばれたということは一段落付いたのだろう。
警備が厳しくなり、今後は馬車も王宮が用意するという。迎えの馬車に乗って王宮へと向かう。
ロータリーに着くと、思ってもみない人物が待っていた。
「ジュリア、よく来てくれた。さぁ、手を」
「マティアス殿下」
差し出された手を取って馬車を下りるが、内心は戸惑いでいっぱいだった。殿下が出迎えてくださるようなことは今まで無かった。何かあったのだろうか。
「早くジュリアと会いたくて、迎えに来てしまった。迷惑だったか?」
「滅相もございません。私も殿下とお会いでき嬉しゅうございます」
「そうか」
嬉しそうに頷く殿下に私も頑張って微笑を浮かべる。殿下の態度が突然変わったことは頂いたお手紙からわかっていたものの、温度差についていけない。そうだ、手紙と言えば、お返事はしたものの、お礼を言っておいた方がいいだろう。
「殿下、お手紙、ありがとうございました」
「ああ。会いに行くことができず、せめて手紙だけでもと思ったのだ。不安ではなかったか?」
「殿下のお気遣いでつつがなく過ごすことができました」
「そうか」
柔らかく微笑む殿下に目が奪われる。
「さぁ、授業のある部屋に案内しよう」
殿下の変わりように周囲に居る護衛や侍女は顔色を変えることはない。私も内心を表情を変えないように気をつけながら殿下のエスコートで本日の授業がある部屋へと向かった。
一日の最後の授業が終わったところで、殿下が迎えに来られた。
「まぁ、殿下、いらしているとは知らず、お待たせしました」
礼儀作法の先生が恐縮した様子で言う。これまで、殿下が私の授業が終わるのを待たれていたことなどなかったから、先生も驚いておられるようだ。
「いや、構わない。急に思いついて立ち寄ったからな。授業は終わったようだが、ジュリアを連れて行っても良いだろうか?」
「勿論でございます」
先生の返事を聞いて、殿下は私の手を取る。
「さぁ、行こう」
殿下に連れていかれたのは、いつも殿下との交流で使っている部屋だ。だが、いつもより、菓子の種類が多い。
「さぁ、こちらに」
「ありがとうございます」
椅子を引かれ用意された席に座ると、殿下は向かいへと座った。
私が並べられた菓子を見ていると、殿下は困ったように眉を寄せた。
「ジュリアの好きな菓子を準備しようと思ったのだが、そういえば聞いたことがなかったと思ってな。今まで、我慢をさせていたのではないか?」
「滅相もありません。今まで頂いたものは全部美味しくて、流石王宮のおもてなしと思っておりました」
「そう言ってくれると気が楽になるよ」
殿下は表情を和らげると、続ける。
「ジュリアの好きなお菓子はこの中にあるだろうか? なければ次回用意させるから、遠慮なく教えて欲しい」
「まぁ、でしたら、私も殿下のお好きな物を伺いたいです」
「もちろん、ジュリアの話を聞いたら教えるよ」
そう言われ、私は並べられた物の中から、好きな物を挙げていく。
「ベリー系の物が多いな。苺が好きなのか?」
「はい」
「ふむ、では、旬の季節には苺でタルトを作らせよう」
「楽しみにしております。ところで、そろそろ殿下のお好みを教えて下さいませ」
「そうだな。約束だった。私は――」
殿下の視線が、私を捉える。
「ジュリアが喜ぶ顔が見られれば、味などどうでも良いと思っていたところだ」
息を呑む私に、殿下は微笑んで頬杖をついた。プラチナブロンドがはらりと流れ、ネモフィラの花の色をした瞳がうっとりと私を見つめる。席が離れていて幸いだったが、それでも殿下が振りまく魅力に一瞬呼吸が止まる。
「……それは、困ります」
かろうじて出した答えに、殿下は首を傾げる。
「どうして?」
「私も、殿下が好まれる物をお贈りしたいと思いますから」
「そうか。なら、考えよう。……そうだな、甘い物よりは塩気の強い物が好きだな」
そういえば、と見るとテーブルの上にはベーコンやホウレンソウが混ぜ込まれたケークサレも並んでいる。
「でしたら、こちらなどお好きなのでは?」
「では、食べてみようか。取ってもらえるかな?」
「かしこまりました」
殿下の皿に取り分けた後、自分の皿にも載せる。
「おや? ジュリアも食べるのかい?」
「折角ですから、私も頂いてみようかと」
「そうか」
殿下は嬉しそうに微笑み、カラトリーを手に取る。
「うむ、確かに好きな味だ。ジュリアはどうだ?」
「美味しいです」
殿下は頷き、言う。
「これと、後は先ほどジュリアが好むと言った菓子を土産に包ませよう」
「よろしいのですか?」
今まで、そんなこと言われたことは無かった。
「もちろん。代わりに、家でも私のことを想い出して欲しい」
「わ、わかりましたわ」
どこまでも甘い殿下に戸惑いながら、茶会は続いた。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。