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22.婚約披露宴(3)
私達の入場と同時に、魔術師が会場中に幻想の花を降らせ始める。
初めて見る魔術を使っての演出に驚いて殿下を見上げると、殿下は嬉しそうに目を細めた。
「ジュリアのために考えさせたんだ」
何人の魔術師が関わっているかはわからないが、一人でこの規模の魔術を展開させているということはないだろう。会場の貴族達からも感嘆の声が上がっている。
「過分なお心遣い……」
言いかけたところで、殿下の瞳が不機嫌に歪んだ。
「ジュリアは気に入らなかったの?」
一瞬感じた寒気にも似た感覚に、無意識に答えを選んでいた。
「いえ、嬉しく存じます」
「よかった」
途端に和らぐ殿下の雰囲気に、先程の表情は見間違いだったのかと思う位だ。けれど、寒気は消えないままで、殿下の笑顔を安易に信じてはいけないのだと心に留める。
そうしている間に陛下が妃殿下と共にいらっしゃった。
「さぁ、行こうか」
殿下と共に陛下の元へと挨拶に向かうと、お二人は笑顔で迎えてくださった。
「二人共、来たか」
陛下が頷くと、殿下と共に頭を下げる。
「楽にして良い。二人の婚約が調い、嬉しく思う。マティアスは気難しいところがあるが、ラバール侯爵令嬢とはうまくいっていると聞いている。マティアス、王太子としての公務も大事だが、婚約者も大切にするようにな」
「もちろんです」
きっぱりと返事をした殿下に陛下が安心したように頷き、今度は私の方を向く。
「ラバール侯爵令嬢は優秀だと聞いている。これからも期待しているよ。息子を頼む」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。より一層励みます」
陛下が妃殿下を見る。
「ラバール侯爵令嬢が嫁いでくる日を楽しみにしています。今度、お茶にお誘いするわね」
「光栄です。楽しみにしております」
妃殿下が優しく微笑みかけてくれるのに御礼を言ったところで、陛下が言う。
「本日の主役をあまり引き留めてもいかんな。二人共、皆に顔を見せに行きなさい」
陛下の言葉に背中を押されて御前を離れた。
庭園には食事や飲み物を提供するテントが出され、最近新しく開発されたバルーンなども使って飾り付けられている。貴族達は思い思いに過ごしており、遠目にお父様とお継母様が貴族に囲まれ機嫌良く笑っているのが見えた。
私達が陛下の側を離れると早速目敏い貴族達が挨拶に訪れる。一度目の時は陛下にもっと励むように言われ、妃殿下にお茶に誘われることもなかった。その上、陛下への挨拶を終えると殿下が席を外してしまい、お祝いを述べにやってくる貴族らの相手は私一人でこなしたのだったっけ。悪意のある声や視線をたくさん浴びて、それは私が至らないせいだと考えていた。
(でも、それは違っていたのね……)
婚約後の私の評価が悪くないこともあるだろうが、お祝いを述べにやってくる人々は皆にこやかで、前回のような悪意のある言葉など聞こえない。この中には私の存在が邪魔な人もいるはずなのに。勿論、中には娘を連れてやってきて殿下に勧める者も居たが、殿下は冷たい瞳で一瞥するだけで、話を切り出す者はいなかった。
それでも、遠くから私の価値を見定めるように投げられる視線に疲れが溜まっていく。そんな中、また娘を連れた貴族がやって来た。銀色の髪を殿下の色味に近い青色の花飾りでまとめ、花飾りと同じ色のドレスをまとったご令嬢の姿に一瞬息が止まりかける。彼女は一度目の殿下の想い人だ。バシュレ公爵の祖父君が二代前の王のお血筋であり、殿下とも幼い頃から交流があると聞いている。そのためか、いくら彼女の瞳の色とはいえ、今日という日に殿下の青に近いお色味を使っても彼女を咎める者はいなかった。
「ご婚約、おめでとうございます」
壮年の公爵が慇懃に祝辞を述べる。
「バシュレ公爵か。祝いに来てくれて感謝する」
殿下の言葉に、公爵は頷くと彼の娘へと視線を向けると、ご令嬢が綺麗なカーテシーを披露する。
「パトリシア、久しぶりだな」
「殿下におかれましては、ご機嫌麗しく。本日はお招きありがとうございます。お二人のご婚約、心よりお祝い申し上げます」
「いつもと話し方が違うが、どうした?」
「殿下がご婚約者様を決められたので、私も身分をわきまえねばと思った次第でございます」
「そうか。ジュリアに配慮してくれて感謝する。だが、パトリシアは親戚ではないか」
そう言って、殿下の視線が私に移る。
「ジュリア、パトリシアは親戚でもあるが私の幼馴染みで、ずっと親しくしていたのだ。少々砕けた話し方をしても問題ないか?」
「はい。どうぞ、私のことはお気になさらず」
私の返事を聞き、殿下は頷いた。
「ということだ。いつものように話してくれてかまわぬ」
「マティ、ありがとう。でも、本当にいいの?」
一気に砕けた雰囲気になるパトリシア様に、殿下は微笑んだ。
「ああ。今後は私同様にジュリアとも仲良くしてくれ」
「わかったわ。よろしくね、ジュリアさん」
「パトリシア様、こちらこそ、よろしくお願いします」
「ふふ、私、女の子のお友達も欲しかったの。来年は学園で一緒になるし嬉しいわ」
はしゃぐパトリシア様に、公爵が微笑み意味ありげに殿下を見る。
「来年の学園生活では、学生の時だけしかできないことが多々ありますからな。どうぞ殿下もご婚約者様と楽しまれてください」
「ああ」
「では、私達はこれで」
殿下が頷き、バシュレ公爵達は去って行った。
初めて見る魔術を使っての演出に驚いて殿下を見上げると、殿下は嬉しそうに目を細めた。
「ジュリアのために考えさせたんだ」
何人の魔術師が関わっているかはわからないが、一人でこの規模の魔術を展開させているということはないだろう。会場の貴族達からも感嘆の声が上がっている。
「過分なお心遣い……」
言いかけたところで、殿下の瞳が不機嫌に歪んだ。
「ジュリアは気に入らなかったの?」
一瞬感じた寒気にも似た感覚に、無意識に答えを選んでいた。
「いえ、嬉しく存じます」
「よかった」
途端に和らぐ殿下の雰囲気に、先程の表情は見間違いだったのかと思う位だ。けれど、寒気は消えないままで、殿下の笑顔を安易に信じてはいけないのだと心に留める。
そうしている間に陛下が妃殿下と共にいらっしゃった。
「さぁ、行こうか」
殿下と共に陛下の元へと挨拶に向かうと、お二人は笑顔で迎えてくださった。
「二人共、来たか」
陛下が頷くと、殿下と共に頭を下げる。
「楽にして良い。二人の婚約が調い、嬉しく思う。マティアスは気難しいところがあるが、ラバール侯爵令嬢とはうまくいっていると聞いている。マティアス、王太子としての公務も大事だが、婚約者も大切にするようにな」
「もちろんです」
きっぱりと返事をした殿下に陛下が安心したように頷き、今度は私の方を向く。
「ラバール侯爵令嬢は優秀だと聞いている。これからも期待しているよ。息子を頼む」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。より一層励みます」
陛下が妃殿下を見る。
「ラバール侯爵令嬢が嫁いでくる日を楽しみにしています。今度、お茶にお誘いするわね」
「光栄です。楽しみにしております」
妃殿下が優しく微笑みかけてくれるのに御礼を言ったところで、陛下が言う。
「本日の主役をあまり引き留めてもいかんな。二人共、皆に顔を見せに行きなさい」
陛下の言葉に背中を押されて御前を離れた。
庭園には食事や飲み物を提供するテントが出され、最近新しく開発されたバルーンなども使って飾り付けられている。貴族達は思い思いに過ごしており、遠目にお父様とお継母様が貴族に囲まれ機嫌良く笑っているのが見えた。
私達が陛下の側を離れると早速目敏い貴族達が挨拶に訪れる。一度目の時は陛下にもっと励むように言われ、妃殿下にお茶に誘われることもなかった。その上、陛下への挨拶を終えると殿下が席を外してしまい、お祝いを述べにやってくる貴族らの相手は私一人でこなしたのだったっけ。悪意のある声や視線をたくさん浴びて、それは私が至らないせいだと考えていた。
(でも、それは違っていたのね……)
婚約後の私の評価が悪くないこともあるだろうが、お祝いを述べにやってくる人々は皆にこやかで、前回のような悪意のある言葉など聞こえない。この中には私の存在が邪魔な人もいるはずなのに。勿論、中には娘を連れてやってきて殿下に勧める者も居たが、殿下は冷たい瞳で一瞥するだけで、話を切り出す者はいなかった。
それでも、遠くから私の価値を見定めるように投げられる視線に疲れが溜まっていく。そんな中、また娘を連れた貴族がやって来た。銀色の髪を殿下の色味に近い青色の花飾りでまとめ、花飾りと同じ色のドレスをまとったご令嬢の姿に一瞬息が止まりかける。彼女は一度目の殿下の想い人だ。バシュレ公爵の祖父君が二代前の王のお血筋であり、殿下とも幼い頃から交流があると聞いている。そのためか、いくら彼女の瞳の色とはいえ、今日という日に殿下の青に近いお色味を使っても彼女を咎める者はいなかった。
「ご婚約、おめでとうございます」
壮年の公爵が慇懃に祝辞を述べる。
「バシュレ公爵か。祝いに来てくれて感謝する」
殿下の言葉に、公爵は頷くと彼の娘へと視線を向けると、ご令嬢が綺麗なカーテシーを披露する。
「パトリシア、久しぶりだな」
「殿下におかれましては、ご機嫌麗しく。本日はお招きありがとうございます。お二人のご婚約、心よりお祝い申し上げます」
「いつもと話し方が違うが、どうした?」
「殿下がご婚約者様を決められたので、私も身分をわきまえねばと思った次第でございます」
「そうか。ジュリアに配慮してくれて感謝する。だが、パトリシアは親戚ではないか」
そう言って、殿下の視線が私に移る。
「ジュリア、パトリシアは親戚でもあるが私の幼馴染みで、ずっと親しくしていたのだ。少々砕けた話し方をしても問題ないか?」
「はい。どうぞ、私のことはお気になさらず」
私の返事を聞き、殿下は頷いた。
「ということだ。いつものように話してくれてかまわぬ」
「マティ、ありがとう。でも、本当にいいの?」
一気に砕けた雰囲気になるパトリシア様に、殿下は微笑んだ。
「ああ。今後は私同様にジュリアとも仲良くしてくれ」
「わかったわ。よろしくね、ジュリアさん」
「パトリシア様、こちらこそ、よろしくお願いします」
「ふふ、私、女の子のお友達も欲しかったの。来年は学園で一緒になるし嬉しいわ」
はしゃぐパトリシア様に、公爵が微笑み意味ありげに殿下を見る。
「来年の学園生活では、学生の時だけしかできないことが多々ありますからな。どうぞ殿下もご婚約者様と楽しまれてください」
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